西園寺シズカは静かに暮らしたい   作:第22SAS連隊隊員

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静けさを求めて

道端のベンチに座り、端末の画面を眺めながら西園寺シズカは途方に暮れていた。

落ち込む気分を誤魔化すため、手慰みに首に掛けたイヤーマフを弄る。

 

「はぁ~……早く退学したかったとは言え、もう少し準備しておけばよかった……」

 

どれだけ悔やんだところで過去は変えられない。後悔先に立たずとはまさにこの事である。

彼女は先日、籍を置いていたレッドウィンター連邦学園を自主退学した。退学理由はただ一つ。『うるさすぎる』

西園寺シズカは静けさをこよなく愛する学生である。休日の朝は自室のベッドの中で鳥のさえずりを聞き、ときおり落ちる雪の音を楽しむのが至福の一時であった。

そんな彼女にとって、レッドウィンターは余りにも騒がしすぎた。

何かある度にどこかの部活や委員会が、生徒会である事務局にクーデターを起こし、それを鎮圧する為に保安委員や親衛隊が出動。銃撃戦や乱闘を昼夜を問わず続ける。

そのまま鎮圧されることもあれば、クーデターが成功して権力者が変わることもあった。

そして一週間も経てば生徒会長が権力の座に返り咲き、しばらくしてまたクーデターが起きる――

これがレッドウィンターの日常であった。

 

「いやいやいや、あんな環境なんて一秒でも早く離れるべきよ。うん、私は何も間違っていない」

 

落ち込んでいた気分を奮い立たせるため、自分の選択は間違っていないと言い聞かせる。

そもそもとして日常的にクーデターが頻発するとはどういうことか。そしてそんな簡単にクーデターを起こそうなどと考える部活や委員会はどうなっているのか。

考えれば考えるほど、あの学園はおかしい。

だが、そんなおかしいことだらけなあの学園で、シズカにとって唯一のオアシスがあった。

それは図書館だ。

この施設を利用する生徒はほぼ皆無であり、そのお陰で常に静寂が保たれている。まさにシズカが求める環境そのものであった。

学園で騒ぎが起きる度に、図書館で本を読みながらそれが収まるのを待つ。もはやシズカにとっては単なる図書館では無く、学園唯一の避難所とも言える場所()()()

ある日、シズカがいつものように本を読んでいると、物陰から妙に湿っぽい粘つく視線を自分に向ける同人作家に気が付いて以来、シズカは図書館に近寄るのを止めた。

こうして唯一の安息の地すら失い、加速度的にストレスが溜まることとなる。

 

「つか、どいつもこいつも何でああも大騒ぎ出来るのよ……特に工務部……!」

 

端末を持つ手に力が入り、怒りで歯を食い縛る。

事あるごとに騒ぎを起こすので、シズカは学園の殆どの部活や委員会を嫌っている。

その中でも彼女が一際嫌っている――もはや嫌いという感情を通り越して、不倶戴天(ふぐたいてん)の敵と言っても差し支えない集団がいた。

それは工務部である。

レッドウィンターの工務部は土木建築を担う集団である。その腕前は高く評価されており、学園内外問わず常に仕事の依頼が入ってくるほどだ。

だが、それと同時にほんの些細なことですぐにデモやストライキを起こし、挙げ句の果てに革命までやってのけるようなとんでもない集団でもある。

拡声器片手に主張(ワガママ)を叫ぶ工務部部長の脳天に、弾丸をお見舞いしてやりたいと思った回数は数え切れない。

そんな騒がしすぎる学園生活が一年目の終わりを迎えた頃、とうとう我慢の限界を迎えたシズカは、退学届を文字通り生徒会長の机に叩き付け、静けさとはほど遠い学園を後にしたのであった。

 

「うーん、どこの学校にしよう……」

 

端末の画面を指でなぞり、下から上にページをスクロールさせる。流れていくサイトのリンクは、どれもこれもキヴォトス中の学校のホームページだ。

学園都市キヴォトスに於いて、学籍というのは身分そのもの。学籍の無い者は人権がないと言っても過言では無いほど重要である。

幸いなことにシズカにはある程度の蓄えがあるので、しばらく生活する分には問題無かった。だからと言って、それはのんびりしていい理由にはならない。

早めにどこかの学校に編入するに越したことは無いし、連邦生徒会長が失踪したことでキヴォトスの治安は日々悪化している。

毎日のようにあちこちで銃撃戦になるほどの犯罪が起きており、安全もへったくれも無い路上生活をするのは御免被りたい。

ひたすらページを送り続けていたシズカは、ある学校の名前を見てスクロールを止めた。しばし学校名を眺めた後、リンクをタップしてホームページを開く。

そこから学校の規模や学内の施設、どのようなイベントがあるのか、自治区内にはどんな物があるのか等、次々とページを開いては目を通してゆく。

 

「……よし」

 

ブラウザを閉じ、端末をポケットにしまう。ベンチから立ち上がって愛用の消音器一体型の狙撃銃を掴むと、ストラップを肩に掛けた。

ここであれこれ考えるよりも、実際に目で見て、肌で感じるのが一番。時間も金も有限だ。だったら立ち止まっている暇は無い。

首に掛けたイヤーマフの位置を直すと、新たな学校生活を目指して、西園寺シズカは一歩を踏み出した。

 




シズカのヘイローは、スピーカーに斜線のミュートマークです。
使っている銃器はソ連が1987年に開発した消音器一体型の狙撃銃 VSSとなります。
他の設定については固まり次第、キャラ設定として投稿しようと思っています。
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