-Ruin-   作:Croissant

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九時間目:PROJECT えー
前編


 何だか知らないが、色んなモンを背負い込んだ苦労人の顔で少年——あ、いや……少年の姿をした青年は廊下を歩いていた。

 只でさえ小学生(ガキ)の姿をさせられるというイタイ事しているとゆーのに、ムチムチ誘惑(自覚なし)に心を甚振られているわ、この日は柄にも無くエラソーなコトほざいて説教なんぞかましてしまうという新たなイタイ行動をしてしまって心がボロボロになっていた。

 何というか……当事者である筈の子供先生や、護衛対象である少女の守り手の少女剣士よか心労が溜まっているのは如何なものか? いや裏方だから当然と言えるのだが。

 

 無論、彼とて好きで疲労しているわけではない。

 

 何せこの学校の面々。特に3−Aの面々は統率が取れているのやら取れていないのやら解からない集団で、蜘蛛の子を散らすように散開したと思ったら、唐突に群体化したりするのだ。まるで鰯のようだと彼が思ったのは悪くないだろう。

 

 兎も角、何だかんだ言っても底抜けに女子供に優しい彼は、そんな少女らを事件に巻き込まないよう気を配り続けていたのである。

 

 ぱっと見はちゃらんぽらんしているようで、中身はしっかり大人。

 昔の彼からは思いもつかない真面目な性根である。

 

 しかしそれでも、この日の最後にかましたポカ(、、、、、、、、、)は頂けない。

 

 報告したら学園長にも呆れられてしまったし、一応同僚のよーな魔法関係者の青年にも顎を落とされた。

 

 いや、気付けなかった自分も悪いっちゃあ悪いのだが、偶然が実を結ぶとはいえ結び過ぎだ。葡萄が如く鈴なり生ってるメロンのようなモンである。有難味なんかじぇんじぇん無い。

 

 

 ともあれ、そんなこんなでボロボロになっていた彼は、廊下の窓からチラリと裏庭に目を向け、自分が見つめた事を喜んでいる…と解ってしまう…それ(、、)に手を振り、ちょっと待っててと伝えてみた。

 案の定、コクリと小さく頷いて『待ってる』とつぶらな瞳で返してきたではないか。

 

 

 可愛いけどネ。可愛いけど……

 

 

 と、癒されつつも複雑な心境で廊下に眼を戻して目的地に向かってゆく。

 

 

 それにまぁ……——

 

 

 「こんなんだから癒しが無けりゃやってられねーし……」

 

 

 なのだから。

 

 

 何を言わんかや。半分は自業自得ではないか。という突っ込みは無しの方向で。

 つーかそんな人がいないし。

 

 お陰でボケたらボケっぱなし。歪んだら歪みっぱなしの放ったらかし。

 

 調子こいてふっふっふっ…とアヤシサ大爆発の笑みを浮かべつつ、少年はホテルの浴衣を持ってそこへと向ってゆくのだ。

 

 

 こんなに落ち込んでいても私は元気です。

 

 それがあったらドンブリ飯があるだけ食える。という桃源郷への期待に胸を膨らませて進む彼。

 

 少年が向っているそこは素敵な幻想郷。所謂一つのパラダイスである。

 

 

 そう、進む先にあるものは、彼にとって全知全能の癒し空間。

 心ときめく露天風呂だった。

 

 

 何と大げさな…と呆れる事無かれ。

 

 何せ彼の外見は幻術で幼くしているだけ。

 実際の“今”の生理年齢は十代後半。青い衝動真っ盛りなのである。

 本来の年齢も二十代後半の男盛りで、その相乗効果(?)によってヤる気に満ち満ち(中略)満ち溢れていてもおかしくはない。

 

 にも拘らず周囲はキャイキャイ騒ぐ女子中学生ばかり。その衝動の持って行き場が無かったりする。

 

 だから、その煩悩袋はショート寸前。

 そろそろオイシイ目にあっても良いのではなかろうか? いや、イイのだ!!

 

 そしてこのホテルの露天風呂は混浴であり、尚且つ——

 

 

 「ふ……今の時間、女生徒は入浴を終えているであろう事は“旅のしおり”で確認済み!!

  そして新田のヲッサンやセルピ…もとい、瀬流彦も見回っていた!! そして……」

 

 

 脱衣所の篭の中には女物であろう着替えが入っていた。流石に漁るほどのヘンタイにまだ(、、)クロックアップしている訳ではない。何とかヘンタイというなの紳士レベルなのでチラ見による妄想で満足している。余計に性質が悪いという気がしないでもないが。

 

 しかしその行李から鑑みるに、ここに入っているのは……オンナだ!!

 

 

 ふ…っ

 

 

 少年は無駄に男臭い笑みを浮かべ、脱衣所でパパっと服を脱いで欲情……もとい、浴場へと飛び込んでいった。

 

 

 

 「いざ、 ザ ナ ド ゥ へ ! ! 」

 

 

 

 少年は色々あってテンパッていた——

 

 昔の事を思い出したり、少女らに気を使ったり、ホテルの周囲に怪しいものがないか霊波でもって調べてみたりetcetc...

 

 だから普段以上に力を使いまくっていた。

 だからエネルギーチャージの必要があった。

 

 彼の力の源は生命の根源から来るモノ。−霊力−

 

 その霊力を効果的に酌み出すのは集中力なのであるが、十代の後半というかなり後発的に目覚めたものであるから、その集中力を高める方法はかなり歪であった。

 

 彼は、煩悩でもって集中力を高める煩悩力者なのである。

 

 だから彼はエネルギー切れのこーゆー状況では暴走気味となってしまう。

 

 

 よって——

 

 

 篭の中にあった下着に、“サラシ”が入っている事に気付けなかった———

 

 

 

 

 「え?」

 

 「あ………」

 

 

 硬直する二人。

 

 片や子供状態とはいえ、列記とした大人の男性。

 そしてもう片方は、子供とは思えない立派なプロポーションをした少女。

 

 子供から大人へと差し掛かっている、青く瑞々しい肢体が少年の脳を焼き、行うべき行動を完全に封じてしまっている。

 

 少女は少女で、何だかやたら熱い視線でもって身体を貫かれている事を肌で感じ、今頃になって育ち始めている感情……“羞恥”が行動を遮っていた。

 

 

 「……か、楓……ちゃ……」

 

 「よ、よこし……」

 

 

 ぎちぎちと音が聞えてきそうな緊張の中、何とか音らしきものを唇は紡ぐ。それでも身体はコチコチのまま。未だ凍りついた思考が自由を奪っているのだろう。

 

 だが、悪戯なのか慈悲なのか、春風がふわりと舞い、ほんの一瞬だけ二人の視界を遮った。

 

 

 「……っ!!」

 

 

 彼の視線が遮られたその僅かな瞬間、

 

