星の子 アナザー   作:猫太鼓

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お兄ちゃんメモリアル

 

控え室には、撮影の合間特有のゆるい空気が漂っていた。

隅っこでルビーは床に座り込み、ゲーム機を抱えて夢中になっている。

 

「ふふふ……来た来た来た……!」

 

指が忙しなく動き、画面の中ではデフォルメされたアクアが爽やかな笑顔で立っていた。

 

その画面を、じっと覗き込む影がひとつ。

 

「……それ、なに?」

 

低く、しかし妙に圧のある声。

 

ルビーは顔もあげず、指を動かしたまま答える。

 

「ん? お兄ちゃんメモリアルだよ!」

 

ルビーは即答した。

 

「……は?」

 

「恋愛シミュレーション。こーゆーのに詳しい友達に作ってもらったんだー。お兄ちゃんを鍛えて、ヒロインに告白成功させるゲーム!」

 

 

「……なんで登場人物が全部、知り合いなの?」

 

「細かいこと気にしない気にしない。あ、ちなみに許可はとってないよ?」

 

「そこ一番気にするところだから!」

 

思わず声を荒げた有馬かなは、額に手を当ててため息をつく。

 

「また来ない……!」

 

ルビーが叫ぶ。

 

「え、なに?」

 

「伝説の木の下! 好感度MAXなのに、かなちゃん来ないんだけど! 絶対バグってるよこれ!」

 

「……へえ?」

 

かなの笑顔が、ほんの一瞬だけ硬直した。

 

「うまくいってる風なのに、最後で来ないんだよねー。だからかなちゃん攻略は諦めた!」

 

「諦めたんだ?」

 

「うん!」

 

即答。

 

「……そう」

 

かなのこめかみが、ぴくりと動いた。

 

その空気を察したのか、隣にいた黒川あかねがおずおずと口を挟む。

 

「え、えっと……じゃあ、今は……?」

 

「今はあかねちゃんルート!」

 

ルビーは誇らしげだ。

 

「かなちゃんと違って、あかねちゃんチョロいよー。デート誘うとひょいひょいついてくる!」

 

「……チョロ……」

 

あかねの頬が、じわっと赤くなる。

 

「そ、そういう言い方は……」

 

画面の中では、ゲーム内アクアとゲーム内あかねが水族館デートをしていた。

 

「ほら見て、選択肢も素直だし!」

 

「……それ、私そんなキャラ?」

 

「うん、あほの子ぽくてかわいい!」

 

「!?」

 

あかねは一瞬固まり、それから小さく咳払いした。

 

「そ、そう……かな……」

 

そこへ——

 

「きゃー! 出た!」

 

ルビーが歓声を上げる。

 

画面に割り込んできたのは、豪華なドレス姿の有馬かな。

 

「ちょ、待って、完全に悪役令嬢じゃん!なにこの私!! めんどくさ!!」

 

ルビーは笑いながら言う。

 

「かなちゃん、悪役板についてるよねー! 似合うと思う!」

 

「……ルビー?」

 

かなが、にこやかにルビーの肩に手を置いた。

 

「は、はい?」

 

「ちょっとこっち来よっか」

 

「え、なに? まだイベント中——」

 

次の瞬間。

 

「ぐりぐりぐり……!」

 

「いだだだだだだ!!」

 

かなの拳が、ルビーのこめかみを挟み込む“ぐりぐり地獄の刑”が発動した。

 

「かなちゃん!? ご、ごめん! ごめんなさい!」

 

「悪役が似合うって何かな?」

 

「いだだ! 言葉のあやです!」

 

「バグってるって何かな?」

 

「それはゲームが悪いです!」

 

わたしルート、ちゃんと甘くしなさい。ツンだけで終わらせたら許さないから

 

「は、はいっ!」

 

控え室に響く、ルビーの泣き声。

 

その光景を見ながら、アクアはそっと立ち上がった。

 

「……俺、ちょっと飲み物取ってくる」

 

「アクアくん!?」

 

あかねが呼ぶが、アクアはすでにドアノブに手をかけている。

 

(この状況、絶対巻き込まれたら終わる)

 

彼は静かに控え室を後にした。

 

残された部屋では、かなの説教とルビーの謝罪が続き、

あかねは複雑そうな顔でゲーム画面をちらりと見て、そっと目を逸らした。

 

「……あのゲーム、欲しいなぁ」

 

誰にも聞こえない声で、彼女はそう呟いた。

 




明けましておめでとう御座います
最初はゲーム内アクアの話でしたがホラーになったのでこちらを ⋯

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