苺プロダクション社長、斎藤壱護は、人生で何度目かの胃痛を覚えていた。
いや、今回は「何度目」などという生易しいものではない。これは確実に、過去最大級だ。
アイの妊娠と出産――それ自体も、普通の芸能事務所なら即死級のスキャンダルだ。
だが、壱護はそれを乗り切った。
命を削り、胃を溶かし、魂を売り、それでも「家族」として受け止める覚悟を決めた。
問題は、その“後”だった。
事務所のドアが、静かに、しかし確実な圧力を伴って開いた日。
そこに立っていたのは、十二人。
全員、男。
……いや、正確には「え、男なの?」と疑問符がつく者も数名いたが、そんな些細なことはどうでもよかった。
彼らは、何も言わず、ただそこに立っているだけだった。
だが空気が、重い。
圧が、違う。
「――我々は、アイのマネージャーになる」
代表格らしき男がそう言った瞬間、壱護は理解した。
これは断れない。
冗談でも、「そんなにいらねーよ」と言ったら終わる。
社会的に、物理的に、魂的に。
その瞬間、壱護の脳裏に、天啓のように一つの答えが走った。
――使うしかない。全部。
◇
数日後。
ゴールデンタイムの大型音楽番組。
司会者が当たり障りのないトークを振る。
「アイちゃん、今日は何か食べてきた?」
「えー? 何も食べてないです! レッスン忙しくてー」
にこーっと、完璧な笑顔。
その瞬間、後方で十二の影が、同時に一歩前に出かけ――止まる。
「……恋人とかいる?」
「ないですー! 今は歌が恋人なので!」
再び笑顔。
今度は、別方向から空気が軋む。
司会者は、理由のわからない冷や汗を拭った。
「髪、切った?」
「切ってないですよー?」
その声を遮るように、女性司会者がマイクを上げた。
「準備が整ったようです。ステージへどうぞ」
救われた、と司会者は本気で思った。
◇
ステージに立つアイ。
照明が落ち、静寂が訪れる。
その背後――
十二人の男たちが、音もなく配置につく。
黄金の光。
星座を象るフォーメーション。
視線を奪う、研ぎ澄まされた動き。
そして、イントロ。
「それではお聴きください――
アイ with Zodiacで、『アテナ』」
歌が始まった瞬間、空気が変わった。
アイの声は、まっすぐ天へ伸び、
十二の声がそれを支え、包み、導く。
コーラスは荘厳で、振り付けは戦いの舞のようで、
観客は、ただ呆然と見上げるしかなかった。
それは歌番組ではなかった。
ライブでも、ショーでもない。
――神話の誕生だった。
放送終了後、この日の映像はこう呼ばれる。
「神話が生まれた日」
そして斎藤壱護は、モニター越しにその光景を見ながら、
胃薬を飲み干し、静かに呟いた。
「……俺、生き延びたな」
それが、彼の精一杯の勝利宣言だった。
しかしかれらは気づかない。
単独ソロデビューを目指し、静かに
一話目の黄金達が可哀想なんで続き書きました ⋯⋯
社長も十二人も息子が増えて喜んでます