超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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マックスフロー・ミニカット 10

BIFRONSと四辻さんの計画に従って、俺達は半年間でそれなりの場所に出かけた。そして情勢をだいたい掴めるぐらいにはなった。

 

「俺達と似たようなことをしているやつがいるんだよな」

 

「私の見間違いかもしれないし、直接接触することは避けたから断定できないけれども」

 

四辻さんが調整したモンタージュ写真というか顔は四つ。彼女は学会とかシンポジウムですれ違った人の顔を大体覚えているし、かなりの精度で再現できるのだ。まあ俺に見せられてもやりにくいのではあるが。一応記号のパターンとしては覚えておくが、それを思い出せるかはわからない。

 

「……須藤さんの計画か?」

 

「可能性は高いと思う。私たちについても向こうが知っている可能性が高い」

 

「一応分散させてはいるが、リストをちゃんと見れば俺達のやろうとしていることはある程度察しがついてもおかしくないからな」

 

理論物理学、材料科学、計算機技術、そして人工知能。それに科学技術の社会への影響とか、予算の配分と研究支援とか。そういったものから逆算すれば、俺達が何やら世界を変えるすごいテクノロジーを持っていると思われる可能性もあるだろう。もしそう尋ねてきた人がいたら俺はたぶん数分間腹が捩れるぐらいに笑って現実を見ろよと優しく肩を叩いてあげたいが、そこまで面の皮を厚くできるかはわからない。

 

『必要であれば検索もできますが』

 

「せんでいいし繋ぎもしないからな」

 

俺はBIFRONSに釘を刺しておく。オンライン上の写真から特定の人物を探し出すという技術は存在するし、それを使って俺の顔写真を入れれば数枚の今となっては消しようがない歴史が出てくる。とはいえ、それはある種の錨として俺の存在を現実世界に繋ぎ止めてくれている。四辻さんについても、そろそろオンラインに存在の証拠がどこか残り始めるだろう。

 

それは残そうと思うとわざとらしすぎるが、完全に消し去ることはできないものだ。彼女の経歴が高校生の頃まで存在しないのはまだ引きこもっていたからという理由で説明がつくが、それ以上は難しい。

 

何より、四辻さんを表に出せれば色々と便利だ。なにせ彼女は人間であり、つまり俺達の社会が受け入れることを前提として設計されている存在なのだ。BIFRONSはこのあたりに制限があって難しい。今のオンライン版のBIFRONSの運用は、厳密に言えばなにか法律とか破ってそうだからな。

 

「挨拶はしておくべきだと思う?」

 

「まだいらないだろ、自然な会釈ぐらいにしておくんだな」

 

「あまり注意して観察したことのない行動だからどこまで自然にできるかはわからない」

 

「注意する行動とそうでない行動があるのか?」

 

「全てを認識して覚えておくなんてことは不可能。入力速度には限界がある」

 

俺の物わかりが悪いみたいに言われているが、通りすがりの人の顔を大体覚えている人が言っていいものではないだろ。とはいえそう言う人達を今度見かけたら歩き方をちゃんと覚えておくことにしよう。

 

「……須藤さんは、結構動いているらしいんだよな」

 

「一年も経っていないことを考えれば、かなりの速度だと思う。もちろん人間集団を意図的に動かした例は少ないから、断言はできないけれども」

 

「社会って変わるときは一気に変わるが、それが意図的かは難しいからな」

 

確かに誰かが予言していたり、あるいは誰かが率いているように見える運動とか変化は存在する。けれども、そこで外れた予言とか、あるいは失敗した指導者とかの方を見てしまうと、果たしてそれが彼らの力によって成し遂げられたのか、あるいは彼らがたまたま起こった変化に巻き込まれた人だったのかの判断は難しくなる。

 

「……BIFRONSは、それを意図的に起こせる?」

 

四辻さんが尋ねる。

 

『普通の人間が一人でやるよりはうまくできるでしょうが、その分野の専門家に勝てるとは思えません』

 

「須藤さん相手ならどうだ?」

 

『あれは一人ではありません』

 

俺の問いに答えるBIFRONS。あれとは何だ。とはいえ、須藤さんを人間扱いするのはあまりよろしくない気がするのには同意だ。あれは国家というシステムの依代みたいなものだろう。

 

「具体的に」

 

『彼は日本の技術的積極安全保障の分野の専門家です。もちろん、それが必ずしも世論を作り出せることを意味しませんが、小さなコミュティ内部の意見を調整し、誘導することは可能でしょう』

 

それぐらいなら、まあできるかもしれない。そういう場所では誰も話の流れを作りたがらないし、その必要も感じていないというのはよくあることだ。そして一人方向性を宣言してしまえば、全体がそれに乗ることがある。もちろん調整が悪いと現状維持の派閥のほうが大きくなって結果としては何も起こらないように見えることもありますがね。

 

「私がその方法を学ぶことはできる?」

 

四辻さんが聞く。ただ、読み取った眉の角度からすると希望とか期待というよりどの程度のハードルがあるかの確認だろうな。こういった非言語コミュニケーションであっても画像処理を通してBIFRONSは認識できる。本当に良くできたシステムだと思う。

 

『非常に困難です。数十年にわたる知識と共通語彙の醸成があり、かつ実際の実務上の立場と関係があって始めて彼の能力は活用されます』

 

「人間と椅子と、どっちが強いのかみたいな話か?」

 

『椅子が人間を作ることもあります』

 

俺はBIFRONSに頷く。確かに俺もこの仕事についたおかげで色々と知識とかが身についたし、なぜか世界の命運とまでは行かなくとも今後の人類の数十年を動かしうる情報をかなり知っている一人になってしまった。

 

「たいていの椅子にはそれにふさわしくないものが座るものでは?」

 

四辻さんが言う。いやまあピーターの法則とかありますけどね?出世は楽でも降格が難しい場合、有能な間は出世し続けて無能になるとそこで止まる。つまり組織のほとんどの椅子は無能な人で占められるというわけだ。もちろん非常に雑なモデルであるし、能力を一次元的に捉えているので反論もいくらでもできるが。

 

『人類はふさわしくないものが座っても社会を回せるように社会を作りました。システムを一部の有能な人だけが回しているというのは決して正しい見方ではありません。もちろん功績の不均衡はありますが』

 

BIFRONSのこのあたりの意見を、俺は結構信用している。もちろん中途半端な言葉に騙されているだけかもしれないが。

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