西園寺シズカは静かに暮らしたい   作:第22SAS連隊隊員

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ミレニアム編 その1

モノレールに揺られること数十分。トンネルを抜けて車内に光が入ってくる。

 

「おお……」

 

その先にあった景色を見て、シズカは感嘆の声を漏らした。

あちこちに立ち並ぶビル群、その間を駆け抜けるドローン。ガラス張りの建物の数々に、中央には一際目を引く超高層タワー。

まさしく未来都市と呼ぶに相応しい風景が広がっている。

 

「さすがミレニアム。キヴォトス最新鋭、最先端の名は伊達じゃ無いわね」

 

編入先としてシズカが最初に選んだ学校――それはミレニアムサイエンススクールであった。

キヴォトス三大校の一つであり、ゲヘナ、トリニティと比べれば歴史や規模では一歩譲るが、それらを圧倒するほどの科学力を持つ学園である。

「キヴォトスで新しい物は常にミレニアムから作り出される」と言われるほど技術開発、研究に力を入れており、街並みからもその言葉の信憑性が窺える。

 

「ここならきっと、静かに暮らせるはず」

 

徐々に近付いてくるミレニアムの校舎を見ながら、シズカは期待に胸を高鳴らせた。

シズカがミレニアムを選んだ理由はただ一つ、圧倒的に治安が良いからだ。

治安の良さならトリニティも選択肢にあったが、あそこはキヴォトス屈指のお嬢様学校。まかり間違っても自分のような人間が行くべき場所では無い。

それにミレニアムは研究、開発を盛んに行っているとだけあって、集まる学生も物静かなインドア派が多い。

騒ぎや妙な噂もこれといって聞かないし、自治区内のインフラも充実している。まさにシズカの求める全てが揃っている理想的な学園であった。

モノレールが駅に到着し、車輌から降りる。改札を出ると、ミレニアムの制服を着た二人の少女が自分を待っていた。

 

「はじめまして。西園寺シズカです」

 

「セミナーの生塩ノアです。ようこそいらっしゃいました」

 

「同じくセミナーの早瀬ユウカです。ミレニアムへようこそ!」

 

迎えた二人の生徒、ノアとユウカはミレニアムの新たな生徒であるシズカを歓迎した。今日は編入初日なので、オリエンテーションとしてミレニアムを案内してもらう予定である。

学校へ向かう道中で、シズカは二人からミレニアムの成り立ちや年間行事、卒業後の進路などの説明を受ける。

雑談も織り交ぜつつ歩いていると学校の敷地内に入り、そこでは生徒達が様々な実験をしていた。

 

「さすがミレニアム、あちこちで実験をしていますね」

 

「一大イベントであるミレニアムEXPOが近いから、みんな張り切っているんです」

 

自分達の手がけた作品が見せる結果に学生達は一喜一憂し、その度に手を加えては再びテストする。

やっぱりここを選んで良かった。年がら年中騒ぎばかり起こしているレッドウィンターとは大違いだ。

腕を組んでうんうんと頷き、シズカは自分の選択が間違っていなかったことを実感する。

これから理想の静かな学校生活が始まる。私の本当の人生はここからだ。

頭の中で理想のスクールライフを思い描いていると、それを吹き飛ばすように突如として爆発が起きた。

驚きでシズカが固まっていると、爆発を起こした集団を見たユウカが声を荒らげる。

 

「新素材開発部! これでもう、今週三回目よ!」

 

「ごめんなさーい!」

 

「前も言ったけど、爆発事故をこれ以上起こしたら修繕費を予算から引くからね!」

 

鋭く指を差され、新素材開発部の部員達はこれ以上ユウカの機嫌を損ねないように、必死に頭を下げた。

 

「まったくもう……」

 

ユウカが呆れていると、別の場所でまたしても爆発が起きる。

 

「みんな逃げて! AI地雷が!」

 

学生達が必死に逃げると、その後ろで先程の勢いを上回る爆炎が噴き上がった。

それも一回だけでなく、断続的に次々と炎と爆発が吹き荒ぶ。その光景は、さながら季節外れの花火大会のようであった。

ようやく全ての地雷が爆発したらしく、静かになる。辺りには焦げくさい臭いと火薬の燃えた臭いが漂う。

 

「AI研究部! 罰として上半期の予算一割削減!」

 

「そ、そんな~」

 

セミナーの会計担当から予算削減を突き付けられ、AI研究部の部員達は崩れるように倒れた。

 

「はぁ、こっちも只でさえ忙しいのに……」

 

こめかみを押さえ、溜息と共に愚痴を零す。ハッとシズカの存在を思い出し、ユウカはぎこちない笑みを向けた。

 

「ご、ごめんなさい。見苦しいところを見せちゃって」

 

「い、いえいえ。気にしないで下さい」

 

どうやら先程見せた表情がユウカの素のようだ。ちょっと怖い人かも。

シズカは胸中で失礼なことを考えていたが、それよりも気になることがある。

今週三回目? 爆発事故?

