超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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プロトコル・スタック 7

久しぶりに出た人工知能系の学会の分科会。会場は大阪。珍しく俺は発表をした。先工研に支援を受けているかと言われるとものすごい受けていることになるのだが、果たして俺達のやっていることを先工研の名前で出していいのかとも悩んでしまう。

 

そして今回は若手中心だったのといつも幹事をやるタイプの人がいなかったのですぐにお開きになった。会場となっているキャンパスの人がそういう取りまとめをするのが慣例だったりするのだが、今回は分科会には直接入っていないが学会の偉い人をしている先生が大学の講堂を取ってくれたのでちょっと不思議な感じになっている。

 

学会というのは面白いシステムだ。かつては大学教授とか学会の会長とかのポストは重要だったらしいが、今では押し付け合いの対象となる椅子になっている。いやまあそういうポストが嫌いじゃないどころかむしろ好きな人はいますし、そういう人の中にちゃんと仕事ができる人もいますがね。

 

というわけでまた水城さんと夕食を食べることになった。今日は串カツ屋である。あまりこういうところには来ないので、誘ってもらえると助かる。ちなみに四辻さんの分の料金をどうするかという醜い争いは普通に四辻さんが自分の財布から出すということになりました。まあお酒も飲めるようになった社会人だからな。

 

ちなみに四辻さんはあまりお酒を嗜みません。アルコールを刺激物だと感じてしまうらしい。ある程度は我慢できるけどそこまで好んで飲むものでもない、という枠のようだ。まあ俺もこの後新幹線でのんびり帰る時に寝てしまうと純粋に付き添いとして問題があるので飲みませんが。

 

「禁欲的だねぇ、二人とも」

 

そんなことを言う水城さんの手の中には生ビール。こういうところをみると、ちょっとだけ俗物感を感じて失望みたいなものが俺の中にあるし、もちろんそう考えてしまう自分は嫌いだ。

 

「仕事として来ていますし、業務時間内なので」

 

俺はそう答えて、キャベツをかじる。

 

「裁量労働制ってやつ?あるいはフレックス?」

 

「前者です」

 

追いかけてくる質問に俺は呟く。もちろん一日一回ちょろっと顔出して一ヶ月分の仕事をBIFRONSに作らせれば業務終わり、でもいいのだが少なくない金をもらっているしいい感じの環境を与えられている状態でそれをやるのはかなり恥だと思うのでしていない。

 

一応一日九時間、つまり残業一時間を入れて働いていることになっている。正直朝一に来るよりもちょっとずらしてきて遅めに帰ることが多いし、ご飯の時間として取っている休憩も長めだったりするので、なんだかんだでちゃんと働いている気はする。

 

ただまあ、そうやって先工研にいる間は多少は真面目にやるべきだし各種の規則には従うべきだと言われればそのとおりだ。そもそも規則では安易に研究所に宿泊するなって書かれているのですがそれからは目をそらすことにする。

 

「四辻さんはどう、何か今の仕事に不満とかある?」

 

「いえ、とくに」

 

「そっか……」

 

「引き抜きか?」

 

俺はちょっと釘を刺しておく。別に四辻さんの秘密を守れるならどこでもいいのだけれども、今の状態だと俺個人としては四辻さんには先工研がいいと思っている。もしそうじゃなかったら悲しいけど受け入れなくちゃいけないということは理解できているはずだ、たぶん。

 

「うーん、というかなんか新しい施設を国際的に作ろうという機運があるらしい」

 

「聞いてないんだが」

 

「私のほうが独自に調べた話だからね」

 

そう言って水城さんはタレの染み込んだカツをかじった。

 

「……ここで話していいもの?」

 

四辻さんが小さく尋ねる。

 

「いいよ、使っているのは公開情報だけだから」

 

「公開情報の組み合わせが秘密なんだけどな……」

 

暗号とかをやっていると隠蔽による保護みたいなものに頼らないようにしようぜ、みたいな話になる。例えば鍵を植木鉢の下に入れるのをセキュリティと呼ぶな、みたいな話だ。ただ、実際の運用では植木鉢の下に隠しボタンを用意しておいてそれを押すと鍵穴が出る、みたいなシステムは珍しくないし、それが間違っているというわけではない。

 

そしてそういう方向で考えていると、調べればわかることにはそこまで価値はないと考えてしまうようになる。良いのか悪いのかは正直わからないし、良い悪いで議論していいものなのかもわからない。

 

「今度の主要国首脳会議の主催であるフランスは、結構色々なところから人を呼ぼうとしているらしい。それと並行して学会とかの開催も調節して、関係者を近場に集めたいという思惑を感じる」

 

「具体的にはどうやって調べたんだよ」

 

「学会の議事録とか、あるいはパリのホテルの値段とか」

 

「そういうものか……」

 

別に諜報みたいな話ではなくとも、世界の見方を知っていれば得られる情報がある、というのはよくありそうな話だ。俺だって似たようなことをある程度やっているし、BIFRONSにもその種のモジュールがあるからわかる。そして水城さんがやっているのはもう少し精度がいいやつだろう。

 

「海外出張の経験は?」

 

「俺はないね、四辻さんもない」

 

「……できるの?」

 

水城さんが聞いてくる。

 

「必要があれば上から仕事としてやってくるだろ」

 

今のところ、俺達を国外に出すというのはリスクが高いし見張りが足りないということで一旦止まるようになっているはずだ。そもそも四辻さんのパスポートもまだ作っていませんからね。それに現地にいかないと解決できない問題というのも今は少ないだろう。少なくとも俺達が絡む分野では早々ないはずだ、と思いたい。

 

仕事であれば仕事をする、というのは好きな考え方だ。もちろん命とかが絡んだりとか、犯罪になったりだとか、あるいは誰かへの加害があったりすれば一旦考えはするし、多分そういう仕事になるのであれば今の俺を変える必要があるだろう。

 

人を殺すことを前提とした職業はあるし、俺はそれを賤業だとは思わない。強いて言うなら他人を殺すほどの覚悟もなくのうのうと過ごして国家安全保障に絡んでいるということになっている俺のほうがよほど賤業だろう。

 

そういう意味で、俺はたぶん須藤さんが道を整えてくれれば死にに行ける。そうでなくとも俺の人生の少なくない割合が四辻さん絡みに割かれているのだ。一割が十割になるのは、決して質的な転換ではないのだ。

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