超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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メッセージ・ブローカー 3

「それでは、本事業連合(コンソーシアム)についての説明を……」

 

司会の人がそう言うと、陸奥大の教授が前の方に出る。この式は大阪府の大学の小さめの講堂で行われているし、集まってる人もそこまでいるわけではない。

 

ただ、メンバーを見ればそれなりのものが集まっている。日本各地の大学の研究室、先工研に化学系のメーカー。どういう理屈でこういうメンバーが集まることになったのかは普通に気になるが、あまり変なことを詮索してやばいものに触れたくないので黙っておこう。

 

ここでの俺達の役目は情報収集である。個人会員として会費は払います。でも企業が五十万円とか出すのに対して個人会員は三千円なんだよな。技術報告資料を半年に一回作って送ってくれるそうだが印刷代だけで赤字にならないかがとても心配である。

 

スライドが流れていく。おっこれは生成ものだな、手作りでは出ない丁寧さが出ている。人間がここまでやるためにはかなりのコストがかかるのだが、ちゃんと縦横そろったマトリックスが簡単にできるのはいい時代になったものだ。

 

今まで存在したコミュニティを統合して、人間の脳に対してアプローチできる基盤技術を構築する。安全性の高い材料や、侵襲度の低い手術の開発。そしてこれらは認知症の問題に対しての外部的支援として使われることになるそうだ。

 

そりゃそうだ。人間を外部から操作できるようなリモコンを作るような研究を、適切な理由なしにできるわけがない。四辻さんはそれを一体として平然と扱っているが、かなり思考をうなじについたブレイン・マシン・インターフェイスに依存しているそうだ。それは瞬きを意識しないと気がつかないように、意識しないとわからないものらしい。

 

「つまり、今までかなりの候補素材が存在したにもかかわらず、実際の活用について神経に対する生体適合性の研究は体系的に行われてきたとは言えません」

 

そう言いながら説明されるスライドを見ると、軽く調べただけではわからないことが次々と出てくる。総説論文を読むとその分野の試行錯誤の一端が見れるが、その分野を専門としている大学教授が語るともう少し私的で個人的で、バイアスがかかったものが出てくる。それが必要なことも多いのだ。

 

「そんなものなんだね」

 

四辻さんが呟くように俺の隣で言う。

 

「らしいな、まあ世界には色々とやるべきことが多い」

 

別にこの方面が人類の役に立つかと言われると、普通の人はわからないとしか言えないだろう。もっと利益になりそうな研究はある。それでもこういう動きが出たのは、政策決定に影響を与えることができる人の一人が、高度なブレイン・マシン・インターフェイスの情報を持っているからだ。つまりは須藤さんです。

 

正解を知ってから何かを作るというのは、相対的には楽だが絶対的には難しい。かつてのソ連は核兵器の開発のために適切なスパイ網に頼っていたし、小規模スケールなら普通に達成可能な核融合も商用発電には至っていない。

 

だから、本来ならこういったプロジェクトもよくある一つとして消えていくのだろう。実用にまでたどり着けるほどの水準を持った一つの材料、一つの触媒、一つの合成経路を生み出して終わるようなプロジェクトは、成功と言っていいだろう。それは世界をちゃんと変えられたのだから。

 

とかなんとか考えているとスライドが切り替わった。思ったより状況が進んでいるな。須藤さんは結構早くから話を回していたのだろうか。四辻さんの頭の中で使われている高分子と似たような形の構造式がそこにはあった。

 

ただ、これはあくまで今後の計画の一つ。まばらな拍手に包まれる中で、次の人が出てくる。科学技術省科学技術開発局局長。確かこの人の名前は見たことがあるな。須藤さんの関係者だろう。具体的な国としての支援みたいな話をしている。

 

この話は材料系と生物系が絡んでくるが、長期的には医療機器として、あるいは脳科学のツールとして用いられることになる。それを見据えた長期的なプランと倫理基準の作成などの事務仕事の話。そういう方向の問題をやらなくちゃいけないと思っていたが、ここまで面倒だというのは実際に見せつけられると驚きたくもなる。そしてこれをやってるのって多分数人だけなんだよな。

 

「……たぶん法令の参照場所が間違っている」

 

四辻さんが小さく言う。根拠法がスライドの下の方に小さく六個ぐらい書かれているのでどれだかわからないし具体的な条文の引用もないからもっとわからない。

 

「あとでメールで伝えるか」

 

「そうする」

 

そんな会話をしながら関係機関のリストが表示されたスライドを見る。ここに来る前にちゃんと調べておかなければ、聞いたことのない企業が大半だっただろう。

 

神経測定のベンチャー企業。大手化学品メーカーのバイオ子会社。データ系の有名な企業。解析ソフトウェアのベンダーさんもいるな。

 

相当な額と、相当の人数が動くだろう。もし失敗してもいいという計画にはなっていると思うが、須藤さんは勝てるギャンブルだと見込んで色々なものを勝手に賭け金に積み増しているかもしれない。それで負けても俺は知りませんからね。

 

「俺達は支援になるのかね」

 

関係組織のネットワークの図を見ながら俺は呟く。端のほうに評価機関として先工研の名前がある。俺達は多分こっち側だな。研究者もいないわけではないのだが、今回はあまり絡まない方向にするらしい。きっとパワーバランスとか政治とかあるのだろうし、そこまで俺達が知るのも問題が多いだろう。伝えられていないことは素直に知らないままでいるのも一つだ。

 

「それは位置?それとも貢献?」

 

四辻さんが意図を聞いてくる。支援部隊としての配属になるのか、あるいは俺達がなにかすることがこの事業連合(コンソーシアム)に貢献することができるのかどうか。

 

「貢献」

 

「なるよ」

 

「そうか」

 

四辻さんがそう言ってくれるなら、あとは細かいことを考えないで俺の得意なことをすればいい。つまり裏で人工知能を回して、それを人間が理解できる言葉に落とせるまで何言ってるのかわからないから教えてくれと醜態を晒す係だ。BIFRONSと四辻さんという圧倒的知性を相手にしているから気にはならないが、これを普通の人の前ではやりたくないし、普通の人はBIFRONSと四辻さん相手でもやりたくないんだろうな。

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