 少女は先に再起動を果たし、

 

 

 彼女自身が予想も付かなかったリアクションを起こした———

 

 

 「き、きゃぁあっ!!」

 

 「え……うごぉっ!?」

 

 

 何と彼女は右手で己が胸を隠し、左手で桶を掴んで投擲したのである。

 

 少年は初めて聞いた意外に可愛い少女の悲鳴に硬直してしまい、高速回転しつつ迫り来る桶を避けられなかった。

 

 こ———んっ!! と甲高い音を立て、少年の顔に追突して直角九十度上空に跳ね上がった桶。

 流石にその回転モーメントでも衝撃は逃がしきれなかったか、軽くて硬い檜の桶は空中分解して少年の周囲に降り注いだ。

 

 その様子からも凄まじい勢いであった事が見て取れる。

 

 

 「はぁはぁはぁ………

  え? あ、ああっ?! 横島殿?!」

 

 

 元は桶だった残骸を身体に浴び、そのままそっくり返ってごぎんっ☆と中々イイ音を立てて後頭部を強打する少年。

 その見事すぎる昏倒を目の当たりにした少女はやっと正気に返る事に成功した。

 

 裸体のまま慌てて彼に駆け寄りその身を起こさせると、やはり意識を完全に失ってはいるが生きていた。後頭部と額のたんこぶは凄かったが。

 

 

 「う゛〜ん……」

 

 

 ピヨピヨと頭の上をナゾの鳥が旋回するという、懐かしい現象が起きているので間違いなく脳も無事だろう。

 それが確認できた少女は、彼を抱えたまま胸を撫で下ろしていた。

 

 が、ホッとしたのも束の間。彼女は足先から見る見るうちに真っ赤に染まってゆく。

 

 

 

 

 

 「ま、また見られ、見てしまったでござる……」

 

 

 

 

 

 昨日に続き、今日も肌身を見られ、見せた事に動揺している少女。

 今まで自分が起こした事の無いリアクションを反射的に行ってしまったという戸惑いも重なって、目をぐるぐるナルトにて気を失ったままの少年を抱え、彼女の困惑はしばらく続いてしまうのだった——

 

 

 

 

 

 

 

 「ん〜? どうしたの? 龍宮さん」

 

 「………いや、何だか何処かの鈍い馬鹿が勝手にラブコメしてるような気がして腹が立って……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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                 ■九時間目:PROJECT えー (前)

 

 

 

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 「正直、スマンかった!!」

 

 「も、もう良いでござるよ。痛み分けでござる」

 

 

 まはや横島の得意技となってしまっている、土下座MAXハート<正直スマンかった>パート3が炸裂していた。

 

 何とも締まらない得意技であるが、横島的にいえば土下座は謝罪として当然の行為なのだからこれでいいのだ。

 

 幸いにも楓はすぐに許してくれたのであるが、横島は早々簡単には頭を上げ難い。

 

 ウッカリと二度も目にしてしまった楓の身体。

 健康的で瑞々しい彼女の裸体が脳内HDにキッチリ焼きついてて消えてくれない横島としては頭を上げ辛かったりするのだ。思い出すと鼻血が噴出しそうになるし……

 

 

 ——順調に堕天は進行しているようである。

 

 

 

 奈良公園の散策を終え、ホテル嵐山に戻った一行。

 

 何だか知らないが子供先生が38℃もの知恵熱をだしてぶっ倒れるというハプニングはあったものの、別段事件らしい事件も起きずに事無きを得ている。

 

 

 まぁ、件の子供教師がロビーで一人身悶えしつつ転がったり、

 

 

 「コココックさんがコクのあるコックリさんのスープを……」

 

 

 等と要領を得ない事をほざきまくり何処かへ走り去ってゆく始末。

 

 傍から見ていた横島でも冷や汗を禁じ得ないほど。

 それでも何とか理由を楓に問うが、

 

 

 「乙女が勇気を振り絞った故、秘密でござる」

 

 

 と返されてしまう。

 

 まぁ、女の子らが無事だったら良いかと横島もあえて聞きだそうとはしなかった。

 

 

 ——尤も、ネギが少女に告白された等と聞いたら、しっとマスクが御降臨なされたかもしれないが……

 

 

 「そ、それで、古はどうしたでござる? なにやら思い悩んでいた様子……」

 

 「ん? あ、ああ……」

 

 

 ムリヤリ話を逸らせる楓。

 何だか以前よりへタっぽいが気にしてはいけない。けっこう焦りが残っているのだから。

 

 あまりに不自然に話を逸らされた感もあるが、確かに横島は古の事を気にしていたのですんなりと楓の話に乗ってしまう。

 

 

 「いや、オレも良く解かんねーんだけど……

  どーも木乃香ちゃんと刹那ちゃんとの仲がギクシャクしてて……」

 

 「ほう……?」

 

 

 案外素直に話を逸らせてくれたれ事に感謝しつつ、楓は深刻そうな内容に気持ちを整えた。

 

 あの二人の間柄は良く知らない彼女であったが、それでも陰に日向に刹那が木乃香の様子を窺い続けている事は知っている。

 人には様々な事情や理由があり、言いたくとも言えない事が多い。その事を理解していた為、あえて聞かずにいたのであるが……

 

 その理由の所為で周り——“仲間”である古までも——が悩みだすというのなら話は別だ。

 本人達だけでなく、周囲にも問題が飛び火しだしているのだから。

 

 ふむ……と周囲を見、ロビーの端に人気がない事を確認してから横島を誘った。

 

 どうも込み入った事情がありそうで、落ち着いて話を聞く必要を感じていたのだから。

 

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 「ええ〜〜っ!?

  魔法がバレた〜〜〜〜!?

 

  しかも、あああの、朝倉に〜〜!?」

 

 

 はい……と涙混じりに俯いて返事をするのは子供教師こと、ネギ=スプリングフィールドだ。

 

 一応、彼の仮契約者である神楽坂明日菜の方が焦っているのは如何なものかという説もあるが、今回の件での協力者である桜咲刹那も呆れて傍聴するに留まっていた。

 

 何やら今日の奈良公園の見学からずっと様子が変であったが、それは本屋ちゃん事、宮崎のどかに告白されたからだと明日菜も刹那も思っていたのであるが……夕方頃からもっと行動が珍妙になってきていた。

 流石にこれはおかしいと気付いた二人がロビーの端の人気の無い場に連れて行き、ネギに問い詰めたのであるが……

 

 

 何というか……

 いや、ある意味優しいネギらしいと言えば良いのだろうか。

 

 

 自分の教え子(でも年上)に告白され、その悩みを引き摺ったまま外に出た折、トラックに撥ねられかかった猫を発見。

 魔法でもって猫を救ったのである。

 

 ちょうどその場に居合わせたのが麻帆良学園報道部突撃班の朝倉 和美で、その事象を目の当たりにした事によって彼女は魔法の存在を知ってしまったのだという。

 

