超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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アヴァランシェ・ブレークダウン 3

「お、あったあった」

 

俺は並んでいた棚の中から英語の雑誌を取った。古くからある技術というか情報系のやつだ。

 

「それが今回の探し物?」

 

四辻さんが隣から聞いてくる。

 

「まあね」

 

俺達がやってきているのは赤城大学の書店。大学内の本屋さんは比較的いい本が揃っていると言うか、赤城という学問の中心地でさえ駅前の書店が枯れる程度にはこのあたりの景気が悪いというか。そもそも専門書だって電子で普通に出る時代になったというのだから、わざわざ本を買うのは教科書として必要な大学生ぐらいで、彼らは普通に大学内の本屋さんで買ってしまったほうがいいので外に需要が出ない、となるのだろう。

 

他に読んでいる人がいたらすまないね、と思いながら俺はレジで割り引かれていない金額で本を買う。学生なら一割引きだと言うのでちょっと学費を考えたがそこまで本を読まないな、となった。それにこれだって有料会員になれば月にこの雑誌の額と同じぐらいで普通にオンラインで読めるものだ。じゃあなぜ買うか。趣味です。

 

あとは純粋に外を歩きたくなったから、というのもある。あの地下に籠って、流れるニュースを見ているとどうにも社会というものがシステムに見えてしまう。十分遠くから見ればそういう近似はかなり妥当だとしても、そこには人間が生きているし、後からそういう人間を無視していたんだと公開するようなありきたりな展開にはなりたくない。

 

「読みたかった記事は?」

 

「先に見ていいぞ、俺はのんびりとしか読めないから」

 

そう言って俺は雑誌を四辻さんに渡した。紙がめくられる音。そして手の中に雑誌が戻ってきた。

 

「面白かった」

 

「新規情報はあったか?」

 

「純粋な取材でそこまで辿り着けるものだとは思わなかった」

 

「驚きはそのあたりか」

 

周囲を見ると、少し早めに授業が終わったらしい学生が建物からぞろぞろと出てきている。ああ、俺にもこういう大学生時代があったんだよな。結構最近まで。時間感覚がおかしい。もう三十を超えている。

 

「……あれ、四辻さんってもう大学院生ぐらいの年齢?」

 

「そう。それなりに仕事をしているので新人の時期も終わっている」

 

「本当かよ……」

 

俺がもともと他人の年齢とか顔とかに気を配らない人間だったせいで、四辻さんが本来なら経験するべきキャンパスライフとか人間関係とかを阻害してしまった気がする。いやまあそういうものを勝手にこっちの判断で与えるというか押し付けるのも違うと思うけれどさ。

 

そんな話をしながら、俺達はまだ空いている食堂に行く。何を食べようかなと思い、カツカレーにした。だって地下で食べるのが面倒なんですよあれ。駅前のお店で売ってはいますがそこまで行くことがあまりないし、家で食べるよりも地下室で食べたほうがいいし、あとカレーは先工研の食堂にあるけどカツカレーはないんです。貧乏性め。

 

四辻さんは海鮮皿うどんだった。あのパリパリした揚げ麺の上に餡がかかっているやつ。それもよかったな、と思いながら俺はスプーンを動かしつつ、お行儀悪く雑誌をめくる。

 

英語の文章は、しっかり練習したおかげでそれなりに読めるようになっていた。少なくとも、頭の中で日本語に直すために目を変な動かし方をする必要はない。一拍置いて、それを日本語に直していく。さすがに英語で思考するとかなりレベルが落ちるのだ。

 

アメリカ政府の導入した人工知能システムについての取材と、OCEAの設立におけるそのシステムの貢献。複数のモデルをどう組み合わせるかとか、本質はアメリカ政府が長年積み重ねてきた部外秘の情報にあるだとか、そういうもの。

 

そして、丁寧に外交のために使われたプロトコルの制定過程まで公開されていた。いやまあ知ってはいますよ、それなりに前に複数の人工知能プラットフォームが制定した統一規格の後継です。確かに俺でも何か他の人工知能システムと連携するものを使えと言われたらそれを採用するだろう。大抵の開発環境で変換用のスクリプトが簡単に手に入りますからね。

 

調整自体はバラバラに行われていたらしい。米中貿易のホットラインとして、米欧における軍事的協調のために、あるいは欧中の間の実利的なあれこれとか。それらを組み合わせ、本来なら複数回の首脳会談とかなり丁寧な事前調整に相当するほどのものを、一瞬で終わらせたのだ。

 

人間の役割についても丁寧に話があるが、読んでいるとなんていうか人間主義の匂いがする。人間しかわからないことがある、というのを俺はあまり信じていない。人間を信じた気にさせること、というのは結構大事なことなのは認めるが、今の人工知能はそういうことも普通にやってくるのだ。

 

承認されやすいプランを作る、というのは考えられることだ。それが本当に正しいプランかどうかはまた別である。そもそも何かを正しいと、あるいは良いと言うためには何らかの基準が必要だし、そういう基準が明示されれば大抵ハックされる運命にあるからだ。

 

そのあたりについてもちゃんと議論されているのが面白い。というか俺は正直かなり考えている方だと思っていたんだけど記者ってすごいな、ここまで概念を解きほぐせるのか。まあ人工知能を使っているのかもしれないが、と思って巻末を見ると使っているシステムについての注記があった。スマートフォンを取り出して少し計算。うーん月に日本円で五十万円するエンタープライズ向けか。コストとしては妥当なものだと思うけれどさ。

 

「感想は?」

 

「……色々と、難しそうだな」

 

ここまでの情報は出してもいい、というラインがこれで一つ引かれたわけだ。ここまでなら、あるいはここから半歩踏み出したぐらいまでであればあちこちで噂されるようになるのだろう。たぶん須藤さんか、あるいは日本で人工知能関連を扱っている須藤みたいな人は、これよりももっと早く情勢を読んで噛めるところは噛んでいるのだろう。

 

というかOCEAを受け入れたってことはたぶん須藤にも話が通っているんだよな。そのあたりの政策担当者は繋がっているだろうし。あるいはそういう噂を聞いていたからBIFRONSを使って四辻さんを世に出すべきかどうかを計算したのかもしれない。

 

俺達は常に後手に回っているような気がしてならない。人工知能だけじゃなくて、人間とか、それらが作るシステムとか。まあ追いかけるのは戦闘を突き進むより楽だからいいのだけれど。

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