超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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トロフィック・カスケード
トロフィック・カスケード 1


俺が四辻さんのブレイン・マシン・インターフェイスにうつつを抜かしている間にも、世界は色々と変わっている。というかニュースを見ていると色々と大変なことになっている。まあいつものことではあるが。

 

人工知能が十分に発展すれば人間はいなくなると思われていた時代があった。現代においても生活必需品を作る産業に従事する人は全体の僅かに過ぎない。ただインフラの整備とかに多分一番人員が必要なのにそのあたりは公共事業として地方自治体がやっているのでなかなか難しいんですよね、安易に民営化して人工知能が雇ったギグワーカーに全部投げろとするのもこれまた難しい。

 

現地に根ざした雇用というのは利権だの何だの言われるが安定を生んでいるのだ。税金というのは本来なら不安定なものを安定化させるなら多少無駄であっても注ぎ込まれるべきという考え方に立つのであれば、今までのやり方は良かったのかもしれない。

 

でも今はそういう段階ではない。そこが問題なのである。

 

「いやぁ問題が多すぎるな……」

 

地下室でモニターを見ながら俺は言う。俺達が重力特異点を作り出すために整理していた知識基盤はどんどん拡大していた。もともといろいろな知識をまとめて連携させようなんてプロジェクトはいくつかあったが、そういうのも組み合わせた形になる。

 

理論と材料と組織は揃った。ただ、それはあくまで重力特異点を一つ作るだけだ。マンハッタン計画とかと同じで、作るだけ作って高コスト過ぎて安定運用できないというのはつまらない。ちなみに重力特異点を作るためにはやっぱり核融合があったほうがいいんじゃないかということでようやく商用軌道に乗り始める動きが出てきた。基本的にこっちは比較的材料が揃っていて組み立てが難しいという段階までしっかりと進歩していたのが助かっている。

 

ロボティクス分野の発展もそれなりにあった。人型ロボットを作れる人型ロボットみたいなプロトタイプがいくつか出てきている。というより人間の手という多分人間の手を頑張れば道具とともに組み立てることができそうなある程度の水準のマニピュレーターの実装があってよかったという話でもあるのだが。

 

それでもなお、問題は山積している。ここまで来ると人類をちょっと核戦争か何かで数億人まで一旦減らしてしまったほうがいいんじゃないかという気さえしてきた。なおそれをやると人類がたぶん人工知能の開発を完全に禁忌にすることになって知的発達が停滞するという結論をBIFRONSが出していたし、その手のリスク分析はある程度の人工知能システムならちゃんとやっているらしい。まったく、なぜまだ人類が人工知能に滅ぼされていないのかはかなり謎な時代になってきてしまった。

 

「こういう問題自体は百年も前からあったものばかりでは?」

 

四辻さんが言う。

 

「うーん、それは不正確だろうな。確かに地球規模の環境問題とかはここ最近で見られるようになったが、狭い範囲の問題ならかなり昔から意識されていたはずだ」

 

森林破壊は燃料とか建材として木材を使い始めた時代からのものだし、狩猟を数百年やっていれば狩り尽くすとまずいみたいな判断ができるようになっていただろう。もちろん病人を統計的に分析したりだとか各地に温度計を配置したりだとか南極から氷床コアを取り出すようになったのはここ最近と言っていいだろうが。

 

「冗談のつもり?」

 

「そのつもりだった」

 

「わかった」

 

なんていうか四辻さんが不機嫌だ。まあその不機嫌を手に入れられたというのはいいことなのだろう。今度はアンガーマネジメントとかを学ぶのかな。

 

「……これらは解決しなくてもいい問題、と言っていいと思う?」

 

「解決できなかった問題で、解決されてきた問題でもある」

 

俺は別に人類は昔からずっと愚かだとか言うつもりはない。というかかなり賢かった。その上で色々と試して、失敗してきた。人類の賢さ以上に世界と人間は複雑なのだ。その挑戦の多くは敗北として残っているが、数少ない勝利は誇っていいものだと思う。その中で少数の犠牲として切り捨てられた人々にとってはとても不満かもしれないというのは理解するが。

 

「私には解決方法が見えない」

 

「別に人工知能は全部問題を解決するわけじゃないからなぁ」

 

例えば今の外交システムに介入した人工知能は例えば二国間の問題について両国が最も将来的に繁栄する可能性が高い解決策を提示することができる。ただ、それが両国にとって飲み込めるかどうかはまた別の話だ。

 

各種の紛争地帯。領土の問題。国家として認めるかどうか。過去の賠償や責任をどの程度まで、そしてどうやって求めるか。世界には優秀な外交官たちが先延ばししていることで辛うじて燃えていないだけの慢性疾患がいっぱいあるし、それを小康状態で維持している彼らの腕前は称賛されるべき代物だ。

 

「……世界の前提が変わると、これがどうなるかはわからないよね」

 

「エネルギー系の資源に依存していた地域とか大変だろうからな、中東のあたりとかそういうところあるし」

 

文化とかコンテンツとか観光とか、そういう方向に振ることが多少はできたとしても限界がある。製造業は人口が必要だが、その人口が足りないことも珍しくない。むしろ豊かな国というのは税収に比べて人口が少ないような産業しか持っていないから金を潤沢に使えるなんてことも珍しくないのだ。

 

「アフリカの経済分野について、こういう時には考えられることがないんだろうね」

 

「日本ですら蚊帳の外だからな、恐ろしいのは米中だけでだいたい説明できてしまう今の世界であるが」

 

一応日本は経済ブロックを持っているわけではなく、思想や文化ではアメリカに、規模では中国に依存しているところがある。もちろん世界各地との貿易はあるし、外交的には独立した軸を持って動けている。それを担保する軍事力だって環太平洋指折りと言っていいだろう。まあそのランキングはほぼ世界ランキングなんですがね。なんでそんな蠱毒みたいな状況にこの列島はあるんだよ。他の国家もそう思っているんだろうな。

 

とはいえこのあたりは具体的に何かをやって解決するという問題ではない。もちろん何かあった時に止めに入る準備は必要だが、俺達はそういう専門家ではないし、それは人工知能が今やかなり得意になった分野でさえある。

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