 ジャーナリスト魂というか、パパラッチ根性に火がついてしまった朝倉は調査を開始。

 ネギに突撃インタビューをかけ、彼のその焦りから確信を深め、

 そしてネギが入浴中にしずなに変装して乱入し、確証を取ったという事らしい。

 

 朝倉という少女の事を良く見知っている明日菜らから言えばポカ中の大ポカ。

 二人の認識からすれば、彼女にバレるという事は世界中にバレるという事を意味するのだから。

 

 

 「もーダメだ。

  アンタ世界中に正体バレてオコジョにされて強制送還だわ」

 

 「そんな〜〜〜っ! 一緒に弁護してくださいよアスナさん、刹那さん〜〜〜っ!!」

 

 

 別に虐めるつもりは無いが、もう少しネギにも自覚してほしいものだという意味合いが篭っている。

 刹那も最初の頃はもっと当てにしていなかったのであるが、昨夜の一件で少しは見直しているので苦い顔をしていた。

 

 と、ちょうどそこへ——

 

 

 「おーい、ネギ先生——」

 

 

 当の本人、朝倉 和美がやって来た。

 

 

 『ここにいたか兄貴——♪』

 

 

 何故か肩にオコジョ妖精カモを乗せて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よ、よかった……

  問題が一つ減ったです——」

 

 「よしよしネギよかったね」

 

 

 涙すら流して安堵しているネギに、明日菜もしょーがないわね〜〜と頭を撫でて安心させていた。

 

 カモと朝倉の話によれば、彼女はカモの熱い説得に応じ、ネギの秘密を守るエージェントとして協力してゆく事を約束したと言うのだ。

 無論、明日菜も刹那もその説得力の無さに疑いの目を向けていたりするのだが、当のネギが今まで集めた証拠写真まで渡してもらって大喜びなものだからあんまり水を差したくなかった。

 それに、ネギをサポートしているカモが彼女についているのだから嘘だと決め付ける事もできない。

 

 ハッキリ言って結婚詐欺師の愛の囁きを聞いているよーな気がしてくるのだが、一応は信じてやるかと言うのが正直なトコロであろう。

 

 ……まぁ、写真は渡したがデジカメのデータとかはそのままであるし、カモが何かニヤリとしていたりするのだが……流石に明日菜ではそこまで気付くまい。

 

 

 ともあれ、広域指導員である新田に部屋に戻れと言われた事もあって、安心したお陰で気が緩みまくっているネギを伴い彼の部屋へと向う二人。

 結界も昨夜より強めなものを張ったし、後は万が一の為に式を放ち、教師らに戻ったと見せかけて見回りをするだけである。

 

 

 「や。ネギボウズ」

 

 「え? あ、楓さん」

 

 

 丁度そこに、浴衣姿の楓がロビーの反対側から歩いてきた。

 

 彼女から話し掛けてきた事を不思議に思っているのだろう明日菜に苦笑しつつ、楓は刹那にチラリと視線を送ってから、

 

 

 「何やら忙しそうでござるな。

  手が足りぬようであれば、拙者も手を貸すでござるよ」

 

 

 とネギにそう言った。

 

 

 「へ? な、なんで長瀬さんが……?」

 

 

 無論、明日菜は裏事情を知らないので、ただ驚くばかりだ。

 

 木乃香の周囲や家族関係、そして麻帆良や世界の“裏”の姿をついこの間まで知らなかった彼女なのだから当然の反応であろう。

 

 

 「いえ 楓、さんは……その、私と同じく“裏”に関わった一人で……」

 

 「へ? そうなの?」

 

 

 ややこしい説明にならぬよう、刹那が先にそう切り出した。

 

 彼女が言い澱んだのは、楓がついこの間まで“裏の裏”たる魔法界には関わっていなかった事を一瞬忘れていたからである。

 

 

 「あい♪ 一応、拙者は麻帆良学園の警備班所属となっているでござるよ」

 

 

 ニンニン♪ と何やら細い眼うっすらと開けてそう言った。

 

 

 ネギが学園に来るまで居た“常識”から完全に逸脱してしまった明日菜であるが、逃避するというか逃げるという気は更々無い。

 アバウト…というのは言い過ぎかもしれないが、彼女は如何に非常識であろうと受け止めるだけの器があるのである。

 

 だから楓の話もすんなりと心に染み込ませ、

 

 

 「そっか……じゃあ、頼りにしてるわ。楓さん」

 

 

 と、笑顔で右手を差し出した。

 

 

 「了解でござるよ。明日菜殿」

 

 

 楓はその手を握り、優しげな微笑みを見せた。

 

 彼女は口先で否定しているが、楓はニンジャである事はネギはその眼で見て知っている。だから彼女が手を貸してくれるというので、ネギも笑顔を取り戻していた。

 そんな彼は元より、刹那にしてもこれはかなり心強い。

 

 昨夜の誘拐事件の犯人を取り逃がしてしまったのは、相手に魔法使いが混ざっていた事である。

 カモによればアレは水を触媒とした移動魔法らしかったのだが、あれは関西の呪術というよりは西洋魔術の色が濃かった。

 それにそんな転移魔法を使えるという事はかなりの能力を持っている術者となる。

 

 状況から鑑みて、西洋魔法を嫌う筈の関西呪術協会が魔法使いを雇ったという奇妙な可能性があり、自分や学園長が考えていたより、背後にややこしい動きがあると見て良いだろう。

 となると、式や呪符等とは別の注意を払う必要が出てきていたのだ。

 

 しかしそうなるとどうしても手が足りない。

 その事で彼女は唇を噛んでいたのであるが……

 

 楓の力量は以前から真名より聞き及んでいる。

 

 何せ楓は、魔法界にかかわっていないにもかかわらず、“あの”真名ですら本気にならねば対等に闘える気がしないと言っている少女なのだ。

 詳しくは聞いていないのだが、甲賀中忍という肩書きに相応する腕を持つというのだから、それはかなりのものだろう。忍の世界が実力式の縦社会ならば、であるが。

 

 だから正直、楓の参入はありがたかったのである。

 

 

 安心したからであろう、三人から無用な肩の力が抜けた。

 

 確かに緊張は必要なものであるが、硬くなり過ぎると瞬発力に掛けてしまうのも事実。

 

 かと言って、彼女は横島という相棒が来ている事を口に出しづらかった。

 というのも——

 

 

 「正直助かります。

  西の強硬派に加え、怪しげな魔道を使う変質者まで関わってくる可能性がありましたから」

 

 

 刹那は昨夜の怪人を思い出しのか、得物を持つ腕を掴んで表情を硬くする。

 

 

 「そ、そうね……アレはかなりヤバかったわ……」

 

 

 “あの姿”が頭に浮かんだか、珍しく明日菜が生理的嫌悪を露わにした。

 

