-Ruin-   作:Croissant

52 / 77
 今回、ネギは原作通り筋肉痛で休息中ですw



二十時間目:ガッコウの会談
本編


 

 

 昨日の午後から降り出した雨は、夜半頃に大雨となって唐突に止んだ。

 

 その所為もあってか、雨が降った事などウソだったかのように翌日の空は晴れ渡っている。

 空気中のゴミが洗い流されたからか、空気も澄んでいてとても清々しい。

 

 

 そんな爽やかな朝であるが、その天気とは裏腹に麻帆良学園の裏側はとんでもない荒れ模様。かなり混乱を見せていた。

 というのも、何とその雨に紛れてここに上級悪魔が侵入を果たしていたからである。

 

 流石に警備部やシステム関係者は焦った焦った。

 昨夜報告が入ってから総員が呼び出されており、夜なべでシステムの総チェックを強いられ、今もそれは続けられている。

 

 信じ難い事に、侵入して来た悪魔は伯爵クラス。文句無しに上級悪魔だった。

 おまけにそれを降したのは、正しい魔法使いを目指して修行中のひよっこ魔法使いと言うのだ。

 そのお陰でシステム関係者や、警備部の者は事件の狂言説まで唱える者まで出たらしい。

 

 が、困った事に証人がいる。

 

 まずは実際に戦ったネギ=スプリングフィールド。

 更に警備班に所属している横島忠夫。

 そしてヘルマン伯爵と共に進入してきた当の魔族、三体(、、)のスライム達である。

 それらが証人となり、更にスライムらに魔法まで使って証言の裏を取って調べた結果、それが事実である事を思い知らされてしまったのだ。

 

 お陰で今日も、警備部とシステム関係者は眠れぬ夜を過ごす事だろう。

 

 

 「ふぅ……」

 

 

 ヤレヤレと溜息を吐きつつ、学園長は手に持っていた書類をマホガニーの机に放り出した。

 

 そんな彼の投げやりな仕種を見、急遽とんぼ返りさせられてこれまた徹夜で調査させられていた高畑は苦笑を漏らす。

 まぁ、その調書を読めばそうもなろうが。

 

 因みに提出者は……

 

 

 「……けっこう痛いトコを突かれておるのぉ」

 

 「しかし今回の件で文句を書かれるのも当然だと思いますよ?」

 

 「まぁ、の……」

 

 

 ――横島忠夫である。

 

 事件に思いっきり関わった上、少女ら救出に尽力し、解決に導きはしたが何故か人質だった少女(+1)に半殺しにされた彼。

 それでもちゃっかり復活を遂げ、しっかりと学園側に報告を行った上、キチンと調書を書いて提出している。流石の体力と言うか、無駄に律儀と言うか。

 いやそれでも提出があまりにも早すぎるのだが……そこは気にしていない。

 

 とっとと種明かしをすると、それらはエヴァの別荘で書かれた物で、彼らからすれば感覚的に二,三日後の話。そりゃ詳しく調書も出来上がるだろう。

 老いの加速は勘弁してほしいが書類等を仕上げるのにぜひ貸してほしい環境じゃの。等と近衛もぼやいていたり。

 

 

 「しかし……京都の事件との繋がりを指摘。

  証拠として、明日菜君が魔法無効化能力を持っている事を確信して準備を整えていた事、

  事件で関わった者をピンポイントで狙っていた事、

  刹那君を誘拐する手段から、誰がどう繋がりを持っているか知っているであろう事、

  そして……」

 

 

 京都の事件の折、唐突に関わってきた“怪人物”と関東魔法協会との繋がりの調査も命令に入っている事が挙げらている。

 それらはあの事件の只中にいなければ解らなかった事だった。

 それに関東と関西、両陣営が総力を挙げて追い続けているというのに、未だフェイトとやらの足取りが不明な事から、おそらく両陣営に内通者かそれに近しい存在がいる可能性等が書かれていた。

 

 ついでにヘルマンとやらが侵入した手段として、水系スライムである彼女らを雨に紛れ込ませ(雨そのものがヘルマンの仕業である節があった。実際、彼が倒されて直に雲が晴れて止んでいる)て、それを基点にして転移した……という可能性まで書かれている。

 

 

 「やっぱり凄いですね。本職は……」

 

 「まぁ、まがりなりにも妖怪や魔族と戦う専門家らしいしの」

 

 

 普段のボケを目にしていればとても信じられない話であるが、横島は悪魔や妖怪、幻獣やら死霊怨霊を相手に戦い続ける職業……こちらの世界で言う退魔師だ。それも第一線で活躍していたエキスパートといえる男である。

 その上、“こちら”と“向こう”との差異が彼の能力的価値を更に高めていた。

 

 その差異。似ているようで圧倒的に違う点。それは対悪魔戦である。

 

 横島のいた世界にも確かにこちらのような退魔師もいないでもなかったが、オカルト専門職であるGSは国家試験のある資格職であるし、エクソシストも表立ったビジネスとして知られている。

 当然、そんな仕事が表立っているのだから中級以上の悪魔との戦いはかなり少ないがゼロではないし、下級ならそれこそ頻繁と言ってよいほどポンポン起こったりするらしい。

 

 戦っていた妖怪にしても猫又や半魚人等は可愛い方で、こちらで言うところの昔話や伝奇クラスの大妖怪と戦り合った事もあるそうな。

 そんな世界の第一線で戦い続けていたからだろう、横島は思考は非常に柔軟だった。

 

 何せ相手は上級悪魔。

 どんな反則をされるか解った物ではない。そんなのを相手にしているのだから柔軟な思考無しに生存は不可能だっただろう。お陰で常識を飛び越えた説がポンポン浮かんでくるのである。

 

 よってこのレポートも、考え過ぎレベルから現状で一番考え得る可能性までがつらつらと書き示されているのだ。

 その殆どが近衛のような上の者(、、、)や、見る人が見れば的を射ているモノばかりなのだから始末が悪い。

 

 

 だから、

 

 

 「内通者がいるという可能性を否定できんのが辛いの」

 

 「確かに……」

 

 

 そう二人して苦い顔をする他なかった。

 何せそうでなければ修学旅行に出る新幹線に乗り合わせる事など出来るはずもないし、ヘルマン侵入のタイミングの良さが説明できないのである。

 

 とはいえ調査は難しい。

 内通者とはいっても無自覚……つまり、魔法に無関係の人間が意識を操られているかもしれないし、小動物等を使い魔化(或いは式神化)して様子を伺っている可能性もあるのだ。

 

 

 「厄介じゃの。それにやはり手が足りん」

 

 「かと言って追跡調査を休む訳にはいきませんけどね」

 

 

 実のところ、この“学園長用”に提出された報告書は大っぴらに出来ない代物なのである。

 何せ今存在してはいけない『魔法無効化能力者』の事柄が書かれている。

 あの時の事(、、、、、)を知る者なら兎も角、知らない者にそんないるはずが無い(、、、、、、、)人間(、、)の件を洩らす訳にはいかないのだ。

 

 しかしこのレポート。様々な穴を埋めてくれるのはありがたいが、そのお陰で頭の痛い事柄まで見せられてしまうのは如何なものか。まぁ、確かに助かりはするのだが。

 兎も角、まだまともに手が進んでいない事をグダグダ言い続けていても仕方がない。

 一応、スライム達が持っていた情報から照らし合わせて関連情報から逆調査を進めるので答は出るだろう。

 

 だからその件はこれでいいとして、

 

 

 「次の件は……そのスライム達じゃの」

 

 「ええ」

 

 

 瓶を使われる事なく捕らえられたスライム達であるが、現段階の情報は彼女らから与えられたもので、人間で言うところの司法取引が行われた形となっている。

 

 無論、召喚された存在である彼女らがペラペラ喋られる訳がないのであるが、そこはそれ、エヴァ(と横島)が一時的に契約を無効化して色々と話を聞き出していた。

 彼女らがナニをやったか不明であるが、

 

 

 『ふふん 解らんのか?

