すれ違うように設定された場所は東京の地下鉄。人が少ないタイミングを狙い、かつ二人がたまたま同じ場所に重なるルートを作った。そして俺も四辻さんも直接接触はできないので準備だけして終わり。
「……面白い話が聞けた」
先工研にたまたまやってきた須藤さんが、地下に入って言う。珍しい。ここで追跡されるリスク以上に、盗聴とかを考えなくていい状況を欲したのだろう。そしてそれぐらいの案件ということは、ルイさんからの情報は相当まずいということだ。
「誰かが来たんですか?」
俺は向かいに座った須藤さんに聞く。
「向こうが何かを探している、という仮説が立っているそうだ」
「向こうっていうのは……アメリカとか統合知性じゃないですね、構造体?」
「そういうことだ。君を探している可能性がある」
須藤さんの視線にいるのは四辻さん。忘れがちであるが四辻さんはもともとここではない別の宇宙のなんか凄い賢い何かが作ったというか何かがいる構造体に暮らしてそこで修理担当のバックアップをしていたのである。
「別に今更……いやまあ知り合いと会って話をする機会があれば嬉しいとは思いますがこっちの方と比べてそのあたりの情緒みんな薄かったので……」
四辻さんは困ったような顔をしている。まあそれはそうか。帰れることを想定していなかったわけだからな。諦めているというか、考え手に入れていなかったというか。だからいきなりそう言われても困る、というのが実態に近いのだろう。
「こちらの価値観を押し付けるのはよくない、か」
「とはいえそれを前提にしないことには難しいと思います。彼らの感情はこちらの人間とかなり近いと言ってもいいと思います」
「脳を操作してそう言ったものを抑制しているのに、か?」
「抑制程度で人間の本質が変わるのであれば、適切な教育があれば問題はなくなります」
「なるほどな」
須藤さんはそれなりに賢い人達に囲まれて、その上であまり賢くない問題を扱っているのだろう。そうなるとこのあたりの意見も実感がこもるものになっているわけで。
「で、須藤さんのほうからルイさんになにか渡したんですか?」
俺はそう尋ねてみる。教えてくれないかもしれないがまあそのときはその時だ。聞いて損はない。そしてそもそも俺達は四辻さんという外に出せない特大の秘密を抱えているのだ。
「ああ、アセット42が高エネルギー科学研究
「……いいんですか?」
アセット42は四辻さんの秘匿呼称であり、同時にこの地下二階にある色々な案件の一つである。書類上はBIFRONSを動かしているコンピューターの中の人工知能が生み出した先進的な理論とかになっているんですがね。
そしてもしBIFRONSを調べられてもそういう見解ができるようになっている。BIFRONSの中で四辻さんという人間がアセット42の本質であり、あの高エネルギー科学研究
このあたりについては俺よりもBIFRONSのほうが賢いので信頼するしかない。俺が自分でやって失敗するなら自分を責めることになるだろうが、もしBIFRONSがやって失敗したならそれはできる限界をやったうえでのものだったと諦められる。逆を選ぶ人もいるのだろうが、自分を責め続けるのっていうのは精神に良くないと思うので程々にしてほしいですね。
「伝えたのは情報の由来だけだ。それが向こうから来た何かのデータなのか、あるいは媒体なのかまでは語っていない」
「とはいえ先工研の地下レベルで解析可能となると……まあ近距離ゆえの測定データってあたりですかね、なぜ常温超伝導とかゲルマネンとか名無し凝縮まで到達できたのかについては特に説明できませんが」
俺が言うと須藤さんは頷いた。
「ただまあ、そこは問題ではないようだ」
「とすると?」
「仮に向こうに文明があったとしよう。いままでなら誰が人類の代表になるかというせせこましい争いが外交上で行われるSFのような展開になっただろう」
「今だとそうはならない、ですか……」
「人工知能に仕事を投げたおかげだな」
「まあ向こうもある意味では人工知能の末裔ではあるんですけどね、四辻さんが言うには」
人類が最初に作った知性が自己改良を繰り返した上で、新しいアーキテクチャ上に構築していったもの。とはいえ高度なアーキテクチャになればなるほど作るのが難しくなるし論理も独特になっていくので普通の物理だと上限があるはずだ。というかゲルマネンがどのぐらいの難しさなのかも四辻さんにはわかっていない。
正直、四辻さんよりもちゃんとした知識の源があるならそれに頼るべきだとは思う。今のやり方はかなり裏側で動いてもらって、我が国の安全保障についても危険な橋を渡ったことになる。まあ今の情勢で日本が裏で進めていた核開発を秘密裏に断念したなんて裏の裏みたいなところまで読めたところでじゃあそれを理由に行動を起こすかとはならないだろうけれども。
「さて、というわけで今後はおそらく各所が向こうにある何かとの連携を取り始めることを想定して準備を進めるだろう。その過程で人間は間違いなく、今まで以上に追いやられるだろう」
「でしょうね、四辻さんからの聞き取りも俺ではなくBIFRONSがメインでしたし、向こうが相当の技術を持っているなら人類というスケールに限界のあるハードウェア上の実装では限度がある」
もちろん珪素素子だってムーア則の限界は来ていますが次は量子コンピューターと
もしそれがうまく行けば、俺達は向こうが数千年か数万年かけた境地にすぐたどり着けるかもしれない。ただ、それで協力体制ができても効率が倍になるとかそういうことはないだろう。指数関数的成長を両方が遂げるなら、時定数が少しだけでも小さい方が支配的になるのだ。こちらが追い抜けると嬉しいが、それはあまり期待するべきではないことだろう。四辻さんの知識で発展した分、本来なら取りこぼしたものがそれなり以上に俺達にはあるはずなのだ。