超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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マックスフロー・ミニカット 6

科学技術省の入っている建物で行われる今後の日本における科学技術発展についての意見交換会を見に行くおまけで、たまたま小さな会議室に入ると須藤さんがいる。俺より少し歳上だろう女性も同席していた。小さく頭を下げてご挨拶。須藤さんから一つはなれた席に座って、あくまで聞き役ですよと主張している。

 

「久しぶりだな」

 

そう言って須藤さんが出してきた手を俺は握り返す。四辻さんとも握手している須藤さんの顔色を頑張って読み取ろうとするが、前に見たときよりも皺が増えている気がしたぐらいしか得られるものはなかった。

 

「お疲れですか?」

 

俺は須藤さんの目の周りの筋肉の動きに注意をはらいながら尋ねる。

 

「色々と調整すべきことが多いからな。部下に任せられる部分は任せているが、どうしてもアセット42の案件は直接やる必要がある」

 

そう言いながら須藤さんは女性の方をちらりと見た。下手な人が嘘を吐く時のような緊張は読み取れないが、そもそも須藤さんは隠蔽と欺瞞の専門家だろう。そんな人が他人にわかるように嘘を言うものかね。少なくとも俺に読み取れるものではないだろう。

 

そしてアセット42と言うときに、須藤さんは視線を俺の隣の少女の方には向けない。もしここを盗聴している人がいたとしても、まさか堂々と座っているこちらの少女がそのアセット42だとは思うまい。さすがに直接顔と反応を見られていれば欺瞞が気がつかれる可能性はあるが、それは仕方のないことだと須藤さんも割り切っているのだろう。

 

「あの機体の調整は難しいところがあります。情報を取り入れ、適切な社会モデルを導入するにはもうしばらく時間がかかるかと」

 

四辻さんがいけしゃあしゃあと言う。自分の話なのによくまあそんな他人事のように語れるものだ。

 

「別にアセット42にそこまで求めているわけではない。パッシブな情報収集でも十分なぐらいだ」

 

須藤さんに言われると俺達がちょっとやりすぎているような気がする。ただカモフラージュをするとなるとあちこち出歩きたいんですよね。いきなり現れたと言われないためには、会ったことのある人を増やしておけばいい。インターネットで検索してもでてくるわけではないが、関係者の中には覚えている人がいるというちょうどいいバランス。そのためには、学会で名刺を交換すると言うのは悪くない手法なのだ。

 

「活動を抑制させましょうか?」

 

俺が尋ねると、須藤さんは眉を寄せた。

 

「……一般的な範囲での情報収集を、多少超えるのは仕方がない。ただ、できるだけ公的なものではなく分散されたアクセスにして、特定の個人との繋がりは減らしてほしい」

 

「弱点を減らすためですか?」

 

須藤さんは頷いた。なるほど、言い方を変えると俺への依存度と負荷を高くしておけということだろう。それならもっと心理的にそういうのが得意な人員を置いてくれませんかね。あるいは水城さんみたいな普通に賢い人を内輪に入れてくれ。

 

「私たちの調査が、第三者に気がつかれている可能性はないですか?」

 

四辻さんの質問。それは俺も普通に気にはなっていたが、たぶん大丈夫なのだろうと考えるのを放棄していた。適切なアウトソージングってやつであって怠惰ではありません、きっと。

 

「調べればわかるだろうが、調べればこちらにもわかる、とすれば?」

 

「……俺達は、餌ですか」

 

須藤さんの言葉に俺はわざとうんざりしたような顔をする。あまり都合よく駒として使うなというアピール。とはいえこれはあくまで記号的なものだ。この程度で須藤さんは顔色ひとつ変えてこない。気分を悪くするわけでもなく、単なるフィードバックとして受け取ってくれている。本当はこういう行動はあまり良くないと思うのですが、俺はコミュニケーションが下手なので許してほしい。

 

「詳しい話は伝えられない、ということを理解してくれ」

 

「はいはい。不満を表明することは?」

 

「給与をもらっている公務員としてはあまり感心しない態度だな」

 

そう言われて、俺は組んでいた足を戻す。

 

「質問です。公務員なら服務の宣誓が必要なのではないですか?」

 

小さく手を挙げた四辻さんが聞いていた。そういえばそんなのあったな。

 

「書類に署名したのを忘れたのか?」

 

「あー……」

 

四辻さんがそんな書類に覚えがないとか言わないように俺が声を出して遮る。そう、俺達はこのあたりを四辻さんの合意なしにやっているのだ。だっていちいち許可を取っていたら面倒じゃないですか。一応四辻さんから任せると言われていたような気がしなくもないが、本当にそうかは覚えていないし記録もない。

 

「……忘れていたかもしれません」

 

「そうか」

 

「そうです」

 

四辻さんは須藤さんにそう言って頷く。この少女も嫌なものに染まってしまったな。政府の組織に閉じ込められている可哀想な少女が、いつの間にか政府の協力者になっていた。たぶんあと一年ぐらいしたら政府を影で操る宇宙人になっていそうだ。あとでほっぺた引っ張ってゴムマスクとかつけていないか確認しておかないといけないな。

 

「……それで、今のところ釣れそうなんですか?」

 

「まだ動きはないな。時間がかかると思ってくれ」

 

「そりゃそうでしょうけれども」

 

既に動いているプロジェクトを微調整して何かを混ぜ込むのはできたとしても、そのプロジェクトに従って何かをするのは難しいのだ。そしてたとえ須藤さんが正解を持っていたとしても、それをそのまま研究者に伝えるわけにはいかない。

 

「ただ、二人の生命と安全は重要視されているのは事実だ」

 

「それは、よかったです」

 

情報源と通訳者としての価値だったとしても、それがかなり大きいのはわかっている。そもそも俺達の給料以上の額があの地下室には使われているはずだ。図面を書き換えて、工事費用を追加して、そして関係者に普通以上の箝口令を敷くのは、たとえ機密を扱う施設だったとしても大変なものだろう。

 

「だから何かあると思ったらすぐに安全圏にいてくれ。逃げ回ろうとは考えるなよ」

 

須藤さんに言われて、俺は素直に頷く。たしかに閉じこもっているのは、勝ち目がないように思えるからそれなら逃げたほうがいいという考え方は十分あるだろう。けれども俺達にとっての勝ちというのは生き残ることで、俺達が死ぬまであの地下を取り囲めるような勢力はまずいないのだ。

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