 

 「ハイ……

  死罪になった罪人の手を切り取り、それから作り上げる燭台を“栄光の手”というのですが……

  あの人は自分の腕にそれを宿しているのかもしれません」

 

 

 等と、イヤンな緊張が場を満たしてゆく最中、ネギが顔を青くしてそんな事をもらしてしまう。

 

 当然ながら魔具知識が無い明日菜は驚き、西洋魔法に疎い刹那も驚愕していた。

 

 

 「た、確かにアイツから感じた気配は人間のそれじゃなかったわね……」

 

 「ええ……私もあの輝く爪から見た事も無い気配の様なものを感じていました。

  確かにアレは氣に似て異なる別物でした……

  なるほど……魔具を宿していたというのなら納得できるかもしれませんね……」

 

 

 タラリ……

 

 

 三人の会話にでっかい汗を後頭部に垂らしてしまう楓。

 

 流石の彼女もこの場にて横島の事を話せば混乱は必至なので説明するのは躊躇われた。

 

 

 「そ、そうでござるか……

  ならば、その……その“へんしつしゃ”とやらは拙者が相手をするでござるよ」

 

 

 と言うのが精一杯だ。

 

 楓にしては一番良いフォローだと思うのだが、目いっぱい横島を誤解している三人は驚愕と心底その身を案じている想いが入り混じった眼差しを楓に集中させた。

 

 

 「か、楓、正気か?」

 

 「そ、そうです!! 最悪、僕たち全員で当たらないと拙いかもしれないんです!!」

 

 刹那とネギが本気(マジ)な顔で楓にそう言って詰め寄ってくる。

 まぁ、確かに全員で掛からねば一発も当たるまいが。

 

 

 「そ、そうよ!?

  ヘタをすると楓さんが、そ、その……エ…エッチな事されちゃうわよ!?」

 

 「!?」

 

 

 明日菜の言葉に、先程の露天風呂のシーンが思い出さされてしまった。

 あの時は自分が暴走して横島を気絶させたのであるが、もし彼が先に暴走したなら……

 

 そして、飴の力が切れていたなら………

 

 

 ボッッ!!

 

 

 一瞬で顔が茹蛸となり、蹲ってしまう。

 

 そんな彼女を見、流石に女の子に一人に相手をさせるのはと相談を始める三人。

 

 楓の心境など知る由もなく、『下手をすると魔族かも』とか、『じゃあ淫魔の力を身に付けた…』とか、『淫らな欲望の為だけに自分に魔具を埋め込んだなんて……』とか、中々に事態収拾が難しい方向へ突撃してゆくではないか。

 

 

 こういった場合にフォローせねばならない彼の相棒の楓はというと、

 何故か横島に押し倒されるシーンが頭の中でリプレイを続けており、中々現世復帰ができないでいたりする。

 

 栄光を掴み取れるであろう事を期待して、その力に目覚めた時のノリで名付けられたHands of Glory……“栄光の手”であるが、まさか彼のネーミングセンスの所為でここまで言われるとは思いもよらなかった事であろう。

 因みに、Hands of Gloryを略してもHoG(食肉豚。或いは『豚の様に意地汚い』とか、豚のエサ)なので、結局はネギに良い印象を与えないだろうが。

 

 それでも頭の中から自分に淫行しようする横島の画像を消去する事に成功した楓は、何とか再起動を果たして立ち上がる。

 

 昨夜の奇行が酷すぎた所為か、自分の相棒たる横島の印象は劣悪の極みなので彼の身を明かす事は次の機会へとまわしておき、

 

 今や十八歳未満お断りな話に成りかかっている三人の話を逸らす為……もとい、本当に聞きたかった事に強引に話を戻すのだった。

 

 

 「あ……と、そ、その……ひ、一つ聞きたい事があるでござるが……」

 

 「え? あ……な、何?」

 

 

 楓に話しかけられ、やっと自分らがワイ談を仕掛けている事に気付いた三人は、顔を赤くして気不味そうにする。

 

 ここで詳しく書く訳にはいかないが、彼女らの話の中での横島の事を本人が耳にしていれば、

 

 『ヘイトか?! ヘイトなんだな?! ドチクショ————っ!!』

 

 と号泣すること請け合いである。

 

 まぁ、何はともあれ無事に話を逸らせたのだから……と内心安堵しつつ、楓はやっと本題に入った。

 

 

 「その……く、古がどこにいるかご存知なさらぬか?」

 

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 その変態——

 もとい、横島はコソーリとホテルの裏庭に潜んでいた。

 

 そう聞くと大半の方は『ああ、やっぱり彼は彼なんだ』とウンウン頷いて納得されるだろうが然にあらず。

 

 

 「ホントどーするんだい? 横島クン」

 

 「そ、そー言われても〜」

 

 

 呆れた顔で溜息を吐き、しゃがんでいる横島と共にそれ(、、)を見ているのは、引率教師の一人である瀬流彦である。

 

 ああ、成る程。二人で覗きの算段か……といわれてもしょうがないメンツだ。そう思うのもまた仕方が無いだろう。

 

 

 「……何かボクまでえらいコト言われてるような……」

 

 

 ——兎も角。

 

 そんな二人が頭を悩ませているのは、意外にも軽犯罪に関する事ではない。

 

 

 「ぴぃ?」

 

 「いや、そーつぶらな目で見られても……」

 

 

 二人の前でぺたんと地面に伏せてサクランボを食べている小鹿である。

 

 昼間、横島と木乃香が撫でていた鹿。

 他の鹿たちよりずっと白い小鹿であった。

 

 奈良から連れて来たのか? と思われるだろうがそれも外れである。

 何とこの小鹿が勝手に付いて来たのだ。

 

 それも、皆が移動するバスの上に飛び乗り、ぺたんと身を伏せて。

 

 ホテルに着いた時、持ち前の勘で屋根に伏せている小鹿に気付いた彼の驚きたるや……まぁ、その件は控えておこう。今は関係ない事であるし。

 

 兎も角、ここまで聞くとお解りだろう。この小鹿、ただの鹿ではない。

 

 つーか本当は鹿ですらなかったのだ。

 

 

 「ホントどーするの? イキナリ使い魔なんか作って」

 「せやかてこんなハッキリ見える精霊(、、)なんか聞いたコトもなかったんやもん!!」

 

 

 そう、小鹿の正体はなんと精霊だったのである。

 

 正確に言うと山岳信仰において山神の使いとされている鹿の形をとっていた精霊。

 普通の鹿に紛れてふらついていたそれが、木乃香の魔力の波動と横島の霊力の波動に惹かれて寄って来たらしいのだ。

 

 しかし彼が泣いて自分の非を否定(つーか誤魔化し)しているように、運が悪いというか何と言うか、本当に間が悪く偶然が重なっただけだったりする。

 

