星の子 アナザー   作:猫太鼓

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嘘つき女 ②

 

ライブ後の控室は、明るすぎた。

 

蛍光灯の白さが、汗とメイクを容赦なく照らす。

B小町のメンバーは、それぞれ勝手に喋り、笑い、着替え始めていた。

 

「はー、今日も疲れたー」

 

メンバーの一人が、靴を脱ぎながら伸びをする。

 

「今日、客入ってたよね」

 

「センター映えしてたし」

 

「……まあ、ね」

 

鼻腔をくすぐる、微かな匂い。

香水。汗。嫉妬。

 

アイはロッカーの前で立ち止まる。

 

扉を開ける。

 

――空。

 

一拍。

次に、鼻が先に答えを出した。

 

(この匂い……)

 

自分のものではない。

甘ったるい香水。

そして、人が人を貶めたときの匂い。

 

「まだ着替えないの?」

 

背後から声。

 

「遅いんだけど」

 

「ほんと。

 昔からドジだよね、アイって」

 

くす、と笑う声が重なる。

 

アイは振り返り、首を傾げた。

 

「……あれ?」

 

「どしたの?」

 

「着替え、なくて」

 

一瞬、間。

 

「は?」

 

「知らないけど」

 

「自分でどっか置いたんじゃないの?」

 

また、笑い声。

 

アイは、にこっと笑った。

 

「そっかぁ。

 じゃあ、誰も知らないんだ?」

 

「当たり前じゃん」

 

「私たちが知るわけないでしょ」

 

その中の一人。

さっきから一番よく喋る、彼女。

 

(……いた)

 

匂いの源。

 

彼女と、目が合う。

 

「……ねえ」

 

一歩、近づく。

 

「なに?」

 

距離が近い。

顔を、覗き込む。

 

「ほんとに?」

 

声は低くない。

むしろ、柔らかい。

 

「わたしさ、嘘つきって、嫌いじゃないんだ」

 

「……は?」

 

「だって、わかりやすいから」

 

彼女の喉が鳴る。

 

「生き物としての差って、あるでしょ」

 

「……なに、言って」

 

「群れの中で」

 

アイは、微笑んだまま続ける。

 

「逆らっちゃいけない相手」

 

空気が、冷える。

 

誰も笑わない。

 

彼女の足が、半歩下がる。

 

「……知らない、よ」

 

アイは、顔を近づける。

 

「じゃあ」

 

囁き。

 

「どうして、震えてるの?」

 

沈黙。

 

「……あ」

 

別のメンバーが、我に返ったように声を上げる。

 

「こ、これ……!」

 

ロッカーの隅。

袋を差し出す手が、震えている。

 

「アイの、着替え……」

 

アイはぱっと表情を変える。

 

「あっ」

 

「ここに、あったんだ」

 

「よかったー!」

 

明るい声。

空気が、元に戻ったように錯覚する。

 

「ありがとう」

 

にこー。

 

誰も、目を合わせない。

 

――

 

着替えを終えたアイは、鞄を肩にかける。

 

「じゃあ、先に失礼します」

 

「……おつかれ」

 

返事は、か細い。

 

廊下に出た瞬間、アイの表情から熱が消える。

 

(めんどくさい)

 

――

 

夜。

 

玄関を開ける音。

 

「ママ!」

 

「おかえり」

 

アイの手には、小さな箱。

 

「ほら。

 限定ケーキ」

 

「やった!」

 

「お、買えたのか!」

 

テーブルを囲む。

 

「甘い!」

 

「おいしいな」

 

アイは笑う。

 

本物の、笑顔。

 

(……この顔だけで、いい)

 

ステージの笑顔も、牙も、全部。

この場所のためにある。

 

――

 

翌日。

 

B小町の控室では、

誰もアイに近づきすぎなかった。

 

声は優しい。

距離は、正しい。

 

それが、

序列だった。

 

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