  教えてやる義理は無いな。自分で調べろ』

 

 

 等と教える気ナッシングである。

 まぁ、おかげさまで最深度の調書が取れたのだからそれは由とした。どうせ悪用はすまい。多分……

 

 しかしそれは良いとしても、いくら召喚された身であっても彼女らがネギの村を襲ったのは事実であり、壷に封じられていたというのに再び外界に出て誘拐という罪を犯しているのもまた事実。

 実際、一部からは重い処分を求める声も出ていたのであるが、減刑を嘆願してくる者がいたのでやや話が変わってきていた。

 その人物達こそ誰あろう、ターゲットとして狙われていたネギ=スプリングフィールドと攫われた被害者であるはずの少女らだ。

 

 何ともお人よしな話であるが、ぶっちゃけてしまえば命令で誘拐をやらされた存在であるし、彼女らの弁なくして一人の少女の命は救えなかったのもまた事実。

 それはその命を救われたと言う少女の口からも告げられているし、陰ながら(?)事件解決に尽力した横島からもそういう報告が入っている。

 

 一を見て全を怨むは愚の極み。

 その事は近衛も高畑も前の大戦で思い知っている。

 

 存在が悪なのではなく、彼女らを召喚して悪事に利用した者が悪なのだ。その事実を履き違えてはならない。

 刑を軽くし過ぎる事は出来ないが、それなりのレベルに減刑する事は出来る。

 よって皆の声も無視する事も出来ない近衛は、自分らの過去の浅はかさを戒める意味も持たせてスライム達を再び瓶に封じる事で妥協したのである。

 

 

 「ま、ほとぼりが冷めたら何らかの理由を持たせて解封すれば良いしの」

 

 「横島君が言うようにエヴァと契約させれば良い訳ですし」

 

 

 今、自由に出来ないのは契約対象がハッキリしないからだ。

 それがハッキリすれば手がないでもないし、何だかよく解らないが横島が何とかする(、、、、、)との事。

 

 その後は水属性に比較的近い氷属性の魔力を持っているエヴァが主となってやる事が妥当だろう。

 学園の結界と直結しているエヴァはセンサー役も担っているし、そこに諜報能力もあり防御能力もあるスライムが加われば万全の体制が整えられる。まぁ、エヴァがずっとここにいてくれるというのが前提の話であるが……

 

 それはそれで一部の者達が騒ぎ出すだろうが、近衛はなぁなぁの内にやってしまう腹のようだ。

 真面目な魔法先生……強いて挙げればガンドル先生とかに『アンタって人は——っっ!!!』等と怒られている未来を幻視し、高畑は肩を竦めた。高畑も内心は賛成であるし。

 

 

 「で、次は……」

 

 

 しかし話が、

 

 

 「はい、ナナ君の件です」

 

 

 捕獲……というか“保護”した少女、ナナの件に入った途端、高畑の表情があからさまに硬くなった。

 

 その変化に気付きつつも、近衛は黙って彼が差し出した調書を受け取り、ペラペラと紙を捲ってゆく。

 ——と、温和な近衛近右衛門の表情が珍しく引き締まり、針のように細められた眼差しが高畑を射抜いた。

 

 

 「……これは真の話かの?」

 

 

 静かな声であるが、有無を言わさぬ鋭さがそこにある。

 

 流石は関東で最強と謳われている魔法使い。老いたとはいえ迫力に揺らぎはない。

 

 

 しかし高畑もそれと知られている実力者。そんな刃のような視線をまともに受け取り、ハッキリとした口調で彼の問いに答えた。

 

 

 

 

 「ハイ。彼女の正式名称は『7番型流体銀』。

 

  彼女はこちらの世界に逃亡していた<完全なる世界>の残党によって生み出された改造人間……

 

  つまり、元は人間の少女です」

 

 

 

 

 

 

——————————————————————————————————————

 

 

 

               ■二十時間目:ガッコウの会談

 

 

 

——————————————————————————————————————

 

 

 

 

 

 あの戦いの後片付けは然程の混乱もなく、秘密裏のまま終了させる事に成功していた。

 

 被害と言えば女子中等部の寮のドアと別の部屋(木乃香らの部屋)の窓、それと大学部が作ったコンサート会場くらい。

 実のところ目に見える物理被害はこれだけだった。

 

 ハッキリ言ってしまえば上級悪魔に侵入を許してしまったという事実の方がよっぽど難解だ。何せそれは、麻帆良の魔法防御に重大な欠陥がある可能性を持っているのだから。

 よって今も穴の調査が続けられており、関係者の頭を悩ませている。

 

 そして、それとは逆にそんな悪魔を退けている幼き魔法使いネギの評価はかなり高まっていた。

 

 言うまでも無いがヘルマンの侵入目的は麻帆良の調査とネギの無力化。ぶっちゃければネギの所為で侵入してきたと言えなくもない。

 当のネギもしょーもないところでネガティヴなものだから、それを悔んでいたりするし。

 

 だが人間は得てして耳障りの良い話の方を聞いたり話したりしてしまうもの。

 お陰で僅か一日という呆れた速さで魔法関係者の間で『流石はサウザンドマスターを次ぐ者』という祭り言葉が広がって称えられていたりする。

 

 

 さて——

 そんな周囲の目は兎も角、悪魔によって否応なく問答無用で関わらされた少女らであるが……流石に魔物に襲われた直後なので部屋に直帰させる訳にも行かず、仕方なく横島はエヴァの別荘にとんぼ返りさせた。

 

 ネギにしても魔力を暴走させたのだから身体に掛かった負担は半端でなく、筋肉痛にも似た肉体疲労を身体に残しているのだから妥当と言える。

 

 

 ただ、小太郎は一人部屋で待ち続けている夏美を安心させる為、気を失ったままの千鶴を連れて部屋に戻らせている。

 

 とっとと眠らされたあやかや、意識を奪われ攫われた千鶴は兎も角、夏美はヘルマンの暴挙どころか魔法らしき物(水を使った転移)を目にしてしまっている。

 あやかは兎も角、横島の指示によって意識を失ったままでよく解っていないだろう千鶴に裏を話すのか、そして夏美にはどの程度の裏を話す必要があるか、等の詳しい話はまた後日。

 心配しているだろう少女を落ち着かせるのが先だと言う横島の判断だ。

 こういうトコは本当に気がつく男である。

 

 

 意外にもエヴァにとっては迷惑な話である筈なのだが、想像とは違いあっさりと了承して皆を迎え入れ、浴場で身体を温めさせてやった上、着替えと寝室を利用させてくれていた。

 無論、ネギを魔力が回復しやすい部屋で休ませ、スライム達は凍結封印で動きを封じる事も忘れていない。流石である。

 その間に一番謎の存在だったナナから話を聞く事にしたのであるが、魔法使いに対してもっている恐怖感からか異様に怯えているので、何だか一番死に掛けていた筈の横島を部屋に引っ張り込んで彼女を慰めさせていたりする。

 

 だがそのお陰で、

 

 

 「ふん……私の命に背き 珠を使用した仕置きをしてやろうと思ってたんだがな……」

 

 「おおぅ……」

 

 

 何と彼は仕置きを免れていた!!