 何せ木乃香はどういう訳か軽く魔力が目覚めかかっていたし、人界最高レベルの高出力の霊力持ちである横島が二人して並んでいたのだ。

 

 精霊どころか妖怪変化だって下手をすると何事かと寄って来るかもしれない。いや、精霊だけしか寄って来なかったのは幸いだと言えるかもしれないが。

 

 そんな小鹿精霊を二人が撫で、その魔力と霊力を直接伝え、力をもらった事で馴れてしまったのだ。

 

 

 そのタイミングで——

 

 

 「あはは……

  この子、なんややたら人馴れしとんなぁ。

  なぁなぁ キミ、名前なんていうんえ?」

 

 

 等と小鹿が可愛かったものだから木乃香が子供に言うように問い掛けた際、明るくなってきた彼女に調子を合わせた横島が、鹿の子供だからという安直な理由で——

 

 

 「“かのこ”や」

 

 「ふぇ?」

 

 「こいつ女の子やしな」

 

 と、名付けてしまった(、、、、、、、、)のだ。

 

 

 木乃香は『ウチの名前の逆さま読みやん』と喜んでいたのであるが、ここでとんでもない事が発覚してしまう。

 

 

 「!? 老し……じゃなかた……タダキチ!!」

 

 「わ、わぁっ!? 古ち…ねーちゃん、どないしたんや!?」

 

 

 「その鹿、どこから出てきたアルか!?」

 

 「「は?」」

 

 そう、古にはずっとその小鹿が見えて(、、、、、、、、)いなかったのである(、、、、、、、、、)

 

 それだけなら鹿の幽霊という可能性もあったのだが、その小鹿の頭に問題のタネが見えていた。

 

 

 ——この小鹿、雌なのに角の根があるのだ。

 

 

 腐っても横島はGS。オカルト知識は当然ながら持ち合わせている。

 

 神の使いとしての鹿は当然ながら雄が多いのであるが、神秘性のある精霊は雌鹿もけっこういて当然ながら彼はそれを知っていた。

 

 例えばギリシャ神話。あの中にだって角のある雌鹿が出てくる。

 ヘラクレスの三つ目の難事、ケリュネイアの鹿がそれだ。

 神秘性を含む聖獣や精霊は両方の特性を含むので、そういった事もあるらしい。

 

 兎も角、慌て驚く古を黙らせ、木乃香がいる事から色々と誤魔化しつつそんな説明をしたまでは良かったのだが……

 無意識に鹿の頭を撫でていたのは失敗だった。

 

 彼はそれよりも前にウケ狙いで普通の鹿に齧られている。

 そしてその手は当然ながら僅かではあるが血が滲んでいた。

 

 かのこ と名付けられた小鹿は、別に言われた訳でも無いのだが、その手を——

 

 彼の血を(、、、、)ぺろりと舐めていたのだ。

 

 

 血を与え、そして名まで付けて確立化させて使役する。契約の基本であるが一番強力なものだ。

 

 こうして横島は、全く意識せずに精霊契約を結んでしまったという訳である。

 

 

 「ガクエンチョも呆れとったけど……契約解除の方法や知らへんし」

 

 「かと言って、こんな子をどうこうするのは……」

 

 

 二人して溜息を吐きつつ、お皿のサクランボを食べ終えた かのこに目を向ける。

 

 

 「ぴぃ?」

 

 「「う……っっ」」 

 

 すこーんと忘れていたのだが、横島は(あやかし)と相性がすこぶる良い。

 

 そしてどうも月の魔力に左右されるものとの相性が特に良いらしいのだ。

 現に一番弟子の人狼少女は横島の波動が一番心地良いらしく一番懐いていたし。

 

 月と鹿には言霊的な繋がりがある上、横島は神秘の塊。そんな彼が名付けて血まで与えりゃあそれはおもっきり馴れるだろうし格だって上がろうというもの。

 

 今や かのこは立派な使い魔である。

 ……可愛いという能力しかにない気もするが気にしてはいけない。

 

 

 「ま、まぁ、学園長も認めてくれたんだろ?

  だったらがんばって面倒みなよ」

 

 「ひ、人事や思て……」

 

 

 こんなに澄んだ目で見られたらどうこう反論する事もできくなるのは俗世で穢れている証拠だろうか?

 

 それでもまぁ、無聊を慰めてくれる存在に違いは無い。

 まさか使い魔を手に入れる日が来るとは思わなかったなぁ……と、何もかも諦め、何もかも受け入れた横島は、黙って かのこの頭を撫でるのだった。

 

 

 あぁ、月が綺麗だな。コンチクショーと……

 

 

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 

 

 天に月。

 池に朧月。

 

 水面に映るそれは、風で揺れるので実像をはっきりと結ばない。

 

 天の月は真円ではないのに、歪んだ像もあってか池に映っている月はやや歪ではあるが円に見えていた。

 

 

 「はぁ……」

 

 

 と溜息一つ。

 

 真実を移していないからこそ、おぼろげな事実しか見えてこない。

 

 何時もの違ってそんな哲学的な事を考えてしまう自分に呆れてしまう。

 

 だからといって、何時までも池の月を見つめているという理由にはならないのであるが。

 

 

 「はぁ……」

 

 

 と、もう一つ。

 

 溜息の数だけ幸せが逃げるというが、それでは自分は不幸なのではないかと思ってしまう。

 

 実際、胸のもやもやは取れない。

 何か燻っているのに正体が解からない。

 理由があるだろうのに片鱗すら結べない。

 

 バカレンジャーだ、バカイエローだと言われている自分だからこその思考の行き止まりなのかと思うと、今更ながら腹が立ってしまう。

 

 

 誰もいない場所——

 

 あえて誰かと話をする余裕が無かったと言った方がよいだろうか?

 風呂に入っても完全に落ち着いたといえず、彼女は一人になれる場を求めて彷徨い、ここ……宿泊しているホテルの屋根の上に辿り着いたのである。

 

 無論、風呂上りなので湯冷めする可能性はかなり高い。

 幾らバカだバカだといわれても、風邪をひく時にはひくのだし。

 

 

 そんな彼女の様子に気付いていた友は、黙って“それ”を彼女に与えていた。

 

 彼女らの年齢から言えばそれは渡されざる代物であり、本来ならば口にしてはいけないものである。

 

 だが、その友は“これ”を渡した。

 『気晴らしは必要なのでネ』と……

 

 ちゃぽん…と水音を立てる水筒を手に持ち、コップになっているフタに中身を注ぎ入れて静かに呷る。

 昨日は感じた旨みは今は何故か苦く、そして喉の奥で辛く感じた。

 

 

 「何やってるでござる?」

 

 「……あ、カエデ……」

 

 

 後から声をかけられ、やっと気配が近寄っていた事を知った少女。古 菲。

 

