超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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アヴァランシェ・ブレークダウン 4

それがあるなら、誰かがアクセス結果を用意している。

 

インターネットの悪い部分に潜るのは教養の一つである。最近はバーチャルマシンエスケープを自律で内部からやってのけるみたいなマルウェアがあるのでどれだけ注意してもし足りないのが難しいところである。

 

中古のノートパソコンに、国際空港の通信回線。ここは羽田国際飛行場、世界でも有数の騒がしい場所である。なのでここから通信をしてもまず捕まらないという嬉しいところである。厳密に位置情報とかまで追われたらさすがに辛いところはありますけどね。

 

よくある非合法な回線を繋いで、計算資源を暗号資産で契約して、その他諸々。追跡が事実上不可能なように設計されたトークンを、その場で買ったプリペイドカードを使って買って、それをロンダリングして、最終的に支払いまで持っていく。BIFRONSに指示されながらの手作業なので、俺個人として持つ固有の癖から何かを探るというのもやりにくい。

 

正直言って、かなりやりすぎだと思う。犯罪行為をするときでも普通はここまでやる必要はない。というか俺達個人を直接監視している所があれば何かあった時に優先的に監視対象になるだろう。

 

そんな無意味な用心だ。ポケットの中の鍵を何度も触るようなもの。接続確立。暗号通信問題なし。ステガノグラフィー用のトラフィック順調。真のデータはやり取りしているもののうちわずか20%程度。つまり五倍の関係ない情報が各地のサーバーを回ってこの端末に流し込まれて削除されている。もったいない。

 

「繋がった?」

 

俺の隣で、サングラスをかけた四辻さんが聞いてくる。これは空港で買ったものだ。普通に高かったが、質としては悪くないと思う。スポーツ系のブランドのお手頃価格帯らしい。

 

「繋がった」

 

見えるのは欧州連合が半公開している情報分析システム。どうやらあっちの方の法律だと政府が作ったものは公開したりする義務があるらしくて、それならいっそのこと使えるようにしてしまおうということらしい。そしてそのAPIを使ってアクセスできる端末をさらに何か踏み台に、とかよくわからないことでここにアクセスしている。

 

一応欧州連合の法律には引っかからないが規約のどこかに触れていそう、というライン。まあそのあたりは別にどうでもいい。ちょっといくつかのワードで調べてみる。

 

「……当たり障りない内容が、出てきてしまうなぁ」

 

俺が入れたのは外交に使われている人工知能システムのコードネームをいくつかだ。いくつかは普通に調べれば出てくるが、BIFRONSが内部文書から見つけたものもある。

 

出てきた結果は公開文書の中に埋もれているものなのだろう。これができるなら、OSINTの役割の少なくない部分が死ぬ。ただ、それ以上の利点もある。そして利点の方を取った、ということなのだろう。

 

「……エージェント共和主義、か」

 

「人工知能にも参政権を、というあれ?」

 

四辻さんの言葉に俺は頷く。とはいえ、ここで言う共和主義というのは貴族を持たないとかの方の意味だ。民主主義ではないことに注意。

 

個人が持つエージェントが特定の方向に特化して十分賢いなら、それらを組み合わせることができれば個人レベルでの効率化と全体の効率化を両立できるという考え方。合成の誤謬を大量の情報のやり取りで押し殺そうという蛮行の一種。そして、これが案外機能することは知られている。

 

企業が人工知能エージェントを複数持っている。個人で複数のアカウントを持っている人がいる。地方自治体も企業と契約してそういうシステムを持っていたりする。国家は言わずもがな。EU全体でそういうのを作ろうという動きはあったが、それは表に出てきていなかった。

 

機能としてはかなりシンプルだ。今はチャット形式で出しているが、内部ではシンプルなシステムで動いている。ちゃんと暗号化通信とかのプロトコルがあって、それに則れば公共手続きとかもできる。このあたりはかなりプランとしては進んでいたが、じゃあそういうシステムを公開したら一部の人しか使えないという問題をどうするんだところで詰まっていたらしい。

 

そこであくまで外交とか対企業折衝とか、そういうかなり大きなところ同士のやり取りに使うようになったらしいね、みたいなことを数時間かけて調べていく。時折アクセス先も変えておく。

 

この手のアクセスは俺以外にも数万人がしているだろうし、俺みたいな動きをしている人も数百人いるはずだ。というか別に俺が先工研の地下にいなかったとしても普通に自宅のパソコンからこういうことはやっていそうなんだよな。今は四辻さんにせっつかれて規格とかの分野を見せているが。

 

こういう賢いシステムを組み合わせて色々なものを加速させようぜみたいな話は、今に始まったものではない。というか普通にコンビニとかのシステムってこれですよ。それを国家規模でやろうみたいな話は全体主義というか共産主義国家の夢の一つでした。色々な事情があって壊されたけど。

 

「……市民用エージェントへのアクセス権をどう保証するかとかになりそうだな、これ」

 

「古瀬さんがすぐ思いつく程度のものなら実行可能性を含めて検討が終わっているんじゃないの?」

 

「可能性は高いし、こういう案件には速度が重要だってのはありそうだよな」

 

「それができるのが人工知能だけ、というのが難しいけど」

 

「普通の人はそんなに世界と深く関わらないんだよ……」

 

新聞一部には、文庫本一冊ぐらいの情報が詰まっている。いやまあ半分は広告でもう半分はそれ自体派では役に立たない数字とか記号とかだから安易にそう言うのは微妙だけどさ。それでもオーダーとしては同じぐらいと言っていいだろう。

 

それは、人工知能にとってはミリ秒単位で分析可能なトークン量に過ぎない。人間の処理能力を前提としている社会システムを、人工知能向けに組み直すのはかなり難しいはずだ。それでも世界はそれを選んで、踏み出した。

 

とはいえ、そこまで選択的ではないのかもしれない。電信が巨大なネットワークになるまでには案外時間がかかった。最初は遠くと話せると便利ぐらいだったものが、経済とか政治とか物流とか二まで全体に絡む巨大システムになったのだ。今回もそういう類のもので、多少の混乱が一時的に起こるけれどもそれは乗り越えられるものだという信頼の上で選ばれたのかもしれない。

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