おかしい。ミレニアムは特に治安が良い学校のはずだ。これだけの騒ぎなら何らかの形で外部にその事が伝わるはず。だが、そのような情報も噂も全く聞いたことが無い。これはどういうことだ?

シズカは堪らず尋ねた。

 

「あ、あのー。もしかしてミレニアムっていつもこんな感じなんですか?」

 

「いいえ、今はEXPOが近いからこういう騒ぎが多いんです。普段はもっと静かですよ」

 

ノアからの返答を聞いて内心で胸を撫で下ろす。

良かった。今はたまたま時期が悪かっただけのようだ。万が一にでもこんな騒ぎが日常だったら、ミレニアムを選んだ意味が無い。

 

「そうですよね! そんな頻繁にこんな騒ぎが……」

 

「いつもはどこかの部活が爆発や化学事故を一日一回ほど起こすくらいですね。一日にこれだけの事故が起きるのは今の時期だけです」

 

続くノアの言葉に、シズカの体が凍り付く。

一日一回爆発や化学事故が起きる? なんだそれは? どうやったら毎日そんなことが起きるんだ? シズカの理想のスクールライフ像に皹が入る。

ここに来てシズカは、ミレニアムで毎日のように起きている騒ぎが、なぜ外部に伝わっていないのかを理解した。

ミレニアムの生徒にとって、毎日起きる騒ぎはもはや日常の一部と化しているのだ。レッドウィンターでも事あるごとに革命が起きているため、あの学園でその事を異常だと思う生徒は皆無だろう。それと同じ事である。

人間という生き物は、自分にとって当たり前だと思う事をわざわざ口に出したりしないし、疑問も抱かない。

レッドウィンターの生徒にとっての革命が常識であるように、ミレニアムの生徒にとって爆発事故は毎日起きる当たり前のことなのだ。

新天地で静かな生活を送れると思ったのに、まさかこんな所に落とし穴があるとは思わず、シズカの心に暗澹の雲が立ち込める。

 

「どうかしましたか?」

 

「い、いえ……何でも無いです……」

 

シズカは力なく答える。

グッバイ、私の理想のスクールライフ。

 

 

◆◆◆

 

 

ノアとユウカによる校舎の案内も終わり、残りは自由時間となった。

二人と別れたシズカは、早速学校の探検を始める。まずは目に付く教室の中を片っ端から覗いてみた。中では生徒達が何かの実験を行っており、一心不乱に記録を取っている。

次にこの学校の図書館を訪ねてみる。蔵書のラインナップはどんな物かと期待に胸を弾ませていたが、収められている本はどれもこれも専門書ばかり。シズカが好きな娯楽小説は殆ど置いていなかった。

まさかの結果に肩を落としながら図書館を後にし、気を取り直して再び探検を再開する。

何故かメイド服を着た集団とすれ違ったり、ユウカとピンク色のツインテール少女との鬼ごっこに遭遇したり、ゲームを作っている部活の部室を覗いたりと、自由気ままに散策する。

次はどこに行こうかと、グラウンドでひたすらトラックを走る生徒を眺め――

 

「……あの人、案内してもらった時も走ってたよね?」

 

 

 

 

 

その後、シズカは思う存分ミレニアムを探検した。

中に入ることは出来なかったが、学校中の電力を賄う発電所やデータセンター、この学校の象徴でもあるミレニアムタワーを外から眺めたり。売店で売られている見たことも無いお菓子に目を輝かせたりと、あちこち探検する。そして――

 

「うわぁ、おっきな格納庫。もしかして人型ロボットとかあるのかな?」

 

シズカは一際大きな格納庫の前で足を止めた。

首を真上に向けなければ屋根が見えないほど高く、横幅も戦車が楽々とすれ違えるほど余裕がある。

ここは最先端科学を扱うミレニアム、もしかしたら人型ロボットが格納されているかもしれない。好奇心が湧いたシズカは、僅かに開いた扉から中を覗いた。

 