 別に気配を消していたわけでも無いのに、楓の接近に気付けなかったのは何時もの彼女らしからぬ事である。

 

 

 『アイヤ……私、そこまで悩んでしまてたアルか……』

 

 

 古も迂闊さを悔やむより苦笑が浮かんでしまった。

 

 

 明日菜らに居場所を聞いてもやはり知らないとの事。

 無論、三人に話しかける材料でもあった為、然程の期待もしていなかった楓であるが、気が付けば古を捜す方がメインになっていた。

 

 ならばと同じ班の超一味に聞きに行けば、意外にあっさりと、

 

 

 「ん〜? 古はこのホテルの屋根の上にいるネ」

 

 「へ? 屋根の上でござるか?」

 

 「ウム。間違いないネ」

 

 

 ぴこーんぴこーんと妙な音を立てるコンパクトに似た形の小型レーダーっポイ物を見ながら超は教えてくれたのである。

 

 その言葉に従って屋根の上に来てみれば、何だか小さな身体を更に小さくして古が座り込んでいたではないか。

 横島の言っていたように……いや? 横島が言っていた以上に古は何かを思い悩んでいる様子だった。

 

 

 

 「はぁ……ちょっと月見酒してたアルよ」

 

 「そうでござ……って、酒でござるか?!」

 

 「そーアル」

 

 

 ちゃぽん…と揺らせたステンレスの水筒には、見事な飾り書体の筆文字で<超>と書かれており、中身は例の音羽の滝の水——

 本気なのか冗談なのかサッパリ掴めない西側の妨害に使われた、縁結びの水に混ぜられていた酒が中に入れられているのである。

 

 自分すら気付かぬ内にあの酒をパクっておいた超に感心すべきか、そんなモノを同級生に勧める彼女の非常識さを責めるべきか。楓は微妙な表情で銀色のフタに酒を注ぐ古を見つめていた。

 

 

 「ん……」

 

 「え? あ、いや、拙者は結構でござるよ」

 

 

 前に差し出された液体の入った器を丁重に断り、楓は飲んべのヲッサン宜しく酒を呷る古の横にちょこんと座る。

 

 

 くぴっくぴっくぴっ………ぶはぁ〜〜

 

 

 正しくヲッサン飲み。

 楓の後頭部にでっかい汗の球が出現した。

 

 なるほど……確かに様子が変だ。

 

 しかし、彼が言っていた様な木乃香と刹那の関係を悩んでいる事が原因だとは思えない。 

 どー見てもヤケ酒なのだし。

 

 

 「え、え〜〜と……古。

  あの……「……カエデ」」

 

 

 兎も角、話を聞こうとした楓のセリフは、やや舌が回っていない古によって遮られる。

 ぷつりと会話を切られはしたが、別に腹が立つことも無いし、向こうから話してくれるのならそれに越したことはない。

 

 だから楓はそのまま唇を閉じて次の言葉を待った。

 

 

 「……ろーしの恋人……どんなヒトだたアルか?」

 

 「は?」

 

 

 が、話は楓の想像から百八十度くらいズレていた。

 

 

 「しらないアルか〜?」

 

 「し、知らないでござるよ〜?」

 

 

 そうアルか……

 とブツブツ呟きつつ、古はまたフタに液体を注いだ。

 

 流石にこれはいかぬ。

 級友の護衛もさる事ながら、このまま飲ませると絶対に身体を壊すだろう。

 

 楓はスッ…と腕を滑らせ、古から水筒と杯代わりのフタを奪った。

 

 

 「ああ〜〜……ナニするアル〜〜」

 

 「身体に悪いでござるよ。

  それに、自分の任務をお忘れでござるか? 自分から手を貸すと言ったでござるに」

 

 

 楓がそうやんわりと嗜めると、古も納得したのか俯いてそうアルなと呟いた。

 

 肩を落としているのが丸解かりの古の様子に、流石の楓も眉を顰める。

 

 

 「……かえで〜」

 

 「……なんでござる?」

 

 

 古のセリフは相変わらず舌が回りきっていなかった。

 

 

 「かえではぁ……大切なヒトと言たらぁ……どんな相手思うアルか〜〜?」

 

 

 

 「はぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ……ホテルの周りには異常なし……か」

 

 「はい。妙な気配もありませんでしたし、一応は結界も強化してますから今回は……」

 

 

 昨夜ほど酷い事にはなりはすまい。

 

 と、安堵しかけた刹那であったが、そうそう気を抜けないと自分を叱咤する。

 

 誘拐犯の中に高位術者がいるのは明白なのだから、念には念を入れないといけない。

 それでも楓が——実は古も関わっているのだが、その事を刹那は知らない——力を貸してくれるというはありがたかった。

 

 何よりも木乃香に掛かる魔の手が少しでも軽減されるのだろうから。

 まぁ、いざとなったら真名を雇うという手もあるし、楽観はできないが希望は湧いている。

 

 明日菜にしてもイマイチどころかイマニの腕前であるが、彼女の使うアーティファクトの能力は凄まじいものがある。特に式に対してはかなり期待が持てるようだ。

 

 

 人気の無い場所を選びつつ、ホテルの廊下を足音を潜めて移動する刹那と明日菜。

 

 新田ら教師の見回りの後を付ける形で、外敵から友人を護る為という“真の意味”での見回りを行っていたのである。

 

 ホテルの周囲を気配を伺い、

 内外の出入りによる結界の“緩み”が起きないよう確認し、

 その万一、その結界符が解かれる事があれば式が伝えるように設定を行う。

 

 彼女らの出来る範囲での防衛策は全て講じていた。

 

 

 それでも——

 

 ぎちり……と、昨夜の誘拐犯の不埒な行いを思い出し、愛刀“夕凪”を握る刹那の手に力が篭った。

 

 

 木乃香に何も起きない——それこそが刹那の願いである。

 

 今度こそ木乃香を守り抜いてみせる——それが刹那の誓いである。

 

 

 だからこそ一人物陰から彼女を見守り続け、学園に掛かるモノ達から守り続けていたのだ。

 

 

 しかしここに来て、

 この京都に入ってから、刹那の心境に変化が訪れていた。

 

 頑なだった彼女が、別の人間を頼りにしだしたのである。

 

 麻帆良において一緒に仕事をしている真名も、その力を“当て”にはしていたが“頼り”にはしていなかった。

 

 彼女は過去において“同族”や心無い者達から白眼視されてきている。それが彼女を頑なにしていたのだろう。

 

 だが、子供らしく真っ直ぐなネギや、これまた真っ直ぐな明日菜という理解者——友達を得て、彼女の心に明らかな変化が訪れていた。

 

 だからこそ、明日菜やネギと会話している中で笑顔が見えるようになってきているのだろう。

 

