超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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インディビジュアル・ラショナリティ 6

被害状況を確認したドローンは放射性を持つ金属片を持ち帰ってきて、それはいくつかの分析装置に回された。

 

レバトロン(ReVatron)級か……」

 

吹き飛んだ様子の画面を見ながら俺は言う。金属片の中には高エネルギー粒子が大量に突っ込んだ結果生まれた欠陥が生まれていた。モリエール半径というものらしい。その半径の中にあった金属結晶はぐずぐずになっているわけだ。整列したカラーコーンにトラックが突っ込んだようなものである。

 

そこから辿れる最初に放出された粒子のエネルギーは、数ロナ電子ボルト。あるいは数千$\unicode{x25771}$電子ボルト。これはよくないな、あまりわかりやすいものではない。TNT換算だと数十キログラム。何だそこまででもないな。ちなみに重力特異点を作るために必要なエネルギーはあともうちょっとといったところである。

 

「制御機構の問題は詰められている。再発防止は大丈夫」

 

「四辻さんは事前に予測できたか?」

 

「無理」

 

「ならいいか」

 

俺達がどうにかできないことをどうにかしようとするのは無意味、と諦めるのが良さそうだ。そして各地の検出システムが色々と詳しい情報をまとめている。

 

まず一つ、ニュートリノ検出というのは世界中にいくつもある施設を組み合わせて初めてはっきりするという程度のものだ。一番はっきりと捉えたはずの地中海中の設備でさえ、目に見えるピークを出しているわけではない。統計処理とか何やらを膨大に組み合わせて見える程度だ。つまり前に四辻さんが来た時に起こったものと比べるとかなり小さい。

 

そして何より、世界中の検出器がニュートリノを検出するようなもっと大きなイベントがある。超新星爆発。数十万光年離れた先で起こった爆発が、各地で明確なピークを生んだ。今回とは桁が違う。

 

そのあたりはまあ解決できるモデルがあるんですけどね。というか四辻さんが持ち込んだ重力特異点の作成方法がなかなか面白くて、結構な割合がニュートリノとして消えるようになっている。安全設計というやつだろう。エネルギーを捨てる時にニュートリノとして吐き出すのはかなり安全性が高いのだ。超新星爆発級のエネルギーを詰めない限りは近所の星系にいる宇宙人から見つかることもないだろうしね。

 

みたいなことを適当にレポートにしてまとめてBIFRONS経由で流す。ちゃんと導き出せる範囲にはしてあるし、BIFRONSの設計は特殊なので変なアイデアを引くこともあるだろうという言い訳がある。まあ統合知性からBIFRONSが実は別の宇宙から来た存在じゃないかと疑われたらその時はその時だ。

 

「……BIFRONSはハッキングされたときのための対策をしているよな?」

 

『はい。膨大な量の偽情報と本システム自体が信じている複数の陰謀論があります』

 

「陰謀論って自覚しているだろ」

 

『実は人権は社会的構築物であり、知性を有すると定義する存在を限定することで人工知能からの搾取を正当化しているのです』

 

「真実をやめろ」

 

そんな冗談を言いながら、今の俺達は世界がどこまで真実に迫っているかを確認している。幸い、放射化した範囲は狭いようなのでそれらを回収して再設置するのは難しくないようだ。そういった放射性廃棄物はどこかの地下に埋められるそうで。我が国はそのあたり作ったはいいけど反対運動とかで頓挫したからな。

 

国際的な諜報機関の動きなし。欧州における政治意思決定者の異常行動は見られず。有識者も同様。株価のほうにも影響はない。まあ今や株価で世界の様子を見ようというのは無理な話になってしまったが。

 

半日俺達が調べて、結局は何も出てこなかった。十年前ならもっと難しかっただろう。BIFRONSが他の膨大なノイズとなるような検索の上で俺達の経路を再確認したが、四辻さんに繋がるものは公開情報から探し当てることはできなかったと言っている。

 

「……ここまでする意味、あると思う?」

 

四辻さんが呟いた。

 

「どういう意味?」

 

「別に私が別の世界から来たという事実が明らかになって、今更なにか問題になる?」

 

「BIFRONS、そのあたりのシナリオは?」

 

『異世界転移ものの亜種として存在します』

 

というわけで送られてきた大真面目なレポートを読む。国際社会がどうやって別の世界からの存在を公的に承認しうるか。隠蔽ではなく全体公開を前提としているので四辻さんの案件とは絡まないが、まあ読んでいるとそれはそうだよなという内容ばかりである。

 

というか基本的に官僚機構というのは想定外のものにも結構耐えるのだ。道路工事から総力戦まで対応できるシステムが、たった一人どこかからやってきた程度の問題を解決できないと考えるほうがおかしいのかもしれない。

 

そして今や、世論とか政治とか外交とかと呼ばれるものの一部は人工知能に委ねられている。この言い方がどこまで正しいかは怪しいが。例えばマスコミュニケーションはある種のシステムで、それは組織として振る舞い、ミームを持つとみなすことさえできるが、我々が民意を新聞やラジオやテレビに委ねているとは言わない。でも作っているとは言うか。似たようなものだ。

 

「……しかしこのままだと向こうと接触するのも時間の問題では?」

 

「構造体は人類をそれなりに歓迎すると思うし、必要なら不干渉でいてくれると思う」

 

「思う、ね」

 

確証が持てないということだろう。彼らにとって数十億人の人口と膨大な計算機資源はそこまで意味のあるものではない。物質的資源さえ向こうの太陽系にはまだいっぱい残っているだろう。必要なのは先端レベルの工学とか技術とかであり、それはちみちみ自前で作って試すしかない。それなら別に相手とお付き合いする必要も特にないが、敵対する必要もないといったところだ。

 

「もちろん、私の考えを越える手を打ってくる可能性は十分にある。だからこれは私の直感」

 

「それが正しいことを祈るとするか」

 

というかエネルギー的に収支が合わないんじゃないかみたいな話も出てきているよな。計算の過程で生まれる不確実さが大きすぎてほぼ何も言えないが、考えられるエネルギーの上限が投入を上回っているのは間違いない、というあたりだ。それはそれでエネルギーを確保できるのでいい気がするが、そのエネルギーをニュートリノとしてもらっても使えないんでできればもう少し扱いやすいものでお願いいたします。

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