「すみませーん――」

 

「光よ!」

 

シズカの視界が白一色で塗り潰される。鼓膜が破れるかと思うほどの轟音が彼女を襲った。

視覚と聴覚、その両方に甚大なダメージを負ったシズカの意識は、一瞬で暗闇の底に沈んだ。

 

 

 

 

 

ぼやけた焦点が徐々に合わさり、視界と意識が時間と共に明瞭になってゆく。

そして見えてきた景色は――

 

「……青空だ」

 

まばらな薄い雲とヘイローが浮かぶ、澄み渡るような青空だった。数回瞬きしてから、ゆっくりと上半身を起こす。

周囲は酷い有様だった。格納庫の天井は見事に吹き飛ばされ青空が剥き出し。瓦礫があちこちに散乱しており、ここで大規模な戦闘があったかと思うほど荒れ果てていた。 

鈍く痛む頭を押さえつつ、気を失う前に何があったのか思い出そうとしていると、瓦礫の陰から紫色の長髪の少女が顔を出す。

 

「あいたた……うーん、ちょっと威力を強くし過ぎたかな?」

 

服に付いた煤を払いつつ、消費電力がどうたら、コンデンサがこうたら。よく分からない事を呟く。

しばらく独り言をブツブツと呟いていると、ようやくシズカの存在に気が付いた。

 

「おや、君は?」

 

「は、初めまして。西園寺シズカです。今日付けでミレニアムに編入になりました」

 

「ああ、君が噂の編入生か。ところで、体におかしな所は無いかな? いやぁ、申し訳ない。私としたことが戸締まりの確認を忘れてたよ」

 

頼むから本当に気を付けてくれ。興味本位で覗いたら死にかけた、なんて洒落にならない。

本音を言えば文句の一つでも言ってやりたいシズカであったが、自分は今日、学校に来たばかりの余所者。これからの学校生活を考えたら、ここで悪印象を与えることだけは避けたい。

喉まで出かかった言葉をグッと飲み込んで、愛想笑いを浮かべながら「大丈夫です」と答える。

 

「自己紹介が遅れたね。私は白石ウタハ、エンジニア部の部長だ」

 

互いの自己紹介が済んだ所で、シズカは先程何が起きたのかを尋ねる。

 

「あの、さっきのは一体……」

 

「はい! それはアリスの武器のパワーアップイベントです!」

 

シズカの質問に、瓦礫からひょっこりと姿を現した少女が元気よく答える。

 

「アリスの光の剣は、様々な困難を乗り越えて新たな力を得ようとしています! これで裏ボスとも互角に戦えます!」

 

自らををアリスと呼ぶ黒髪の少女は、ハキハキとした口調でシズカの疑問に答える。だが、当のシズカは頭上に疑問符を躍らせていた。

この子はさっきから何を言っているのだろう。シズカはアリスの言っている意味が全く理解できなかった。

 

「ええと、さっきから言っている意味が……」

 

「アリスの言っている意味が分からないのですね? それならば説明しましょう!」

 

「うわぁ!」

 

困惑していると、眼鏡をかけたオレンジ髪の少女が突如としてシズカの背後に現れる。

驚きで悲鳴を上げる彼女に構わず、眼鏡の少女は喋り始めた。

 

「エンジニア部が下半期の予算70パーセントをつぎ込んで開発した宇宙戦艦搭載用レールガン スーパーノヴァですが、それをアリス自身の身体能力で誤魔化すことによって個人用兵装として無理矢理運用していました。ですが、十分な実戦データが蓄積されたことにより、本格的な個人用兵装にする見込みが出来たのです。そこで我々エンジニア部は、そのデータを元にスーパーノヴァの改良を行い、来るミレニアムEXPOにて『個人運用、携行が可能な実用的レールガン』として出展することを決定しました。まず、スーパーノヴァの最大の問題点と言えば、やはりその重量。重さは140kg、発射時の反動は200kgを越えるほどです。レールガン本体が発射時の衝撃に耐えられる堅牢性、継続的な運用には必須の大容量バッテリー。何一つとして欠かすことが出来ない要素の為、これ以上の軽量化、小型化は不可能だと思われていました。しかし、新素材や新型バッテリーの開発によりこれらの問題点を――」

 

いきなり現れるや否や、一方的に捲し立てて喋り倒す眼鏡の少女によって、シズカの頭が収まりつつあった鈍い痛みを強く訴え出す。

せっかく意識がハッキリしてきたのに、これじゃ逆戻りだ。眉間に深い皺が刻まれる。

相手の声を遮断するため首にかけたイヤーマフを付けようとすると、未だに喋り続ける少女の肩に手が置かれる。

 

