星の子 アナザー   作:猫太鼓

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北斗の兄妹 ②

 

その日も、ルビーは風邪をひいていた。

 熱は高くないが、身体がだるく、胸の奥が少しだけ寒い。ソファに横になり、毛布にくるまりながら、天井をぼんやりと見つめている。外は静かで、昼間だというのに部屋の中には時間が止まったような気配があった。

 

 ――ひとりは、さみしいな。

 

 ふと、ルビーの脳裏に浮かぶのは、一匹の子犬だった。

 

 ココ。

 

 捨て犬だった。

 アクアと一緒に散歩していたとき、マンション近くの空き地で見つけた、小さくて汚れた子犬。最初に気づいたのはルビーで、しゃがみ込んで見つめたまま動かなくなったのを、アクアが覚えている。

 

 マンションでは飼えない。

 だから、誰にも言わず、空き地でこっそり世話をした。水をあげ、少しの食べ物を分け合い、短い時間だけ一緒に過ごした。

 

 ――今、ココがいたら、きっとさみしくないのに。

 

 ルビーの胸が、きゅっと痛む。

 

 そして、思い出してしまう。

 あの日のことを。

 

 ひとりでココに会いに行った日。

 空き地に近づくにつれ、聞こえてきたのは、楽しそうな大人の笑い声だった。

 

 男がいた。

 倒れたココを、足で転がしながら、まるで玩具のように弄んでいた。

 

 ルビーの頭が、真っ白になった。

 

 叫んだ記憶も、駆け寄った記憶も、はっきりしない。

 気がついたときには、男は地面に転がり、顔も体も歪みきって動かなくなっていた。

 

 ――わたしが……?

 

 震える手で、ルビーはココを抱きしめた。

 ただ、泣いた。声も出さず、必死に。

 

 そこへ現れたのが、アクアだった。

 

 倒れた男を一瞥し、ココの状態を確認し、そしてルビーを見る。

 その目は、驚きではなく、確信を帯びていた。

 

「……優しいだけだと思っていたが」

 

 低く、重い声。

 

「やはり俺の妹よ。

 拳の才を、宿しておる」

 

 ルビーは答えなかった。

 ただ、ココを抱きしめて泣いていた。

 

 ――そして、現在。

 

 玄関の鍵が回る音がした。

 

 ルビーは身体を起こし、弱々しく声を出す。

 

「……おかえり、アク――」

 

 言い終わる前に、何かが勢いよく飛びついてきた。

 

「きゃっ……!」

 

 温かくて、柔らかくて、顔をぺろぺろと舐めてくる。

 

「……ココ?」

 

 そこに立っていたアクアが、腕を組み、堂々と告げる。

 

「早く風邪を治せ、ルビー。

 ココも散歩中、寂しそうであった」

 

 ココは元気だった。

 尻尾を振り、ルビーの顔を舐め、喜びを全身で伝えている。

 

「……うん、ありがとう、アクア」

 

 ルビーはくすぐったそうに笑いながら、ココを抱き寄せる。

 

「ココもごめんね。風邪、すぐ治すから。

 次は……一緒に行こ?」

 

 その光景を、アクアは黙って見ていた。

 

 あの日。

 瀕死だったココは、アクアが秘孔を突くことで命を繋ぎ止めていた。

 そして、アイの前で――

 

「この犬を飼いたい。

 頼む」

 

 誇り高きアクアが、頭を下げた。

 それを見たルビーも、泣きながらお願いした。

 

 アイは二人を見つめ、少し驚き、それから優しく微笑んだ。

 

「……いいよ」

 

 それだけだった。

 

 こうして、ココは家族になった。

 

 後で知ったことだが、そのマンションは――ペット可だったらしい。

 

 アクアは窓の外を見つめ、低く呟く。

 

「家族とは……

 守るものよ。命を賭してな」

 

 ルビーは、ココを抱いたまま、毛布の中で静かに笑った。

 

 もう、ひとりじゃない。




犬の秘孔はアミバが調べたんじゃないかなー(適当
本編最終話にリンクする為書きました
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