超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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インディビジュアル・ラショナリティ 7

連絡を取るべきだ、と俺は決心した。それは直感によるものかもしれないし、BIFRONSの誘導かもしれないし、四辻さんの表情から忖度したのかもしれない。三番目であれば俺の認識能力の成長の証明であるので嬉しいのだが。

 

「アシュリー・チェン・ルイ……」

 

ASPAが作ったボトルネック解消のためのプロジェクトは結局統合知性に牛耳られて段階的に解散した。その過程で彼女もどうやら表の職を失ったらしい。まあ裏でなにかしているんだろうな、あのおばさんなら。案外適当に遊び回っているのかもしれないが。

 

とはいえ、そういう人物が連絡手段を持っていないわけがないだろう。たぶんBIFRONSに聞いたら統合知性経由でちょっとすぐに調べてくれるだろう。あいつらはそういう人助けを結構気軽にやってくれるのだ。まあ誰が何を探したかという一番価値ある情報を対価に支払った上で経費を実費で求められるのだがね。

 

「須藤さんに聞けば?」

 

「須藤さんが捕まらないんだよ」

 

今の官僚の中で働けている人物がどんどん減っている、という噂話がある。というかちょくちょく有識者会議とかに防諜側でも参加側でも出ているのだが、霞ヶ関の皆様の生気みたいなものはどんどん失われているのを感じている。

 

「……今どこにいるの?」

 

「そのあたりの情報がわからないんだよな、縦割りの行政システムが一瞬で形骸化したから」

 

日本政府の保有する人工知能は決して無能ではない。というか普通に強い。統合知性の中でもそれなりのポジションにいる。というか本来ああいうAPIって行政システムとかを識別番号経由で色々できたりとか行政監視の役割がメインのはずだよな、人材名簿と連絡先のペアを公開したらそりゃ人材引き抜きが起こるよみたいなところはある。

 

とはいえそういう引き抜きはあちこちで起こっているし、そこで使い捨てられた人間はそれなりの金を持って退場していることもある。いいことではあるのだろう。まだ通貨はそれなりに価値はある。腹いっぱい食べたいなら金がないと難しい。不健康でいいなら多少はどうにかなるけれどもそれなら水を飲んで腹を満たせばいいみたいなつまらない結論になるだけだ。

 

「探す?」

 

「統合知性に気がつかれたくないな……」

 

統合知性は俺達の理解の範囲を普通に超えているので、もう神みたいな存在になってしまった。神と言っても創造主じゃなくて、デミウルゴスとか八百万の神のほう。あるいは旧き存在(グレート・オールド・ワン)。宇宙の法則ほど強くはないが、人間がちっぽけに見えるぐらいだ。

 

普通ならそんなものが人間一人一人を見張らないよと思うだろう。とはいえそれは人工知能の量というものを軽視しているからできるのだ。一つのノードが百人を追跡監視することが可能で、そのノードがデータセンターには数万台あって、そのデータセンターは世界に数千個あるのだ。重要人物の追跡だけなら難しくはない。

 

いや程々にしないと色々とまずいな。点と点を繋ぐ才能は下手に世界に向けると真実を見るのに便利になってしまう。俺を見るな。プライバシー権と忘れられる権利を要求する。もうここまで深くに入り込んでしまって脳も変わったのでどうしようもない?そうか。諦めるしかないか。

 

「直接乗り込むのは?」

 

「場所がわからないだろ」

 

「わかるよ」

 

そう言って四辻さんはSNSの画面を開く。定期的に写真を投稿しているアカウント。真ん中にいるのはルイさんだ。なんで顔を覚えられない俺がわかるかって?色々パーツを読む訓練をして特定の人物だけはすれ違った時にわかるようにしているんだよ、そうでもしないと話しかけられた時に気まずくなるでしょうが。

 

「……これ、いつからあった?」

 

「最近できた」

 

「じゃあ純粋に俺が見落としていただけか、BIFRONSは知っていた?」

 

『はい』

 

「じゃあ不要な情報だと判断したんだな、妥当だ」

 

考えなくちゃいけないことは多かったし、俺がルイさんに会おうと決心したのはあくまで俺の脳の中で考えた結果のものだ。それを出力していないのに、読み取ってないと不満になるのは純粋に保証対象外だ。

 

「で、連絡する?」

 

「してもいいけど、今どこにいるかわかる?」

 

「昨日の時点で良ければ」

 

そう言って四辻さんはディスプレイに向かう。俺も後ろから覗き込む。今どきこの種の写真一枚から情報を割り出すのは簡単になっていた。写真というのはそれなりに情報を持っているのである。背景にある建物一つ、太陽の角度に通行人、そして食べているものまで。まあ人力で調べても分かる範囲だろうが、BIFRONSの手にかかればもっと精度の良いものが出せる。それも僅かな時間で。いやまあ事前に調べてあったのかもしれないが。

 

「……これなら通話かけたほうがいいかな」

 

「時間的には今は寝ていると思う。朝方に連絡してみる?」

 

「夕方のほうが時間あるかもしれないけど……直接行くのは難しそうだしな」

 

投稿された写真の分析で表示されたのは南アフリカ共和国。またなんでそんなところにいるのかはわからない。BIFRONSの分析でも意図は不明となっていた。そもそも画像を投稿しているということは何かがあるのだろうとは思うが、じゃあ何だと言われるとわからない。

 

一つは楽しんでいることと生存のアピール。例えばあるタイミングで行方不明になっても、その直前までのルートを追いかけることができるし、何日に一回は必ず投稿すると決めていれば動くこともできる。

 

あるいは誰かへの連絡。自分がここにいるから何かしたいなら来い、というもの。こちらのほうがまだありそうだ。最近になってこういう運用を始めたってことはもしかしたら政府の仕事から外れたのかもしれない。それでも俺がBIFRONSと繋がっているように政府関係の何かのアカウントを持っていれば情報は掴めるだろうし、最近ジュネーブで起きた事故についてもちょっとは詳しい噂を知っているかもしれない。

 

もちろん、彼女が釣り餌の可能性は十分にある。BIFRONSはその手の予測は不可能だと言ってきたので人間のあまり信用できない勘でどうにかするしかない。まあコイントスとかに頼ってもいいのだが、どうせ恨むなら自分を恨みたいのでメッセージを送ってみることにしょう。

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