星の子 アナザー   作:猫太鼓

7 / 16
超時空歌姫 ルビー

 

ルビーは知っていた。

世界は、力だけでは変わらないということを。

 

銃や刃よりも、拳や爆炎よりも、もっと深く、もっと遠くへ届くものがある。

それは音。

正確には、想いを乗せた音――歌だ。

 

戦場の空はいつも重い。

怒り、恐怖、憎しみ、そして「勝たなければならない」という焦燥が、空気そのものを濁らせていく。

兵器が唸り、警報が鳴り、誰かの悲鳴がどこかで消える。

そんな中で、ルビーは小さく息を吸った。

 

怖くないわけじゃない。

足は震えるし、心臓は早鐘みたいに鳴っている。

それでも、目を逸らさなかった。

 

――歌わなきゃ

 

歌は、誰かを殴り倒すためのものじゃない。

歌は、相手を黙らせるためのものでもない。

歌は、ここに「心がある」と伝えるためのものだ。

 

ルビーはマイクを握る。

それは武器じゃない。

だけど彼女にとっては、世界とつながるための唯一の回路だった。

 

「……聞いて」

 

小さな声。

でも確かに、震えの中に意思があった。

 

わたしの歌を、聞いて

 

守りたい人がいる。

笑っていてほしい人がいる。

悲しんでほしくない世界が、ここにある。

 

その想いが、旋律になって広がっていく。

 

最初の音が空に放たれる。

不器用で、完璧からはほど遠い。

音程だって、リズムだって、どこか心許ない。

 

それでも――

その歌には――

逃げ場がなかった

 

最初に異変が起きたのは、敵だった。

進撃を続けていた敵性生命体の艦列が、

ぴたり、と止まる。

 

照準がぶれる。

砲門が動かない。

まるで“撃つ理由”そのものを忘れたかのように。

 

敵の内部で、

彼ら自身も理解できない現象が起きていた。

 

脳裏に蘇る記憶。

 

誰かに向けて必死に格好つけた初恋。

告白できずに終わった、甘酸っぱい失敗。

仲間の前で先生を、お母さんと呼び笑われた過去。

 

「……っ」

 

敵の身体が、赤く染まる。

羞恥という概念を持たないはずの彼らが、

なぜか“顔を覆う”ような仕草で、うずくまる。

 

――聞いてしまった。

――思い出してしまった。

――思い出したくなかった。

歌は続く。

 

ルビーは必死だった。

自分の歌が何をしているのか、正確には理解していない。

ただ、伝えたかった。

 

「大丈夫だよ」

「ひとりじゃないよ」

「恥ずかしくても、生きてていいんだよ

 

その想いが、

歌声となって銀河に拡散していく。

 

次に崩れたのは――人類側だった。

 

バルキリーの操縦席で、

歴戦のパイロットが、突然手を止める。

 

「……くっ、なんだこの歌……!」

 

頬が熱い。

耳まで赤い。

なぜか過去の黒歴史がフラッシュバックする。

 

新人時代の失敗。

調子に乗ってやらかした大恥。

かっこいいと思いつけた、眼帯と指抜きグローブ。

 

「や、やめろ……集中できん……!」

 

通信回線には、

意味不明な呻き声と、

顔を覆う音が溢れ出す。

 

管制室でも同じだった。

オペレーターたちが次々と俯き、

誰かが叫ぶ。

 

「これ……精神攻撃です!!」

 

それでも歌は止まらない。

 

ルビーは、少し照れながら、

それでも最後まで歌い切る。

 

宇宙空間に、

無数の“うずくまる存在”。

 

バルキリーですら、

姿勢制御を失い、

ふらふらと漂っている。

敵も味方も、等しく赤面していた。

 

そして流れだすイントロ。

アンコールだ。

ルビーは叫ぶ。

まだまだいくよー

 

超時空歌姫ルビー。

その歌は、敵意を止め、誇りを赤面させ、銀河を沈黙させた――




今年はお世話になりました
良いお年をー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。