 

 当然彼はナナに感謝感激。身体を縮こまらせて特大のグミキャンディ状態になって怯えていた彼女をぎゅっと抱きしめて涙ながらに礼を述べていたという。

 何とも情けない話であるが、誰だって死刑だか拷問だか判断できないお仕置きは勘弁してほしいのだ。感謝の念も出ようというもの。

 しかし何が幸いするか解った物ではなく、感謝感激雨あられの横島の霊波動をモロに受けたナナはかなり落ち着いてきており、彼が抱っこしていればそれなりの返答ができるほどにまでなっていた。

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ〜ん……へぇ〜……」

 

 

 メモとレコーダーを手にしてイロイロ聞き出す気満々の和美であったが、そんな横島に質問したりせずしばし生温かく見守っていた。

 

 

 「あ゛っ あ゛っ まるで汚物を見るような眼差しがイタイ!!」

 

 「そんな事ないよ〜? 仲良き事は美しきかなって思ってるだけ〜」

 

 「ホンマか? ホンマやな?」

 

 「うんうん。ホンマホンマ。

  仮にも私はジャーナリストだよ? みょーな先入観持ったりしないわ。

  だから横島さんがロリでもペドでも差別したりしないよ?」

 

 「信じてへんやんけ!! アホ———っっ!!!」

 

 

 何ともからかい甲斐のある男である。

 

 二人のいる場所は世界樹近くにあるオープンテラス。

 今は事件の次の日の放課後だ。

 

 世界樹がことさら大きく見えるここはけっこうスポット。

 しかし、今日は珍しく人が少なかったのでここの席に落ち着いていた。

 

 あんな事件に巻き込まれはしたが、彼女とて既に京都で不思議事件に関わらされているし、元より麻帆良の人間はどこか図太い。

 エヴァの別荘で二,三日も過ごしていれば落ち着くと言うものだ。

 

 和美もそんな太い神経持ちの一人であるが、落ち着きを取り戻した彼女が起こした行動は、横島忠夫への突撃インタビューだった。

 

 何せ彼への対応はかなりデリケートである。

 色仕掛けには弱そうだが、下手に行って成功なんかすれば横島のゲシュタルトが崩壊して色々とイタイし、100%中の100%で貞操の危機だ。

 それだけならまだしも(!?)、正気を失った黒い三人娘にナニされるか解ったもんじゃない。

 

 だから先にその剥き出しの雷管のような三人を説得し(結構疲れた)、許可をもらって(ぶっちゃけありえない事を危険視されていたが)どうにかこうにかインタビューテーブルに着けたのである。

 

 

 『あ、あうあう……お、落ち着いてくださいレス』

 

 「ふ。ナニを言うかと思えば……オレは落ち着いてるぞ?

  火事が起こった弾薬庫みたいに深く静かに落ち着き払っているぞ」

 

 『そ、そーなんレスか?』

 

 「いや、それ大騒動だから。むっちゃ慌てふためいてるから」

 

 さて、本来なら(、、、、)そんなド渦中の人である青年、横島であるが、この日は特別に仕事を休みにしてもらい、何時もの普段着姿(Tシャツにジーンズ。バッシュにジージャン)というデフォルトの格好でここに来ていた。

 その隣の椅子にはちょこんと何時も側に付いている白小鹿。

 普通、椅子の上に動物を乗せたりしたら文句の一つくらい言われそうなものであるが、そのペタン座り込んだ姿はかなり微笑ましく、様子を見に来たウェイトレスとかに眼差しを向けて首を傾げてぴぃと鳴いたりするものだから何とも愛らしい。

 そのお陰か黙認されてたりする。ちょっち横島がしっとしたのはナイショだ。

 

 そしてそんな彼の膝の上には丸まった猫ぐらいのサイズの銀色のグミがあった。

 彼が慌てたりする度にぷるぷる震えて言葉を発し、何かを問いかけるとやっぱりぷるぷる震えて言葉を返してくる。

 ドコをどー見ても怪しさ大爆発のブツであるが、学園都市に掛かっている不思議現象を気にしなくなる認識阻害と、横島の醸し出す雰囲気がその不可思議さをぼかしていた。

 

 

 そう、膝の上にいるのはグミ形態をとったナナである。

 

 

 姉であるスライムらの判決はやっぱり例の瓶に無期封印。ナナの心は如何ばかりだ。

 その姉達のはげましや、横島の労わり、その瓶はエヴァが所持し、折を見て封印を解いて自分の使い魔にすると言ってくれたので、かなり泣きはしたが一応は裁定を受け入れる事が出来ていた。

 

 まぁ、エヴァも、

 

 

 『案ずるな。

  <正しい魔法使い>とやらは兎も角、“悪の魔法使い”であり“真祖の吸血鬼”である私は約束を違えたりせん。

 

  それに、そこのバカが、しくしく泣くお前を見捨てられるものか。

  事によっては魔法界全土に喧嘩売ってでも約束を守ろうとするだろうさ』

 

 

 等と言って安心させていたりするし。

 ……みょーに正しい魔法使いに対する悪印象を混ぜているので、案外、自分の手駒を増やそうという思惑があるのかもしれないが……

 

 まぁ、それは兎も角(いいとして)

 ネギとエヴァ、そして当の横島の尽力もあって、ナナの処遇は又しても横島与り(預かり?)となっている。

 精霊に続いて銀スライムを預かるところは彼らしいというか何というか……

 

 しかしまぁ、それもしょうがない話。

 何せナナは元々魔法使いをかなり怖がっているのだから。

 

 よって魔法使い側が保護するのは不可能であり、氣も弾いてしまうので呪術者側もちょっとナニだ(そもそもココにはそんなにいない)。

 そんな訳で魔法使いではなく、ちょーのーりょくしゃ(、、、、、、、、、、)である横島が適任だったのである。

 

 

 それに——

 

 

 「ホント、ナナちゃん懐いてるわね〜」

 

 「つーか、女の子虐める趣味はないわい」

 

 「鳴かせる事はあっても?」

 

 「うんそう……って、ヲイっっ!!??」

 

 『ふぇ? 私、泣かされちゃうレスか!?』

 「ぴぃ?!」

 

 「お前ら違うから!! 意味違うからっ!!

  コラ、お前も笑ってないで説明しろ!!」

 

 「へぇ、いいの? この娘に意味教えて。

  らめぇ……とかのセリフの意味」

 

 「モウシワケアリマセン。カンベンシテツカーサイ」

 

 

 余りと言えば余りにも彼は普通だった。

 

 何しろ精霊の集合体である かのこですら御座敷鹿なのだ。

 そんな彼が今更、モンスターだとか、改造人間だとか知ったところで どー接し方を変えると言うのか。

 

 ナナに対して距離云々以前に心の垣根を全く持たず、完全に単なる女の子として接しているのである。

 尤も、彼から言えばそれは当然で当たり前で常識常識(中略)常識であるし、それができないという人間の正気を疑うほど。

 

 生れ云々なんぞどーだっていい話。

 

 種族やカタチの違いどうあれカワイイ女の子なら女の子であるし、ストライクゾーンの美女美少女なら当然口説く。

 そんな娘に頼まれればイヤとは言えず、懐かれれば拒絶できず、泣かれれば大慌てするヘタレっぷり。

 それが常であり、種族もクソもない変わりのない女性への対応。

 彼からすれば相手と自分との間に妙な偏見を持つ方がどうかしているのだ。

 

 悪の魔物とは心の質の事であり、生れや異質の外見等は全く関係しない。

 人間だって魔を超える悪意を持つし、魔と呼ばれるものでも人を超える慈愛を持つ。

 

 その事を誰よりも理解している彼なのだから、身をもって理解している彼なのだから、

 

 そんな彼なのだから“それ”が当たり前なのである。

 

 

 和美はそんな彼とナナ達とのやり取りを目の当たりにし、

 

 

 ——こういうトコ見たら、あの三人の気持ちも解らなくもないんだよね〜

 

 

 等と納得させられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「元はれっきとした人間の少女で、製作目的の素体として丁度良かったので攫われて改造された……か」

 

 「ハイ……“彼女”とは別の独立した記憶媒体があって、その中にその“記録”があったそうです」

 

 

