『お前は冗談を言っているのか!?』
直前で発表者急病なら飛ばせばいいだろうと思ったが、ちょうどいいところにテーマに合った事をやっている人がいるので場を繋いでもらおうという思惑の下で声をかけられてしまった。
『私だってこんな事は言いたくないんだがね、仕方がないものは仕方がないだろう』
顔なじみというか、普通に隣接分野というか、そもそも俺が以前に作った解析ソフトのコアの開発者であるので俺が頭を上げられないような立場の、とはいえなんか普通にフレンドリーなおじさんが俺に声をかけてきて嫌なことを告げた。
『……外部に情報思いっきり流してリアルタイムでスライドを作らせてサングラス経由で原稿読み上げとかならできますがね、それをやらせるなら俺よりもこちらのミス・四辻のほうが適任で』
『私は遠慮しておきます。彼にどうぞ』
『だ、そうだ。レディのお願いを断るのかね?』
『いまどきそういうこと言うんですか?男性性からの解放は世界のどこに?』
そんな馬鹿な事を言いながらも、俺は準備を始める。
『すみませんね、母語を使わせてもらいますよ』
そう言って俺は持ち込んでいた端末をBIFRONSに繋ぎ、サングラスをかける。回線は相当速いので助かるな。
「今すぐ俺のやっていることベースでスライドを。詳しいことは全部そちらから聞いてくれ!」
眼の前に流れる文字を見ながら俺は叫びつつ指輪で高速に選択をしていく。面白いものは右、つまらないものは左。直感はかなり強化されていて、思考をすっ飛ばして結論もどきを用意してくれる。もちろんそれは熟考よりも外れが多いものだが、そもそも俺は馬鹿なので考えたってコイントスよりいい数字を出せるわけではない。
『丸投げしないんだな』
『水城博士をご存知ですか?』
『ああ、それと似た?』
『それのようなものだと思います』
好き勝手四辻さんが言ってくれているが、俺は基本的に判断を主体的にやっている側じゃなくて提供している側だ。向こうがメイン、俺が審査。主体は向う側にある。俺はあくまで現場の感覚と自分の中で言語化されていないものを向こうに察させる役割。
察するというか、世界についての協働モデルの話は人工知能分野では昔から研究されてきたやつだ。今の人工知能は集合的無意識もどきをクラウドで勝手に作って共有しているが、それはあまり人間向きの形式をしていない。かつてとある人工知能サービス提供会社が記憶システムをバイナリで出したら競合他社が一致団結して統一規格を出して結局元凶の企業が折れたみたいな話があった。
『ひとまずできたものを確認してください、さすがにそちらの依頼なので一応チェックをしてほしいのですが』
そう言って見せた画面には十数分程度で作ったにしてはなかなか悪くない出来のスライドがある。あとは練習だけだ。話す時間はおよそ二十分で、内容はサングラス経由で一旦確認した。