超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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トロフィック・カスケード 10

俺は仕事をしている。おそらく半世紀前に想像されたようなやつだ。あれ、スライド作成ソフトって半世紀前にあったんだっけな。

 

営業に近いのだろう。先工研の有識者としてなんか顔を出さないと進まないものが世界には未だ色々あるのだ。しかし大抵現地に行って現場の作業者と話すと今どきはもう全部人工知能が裏で決めているのに老人たちはねぇみたいな愚痴で終わる。悲しい。

 

「というわけで終わった」

 

俺は東京の街を歩きながらスマートフォン越しに言う。こんな少子化で人口減少しているご時世にこんなあらゆるものが密集した場所がどこまでいいものかねと思ったが、同時に人口が減るからこそインフラの効率化を求めて一極集中するべきではないかという理論が浮かんでくる。常に対案というか反論が思い浮かぶのは中庸を保つのにはいいのかもしれないが、何かを断言して生きていくのには難しい。まあそういうことを臆面もなくやるのが今の俺の役割だが。

 

『お疲れ。帰りは遅い?』

 

四辻さんの声。冷暖房完備の隔離された環境からの通話である。羨ましい。

 

「せっかくなのでこっちでおいしいもの食べるよ」

 

『土産』

 

「東京だぞ?」

 

『東京にはなんでもある』

 

「それはそうだけどさ……」

 

あらゆる地域の産物が東京で購入可能、というのはまあ八割ぐらいはそうな気がする。もちろん現地にいかないとそもそも店がないとか、あるいは販売範囲が限られているものとか、そういう物はある程度あるけど大きな新幹線が通る駅に行くとけっこうあったりするのだ。世界は奇妙なものである。

 

まあ何か地下で食べるとおいしいお菓子でも買っていくか、と俺はサングラスをかける。この種の端末は結局あまり流行せず、スマートフォンが折り畳めるようになったりカメラが増えたりと変な進化をたどり、一部は迷走してキーボードを足したりしたが、結局は昔ながらの基本構成があまり変わることはなかった。中身の機能は色々と増えているしバッテリーの質も良くなってはいるのだが、消費電力がそれだけ上がって結局駆動時間はあまり変わらないのである。

 

何を食べようかなと悩むが、最近胃が小さくなってきたので腹いっぱい食べてもそんなに金がかからなくなってきてしまった。歳だ。嫌な老化である。そして舌は馬鹿なままなのであまり食についての喜びがない。いやまあ食べるのは嫌いではないんだけれどもね。

 

街を歩きながら色々と見ていく。あまり高級そうなところは近寄りがたいし、だからといってチェーン店もなにか違う気がする。いやでも別にチェーン店が悪いというわけではないんだよな。チェーン店でいいか。というわけで定食屋さんに入る。お昼すぎだが夕食にはちょっと早いぐらいの時間でも普通に食べられるのはいいものだ。焼き魚で。

 

よく考えてみればスマートフォンというのはなかなか長生きである。イヤホンとかスマートウォッチは流行したが、俺が使っているみたいなサングラスはあまり人気が出なかった。まあ理由についてはある程度納得行く説明ができる。

 

まずこういうウェアラブル端末には電気が必要だ。電気以外のエネルギーを効率的に計算に使ったり大量生産できるチップに乗せる技術を人類が手に入れるにはもう少し掛かりそうだし、ゲルマネンの上の任意子(エニオン)で演算するやつも結局はシリコンに比べてそこまで汎用性があるわけではないみたいな悲しい結論が出つつある。それに特化したように問題を整理してしまえば悪くないと四辻さんは不満なのだがね。

 

「鮭定食温玉付きです」

 

「どうも」

 

厨房はワンオペ。自動化が進んでいるのもあるし、このタイミングはお客さんがいないので最低限でいいというのもある。隅の方で掃除兼監視ロボがうろうろとしている。この種のお店だとお客さんが動くこともロボットが運んでくれることもどちらもある。衛生的な問題で厨房から出るべきではないみたいなものがあるらしい。詳しくは知らない。

 

このあたりの労働も昔ほどは難しくない、という話はよく聞く。マニュアルを全部覚える必要もなくなって、胸元のカメラと耳のイヤホンから情報が流れ込んできて、それに合わせて動けばいい。もちろん上級者になればそういう逐次的な指示は調整されていくし、その水準の学習のためにも色々とデータが使われる。だから一日だけ飛び入りのアルバイトでしっかりした接客ができる、みたいなことになるわけだ。

 

そしてギグワークを取りまとめる会社が各種研修とか認定とかをやっていてそれを通るとできる仕事ができて、みたいな風になっている。フリーターでいられることが楽になったというか、あるいはフリーターをきちんとした仕事扱いしないと回らないぐらい既存のシステムが崩壊しかけているか。前者であってほしいが、俺の頭はここしばらくの情勢変化とか立法とか政策の変更のあたりをいやでも引っ張り出してくれる。いい加減にしてくれ。

 

ええとなんだっけ、そうそうスマートフォンの話。サングラスの問題の一つは光学システムになる。日向でも問題ないぐらいの光量を網膜に投影するためのエネルギーは大したものではない。問題はそれを実現するための方法だ。

 

詰め込むためにはサブミクロンスケールで規則性を持った光学素子を可視光メタマテリアルで作る必要があって、いやそれはもう実現できていたな。量産も始まっている。じゃあ問題はそこにはならないか。

 

次の問題、計算。計算にはエネルギーが必要で、ちょっとした物理法則を使うと今の俺達にとって当然のような計算量というのはそれなりに熱を持つことになる。そしてサングラスはあまり放熱には向いていないのだ。そうすると熱を出せる場所に情報を送ってそこで処理してもらうことになる。

 

充電とかもそこでできるようにするとバッテリーパックと通信装置を積んだ物が必要になる。サングラスの電池が切れた時に操作できないと困るのでディスプレイもつけておこう。ポケットに入れやすい形となると手帳みたいな薄い形で、ちょっと細長い長方形だったりすると持ちやすくてちょうどいい。これがスマートフォンである。

 

ほら、結局古臭いデザインが生き残るのだ。あと純粋にサングラスはなんか人間が快適と思う操作ではないらしい。便利なのに。きっと人工知能が発展してもこれを抜本的に変えるものはでてこないだろう。

 

変わらないものといえば食事もそうだ。こういうものはたぶん半世紀前にも食べることができた。当時はもううま味調味料も低温流通体系もあったからな。もっと前からあったかも。お菓子もそうだ。昔から変わらない味。そういう歴史というのはお土産を選ぶときにも大事になる。今日は何を買って帰ってあげようかな。

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