 エヴァと横島。二人がかりで調べた結果、ナナの中に彼女が自力では殆ど見る事ができない独立した記憶媒体が見付かった。

 その本人の記憶とは違う記憶媒体こそ、成功していた場合の彼女……いや、『7番型流体銀』になるはずだったモノの残骸。

 彼女を改造した人物がナナを失敗と称したのは、その記憶媒体の方を起動する事が出来なかったかららしい。

 

 エヴァによると、元々ナナの魔法使いとして素質が半端ではなく、特に精神系に特化していた可能性があるという。

 そのお陰でおそらく無意識にであろう、彼女は水銀状ゴーレムのシステムを乗っ取って今の“ナナ”になったのだろう……との事。

 

 ただ、流石に本来の自我になるはずだった独立した記憶媒体を掌握できていなかったので、そこに無意識に見聞きした事が残っていたようだ。

 奇跡と言うか、不幸中の幸いと言うか、そのお陰で彼女の出生の秘密等を知る事ができた訳であるが……

 

 

 ——言うまでも無いが、横島は激怒した。

 

 

 彼は生まれた彼女を否定するような事はしない。

 

 生れた事には何らかの意味があり、出会った事にも何かの意味があるとさえ思っている。

 そんな彼だから、ナナを否定するような愚考は犯さないし、考えも及ばない。

 奇跡のような出会いを……今までで一番忘れ難い大切な出会いを経験している彼だから当然だ。

 

 しかし、だからと言って目的の為に一人の少女を捕らえて改造したという愚挙を許すほど腐れてもいない。

 

 

 だから激怒した。

 深く、静かに、冷ややかに、激しく、冷酷に、感情を煮え滾らせ、極寒の心を剥き出しにして——

 

 

 それはエヴァが感心し、零が口笛を吹くほどだったらしい。

 

 『ククク……お前にも見せてやりたかったぞ?』等と笑っていたくらいのだから、相当なものだったのだろう。

 

 何せ悪の魔法使いたる彼女がそう面白がるぐらいなのだ。

 それを想像するだけで高畑は身震いした。

 

 しかし幸いにも(、、、、)その怒りの矛先は既にこの世にいない。

 

 

 「四年ほど前、静岡へ“出張”したヤツですが……その時の対象がその犯人でした」

 

 「静岡?

  ……おぉ、確か風穴に隠れ潜んで無許可でホムンクルスを作っていたヤツがおったの?」

 

 「ハイ。

  ですが、確保する直前に自分の生み出したホムンクルスの犠牲になっていますが」

 

 

 戦闘力は確かに高まっていたが、お陰で本能を制御仕切れず暴走。お定まりの末期であった。

 やっていた事が事なので、高畑も近衛もその末路には全然同情が湧かなかったが、あの時ちゃんと確保していればナナのような犠牲者をもっと早く保護できていたかもしれないと彼は(ほぞ)を噛んだ。

 

 あくまでも『かもしれない』という可能性だけであるが、それでも悔むのが彼らしい。

 勘が良いのか、付き合いの長さからか、近衛はそんな彼の心情に気付き、

 

 

 「今更じゃよ。

  犯人がとっとと犠牲になってくれていたお陰で知人(、、)に罪を犯させずに済んだ。

  そして彼女は一番適任者である彼が救った。

  終わりよければ……としてそれを由とせねばの」

 

 

 と諭す。

 そこに拘っていたら一歩の前に進めないのだから。

 

 

 「ハイ……」

 

 

 流石は海千山千の学園長。高畑は近衛の切り替えの妙に苦笑しつつも感謝して報告書のページを捲った。

 彼としても納得せねばならないので何とか思考を上方に修正しながら。

 

 

 「問題は彼女……ナナ君が危ないかどうかじゃな。

  流体金属生命体であり、氣や一部の魔法を弾く事が出来る……それ以外は?」

 

 「そうですね一部の配列を変えてその形態や質量を変化させ維持する……

  つまり人の形を取った時にその形状を維持する事が出来、質感も人肌のそれにする事ができるらしいですよ」

 

 「ほう?」

 

 

 どうやら元々は記憶媒体の大きさからして、かなり特殊な潜入と暗殺等に“使う”つもりだったらしい。

 

 外見は確かにまっ銀々であるが、映画の『“終わらせる者”2』に出ていた1000番野郎が如く、外見データをその媒体に記憶させれば同じような潜入工作が可能であるらしい。

 ぶっちゃければ幼女型ターミ○ーターである。

 

 

 「まぁ、結果はナナ君の意識が身体の主導権を得て失敗。

  おまけに素体となった彼女自身の倫理観が高すぎて何の罪も犯せません」

 

 「ふむ……」

 

 

 それが良いのか悪いのか判断が難しいが、この件に関しては『良い』のだろう。

 何せ彼女には情状策量の余地があるという判断材料にする事が出来るのだから。

 

 しかし、せめてもう少し倫理観が低ければもっと楽に生きられただろうに。立場上考えてはならぬ事であるが、近衛はそう内心溜息を吐いた。

 

 「ん? しかし、それだけ倫理観が高いのならわしら(魔法使い)に追いかけられたりすまい?

  何があったのじゃ?」

 

 「はぁ……

  あまり、聞いて気分の良い話じゃないんですけどね……」

 

 

 彼女が生み出されたのは何時の話であるかはこれからの調査待ちであるが、兎も角、失敗作だった彼女は隠れ家ごと放棄されていたらしい。

 普通なら封印処理を施されていた彼女が目覚めるはずもなく、誰かが故意に魔力を注がねばならなかったのであったが、何とナナはゆっくりと周囲からマナを取り込み続けて自力で覚醒したらしい。

 しかし目覚めはしたものの彼女の経験は真っ白。自分が生み出された物だという自覚だけは何とか持ってはいるものの、どれだけ危険視される存在であるかまでは理解できている訳も無かった。

 だから覚醒したての彼女は、改造人間というカテゴリーである為に空腹に喘いで人里まで降りて行ってしまったのである。

 

 彼女の見た目は銀色スライム。

 一般人からすればモンスター以外の何物でもない。

 

 幸か不幸か最初に彼女を発見したのは地元にいた魔法使いで、そんな外見からか害意のある魔物として攻撃を仕掛け、人里の周囲から追い払ったのだという。

 その際、放たれた魔法を弾いたのが災いしたのだろう、その魔法使いは伝で魔法関係者を集めて山狩りを行ったらしい。

 

 

 「……何ともお粗末な話じゃの」

 

 「確かに彼らの気持ちも解らぬでもありませんがね。

  どうも彼女の出生や事実を知ってしまうと……」

 

 「知らぬ事…では済まされんのぉ」

 

 

 記録の上では、その魔法使いは不意打ちを喰らい、あわやというところで魔法で反撃をして辛くも生還を果たした事になっている。

 

 尤も、ナナの記録の中の件の魔法使いは、出会った瞬間に腰を抜かし、魔法が効かないと解ると失禁した挙句に泣きながら這いずって逃げて行く画像が残されていたと言う。

 掻いた恥を誤魔化す為、針小棒大に伝えたのが本当のところだろう。

 

 

 『ったく。ひっでぇヤツだなぁ……』

 

 

 等と横島は軽めに言っていたが、額に浮かんでいた血管は極太。ほっとけばナニするか解った物ではない。

 一応、高畑がそれなりに対処しておくからと執り成しておいたのだが、そうでも言っておかねば本当にヤヴァいと感じていた。

 何せ件のナナはよっぽど怖い思いをしたのだろう、そのまま山奥に逃げて隠れ住み、木の実とかを食べて飢えをしのいでいたと言うのだから。

 

 それも二年もの間——だ。

 

 

 「二年……短いようで余りに長いの。

  その間、子供が山で一人隠れ潜まされていた……か……

  しょうがない、仕方がないでは済まされんのぉ」

 

