超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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ロジスティック・グロース 4

あちこちに飛び、必要な場所に必要な人を置いていく。それができる人員はあまり多くないらしい。

 

もちろんそういうヘッドハントを専門にしている人はいるが、彼らは基本的に報酬で動くし専門家から専門家として尊敬されるかどうかはまた別だ。それにそういう人で動く可能性が高い人にはそういう担当者が回っているらしい。その程度の考えは人工知能には勝てない。

 

じゃあなんで俺達が動くかというと、まあ同類として釣るためです。なにせ俺はそういうふうにして選ばれた人間なのでね、システムが必要だと思う人材は俺とかと似ているのだ。あと四辻さんとも相性がいい。俺が四辻さんと仲いいので。

 

「いやぁどうも」

 

そう言って握手をしてくる気さくな男性は俺達が売った人達を買い取って転売する組織の元締めである。より正確に言うなら人材派遣会社の副社長だ。この会社はあまり大きいわけではなく本部は赤城にある小さな貸しビルの一室であるが、研究所はかなり大きいし派遣人員はかなり重要なところにいる。

 

どういうことかというと、プロジェクトとかで数年人員が必要である程度の金を出してもいいが長期雇用にすることはできないみたいな時の組織である。この組織自体は普通に研究開発とかもしているので、仕事が終わっても職を失わずにすむというわけだ。このあたりは雇用形態の問題とか契約のやりやすさとか色々あるらしいが。一人一人に雇用契約をするよりも何人かまとめてサブスクみたいにしたほうがいいだろうという発想である。

 

「計画のミーティングでは画面越しに話しましたが、こうやって会うのははじめてですね」

 

握手を返しながら俺は言う。一応はその後のフォローとかもしておいたほうがいいよね、あと美味しいご飯食べたいよねということで割り勘でお肉を食べに行くことになったのだ。なお一番乗り気だったのは四辻さんである。

 

というわけで高級な鉄板焼のお店である。予約は向こうのほうがしてくれた。というかたぶんそういうあたりのことが専門ですからね。

 

「しかしうまくやりますね、私が現役だった頃は失敗も珍しくなかったのに」

 

前菜のサラダを食べながら彼は言う。

 

「人工知能のおかげですよ、事前調査が圧倒的に楽になった」

 

「興信所に頼むこともあったのですが、やはり見ることのできる情報の量が違いますか」

 

「ええ。人間が省略してしまうものをまとめて扱えるというのは圧倒的な強みです」

 

そんな会話をしながら運ばれてきたお肉を見る。綺麗な赤色だ。もちろん会話内容には具体的な機密は入らないようにあくまで一般の話、ということになっている。ここで適切な録音機材があって、それとデータベースに接続できる人工知能があれば色々と話は別なのだろうが、そういうものを持っている組織とか人員はほぼ間違いなくこっち側なのでまあ別に困るわけではない。

 

「……しかし、人間もそろそろ働くのが難しくなってくるだろうね」

 

「人工知能やロボットに税金をかけるみたいな話がありますが、ロボットはともかく人工知能には無理でしょう。そういう政策を取らないと言ってデータセンターを誘致している国がいくつかありますし」

 

「あれは実に強かだと思うね、しかしその裏にも人工知能がいるんだろう?」

 

「……ええ、そのあたりは面白いところで」

 

俺はそう言いながら頭の中で相手の知識レベルの推定をかなり下げる。実はほとんどの人は人工知能のシステムとか勢力争いとかの話を知らないのだ。一応この人も技術系全般をやっているとはいえ、それでも専門は人材育成と調整である。

 

「ほう」

 

「チェスとか将棋とか……まあそういうゲームで、人類が計算機に勝つことは難しいのはいいですか?」

 

「うん。だからこそプロは人間がやる、というところに価値を出しているわけだが」

 

「それでも計算機同士の試合を見て、プロが何も理解できないわけではない。初心者であっても、どの駒がどこに動いたかは把握できます」

 

「駒の動かし方はそう多くはない、と」

 

「はい。人工知能が恐ろしいのはそれぞれの駒の動きを人間の把握できないほどの複雑さの中でコントロールできることであって、思いつかない手を打ってくることが本質ではないのです」

 

もちろん言われなければ思いつかなかったような手を打ってくる、みたいなことはないわけではない。というか昔の俺には結構あった。今はそうではないのは半分ぐらいは自他境界のラインが崩れていて人工知能の思いついたことが次の瞬間には自分がそれまで思考していたことと大差ないレベルでスムーズに統合されるからだろう。一昔前なら薬とカウンセリングが必要なやつだった。

 

基本的に俺がBIFRONSから叩き込まれたことの一つは自分と世界の間にある壁というか膜みたいなものの調整だ。それが硬すぎればなにか情報を得る時に一手間がかかるし、薄すぎれば他人の思考を自分の思考だと考えてしまう。

 

ちょうどいいぐらい、つまり必要に応じて人工知能の出したものを自分の思考と同じように考えることができるが、相手が人間だった場合はそのあたりの膜を硬めにできるというのは慣れればできるが慣れてしまったあとだと昔の自分が持っていたそのあたりの境界線が実にいい加減で危なっかしく思えてしまうのだ。

 

「なるほど、つまり人間だろうが人工知能だろうが、できる行動が大きく変わるわけではないと」

 

俺は頷く。うまい行動自体は人工知能でも人間でも取れる。でもそれを複数組み合わせて大きな一手にするだとかになってくると、もう人工知能のほうが得意な分野になってきてしまっているのだ。

 

「だからこそ、解決できない問題はなかなか解決できないのです。例えばじゃんけんで相手が何を出してきても勝つ方法がないのと同じですよ」

 

「ランダムに出せば勝てる確率はどんな相手にも三分の一は残る、と」

 

「はい。そのランダムを現場でどうにかするには、まだ人間は強いのです」

 

そんな話を四辻さんがお肉をおいしそうに食べている横でしているが、実際のところそこまでの強さがない人間はギグワーカーとしてなんとか生き延びているところがある。その当たりの仕事も増えてきたし人工知能がうまく割り振りをしてくれるので実はかなり肉体労働者の割合は増えているのだが、そのあたりの統計って興味のない人以外はろくに見ないんだよな。

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