 明日菜はその事に気付いてはいたが、あえて口にするような愚行は犯さなかった。

 “意地っ張りの友人”が一人いるお陰で、明日菜は刹那のその変化を促す為に口にしていないのである。

 

 

 前を行く刹那の背を見ながら、彼女のその変化によって木乃香との仲を取り戻せるよう願わずにはいられない明日菜であった。

 

 

 

 

 「……それにしてもカモ君は何を書いてたんでしょうか?」

 

 「知らないわよ。あんなエロオコジョ」

 

 

 

 

 

 

          ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 

 『ククク……細工は流々……仕上げを御覧じろってな……』

 

 

 夜の闇に紛れ……られるはずもない、白い物体がごそごそと蠢いていた。

 

 その口元はいやらしく歪み、

 その目は欲望に輝いている。

 

 有体な言葉で綴るならば悪党。

 様子から鑑みても悪事を行っている者である。

 

 その白い物体はナマモノで、自称“妖精”なのだろそうだ。

 

 とても信じられない話であるが、契約を司っているオコジョ妖精が彼の正体……なのだろう。多分。

 

 

 彼の名はアルベール=カモミール。

 ネギを兄貴と慕うオコジョである。

 

 彼は今、ホテルの周囲に怪しげ且つ素早い動作で奇妙な魔法陣を描きまくっていた。

 

 その数四つ。

 嵐山ホテルを中心にして大きな結界陣を描き、それを基点として四方に小型の——とは言っても、かなりのサイズがある——魔法陣で抑えている。

 

 ナニをどーみても碌なモンじゃないようだが、これでも一応はネギを思えばこその行為。

 

 これが成功すれば、ネギの戦力が増し、少女らの安全度が上がる。

 そう得心しての事だ。

 

 

 だから決して私心は無い——

 

 

 『カード一枚につき五万オコジョ$……

  全員なら……百万長者だぜ!! ウィ〜ハハハァ!!』

 

 

 と思う………

 

 

 眼を$に変え、涎すら垂らしつつ方陣を書きまくってるカモ。

 眼前に広がるのは夢のパラダイス。

 

 女の子の下着が好きであり、エロオコジョという栄冠持ちでもある彼は、正しく競馬等のギャンブルで獲らぬタヌキの皮算用をするオッサンそのものだった。

 

 最後の紋様が書き終わり、よしっとガッツポーズ(?)を極めるカモ。

 

 そんなカモの首根っこを、

 

 

 ひょい……

 

 『……あ?』

 

 

 何者か摘んで持ち上げた。

 

 

 『や、やいやいやいっ!! ナニしやがんでぃ!!

  オレっちは猫じゃねーぞ!?』

 

 

 猫の正式な持ち方は首根っこではない。

 

 ——なんて事はどうでも良いが、カモがそうベランメェ口調で啖呵を切り、摘み上げた者のツラを拝もうと身を捩ると、

 

 

 「あ゛〜〜? イタチが喋てるアルよ〜〜?」

 

 「はっはっは〜〜 くぅよ〜〜 この御仁はオコジョでごじゃるよ〜〜?」

 

 

 

 二匹のヨッパライがそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 古の様子を見、とりあえずはと話を聞いていた楓であったが、その内容を知るに連れて段々と雰囲気がおかしくなっていった。

 

 ハッキリ言って横島の語っていた内容とかなり違う。というか、完全に見当違いなのだ。

 確かに最初は木乃香に対して上手い慰めが思い浮かばなかった事で悩んではいたのであるが、それは横島が自分を経験を踏まえた話を彼女にしてやるまでの事。

 

 そんな話をしただけで解決するほど簡単な事ではなかろうが、それはそれで木乃香の為にはなった筈だ。

 

 しかし問題は、その横島が例え話に使った彼の過去の事である。

 

 

 ——本当に大切なモノは無くしてから気付いてしまう——

 

 

 その彼が語ったと言う言葉は楓の胸にズシリと圧し掛かっていた。

 

 彼女は既に両親が健在である事は聞いている。

 というか、あの二人が老衰以外で死ぬとは思えない——そう彼は語っていた。

 

 すると、彼の友人か近しい者という事になるのだが……

 

 

 古はその相手が恋人だったのだろうと予測していた。

 

 単に彼女の勘であり、当てずっぽうなのであるが、どういう訳だか楓もそうなのだろうと確信している。

 古同様に女の勘がそう言っているのだ。

 

 そして古から言われた事と、自分が前から抱えている疑問から彼の性質である“女に対して攻撃ができない”理由がおぼろげではあるが解かった気がしたのである。

 

 

 奇しくも古と楓は同じ事を考えていた。

 

 彼の胸の中にはまだその相手が生きており、いなくなった後もずっと引き摺っているのではないか……と。

 

 

 悲しみに似た奇妙な落ち込みを憶えつつ、しばらく二人して池に映る月を無言で眺めていたのであるが、

 

 

 「ん……」

 

 「忝い……」

 

 

 楓からステンレスの水筒を返してもらい、彼女が手に持ったままのフタに液体を注ぎ入れる古。そして礼を言って呷る楓。

 

 元々甘党で、飲酒の経験が無い所為だろうか、その液体は妙に辛くそして苦く感じた。

 それでも楓は二杯、三杯と立続けに呷り、古にも返杯して飲み続ける。

 

 やがて水筒が空になる頃には、

 

 

 

 

 「あ゛〜〜……月がふたちゅあるでごじゃるよ〜〜」

 

 「ナニ言てるアルか〜〜? 前からアルね〜〜〜」

 

 

 

 

 リッパなヨッパライが出来上がっていた。

 

 

 

 

 『ひぃ〜〜っ!! 姐さん達、勘弁してくだせぇっ!!』

 

 

 そんな二人に絡まれたらカモも堪ったもんじゃない。

 

 何せ酔って頭のネジが四,五本飛んではいても武道四天王の二人である。

 初来日時に明日菜の風呂桶攻撃を受けつつも彼女の胸ボタンを外したカモとはいえ、その手を掻い潜って逃げるのは不可能に近かった。つーか、ぶっちゃけ無理だ。

 何せ首根っこ捕まれていので身を捩る事しかできないのだから。

 

 

 『く……こ、こうなったら……』

 

 

 後が怖いのでしたくはなかったが、首の皮を限界まで伸ばして身体を捻り、自分を掴み上げている古の手に噛み付いて脱出を試みようとする。

 

 が……

 

 

 がぎっ

 

 『ふぎゃっ!? な、なんでこんなに硬ぇんだ?!』

 

 「あはは〜〜 甘いアルよ〜〜〜」

 

 

 何と古、ちゃっかり硬氣功で防護してたりする。

 

 

 「う〜〜む……古〜〜……こーゆー小動物はどんな料理がいいでごじゃるか〜〜?」

 

 「ん〜〜? そ〜〜アルね〜〜〜……サンドイッチ〜〜?」

 