 「……何せ彼女も被害者ですからね」

 

 

 そしてその後、人目を避けるように彷徨っていたところをヘルマンらに拾われ、麻帆良に来たのだそうだ。

 

 

 「ずっと一人でいたのですからね。

  同じような不定形生命体に優しくされたら付いて行くでしょうよ」

 

 「調書によると、彼女らも本気で心配してたようじゃからの」

 

 「人間より、魔物の方が優しく接し、暴走した際にもその身を案じている……何とも気が滅入る話ですね」

 

 「じゃの……」

 

 

 二人顔を突き合わせ、同時に溜息を吐いた。

 真の意味で<正しい魔法使い>を目指す者、というのは口で言うより少ないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そー言えばさ、結局みんなに教える事にしたの?」

 

 「ん、まぁしゃーないしな」

 

 

 何せあいつらはこっちの都合やらなにやらを考えてくれるような輩ではない。

 

 厄介な事に、ヘルマンは召喚された身であった為、術者と視覚が繋がっていた可能性があるのだ。

 どこまで共用していたかまでは解らないが、今回関わらされてしまった少女らの事まで見られていた可能性は高い。

 

 

 だとしたら裏を説明せねばならない。

 そうでもして自衛手段を考えねば、また向こうの勝手で関係者として巻き込む可能性があるのだから。

 

 『魔法の秘匿がどーとか言ってるくせに、巻き込む時は後先考えずってどーよ?』と、横島もかなり機嫌が悪かった。

 尤も、ナナを膝に乗っけている今はそんな事を口にしたりしない。

 ただでさえ彼女は気にしているのだ。

 下手な零し方をすればまた謝り倒されてしまう。何げに彼に似た習性を持っていた。

 

 

 「えと、コタローだっけ?

  アイツも千鶴ちゃんに対してはまだ悩んでるみたいだけど、流石に夏美ちゃんには見られてるしな……

  腹が決まったらネギと二人で説明するとよ。

 

  んで円ちゃんは……その、オレが……」

 

 

 「? あぁ、責任とって?」

 

 「う゛……」

 

 

 責任とは、つまりキスの事。

 

 人命救助の為とはいえ、横島は円の唇を強引に奪ってしまっているのだ。

 円の身体を抱きしめ、霊気でもって内部に飛び込んでしまったナナを搾り出そうとしたまでは良かったのだが、口まで出てきたところでそこでナナが踏ん張ってしまった。

 下手すると今度は気道に逃げてしまうかもしれないし、このままでもほぼ間違いなく円は窒息する。

 それを懸念した横島は、強引に口をつけてナナを吸い出したのだ。

 

 いくら悪気はなかったとはいえ、ナナを捕まえたる為に口の中を舌で犯しまくってしまったようなもの。そりゃあ横島の良心もズキズキするだろう。

 

 無論、その直後に怒れる二人の少女によって半殺しの二乗分のおしおきを喰らったのだが……出血多量で朦朧とした意識の中、賽の河原で縁深い邪竜女と談笑しつつ茶を飲んだ気がしたが気の所為だろう。多分。

 兎も角、そんなこんなで責任とって自分が詳しく説明する事にしたのである。

 

 

 「律儀だよね〜 楓とくーちゃんの時はあっさりしてたのに」

 

 「お、思い出ささんといてぇ〜〜っっ!!」

 

 

 テーブルにつっぷしてしくしく泣く横島。

 

 ロリ否定精神であるジャスティスを引退させる切欠となったイタ過ぎる思い出だ。

 人目もはばからず和美の前で泣く様は、彼女に別れ話を切り出された男のそれ。何とも物悲しい光景であろうか。

 ぴぃぴぃと かのこが彼の頬を舐めて労わり、膝の上の銀色グミから触手みたいなものが伸びてポンポンと軽く叩いて慰めている。それがまた彼の情けなさに拍車がかかって目が潤む。

 

 

 「ホント、表情多くて面白いわ。この人」

 

 使い魔(ペット)に労わられ、ナナに慰められ、感謝した横島は彼女らの頭(?)を撫で返す。その絵が気に入りカメラでパチリ。

 良い絵とは言い難いが、面白い一枚に違いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ナナ君の処遇も何とかなったし、今回の件も一応の片はついたんじゃが……」

 

 「ええ……“解決”には程遠い」

 

 

 この学園とネギの調査だったというのに、その任務には行動を封じると言う物も含まれている。

 

 こちらと同様、一般人を巻き込まないように行動しているかと思えば、いきなり巻き込んでくる。

 

 敵の行動がチグハグ過ぎて全然読めない。読み切れない。

 

 まるで“あの時”のように、行動原理は兎も角、行為そのものに一貫性が無くてついて行くのが難しいのである。

 

 

 ——また、失わされるのだろうか?

 

 

 そう思うと、師を失った時と同じように、感情が胸の奥で弾けるような偽痛を感じる。

 知らずズキズキと心が痛み、歯を食い縛ってしまう。

 近衛も書類に目を落としたままだ。

 

 しかし、だからと言って——

 

 

 「“向こう”に連絡を入れ、最深度調査をしてもらいます」

 

 「……ふむ」

 

 

 ここで足踏みを続ける訳には行かない。

 

 

 「奴らはもう、残党しか残っていない……そう思っていました。

  本陣を討ち倒された奴らだから、小枝がざわめく事しか出来ない。

  そう思っていた……いえ、“思いたかった”のかもしれません」

 

 

 しかし、ここまで調査が進まないという事は、横島が言っていたように異様に深く闇に潜んで根を広げていたか、或いは……

 

 

 「大本の根が残っていた可能性がある……と?」

 

 「はい」

 

 

 不幸中の幸い……ではないが、ナナを作り出した輩は間違いなく小枝。

 

 何せ“黄昏の姫巫女”がどういうものであったか理解しておらず、完成版のナナ——いや、『7番型流体銀』を影武者として送り込もうとしていたようだからだ。

 仮に完成していたとしても、仮に送り込めたとしても、彼女以外に何ができると言うのか。

 あの大惨事の最大の加害者であり、犠牲者である“黄昏の姫巫女”。

 言っては何だが、人造人間程度の力では看板以上の役はできないのである。

 

 

 『人を信用できねぇから、側近とか生み出した部下以外と腹割って話せなかったでしょうよ。

  それなりに使える駒だったら、誤解されたままの方が都合が良いし。

 

  だからそいつも信頼されてるとか勝手に自惚れて暴走したんだろーけど』 

 

 

 これは横島の弁。

 あの事件に関わっていないのに、何故か本質を掴んでいるような気がする。

 

 

 『……そういうのと戦り合った事があるんスよ……』

 

 

 それ以上話してはくれなかったが、彼もまた聞くつもりも無かった。

 吐き捨てるようにそう零した彼の顔。それは自分がよく知る者の……師匠を失った直後の自分のそれを見ている気がしたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……う〜ん……普通だね〜 もうちょっとドラマチックな展開は無いの?」

 

 「ドラマチックとか、バイオレンスとか……腹いっぱいじゃいっ」

 

 

 一通り聞きたい事を聞き終えた和美の感想がそれだった。

 

 バイト先でこき使われ、色々と怖い想いをさせられていたのだが、ある日死ぬような目に遭って遂に力に目覚めた。

 ざっと書いたらこれだけである。

 何かこう、ラノベとかでありきたりの話なので、然程珍しくも無い。

 どう考えてもネギの過去の方がドラマチックなのだから。

 

 

 無論、詳しく語れば大変な事がポンポン出てくる。

 日本の危機、アジアの危機、人類の危機とかがドカドカ出てくるのだが、色々マズいので言える筈も無かった。

 和美の聞き方が悪かったのか、横島の誤魔化し方が上手かったのか判断が難しいが、都合の悪い部分を削って答えればこんなにも単純な話となってしまう。

 

