超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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インディビジュアル・ラショナリティ 5

「あーこれまずい?」

 

「特に問題ないと思う」

 

「そうかな……」

 

俺が見ているのは検出されたニュートリノの情報分析結果。ニュートリノは透過性が高いので地球の裏側であっても検出できるし、それらの情報を統合するのも決して難しくはない。事実、超新星爆発とか核実験とかの調査ではそう言う協力体制が必要だ。まだ原子力潜水艦の居場所を特定するには至ってないが。

 

そして今回のジュネーブ地下で起きた爆発の結果生まれたニュートリノと似たようなパターンがしばらく前のデータにあるのだ。高エネルギー科学研究中心(センター)で行われた、高磁場下における電子と陽電子の衝突過程で起こった謎の爆発事故。あのあと調査報告書が出されたが、それが色々と虚偽混じりだったのを知っている人はどれぐらいいるのだろうか。

 

もしこれでなにかまずいことが明らかになると、四辻さんの存在と繋がるかもしれない。俺の中の冷静というか真っ当な常識を持っている部分は普通に考えてないだろと言っているが、別にこいつを信用できるわけではないからな。

 

そして今回の場合はBIFRONSが信用できないということを俺は理解している。まず単純な話として、情報が限定されているなら予測には限度がある。外挿となればなおさらだ。基本的に、今まで想定されていないようなものを考えようとする時には限界がある。

 

未来予測を見てみればいい。どれだけ外れていることか。未だに国境はあり、戦争が起こり、人類は脳を機械につなげていない。いや繋げられるようになりつつはあるけどさ。タイムマシンもできていない。いやこれもそろそろできそうだからやめておくか。

 

ほら、不老不死は実現していないから。逆に言うと大抵のことはできるのが嫌なところだ。夜を昼のように明るくし、機械によって数学の難問が解決され、一瞬で地の端と端にいる人々が言葉を交わし、金銀に依らずに取引を行う。うん、オカルトだなこれ。

 

さて本題に戻ろう。爆発事故の被害は比較的小さいが、それでもある程度の範囲が吹っ飛んだそうだ。観測機器一式は壊滅。エネルギー注入システムは生きているがちゃんと稼働させるためには確認にそれなりの時間が欲しいといったところ。

 

「……原因はなんだ?」

 

『分析のためには計算資源が不足しています』

 

「使わせてもらうのは?」

 

『その結論を知っていることを伝えているようなものです』

 

「ならやめとくか」

 

BIFRONSに言う。それにしても向こう側と繋がったとか、そういう感じだろうか。こっちの方になにか送られてきていないか。もしそうなら回収されているといいのだが。

 

「……BIFRONS、可能な限りでOCEAの動きを追いかけておいて」

 

『より注力します』

 

既にやってるよ、という嫌味混じり。まあいいか。四辻さんは黙ったままだ。

 

「大丈夫か?」

 

「思考中」

 

「はい」

 

考えているのを邪魔してはよくない。脳というのはなかなかに優れたプロセッサーだし、人間の脳を模倣するのにそれなりの計算資源が要求されるのだ。もちろん浮動小数点の計算ではどう頑張っても人類側の勝つ見込みはないが、今なお一部の特殊に設計されたゲームであれば人類は決して弱くはないのだ。

 

例えば人間からの評価を前提とするような大喜利系ゲームとか。まあこれは内輪の仲間で盛り上がるものであって人工知能を内輪に入れて楽しめる人は限られるし、そもそも人工知能同士で内輪のゲームみたいなノリで世界を動かしているのが現状だが。

 

しかし人間が来てくれれば面白いのだが、そうなった場合本気で隠蔽されるだろう。俺が繋がることのできる担当者は少ないし、たぶん一番近い水城さんは少し前にはなんか山奥の旅館で一ヶ月ぐらいだらだらすると言っていた。

 

しかしいいよな、散歩と食事ぐらいしかやることがない生活を充実したと感じられる感性は。俺からは欠けているものだ。日頃から情報に溺れて生きている人間なら仕方がないのかもしれないが。

 

「ひとまず検出されたニュートリノの分析をちまちまやってもらうか……なにか通信を送っているかもしれないし」

 

『既にノイズではないらしい特徴的なものがありますが、それが果たして意図のある信号であるかは不明です』

 

「信号だったとしても一発でなにか送るのは無理だろうし、ニュートリノで送られてもこっちで検出できるわけじゃないからな」

 

もちろん四辻さんという塊一つで俺達は向こうの知識を色々と学べてかなりの速度で実装できたのだから詰め込むこと自体は不可能ではないのだろう。しかしそこまでしてこちらに送りたいものというのがあるのだろうか。向こうがこちらをどこまで観測できているかもわからないのに。

 

「……別の宇宙との通信ってどこまでできるんだ?」

 

『未特定の物理現象の定数が必要になるため断言はできません』

 

「重力特異点を作ればある程度はいい具合に調整できる」

 

BIFRONSと四辻さんが言う。こちらの世界ではそれができるかわからないが、調整すればいける、と。

 

「……こっちで十分な高エネルギー密度を作ったら向こうに気がつかれるとかあるのかね」

 

『不可能ではありません。特異点以前の状態であっても、一定の条件が揃えば干渉するはずです』

 

「条件は?」

 

俺が言うと結構シンプルな式が画面に表示された。いやこれくりこみで綺麗に見せているだけで実際の計算だと発散する項が普通に入ってきているな。やめろ。というかこれ不定じゃないか?

 

「四辻さんは読める?」

 

「今解いている」

 

「解けるの?」

 

「単純解なら私の頭の中だけでできる」

 

「なるほど」

 

紙とペンなしでこれを扱えというのは俺には難しい。四辻さんが導入した表記法を用いてもそもそもあまり人間の脳に向いた構造をしていない気がする。

 

「……解けるか?」

 

『はい。ただし、結果はこのようになります』

 

数式が展開されていく。アニメーションでいくつか変形されていて、そこでやっていること自体は理解が追いつく。厳密に言えばわかっているような気分になるだけだが十分だ。

 

「複雑だが……ここの問題だろ?」

 

俺は直感としか呼びようがないもので項の一つを指す。そうしてからその理由が頭の中で組み上がっていく。こっちから情報を送るコストは高いが、一度重力特異点を作って干渉先さえ理解していればピンポイントで何かを狙うのは難しくはない、気がする。気がするだけだが。

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