超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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アヴァランシェ・ブレークダウン 2

「すまないな、呼び立てて」

 

「構いませんよ」

 

俺は差し出された須藤さんの手を握る。

 

「お疲れのようですね、ご自愛ください」

 

俺の次に握手を交わした四辻さんが言う。なるほど、四辻さんがそう言うってことは以前会ったときよりも疲労が顔に出ているんだろうな。俺はそのあたりを読み取る能力がどうにも欠けているので助かる。

 

「……外交と人工知能は、わからん」

 

そう言って、彼は椅子に腰を下ろした。狭い会議室だが、たぶん来客に使う用だ。借りるために手続きがいるだろうし、その手間もあるし、証拠も残るだろう。ということは、証拠を残したいのだ。今回はあくまで俺達が訪問したという形になっているし、先工研の方には俺達の乗った特急あかぎの代金の電子領収書が回るのだが、まあそのあたりは結局税金から出ているのだからあまり詳しく考えないようにしよう。

 

「現状について、俺の理解を話していいですか?」

 

「ああ。問題があったら止める」

 

須藤さんの言葉に、俺は頷いた。

 

「まず前提として、主要国の政府は既に大々的に人工知能を導入している……というのは、いいですよね?」

 

須藤さんが頷く。まあ、基本的にやらなくちゃいけないことが増えて、人を増やせないなら、効率を上げるしかないわけだ。未だに官僚組織とか昔ながらの企業では予定を調整して会議室をとって議事録をまとめて判子をもらって稟議書を出して、みたいなことにかなり時間をかけているようであるし、それが直ちに悪だとは言わないが、面倒なものは多いのだろう。

 

企業の中には、かなり身軽になっているところもある。例えば経営判断を外部コンサルと人工知能に丸投げして技術的なところは人脈で集めたベンチャーとかは今はもう珍しくない。昔は逆の会社が多かったが、そういう会社で生き残っているところはあまり多くないという。人工知能はあまり複雑なスライドを作るのが作れないので、一枚の資料に関係者が文句を言わない程度に全部の情報を詰め込むみたいなことはまだ難しいし、そもそも人間にだって難しいことだった。

 

「で、基本的に各国はその情報を隠していた……」

 

「わざわざ明かす必要もなかったからな。特に我が国においては、自衛隊と米軍の持っているその種のシステムの能力は機密となっている」

 

「まあ大まかなデータは調べると出てきますがね」

 

各国の持つ人工知能のレベルというのはある程度察せてしまうものなのだ。契約している企業との文書であるとか、出てきたテキストの分析とか、あるいは障害発生時にどれだけ業務が止まったかとか、そういうのを調べて整理している暇な人がいるのだ。暇かどうかはわからないな、それで給与をもらっているのかもしれない。

 

「……続けてくれ、すまない」

 

「はい。それで、少なくとも三陣営が相互の人工知能をかなり直接的に接続することに合意した、と見ていいでしょう」

 

「日本政府は公式ラインではそこに入れてもらえていない」

 

「ありがとうございます。日本が元凶だって気が付かれているんですかね」

 

「否定はできない。状況証拠は少なくないからな。それでもサプライチェーンに絡めるように準備をしておいたつもりであったが、外交方向からこの計画を止めるように言われる可能性はある」

 

「個別の最適化と全体の最適化はまた別の問題ですからね……」

 

よくある合成の誤謬というやつだ。それを解消するのがマネジメントであり、あるいはハーネスなのだが難しい問題が常に付きまとう。

 

「アメリカ、ヨーロッパ、そして中国。彼らに比べれば、日本は一段下として扱われる」

 

「日韓台で連携とか、東アジアで同盟とか組めればよかったんですが……外交情勢はあまり良くないタイミングですよね、今」

 

「中華人民共和国に接近しようとして少し動きすぎた上で、かつ中国からも日本の手を取る必要はないと思われるのに十分だった。ただ、これで人工知能を入れた速度が前提の外交が本格的に始まると見ていいだろう」

 

「それまでの組織だと追いつけなるものなんですかね」

 

一応、人工知能を導入した企業同士がかなり高速で色々な交渉を行うことができたみたいな話は聞いたことがある。もちろんそれは論文として出るわけではないし、経済誌のウェブ版は十五割ぐらい広告の側面があるが、それでも、だ。

 

ただ、そういうネットワークはどうしてもすぐ閉じてしまう。全てを共有できるパートナー企業みたいなものは存在しないし、たった一つであらゆる分野を支配する企業もない。そして人間側が保守的なせいで、需要も供給もそんなに大きく変化するわけではないのだ。

 

ただ、もしそれが外交だったら、と考える。もちろん会談とか交渉とかは重要だが、それはより儀礼的な側面が強調されたものになるだろう。基本的には現場同士の権限と折衝で終わることを、そのためのパイプがないから上の方の官僚や議員が動く例は珍しくない。というふうにBIFRONSとARIEが分析していた。まああいつらには公務員として働いた経験は特にないわけだが。

 

「無理だ。日本政府はまもなく外交を中心とした分野で人工知能を活用していることを正式に発表するだろう」

 

「今まで散々官製とか国プロのシステム入れていた……というのとは別に、ですか」

 

「核保有とはまた違うが、複雑な情勢になっている。誰も口を開かないのであれば持っていないふりをしたほうがいい。ただ、ある程度の人数が使っているのであれば、持っていると主張したほうがいい」

 

俺は頷く。コンピューターと同じだ。あれは一台だけでは世界を変える発明にはならなかっただろう。特殊で工学な、専用の計算装置だ。それが通信線で繋がって、複数の計算機を連動させるという発想が生まれて、小型の端末でそれらを操作し、あるいは端末同士を繋ぐという発想がインターネットを生んだのだ。

 

一つの人工知能が世界を変えることはできない。ボトルネックとしての人間が多すぎる。けれども巨大な、国を動かせる規模の人工知能が複数台手を組んだのであれば、こと調整と折衝のあたりではかなりの速度が出せるし、ピンポイントでターゲットを狙える。

 

だから、秘密を護りやすい。逆に言えばそこまで守られた秘密を周囲の情報から読み切るためには膨大な情報を分析できる人工知能が不可欠だ。それは人間にできる領域を越えている。

 

だから、今までは人工知能が活用できていなかったのだ。人間が責任を取るために、そこにいる必要があったから。けれども、新しいエネルギーの可能性を前に、人工知能の発展における蹉跌をもう一度踏むことのないように、彼らは戻れない点を越えたのだろう。

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