 その横島はサンドイッチを手に取り、少しづつ千切ってナナに与え、付け合せのフルーツをかのこに食べさせている。

 まるで前からやっているような自然さで二人(?)に食べさせている彼であるが、かのこは嬉しげにリンゴを咥えナナはぱくりとそれを飲み込む。

 音符が見えそうなほど嬉しげに小鹿は果物を噛み、銀スライム娘は ぷるぷると身体を震わせて美味しいと声を漏らす。

 何とも微笑ましい光景で、和美と横島は二人して微笑を浮かべていた。

 

 そして食べ終わるのを見計らって横島がまたフルーツとサンドイッチを分け渡す。

 よく解るもんだとちょっと感心してみたり。

 

 

 「こういう機微が解るトコに魅かれてるのかねぇ……」

 

 「ん? 何だ?」

 

 「ううん。何でも。

  仲良き事は美しきかなってね」

 

 

 何故か解らないが、そんなやり取りをする彼らの横にナスの絵が描かれた武者小路実篤の額が出現していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

        ******      ******      ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 小一時間も話していると、そろそろネタは尽きてしまう。

 

 聞きたい重要なポイントをはぐらかされている事は解ったのだが、あえて聞き返せるほどの材料は思い当たらずそのままだ。

 見た目兎も角、その実は意外に手強い。楓に忠告されてはいたがここまでとは思わなかった和美である。

 

 しかし、本題はこれからなのだ。

 

 

 「ところでさ、こっから個人で聞きたかった事だからオフレコでいくけど……」

 

 「ん? 何だよ」

 

 

 そうレコーダーを仕舞いつつ前置きをする。

 

 ずいと身を乗り出す和美に、何だかこっからが本戦のような気がすると横島の背に冷や汗が流れた。

 幸い膝に乗せている癒し系少女のお陰で、大分落ち着いているが。

 

 そのナナはデザートのコーヒーゼリーをもらって『ぷるぷるレス〜』と喜んでいたり。

 

 ちょっと過保護気味だなぁと苦笑しつつも、ズズイと迫っている和美に顔を向けた。

 そう横島がきちんと目を合わせてくれた事を確認すると、和美は今回の本題に入る。

 

 

 即ち——

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ、何で楓もくーちゃんも抱かないの?」

 

 

  ぶ ふ ぅ ———— っ っ ! ! !

 

 

 

 横島は口に含んだコーラを噴いた。そりゃあ、もう盛大に。

 噴霧と言うヤツだ。ふつくしいほど細かいコーラの粒子が舞う。

 

 

 『わぁ……きれいレス〜』

 

 

 とナナが虹を見て感心し、かのこまで見惚れちゃうくらい。

 げふんっけふんっ、ごほんごぶっ 等と咳き咽いでいる横島をガン無視し、和美は椅子に深く座り直して腕を組み、心底不思議そうに首を傾げる。

 

 

 「いやさぁ、ぶっちゃけあの二人って横島さんに隙見せまくりじゃん。

  けっこう激しいキスもしたって言うし。

  だったら次はもっとナニな事しないといけないじゃない? 男として」

 

 「あ、あ、あのなぁ……」

 

 「そこに零ちゃん入ったじゃん。

  プロポーションが大,中,小って並んだから一人くらい手ぇ出すと思ったんだけど……

  あ、ひょっとしてお稚児趣味が」

 

 「 ね ー よ っ っ ! ! ! 」

 

 

 ペドとかロリとか言われるのも心外だが、お稚児趣味を疑われるのは輪をかけて屈辱だ。

 それだったらまだペドロリと言われる方が…………やっぱりイヤか。

 

 兎も角、お冷をぐびりと飲んで何とか気を落ち着かせ、息も整える。

 それだけ慌てるのは僅かでも自覚はあるのかな? とか思いはしたが、口に出さない和美は賢明だ。

 

 

 「落ち着いた?」

 

 「……何とかな」

 

 『大丈夫レスか?』

 「ぴぃ〜?」

 

 「ウン、オレ、イキテル……」

 

 

 ぐったりとテーブルに突っ伏す横島。

 そのタレ具合は中々笑えるが、聞きたい事は何も彼の口から聞けていない。

 インタビュアーというものに必要なのはしつこさと忍耐力だ。

 だから、何だかんだで情報収集が得意な和美はその辺も優秀で、割と呑気に回復が待てる。

 頬杖を突いたりして余裕が感じられた。

 

 つまり、横島もこの演技では誤魔化しきれないと諦めた。

 

 

 「嫌いじゃないんでしょ? あの二人……ううん、三人とも」

 

 「ああ」

 

 

 意外にも横島は和美の問いに即答した。

 おまけにヘンな言い澱みも無いときている。清々しいほどの告白だ。 

 和美はちょっとだけ顔の温度が上がっている事を自覚しつつ、問い掛けを続ける。

 

 

 「ん〜……中学生ってはそんなにネックになるの?」

 

 「ま、それもあるけどな……」

 

 「へぇ……?」

 

 

 意外。

 

 てっきりロリと呼ばれるのが一番嫌な理由だと思ってただけにちょっと驚いた。

 その横島は、うっかり漏らしてしまった事に後悔して不貞腐れてたりする。

 こうなると話の流れから言わなきゃならないし、下手に隠すとエラい方向に持っていかれるだろう。こーゆータイプはそういうコト平気でかます。

 だから彼も腹をくくり、溜息を吐いて身体を和美に向き直した。

 

 

 「あのさ、さっきも言ったオレの力だけど、霊能力って言って魂から出る波動なんだわ」

 

 「れ、霊能力? いきなりインチキ臭くなってきたんだけど……」

 

 「ほっとけっ!!

  まぁ、オレの特性は“こっち”じゃ超能力のカテゴリーに入るからそれで通してるけどな」

 

 「インチキ臭さがどんどん……あ、試験の時にネギ先生を吹っ飛ばしたのがそれ?」

 

 「ちょっと違うけど似たようなもん」

 

 珠を生み出すときの要領で霊力を固めかけたもの(、、、、、、、)をぶつけたのだ。

 無論、珠ができるほどまでは収束させていなかったからあの程度で済んだのである。

 

 

 「オレさ、さっきも言ったけど、潜入捜査っポイ事しなきゃならなくなってさ」

 

 「ふんふん」

 

 「だけど実はその時のオレってただの荷物持ち。何の力も無かったんだわ」

 

 「へ?

  ……ああ、そっかそう言ってたわね」

 「そ。で、ある人に目覚めるきっかけ……つーか師匠? をもらって(、、、、)さ」

 

 「は? 師匠を、もらう?」

 

 「言っとくが言ってる事は間違ってねーぞ?」

 

 

 何せずっと着用していたバンダナに神通力を宿らせてもらって生れたのだ。

 授けられた力で目覚めたのだから間違ってない。だろう。

 

 

 「ま、兎も角。

  そん時に手っ取り早く霊力を高める方法を教えてもらったんだけどさ」

 

 「ふぅん?」

 

 「それがまた……煩悩なんだわ」

 

 「は?」

 

 

 無論、なりたくてそんな珍妙にして珍奇で愉快な体質になった訳ではない。

 

 どういう訳か横島はエロス関係にのみ、想像を絶するほどの集中力を見せていた。

 彼に与えられた“師”である心眼は、よりにもよってその煩悩を利用して霊力を上げる方法を魂に刻み込んでしまったのである。

 幸いにも煩悩は本能に根ざした物なので生存本能に次いで高い。

 更に横島は生存本能より煩悩が高いとキている。

 後の横島大活躍の陰にはこういった心眼の働きがあった訳であるが……まさか魔神と戦えるまでに至るとは思いもよらなかったであろう。

 

 閑話休題(それはさておき)——

 

 

