ある日の午後、星野家のリビングには、穏やかな光が満ちていた。
窓辺のカーテンがゆるやかに揺れ、床に落ちる影もどこか柔らかい。
アイとルビーは床に向かい合って座り、色とりどりの少し変わった紐であや取りをしている。
指先が絡まり、ほどけ、また新しい形を生むたびに、ルビーは楽しそうに声を上げ、アイは「すごーい」と少し大げさに拍手をする。
その少し離れた場所で、アクアはソファに腰掛け、無言でハンドグリップを握っていた。
ぎし、ぎし、と一定の音を立てながらも、視線は二人から離れない。
戦場ではなく、この何気ない時間こそが、彼にとって守るべきものだと知っているからだ。
その時、あや取りの最中だったルビーが、ふと手を止めた。
「……兄さん」
その一言で、アクアはすべてを理解する。
ハンドグリップを置き、静かに立ち上がる。
「分かってる。お前はアイといろ」
アイがきょとんとした顔で二人を見る。
「え? なに、どうしたの?」
ルビーはにこっと笑い、何事もなかったように紐を持ち直した。
「大丈夫だよ、母さん。ほら、あや取りの続きやろう」
その瞬間――チャイムが鳴った。
短く、乾いた音。
「俺が出る」
アクアはそう言って玄関へ向かう。
背後では、アイとルビーが再び指を動かし始める気配があった。
扉を開けた、その刹那。
閃光のように、ナイフが突き出され――
「……何!?」
不審者の声が裏返る。
「いない!? ヤツはどこへ――」
「お前の、うしろだ」
低く、確信に満ちた声。
振り返ろうとした、その時にはもう遅い。
「遅い――鳳翼天翔!!」
爆ぜるような衝撃。
炎を思わせる
「鳳凰の羽ばたきからは、逃れられぬ」
アクアは一瞥もくれず、踵を返す。
その頃、リビングでは――
ルビーがアイにぴたりと寄り添い、二人の周囲には、先ほどまであや取りに使われていた鎖が、いつの間にか銀河のように広がっていた。
無数の光の軌跡を描きながら、静かに、しかし確実に空間を守っている。
「大丈夫。
あまりに非日常な光景に、さすがのアイも言葉を失い、ぽかんと立ち尽くす。
――そして。
黄金聖闘士たちは一部屋にすし詰めにされていた。
「狭い……」
「なぜ我々がこんなめに……」
「というか、
ぼやきとため息が交錯する中、誰かが小さく呟く。
「……まあ、平和ならそれでいいか」
星野家のリビングには、再び穏やかな時間が戻りつつあった。
守られる日常は、今日も静かに続いていく。