超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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ロジスティック・グロース 2

先行研の職員と並行して、俺達は科学技術省傘下の審議会から委託された業務を行う団体の職員みたいな枠になっている。よくわからない。そんな話があってたまるかと思ったが、既存のシステムをあまり変えない中で使える人間をともかく突っ込もうとするとそういう不可思議なことになるようだ。

 

というわけで俺達は先行研の中央事業所に来ています。一番古くからあって、一番面積が大きくて色々詰まっているところ。そこの北地区に今回目指す施設はあります。

 

「まーうちらの研究室がやってるのは自分を作れるロボットですよ」

 

そう言ってスクリーン代わりに投影されるたぶん使いまわしのスライドとともに修士課程の女性が説明してくれる。研究補助員としてここで働いている人のはずだ。さすがに別事業所の人事システムにアクセスする権限は俺達にはないので公開情報から人工知能システムが色々とまとめたデータを参考にしているが。

 

四辻さんより少し年下かな。そんな年齢の人に説明役をさせなくちゃいけない程度には研究室が逼迫していると見るか、あるいはこの人物がそのあたりでしっかりと実績を積んでいると見るか。学会発表は三件、うち口頭発表が一件。そういうのに力を入れている研究室ならよくあるレベルであり、これだけからは何も言えないというのが人間の俺から見た印象だ。

 

ちなみに彼女についてはアカデミア的な情報がないのにもかかわらず俺達も作成に協力した有識者発見システムによって有望株として挙げられていました。その検証のためにちょうど近所にいた俺達が派遣された形になる。なおアポのメールは自動で送られるようになっていたし、彼女もアポを自動で返すエージェントを使っていた。

 

なおこのエージェントは俺達が以前作って先行研のシステムに組み込まれたものの一つである。建前としてはたまたま職員が参加していたオープンソースのモデルを使ったということになっているらしい。このあたりは実に都合がいいな。それに俺も受注してお金をもらってメンテナンスを義務化されるのは嫌だが、給料をもらっているはずの仕事時間中に勝手にオープンソースのコード書いて色々していいというそれはそれで社会人としてどうなんだみたいなことをやっているのであまり強く言えない。つまり両方にとって問題ないということだろう。

 

「ここの研究室は昔はモジュール型パーツの組み上げがメインでしたよね」

 

四辻さんが言う。一応ざっくり見た資料では小さなジョイントみたいなパーツが自動で組み合わって変形してロボットになる、みたいな話をしていたが相当前にこのプロジェクトは止まっていた。とはいえそこのボスはその研究の最後の世代に被っているのでまあ系譜はあると言ってもいいんじゃないかな。

 

「まあそうですけどあれって技術実証じゃないですか、今どき汎用二足歩行ロボットが出そうという段階でやるもんじゃないです、やるならもっとこういうのをやらないと」

 

そう言って彼女が出してきた写真は産業用の腕みたいなロボットと似ていた。自動車工場で溶接とかに今なお使われている汎用のやつ。

 

「……この設計に苦労していると聞きましたが」

 

そう尋ねるのは四辻さん。一応俺は工学部卒なのだがあまり構造に奇妙さが見えないな。きちんと練られている感じがする。

 

「そうなんですよ、他にもガントリー吊り下げとかワイヤ制御とかも考えたのですが、やっぱり人間という汎用性の高いものを形としては真似たほうがいいというのが今のところの結論です」

 

たぶんレーザーポインターと両用なのだろうペン型の端末で操作されるとスライドのアニメーションが再生される。いかにして材料からこのアームを組み立てるか、みたいな話だ。基本的に溶接とかはなくて外装を貼っ付ける前の中身の部分はシンプルな骨格とモジュールの差し込みでできている。

 

「うまく作れているように見えますが」

 

「実際にやってみるとあっちで失敗こっちで失敗、結局設計をやり直したほうがいいとなって辛いんですよ、共通設計で協力しようにもなかなかこの手の話やる人いませんし、実際に作っているメーカーさんはこんな汎用のものを作るよりも人間の手で組み立てられるようにすればいいって話で」

 

「……自動生産のボトルネック、ですか」

 

俺が言うと、相手は頷いた。

 

「今の工場を建築する時、自動重機と簡素なロボットだけで対応できるとされている範囲は昨年のこの研究室を含めた三チーム連携の報告書によれば七割弱です。この詳しい数字についてはかなり頑張って書いたので見てください」

 

そう言って該当報告書の抜粋とともに説明が始まる。よく理解できているようで、話す時に淀みがない。むしろ文章では書ききれていないことを説明しようとしてそこで一拍遅れている感じがある。

 

こういう人は大概有能だ。なんとなく俺の中にはそういう嗅覚がある。今の研究業界は人工知能が取り込まれているところとそうでないところで差が激しくなっていて、特に生物系の実験とかロボティクスの基盤技術のあたりは案外まだ人工知能の専門家でも扱いにくいとされている分野なのだ。

 

意外なことに歴史学とか文学とかの方はかなりもう人工知能が果たす役割が大きくなってきている。下手にチェリーピッキングするわけでもないし、そもそもああいうのは概念を操るメタゲーム的な側面がある。それらは所詮零と一の羅列に過ぎず、ならば人工知能が得意とするゲームに落とし込むことができるのだ。まあそれでも生み出されたものがどう受容されるかには肩書とかが重要になってくるので人工知能を使ったら圧倒的に強いなんてほどではないのがまた面白いところだが。

 

「このあたりの転換作業の効率化が目標だと考えていいか?」

 

俺は手を挙げて尋ねる。

 

「なんていうかなんとも言えるんですよ、それにこのあたりは私の趣味に近いので研究室側とのテーマとのすり合わせが……あ、先生には黙っておいてくださいね?」

 

俺は頷く。別に守秘義務があるというわけではないが、同業者の裏話は外部でペラペラと秘密を喋る人間には回ってこなくなるものなのだ。

 

さて、俺達の仕事はこの人の進路を見つけることである。もう就活終わったりしていたら困るが、そのときはまあ就職先の方に圧力をかけるとかそういう事をして人員を手に入れよう。特定分野の即戦力というのは今はかなり貴重なのだ。

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