 「その所為かどうか知らんが、霊力が下がると煩悩が異様に高まって霊力を回復させようとするんだわ」

 

 「は、はぁ……」

 

 「解るか? 下手すっと楓ちゃん達をむちゃくちゃにしてしまいかねねぇんだわ。コレが」

 

 

 はれ? それのドコが悪いんだろ? 等と思ってたりする和美はやっぱりドコか変。

 

 いや、昨今の女の子の考え方からすればまだあの二人は奥手な方かも知れない。

 それでも本屋ちゃんとかよりはかなり進んではいるが。

 

 

 「いや、別に悪いコトじゃないでしょ? あの二人だって隙見せた方が悪いって知ってる筈だし。

  じゃあ別に横島さんにそーゆーコトされたって文句言わないと思うよ? つーか、喜びかねないし」

 

 「アホか——っ!! ンな事が出来るかぁ——っ!!!」

 

 

 誰の目から見ても解る事であるが、あの二人はかなり深く強く横島の事を想っている。

 慕い倒していると言って良いだろう。

 

 でなければ、嫉妬ビームなんか放ったりしない。

 ただ、どういう訳か本人達は本気で自覚していないのである。

 

 

 『横島さんもとっとと拉致監禁するなり奴隷調教するなりしてくれれば良いのに……』

 

 『言てくれれば私は場所もアリバイも道具も媚薬も妊娠誘発剤も提供するネ……』

 

 

 等と病んだ目でとんでも台詞をぶっこいた少女が二人ほどいたよーにも思うが……気の所為だろう。多分。

 まぁ、和美にしてもとっとと関係をぶち進めてくれたら記事にもなってうれしいから、ちょびっと同意。

 

 『……には悪いけどね』と呟きが漏れるがどちらも本意。難しいものなのである。

 

 

 ゼェゼェと息を整え、わたわたと慌てたナナからお冷の御代わりをもらって一気飲み。

 咽喉に氷が入ってのたうつが、まぁそれでも落ち着きは取り戻せた横島。

 

 のほほんとしている和美を恨めしげに睨みつつ椅子に座り直した。無論、この自称パパラッチはそんな眼差しもHEAD-CHA-LAだった。

 横島は彼女の態度に深ぁ〜く溜息を吐き、言いたかないけどという気持ちに満ち満ちた顔で口を開く。

 

 

 「あんなぁ……よう聞けや?

  確かに二人とも年齢度外視に強いし、わりとしっかりしてる。

  大人の範疇に入れてもおかしくないくらい。

 

  せやけど、やっぱり思春期のド真ん中には変わりねぇだろ?

  そんな娘相手に無茶できるか!!!」

 

 「……は?」 

 

 

 横島の言葉に、和美は『コイツ、何言ってんの?』と呆然とした。

 

 何と言うか……さっきから聞いてたら話の流れに辻褄が合わず、内容がズレたり戻ったりと忙しい。

 

 いや、その分横島が真面目に真意を伝えようとしているのは解るのであるが、自分の中だけで完結している理由を言葉にするのは流石に難しいようだった。

 

 さっきから自分の事を煩悩の化身のように言っていた事、そして何と言うか……自分も含めてであるが色々と難しい年頃であるコトに繋がりを……

 

 

 「……ん?」

 

 

 その時、はたと何かが引っかかった。

 

 

 「え〜と?

  横島さんが煩悩が凄く強くて無茶しかねない……

  で、いくら楓とかが大人っぽくても、思春期だから無茶できない?」 

 

 「う゛……」

 

 

 それがド拙い指摘だったのか、横島は目に見えてうろたえた。

 慌ててナナを頭に被ってしまうほどに。

 そんなコンフューズした横島を見て、和美の脳はついに核心にたどり着く。

 

 

 「ははぁ……解った」

 

 

 

 

       ぎ く ぅ っ

 

 

 

 

 「横島さん、アンタ……」

 

 

 和美は、確証を得たりとばかりに彼の想いを形として整え口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ガンドルフィーニ先生とかが文句を言うかと思ったんですけどね」

 

 「意外にあっさりと認めたの」

 

 「あ、ハイ。

  ナナ君が高校生くらいの外見なら必死に止めたそうですよ?」

 

 「フォフォフォ……さもありなん」

 

 

 何故だろう——

 

 ついさっきまで空気がかなり重くなり、呼吸すら苦しく感じていたというのに、何時の間に払拭されていた。

 不思議な事に、重くした材料も軽くした材料も同じもの……ナナの話だ。

 彼女の身の振り方に入るまでは確かに鬱に入りそうなほど気が重くなっていた。

 それは師を失い、自分の無力さを思い知った時に似て、足掻こうにも足掻く足場が見当たらない影の中のよう……

 

 ただ、そこに一片が入っただけで。

 僅かながら別の材料が入っただけで足先に取っ掛かりを感じ、気がつけば淵にまで辿り着けていた。

 

 

 その一片——

 

 

 「まぁ、ドスケベで中々目の付け所がよい彼じゃが純情だしの」

 

 「学園長の言う目の付け所という部分をちょっと問い質したくなりますけどね」

 

 「フォフォフォ じゃが、純情と言う点は間違っておるまい?」

 

 「それはまぁ……」

 

 

 その一片は行動そのものが不可解で直情で、歪みの頂点のようでまっすぐだった。

 

 先天性の道化師。邪の極みのようでいて救いようの無いお人好し。

 特に女子供に対して底抜けに優しいところはとっくに皆にバレている。

 

 何せ霊力とやらが満タン時は飛び掛ったりしないし、話すと異様に会話が楽しい。

 手が足りないようなら(直にその事を気付く)、極自然に手を貸してくれるし、恩に着せたりしない。

 

 借した恩は忘れるくせに、借りた恩は忘れない律儀さを持つ妙な男。

 だから飛び掛られてはしばき倒している刀子やシスターシャークティーも嫌悪はしていない。大迷惑とは思っているが嫌ってはいないのだ。

 

 それが人柄なのか何なのかは不明だが、彼の話が出るだけで不思議とネタが尽きなくなるし、場の空気がどんどん軽くなってゆく。

 それがまたここでも強く作用していた。

 

 

 「じゃが、ナナ君は喜んだじゃろ」

 

 「正確にはホッとした……でしょうけどね」

 

 

 横島預かりというのは色んな意味で彼女にとって救いである。

 前述の通り、横島はナナがどんな形態をとろうと、それこそ秒単位で慣れてしまう。

 彼が引き取ってくれるという話を聞き、ジェル状になって泣きついた時に出たセリフも、

 

 

 『あ゛っあ゛っ らめぇえ——っ

  ココじゃイヤ——っ!!』

 

 

 である。

 それを見た高畑はどこまで柔軟なんだと感心したものである。

 

 

 「では、横島君の申請した件は……」

 

 「よいよ。彼が責任を取ると言っておるのじゃろ?」

 

 「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやぁ……彼女たちが羨ましいねぇ〜」

 

 「……」

 

 

 とんでもない女にとんでもない事を知られてしまったものである。

 

 ウッカリ“真意”を漏らしてしまった以上、言い訳は利かない。

 

 何せ口で言った訳でなく、態度で見せたもんだから説得力が高いのだ。どうこう言った所で薮蛇である。

 だから横島にできた事は黙秘権を貫いて終始無言。

 反論不可であるし、こんな時にはナニをどう返しても倍のダメージを受けて撃墜されるだけである事を理解しているからだ。

 

 しかし、その行為こそが肯定なのであるが……そこまでには気付いていないようである。

 

 だからプイと横を向き、かのことナナを膝に乗せて抱きしめ、思う存分かいぐりかいぐり愛でて自分を慰めている。

 何かマスコットみたいに扱っているが、かのこもナナも気にもしていない。というか嬉しそうだ。

 

 そんな横島のテレ具合を見られて和美は笑顔満面。

 今まで色々とスカタンな行動ばっか見せられていたが、成る程こんなに面白い男だったか。

 楓もとっとと会わせてくれてもよかったのに。何を警戒してんのやら。いや、だからこそ(、、、、、)か?