 『姐さんはドコの巨人ハーフっスか?! お助け〜〜〜〜っ!!!』

 

 

 二人の少女の肌は酒の所為か薄赤く染まっており、頬もピンクになっている。

 

 胸元が大きく開き、かなりギリギリでまずい楓もそうであるが、

 浴衣もだらしなく着崩し、バストサイズは兎も角、プロポーションのバランスがいい古も普段以上に色っぽさを見せていた。

 

 普段のカモならばムハ〜とか、ウホ〜とかいって喜びそうなものであるが、今の状況はそれどころではない。

 酒のツマミ宜しく、美味しく食べられてしまいそうなのだから生存本能の方が何より勝っていた。

 

 

 「あはは〜〜 冗談はこれくらいにしとくでござる」

 

 『じ、冗談だったっスか!? な、何か眼がマジだったっスけど……』

 

 「ホントに調理するアルよ〜〜?」

 

 『ひぃっっ!! ご勘弁!!』

 

 

 二人とも体力バカであり、特に楓は忍の修行もあってか毒物に対する抵抗力が異様に高い。

 だから意識的に酔おうとしない限りそうそう酔いが長続きしないのである。

 

 まぁ、それでも脳に酒が回っているのだから頭のネジが飛んでいる事には変わりは無いのだが。

 

 

 「それで、カモ殿は何をしてたでござるか〜?」

 

 『あ、いや、その……って、あっしが何モンか知ってんですかい?!』

 

 「ははは……ネギボウズの使い魔みたいなモノでござろう?」

 

 『ま、まぁ……使い魔とは違うんスけど……』

 

 

 彼からすれば相棒であり、マネージャーのつもりである。

 腐っても妖精のつもりであるから、使い魔と言われるのはちょっと抵抗があるのだ。

 一応、麻帆良には使い魔として登録してはいるが(その方が身元がハッキリするから)。

 

 

 「で……? この法陣は何でござるか?」

 

 『え? あ、ああ……これは仮契約の魔法陣でして』

 

 

 意外にあっさりと吐いてしまうカモ。

 

 まぁ、正直に言わないと血抜きして唐揚げにするアルよ〜? というオーラを放たれては口もすべらかになるというものだろう。

 

 だから今回の裏の計画も、言わんでもいいのにウッカリと二人にぶっちゃけてしまっていた。

 

 

 「ほほぅ……つまり、修学旅行のゲームイベントとして皆にネギボウズにキスをさせ……」

 

 「このヘンなカードを大量に作るつもりだたアルか〜?」

 

 『ヘンなカードじゃねぇって!!

  ちゃんとしたマジックアイテムなんですぜ?!』

 

 

 カモが取り出した三枚のカード。

 一枚は明日菜が大きな剣を持った綺麗なカードなのだが、後の二枚はデフォルメされた目つきの悪い明日菜が『ギタギタよ』と言ってたり、やたら間がヌケた顔の木乃香が『ほわ〜』と言ってたりしているデザインで、まるで落書きのよう。

 

 だが、このカードこそがネギとの仮契約の証であり、彼との繋がりを意味するパクティオーカードなのである。

 

 因みに二枚の落書きのようなカードはスカカードといい、ちゃんと仮契約を行えなかったカードという事らしい。

 

 

 「ふーむ……つまり、このカードは術者と従者とを繋げているのでござるか……」

 

 『そう!!

  つまりこのカードを使えば兄貴から魔力を借りてパワーアップができ、

  更に専用のマジックアイテムを呼び出す事も出来るんスよ!!

  因みに兄貴の呼びかけに応じて呼び出す事も可能な優れものなんでさ!!

  という訳で、どーっスか? 姐さんらもここは一つ……』

 

 「いや、パワーアップとかはぶっちゃけどうでもいいでござるが」

 「そーアルなー」

 

 

 ガガーンっとショックを受けるカモ。

 

 楓も古も武闘派であり、己を高めてゆく事に喜びを見出すタイプである。

 だから、他の力に縋るようなパワーアップには余り興味が無いのだ。

 

 しかし、そんな事よりかなり興味深い事がそこにはあった。

 

 

 「ふむ……という事はこれは術者と従者……

  言うなればパートナー同士との結び付きを強める事ができるでござるな?」

 

 『……へ? あ、いや、まぁ、それはそーなんだが………』

 

 

 幾分酔いが覚めたのか、古も楓が何を聞こうとしているのか解かっていた。

 

 その眼差しを受け、楓も無表情のままではあるがコクリと頷く。

 

 

 「……時にカモ殿。実は拙者らに提案があるのでござるが……」

 

 『……何スか?

  あっ、もしかして兄貴と仮契約を「くだらん事言たら、蒸篭で蒸し焼きにするアルよ?」……ナンデゴザイマショウカ?』

 

 

 ひょっとしたらネギと仮契約をしてくれるのではと期待したのであるが、背後から立ち昇る殺気(いや“食”気?)によって口が塞がれる。

 恐怖によって彼はカクカクとしたロボと化してしまうが、二人とも全く意に返さなかった。

 

 それより何より、何だか気配がヘンだ。

 

 意気込みというか何とゆーか……背後にミョ〜な炎が見える気がしないでも無い。

 

 

 『え、ええ〜〜と……』

 

 

 カモは何だかとんでもなく嫌な予感をヒシヒシと感じている。

 ああ、兄貴があの真祖の吸血鬼と闘う時もこんな不安を……いや、もっと何かメンドーな事が起こるような……

 

 等と思い悩んでも後の祭り。

 二人に捕まった時点で選択肢は異様に狭いのだから。

 

 

 曰く——

 

 −食べられる(DEAD)(or)言うこと聞く(LIVE)

 

 

 なのだ。

 

 

 「いや何……簡単な事でござるよ……」

 

 

 カモの背後にいる古に目配せをし、二人して何やら頷き合っていた。

 

 

 

 月明りを逆光にし、ニヤリと口元だけを歪ませて見せていた楓は、まるで吸血鬼のようだったと後にカモは語ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 そして………

 

 

 

 

 

 

 「修学旅行特別企画!!

 

 

  『くちびる争奪!!

 

   修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦』〜〜〜〜〜〜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ——その夜、ナニかが起ころうとしていた。

 

 

 




 注意 <お酒は二十歳になってから> 超☆今更ですが。

 かのこ は最初出すつもりだった使い魔で、断念した理由は…忘れましたw
 馬鹿だから馬か鹿。
 流石に逆さ読みでカバを使い魔にする訳には……と悩んだ事だけ覚えてします。

 因みにサクランボを食べているのは、ケルト神話から。
 主食…という訳ではありませんが、かのこは果物が大好きです。

 サイズは、だっこして運べる程度です。
 彼の使い魔になった事で、不条理なパワーアップをする事間違いなし。
 あ、だから削ったのかな?
 兎も角、中編に続きます。
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