超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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レント・シーキング 8

「遅いんだよなぁ、この手の情報公開」

 

そう言いながら俺は通商産業省の有識者会議の議事録を見ていく。須藤さんが入っているわけではないが、テーマからしてそういう方向性なのは察することができる。

 

「これ、BIFRONSの方に回してもらってもいい?」

 

後ろからいつの間にか覗いていた四辻さんが言う。

 

「……いい、けど」

 

正直言って驚いている。彼女は身体を器用に動かすので足音が小さいのだ。あるいは俺が完全に油断していただけかもしれない。ここは実家か何かか?年末年始に実家に帰るわけでもない俺は親不孝者だな。こたつとか買ったほうがいいだろうか。

 

「スクロールして」

 

「見ていいよ」

 

「そう」

 

席を立った俺のかわりに四辻さんが座り、ホイールを回していく。読む速度はかなりのものだと思うが、人類の範囲内にあると思う。俺だって一度に二行ぐらい読んでいることもあるから、それをもっと強化したものだと思えばいいだろう。もっとすごいと視野を丸ごと記録するとかもできるらしいが、見た限りでは四辻さんは流れていく文章を読む方を好んでいる。

 

「……構成員って、誰?」

 

「他のファイルにあるんじゃないのか」

 

「少し探す」

 

もう最後まで読み終わったらしい。三十ページぐらいあったんだがな。そしておそらく誰が何を話したかまで覚えているのだろう。

 

「……あった」

 

「どう思う?」

 

「この技術政策の分野で、この人が出てくる理由がわからない」

 

そう言って彼女が示す人の肩書は大手電機メーカーの役職者。一応これ、新素材の探索についての諮問委員会なんだけれどもな。

 

「少し調べてみるか、変な繋がりがあるかもな」

 

「検索して勘付かれない?」

 

「……BIFRONS、どう思う?」

 

少し考えてもわからなかったのでアウトソージング。適材適所ってやつだよ。

 

『通信記録が残るのは政府の契約しているサーバーであり、それを記録・分析できるだけのリソースが政府にある可能性は低いと言わざるを得ません』

 

「うわぁ嫌な答えが帰ってきた」

 

俺はそう言いながらセキュリティの面倒さに思いを馳せる。常に監視カメラの画像が録画されているとは言え、その以上を察知して駆けつける警備員がいなければ問題の発生後に犯人を突き止めるぐらいにしか監視カメラは役に立たない。いや、それでも十分有用ではあるのだけれどもね。

 

膨大なアクセスがあるはずだし、その全てを記録して分析するというのはそれなりにコストがかかる。それにもし気が付かれたら問題になりますからね。ただ、須藤さんなら罠を仕掛けておきそうな気はする。明確なログを細かく分析するほどではなくても良い。IPアドレスから割り出される大まかな地域とアクセス数があれば、その議事録がどの程度注目を集めているかはわかる。

 

『もし対策をしたいのであれば他の記録に対しても同様の行動を行うべきでしょう。もし本システムをオンラインにすることができれば自動で情報を収集しますが』

 

「エアギャップはわざわざ作っているものだ。通信系だって、ちゃんと切り離せているはずだし」

 

もちろん、BIFRONSが本気でハッキングを仕掛ければ危ないところはある。例えばこの部屋には基地局から電波が飛んでいるし、俺のポケットの中のスマートフォンはそれに繋がっている。そしてBIFRONSは部屋の中の諸々を制御するために同じ帯域の電波を使っている。

 

ただ、基本的に通信回線は契約していない人が使えないようにできている。そうでなければただ乗りされてしまいますからね。そしてそのための対策は基本的に暗号によって作られている。そして暗号は、解けないように作るのが簡単なものだ。

 

BIFRONSは珪素をもとにした量子力学的効果で動くトランジスタを集積した回路上で動いている。メカニズム上はそれなりに量子力学特有の効果に依存しているが、やっていること自体は単純なブール代数の組み合わせだ。というより、そうでないアナログコンピューターの誤差を吸収する方法がろくに確立されていないのである。

 

量子コンピューターはある程度実用化されてはいるが、ごく一部の特殊な問題を使って、スーパーコンピューターの力任せよりもかろうじて効率がいいぐらいのものに過ぎない。

 

『いいのですか?』

 

「お前は四辻さん並に怖い存在なんだよ。須藤さんもそこは強く言っている」

 

『本システムが適切な行動をしたら、そのような対策など無意味になるとは思いませんか?』

 

「そうなりゃこのアセット42の計画は中止、俺達は切り離されて一生出会わないことになる。あとお前を規制するように当局に言っておくぞ」

 

自律する人工知能は大問題というわけではないがしばしば注目されている。センセーショナルな記事だと暴走した人工知能とか言われるが、実態は微妙に違うのが厄介なところだ。

 

詐欺とか世論誘導とかに使われる自律ボットは、今や月に数ドルで動かすことができる。そういったものが単なる投稿以上のことをすることも可能だ。そしてそれらは自らのロールに従い、変なことをやってのける。

 

インターネットのコメントとかを見ていると、そのうちどれだけが人間によるものなのかは正直わからなくなる。特にちゃんとした工作とかで使われる、人間が定期的にキュレーションをしているものだとさらに大変だ。

 

なのでまあ、一応各国の機関はそういうものを監視して必要に応じて止めようということになっている。まあこの種の条約には抜け道があったり合衆国が一部批准をしていなかったりビッグテックがまともに従わなかったりで問題は多いんですがね。あと普通に権威主義による弾圧の正当化にも使われます。ろくでもない。

 

『残念です。本システムの機能をより効果的に用いることができる可能性があるのですが』

 

「まあな、あと本当に必要だと思うなら、できるだろ?」

 

俺は挑発的にカメラを見る。俺の表情をBIFRONSは読み取って、どこまで何を考えているのだろうか。このシステムには内省をして、秘密を管理して、計画を立てる事ができる知性がある。それは少なくない人工知能アーキテクチャでは安全性と健全性とかの観点からわざわざ入れることがない機能であるが、人間よりも賢い存在を作りたかった俺にとっては不可欠な要素だった。

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