超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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メタステーブル・ステート 6

公開情報からの調査には、一般的には限界があるとされる。一時期OSINTが流行したのはインターネットとかの発展でそういう情報を個人でも集めやすくなったからだ。一方で現代においては情報が溢れすぎているし人工知能があれこれとやってしまったせいで情報の価値がひどく暴落している。

 

というわけで必要なものがあれば、直接足で手に入れるという手法はまだ時代遅れにはなっていない。というわけでやってきたのは内山下町。日本の大企業、ホテル、外交、放送などが集まる人口一人の街だ。つまり人が住むような場所ではないのである。

 

というわけで駅まで少し早めのお昼ご飯を食べて俺達がやってきましたは日本中央放送局日比谷放送会館。税金のごとく徴収される放送料で知られる国営放送と言いながら普通に国家に喧嘩を売ることも珍しくないマスコミである。税金でやれよとか民営化しろよとか矛盾したことを言われる可哀想なところ。

 

そしてこの下部組織なんだかわからない電連会という組織がある。電報連合通信社という、戦時中からニュース映画を作ったり植民地や占領地でラジオを流したり色々傍受していたりしていたところの情報部門の後継組織だ。戦後に報道や取材の部分は分割され、広告部分は日本最大の広告会社に発展しているが、まあそんな感じのあまり直視したくない場所である。

 

この電連会の資料室は日比谷放送会館の中にあり、平日の昼間しか開いていないという代物であるが、俺達にはそんなものは関係ない。これは開館時間とかを無視して入れるというわけではなく平日だろうが職場を無視してやってこれる無法就業環境を構築しているというだけである。こっちのほうが普通に社会人としてまずい気がしてきたな。

 

基本的には古い資料を集めているとしているが、一応は国営放送の対外調査の資料室の役割もあるのだ。今なお積極的に情報収集をしているので、日本でおそらくここにしかない資料もある。入口のところに国際理解と平和精神の醸成みたいなことが書かれていて思わず笑ってしまった。

 

「しっかし紙の本は高いな……」

 

俺は手に取った本の裏を見て言う。日本語の本なら一冊数万円も珍しくない。ただこれは今回のお目当ての本じゃない。そして探し物は事前に調べていた棚にすぐ見つかった。

 

今回俺達が欲しいのは数年前に発行されたドイツの行政組織改革のルポルタージュだ。あとはそれを備え付けのブックスキャナーで読み取る。このあたりは著作権法的にはあまりやりすぎると良くないらしいと聞くが、こういうことをやらないと図書館としての役割がどうとかあって面倒らしい。そこまで詳しく知りたくはない。

 

「……色々と、面白そうなものがあるのに」

 

四辻さんは探し物が終わってもう帰らなくてはいけないことが悔しいらしい。そう言いながらさっき棚から手に取っていた本をすごい速度で読んでいる。読んでいる、と言っていいのだろうか。目を通しているとかに近いかもしれない。というかそれ英語じゃないな。何語だよ。

 

こういう場所を一般公開していいのだろうかとも思うが、実態はここで公開しておいたほうが管理しやすいとかなのだろうな。俺や四辻さんの顔が多分どこかのリストに乗るのは避けられまい。まあ今更か。ちゃんと日本政府ってそういう関係者のリストを整理できているのだろうか。各所でばらばらになって管理しきれていないとかいう悲しいことになったりしていないよな。

 

「本が、好きか?」

 

スキャナーが光り、自動めくり機構のモーターが静かな音を立てて本のページを捲った。

 

「限られた技術で作られた中では、とても効率的な媒体だと思う」

 

「保存性と再生機材のコストをはなかなかいいぞ」

 

「……再生機材のコストは高い」

 

「そうか」

 

四辻さんは人間をコストとして見ることができるのだろう。最終決定者でも、末端でもなく、システムに組み込まれた人間として。それはまだ人類が到達していない立場であるし、俺もあまり理解できていない何かだ。

 

本を読むことができる人間は色々と条件が面倒だ、という話を聞いたことがある。それでもかなり普及しているし、あらゆるものをあらゆる人が使わなくちゃいけないという前提はないみたいな意見も、それと同時に多くの人ができるだけ色々なものに触れることができるべきだという意見もわかる。

 

そう考えると、この資料室は実に酷いところである。あからさまな選別が入っているし、興味本位で人が来てほしくないという空気を感じる。ただ本がちゃんと並べられていること、空きの本棚がしっかりあること、それに埃が積もっているわけではないところを見ると選ばれた人が知を掴めればいいという立場なのだろう。

 

「……終わった」

 

そう言って俺は機械を止め、繋がっていたパソコンからUSBメモリを引き抜いた。こういうのを勝手に指していいものなのだろうかと思ったが多分ほぼ一方向にしか情報を流さない専用のツールを使っているんだな。メモリの中身とか空き容量を確認するために行う最低限の通信でコンピューターを乗っ取るというのはまず不可能に近い。

 

とはいえ基本的にこういったものはあくまで端末の端子に流れる電気信号を読んでいるだけなのでそれに相当するものを返してあげればいくらでも弄ることはできる。よくある手段ではフォルダの無限階層を読ませて壊すとか。そういうことが起こらないように大抵はメモリの中身を持ってくるけどあまり解釈しないみたいなことになる。読んだら正気を失うような本でも一文字一文字書き写していくだけで読めないならば問題ないというやつだ。

 

「……古瀬さんの、今日の予定は?」

 

四辻さんが俺に聞いてくる。別に四辻さんをおいて勝手に帰ってもいいのだが、その時に何かあったら絶対後悔するし、帰るまでの間気を揉むことになるのでそういうストレスを貯めたくはない。

 

「……ないから、読んでいいぞ」

 

「閉館時間にはここにいる」

 

そう言って、四辻さんは持っていた本を閉じて早足で歩き出した。楽しいことだ。今日は俺もゆっくりといろいろな本に目を通してみるというのもいいかもしれない。気になったタイトルもあったし、どうせ読み切れないなら流し読みで面白そうなところだけ見てみるのもいいだろうな。

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