超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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ロジスティック・グロース
ロジスティック・グロース 1


基本的にやることのほとんどは人工知能が担うので、遅い人間同士で色々とその間におしゃべりするというのがそれなりに近い。しかしそういう人工知能を運用するためには制御する人間が必要なのだ。

 

今のところ、重力特異点に向けた様々な問題がかなり力付くで解かれている。一つボトルネックがあればそこに資源を投入してどうにかしてしまおうというものだ。もちろん資源がかなりあるので、そこをうまく迂回する方法があるんじゃないのかみたいな試みにも投資がされている。

 

例えばゲルマネンを作る時に液体金属とかを使ってラングミュア゠ブロジェット膜みたいにやるテクニックはなんかうまく行きそうなのだが、周辺環境がほぼ進んでいない。なので関係している研究をしている場所を探して、金を投げつけて、ボトルネックを解消させる。必要なものがあれば資金も機材も技術も人員もなんとかするのだ。というかそれをするぐらいの価値がある代物がそこにできると信じられているのだ。

 

もちろん、重力特異点でエネルギー問題が一気に解決するわけではない。それができたから明日から世界が平和になるというものでもない。それでもそれは間違いなく最初の核分裂炉であるシカゴ・パイル一号と並ぶような偉業にはなるだろう。あそこまで粗雑に作れるものではないか、と思ったがたぶん数十年後の知性とか四辻さんから見れば粗雑なものになるんだろうな。

 

「しっかしまあ、複雑だね」

 

俺が呟くように、地下の作業室のディスプレイに映し出されるのは数十万ノードのグラフ。その一つ一つが重力特異点を作るために必要な要素技術であり、そのうち色がついているのはおよそ三分の一。これは既にある程度確立されていたり、実装の道筋がほぼ見えているものである。

 

そして残る三分の二のうち、半分が濃い灰色で半分が薄い灰色。濃い灰色のほうはまだ具体的な仕様とか理論とかが詰めきれていないがたぶんできるだろうとされているもの、薄い灰色の方はそもそもできるか怪しいが複数ルートのうち有望だと思われるもの、みたいな感じだ。それらがいくつかの塊を作っていて、それが更に大きな構造を作っている。

 

そもそもこのレベルのものを三次元に閉じ込めるのが無茶な話なのだ、と言えばその通りだ。頂点であるノードの間を関係性を示すエッジが結んでいて、基本的にエッジで繋がったものが引き寄せ合うようになっている。関係性がまばらな場所と濃い場所がある程度はっきりしていればいいのだが、今の繋がり自体がかなり暫定的なものなので一塊としてぐちゃぐちゃになってしまっているところがいくつかある。

 

これは完全に人類の科学技術がやってきた分類方法が悪かった、と言っていいだろう。もちろんそんなものは手探りで決まった後に後出しでやってきた情報によってジャッジされる要素なので酷い話であるが、それでもなんかもう少しうまくできなかったのかなと思うところはある。

 

物性物理学と呼ばれる分野は特にそうだ。英語だと凝縮系物理学と呼ばれるが、物性物理学のほうにはあまり液体が入らないという気がするな。まあ純粋に液体を扱うのが難しすぎるからというのも強いのですが。

 

このあたりの技術は本当にここしばらくで一気に発展したところがある。俺達が頑張ったから。いや本当に俺達の貢献は小さくないと思うんですよ、この種のシミュレーションの裏で回っている理論のいくつかは四辻さんの持ってきたものです。落とし込むために頑張ったのはBIFRONSである。じゃあ俺の役割ってなんだろうな。

 

「……少し表示を調整してもいい?」

 

「いいけど」

 

俺が言うと、四辻さんは画面の隅のコンソールに適当にコードを雑に打ち込んでいく。頭の中でやりたいことができていて、隙間埋めを人工知能にさせているのだ。四辻さんが作った分析用の人工知能であるARIEは改良を重ねてそれなりに有用になっているが、BIFRONSほどの汎用性はない。ただし世界の認識についてはかなり独特で面白い能力持ちだ。

 

「……人間にはちょっと読みにくいんじゃないか?」

 

「古瀬さんなら見ることができるはず」

 

「できるんだがなぁ」

 

色と揺れ。振動のパターンを分析するのは人間の脳神経パターンがまあまあ得意とすることのようで、それをちょっと鍛えればそれ自体をある種の特徴記号として扱うことができる。普通にやると点がしっちゃかめっちゃかに動いてわかりにくすぎると思うのですけれどもね。

 

フーリエ変換みたいなものだ、と理解している。特定周波数を抜き出す作業。それは揺れる枝とか、水面とか、そういうものを見るために残されていた認識だ。まあこのあたりを雑に話すと本職の人から怒られそうだからあくまで適当な与太話の範囲で留めておこう。

 

なおこれらの発想自体はかなり四辻さんに依存しています。既にうまく行っているものがあるならそれを踏襲すればいい、みたいな考え方ですね。練習についても普通に見て慣れるだけでした。ラテン文字圏の人がひらがなの「ぬ」と「ね」を区別するのが難しいし、一部のフォントマニア以外がひらがなの「へ」とカタカナの「ヘ」の区別ができないみたいなものだ。

 

人間の脳神経はかなり色々とまだ遊べる余地があるらしく、四辻さんの認識でもそのあたりをフルに使っているわけではないらしい。まあ別に常に全力を出す必要もないということだろう。

 

「見えた?」

 

「見えた。このあたりの認識は人工知能にもやり方を持っていないからな、俺達が色々と示唆してやったほうがいい」

 

基本的にあいつらは0と1の世界に行きている。本質的にマルチモーダルな入力をごちゃまぜに処理する俺達とは色々と違うのだ。とはいえそれは質的にどっちが優れているみたいな話にはならないのが面白いところだ。まだ人間には絞れるものが残っている。それを人工知能に叩き込んで、スケールするようにして、越えねばならない課題を片っ端から潰していくのが俺達の仕事になるわけだ。

 

目標は四年以内に、最初の重力特異点を作らせること。基本的に最大級の問題については集中して挑まれているので結構うまく行きそうだが、それ以外についてはちまちまとやっていくのが一番いいだろう。

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