「コトリ、そこまで。相手が困ってる」

 

「ハッ! 私としたことがまた……。すみません……」

 

ようやく我に返った少女コトリは、シズカに謝罪すると申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「ごめんなさい。一度説明が始まると止まらないの」

 

説明少女コトリの暴走を止めたのは、犬耳を生やした黒髪の少女だった。

 

「猫塚ヒビキ、よろしく」

 

「豊見コトリと申します! 説明が必要なら何時でもお呼び下さい!」

 

「西園寺シズカです。よ、よろしくお願いします」

 

怒濤の説明津波を止めてくれたヒビキに内心で感謝しつつ、シズカは挨拶をした。が、コトリはどうやらまだ喋り、もとい説明足りないらしく、期待に満ちた目でシズカを見詰めている。

シズカは気付かない振りをして、そっと視線を逸らした。

 

「しかし、改良型スーパーノヴァのテスト射撃で、まさかこんなことになるなんてね……。次はもう少し威力を……」

 

「ウタハ先輩、それよりも――」

 

ウタハは次のテストの事を考えていたが、ヒビキはそれよりも優先すべきことがあると、格納庫の扉を指差す。

ドタドタと誰かが大急ぎでやってくる足音が近付いてきた。

 

「こらー! エンジニア部!! これは一体なんなのよ!!」

 

格納庫の扉を勢いよく開け、怒り心頭のユウカが青空に響き渡る怒号を飛ばす。

 

「ああ、ユウカ。改良したレールガンのテスト射撃を行ったのだが、思ったより威力が強くてね」

 

「それで格納庫の天井を丸ごと吹き飛ばすってどういう了見ですか!」

 

『ちょっと失敗した』程度の様子で説明するウタハに、ユウカは空を指差しながら事態の大きさをツッコむ。

その余りの剣幕に、アリスは申し訳なさそうな顔をしながら前に出た。

 

「ユウカ、ごめんなさい。アリスが光の剣をもっと強くしたいと言ってしまったせいです」

 

アリスが謝罪すると、ユウカは鬼のような形相から打って変わって、まるで我が子を見守る母親のような慈愛に満ちた顔付きに変わった。

 

「気にしないで、アリスちゃんは何にも悪くないわ!」

 

もしかしてこの人、そっちの気があるのか?

ユウカに湧いた『とある疑惑(ロリコン)』に、シズカは疑いの眼差しを向ける。

自分に向けられる視線に気付いたユウカは、視線の主を見て慌てて駆け寄った。

 

「し、シズカさん、大丈夫ですか!?」

 

「とりあえずは大丈夫です。まだちょっと頭がガンガンしますけど……」

 

一先ず大事ないことを伝えるシズカであったが、直後、彼女の頭痛を増幅させるような爆発音が轟いた。

格納庫に居た全員が音源の方を向くと、青い空に黒煙が何本も立ち上っている。

 

「一体何の騒ぎだい?」

 

「さっき発射したレールガンの衝撃で、学校中のガラスが割れたんです! しかもそれが原因で機械やセキュリティが誤作動を起こして大騒ぎになっています!」

 

「それはいけない。私達が原因なのだから、私達が事態を収拾せねば」

 

「緊急クエスト発生です! アリスも一緒に行きます!」

 

エンジニア部とアリス、ユウカは自分の得物を手に持つと、格納庫から急いで出て行った。

一度出て行ったユウカは、扉から顔だけ出すとシズカに声をかける。

 

「シズカさん、危ないからここに居てください!」

 

それだけ言うと、今度こそ格納庫から出て行った。

 

「あは、あはは……」

 

シズカはその場に大の字で倒れ込み、虚ろな目で青空を見上げながら乾いた笑いを漏らす。

これは一体どういうことだ。治安が良いからミレニアムを選んだのに、これじゃあ前の学校と殆ど同じじゃないか。私は何のためにここに来たんだ。

レッドウィンターと違いがあるとすれば、騒ぎの原因が人によって起きているか、機械によって起きているか程度だろう。

求めていた静かな学校生活からはほど遠く、実際に待っていたのは爆発と混乱の日常。

遠くから聞こえる爆発音を聞きながら、シズカは一筋の涙を流した。

 




シズカはいつでもどこでも周囲の音を遮断出来るように、常に首にイヤーマフをかけています。
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