 

 

 「ふむふむ いやぁ〜今日だけで色々と解ったよ。よかったよかった」

 

 「くぅ〜……」

 

 

 お馬鹿であるが無意味なほど律儀で、しょーもないトコで殊勝。

 いや、師匠としてちゃんとあの二人を細かく見ているようだし、ナナに対しての接し方からして面倒見も良いのだろう。

 ああそういえば、事件後のフォローとかもキッチリ考えてるわよね。

 

 ……ん?

 

 女の子と適度な距離が置けて、けっこう面白いし楽しい話をしてくれる会話上手。

 好意を持った相手の事はとことん気にして、それでいて束縛しなくて律儀で優しくて機微に聡くてフォローも細かい……

 

 あれ? 何でこれで女の子にもてないの?

 

 煩悩魔人とか呼ばれてたって言ってたから、物凄いドスケベかまして嫌われてたとか?

 ——等と、小鹿と銀スライム娘に癒してもらっている横島を見ながら和美は首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まぁ、手続きの細かいトコは横島君に書かせるとして——」

 

 「丸投げですね」

 

 「むぅ……しかし、当然じゃろ? 自分らの事じゃし」

 

 「まぁ、そうなんですけどね」

 

 

 ついさっきまで漂っていた窒息しそうな重圧の空気は完全に払拭されていた。

 横島のお陰といえばそれまでだが、彼が何をどうしたという訳でもなく話に出ただけでこれ。

 

 まぁ、余りのおマヌケなキャラクターに脱力するという説もあるが。

 

 

 「……それでナナ君本人はどう捉えているのかの?」

 

 「本人はかなり慌ててましたよ。

  あそこまでむき出しの好意を向けられるのは初めてみたいですしね。

  しかし、さっきも言いましたが彼に懐いている事は間違いないですね。

  それに……」

 

 「それに?」

 

 

 「横島君、何故かあのスライム達にも信用されてるようでしたから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もぅええか? ええな!? くそぉっ」

 

 「ぷ、くくくくく……う、うん。いいよ。あは、あはははははは」

 

 「ドチクショ————っ!!! いらんコト言うてもたぁ——っ!!!」

 

 

 青い空なんてぇえ——っ!!! と涙を迸らせながら空に叫ぶ横島。

 

 何と言うか……男の口からドスゲェ熱々なセリフを聞くと中々クるものがある。

 ハッキリとした告白とかならもっとウソ臭いのだが、あれだけ(ぼか)した言い方をされたら説得力があると言うものだ。

 狙ってやってない分、和美の胸にもギュンギュンきたほど。

 

 彼本人は火傷のように後から心にダメージを受けていたのだろう、赤色にテレまくって大変だった。和美はそれを見て大爆笑してるし。

 横島にとって恥辱屈辱以外の何物でもない一時だった。

 

 

 「ひーひー……ぷぷぷ……も、もういいよ、あ、ありがとうね。

  あははははははは……」

 

 「くぅううう〜……うぬれぇ〜」

 

 

 しかし、いらん事ぶっちゃけた横島に勝機は無い。

 彼にできる事は負け犬宜しく尻尾巻いて逃げる事だけである。

 

 今だ滂沱の悔し涙を流しながら、彼はナナを左肩に乗せ直してかのこを促し、レシートを手にして席を立った。

 

 

 「ぷぷぷぷぷ……って、あれ?

  インタビュー頼んだ私だからここのお金くらい払うつもりだったんだけど」

 

 

 当然、取材を申し込んだは自分なのだから、言うなれば取材費。

 払おうと思ってたし、最低でも割勘のつもりだったのだが横島は手をひらひら振ってそれを断った。

 

 

 「ばーか。良い女ってのは男に払わせてなんぼなの。

  こちとら仕事してて収入あるんだから奢らせろや。

  やったラッキー☆程度に思ってりゃいいさ」

 

 「……あ、うん。ゴチになります」

 

 「あいよ」

 

 

 のこのこと後ろを着いて行き、財布からお金を取り出してレジに払う横島の背を見つめる。

 

 “あの娘”から基本の情報をもらっていたのだが、想像の斜め上45度を行く本当に面白い人間だった。

 

 子供っぽさと大人っぽさ。

 狭量と包容力を併せ持った矛盾した人格。

 人と人との垣根がやたら低く、会話も楽しい。

 

 何でモテなかったんだろ? と、又も疑問が再燃する。

 実際、数人にみょ〜に懐かれているんだけどね。鳴滝姉妹も何か懐いてるっていうし。

 私だって楓とかがコナかけてなければ自分ももっと興味持っていたかもしれないなぁ……等と妙な事も考えてしまう。

 

 

 「横島さんはこれからどこ行くの?」

 

 「ああ、コイツの……」

 

 『ふぇ?』

 

 

 ポンポンと肩に乗っかっているナナを軽く叩き、

 

 

 「生活必需品とかいるしな」

 

 「そっか……そうだよね」

 

 『あうあう……』

 

 

 「なんてったって“妹”だからな。

  兄ちゃん、はりきって色々買っちゃうぞ」

 

 『お……“お兄ちゃん”はずかしいレス……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「横島ナナ(、、、、)……か」

 

 「はい。

  幸い、彼女は元々日系人だったみたいですしね。

  エヴァが言うには“テクスチャ”を用意すれば即日日本人の少女そのものに成れるそうです」

 

 「幻術を出せる程度のマジックアイテムがあればよい。

  ナナ君だったらそれからデータを抜いて自分用の保存ができる……かの?」

 

 「ええ……今、エヴァが調整しているそうです。

  別荘内でやってるそうですから、夜までには仕上がりそうですね」

 

 「ほほぉ」

 

 

 何とも彼女らしからぬ丁寧なサポートではないか。

 そこにどんな思惑があるのか知らないが、興味深く面白い話である。

 

 エヴァが妙に自信たっぷりと胸を張り、工房に引っ込んで行ったのは今日の朝。

 授業のボイコットは出来ても呪いのお陰でずる休みはできない為、放課後まで続きが出来ないという事で機嫌が悪く、担任のネギを一日中苦労させたという。

 彼女は授業が終わると茶々丸と共にすっ飛んで帰ったので、今も調整は続いているのだろう。

 

 時間が掛かるからその間にナナの必需品を買って来いと言ったほど集中している。

 流石は完璧主義者だ。頭が下がる。

 朝だって『とっとと出て行け。作業の邪魔だ』とナナと共に別荘から蹴り出されて二人(?)してボーゼンとしていたのだから。

 

 いきなり兄妹となった二人だが、妙に波長が合うのか既に仲良し。

 そんな二人を思い出し、何時しか高畑の顔には普段の柔らかな笑みが戻っていた。

 

 

 「ほっ 何をそんなに面白がっておるのかね?」

 

 「いえね……横島君が……」

 

 

 

 『カワイイ妹ができたんは嬉しい。

  その気持ちに嘘は無い。マジに。

  ガッコ行く為に勉強始めるんは良い。Goodや。褒めたる。

 

  しかーしっ、算数ドリルとかやってて『お兄ちゃん、ここわかんない』とか聞いてくるやろ?

  い、いや、流石に算数はわかる。解るんやけど……

  中学とか高校生になって『兄さん、ココ解る?』とか聞かれたりしたら……

  あ゛あ゛っっ!! オレが答えられんかった時の絶望と侮蔑が混ざった眼差しを想像しただけで……

 

  Nooooooooooooooooooooっっっ!!!!!!

 

  ワイは……ワイは、ダメなアンちゃんや———っっ!!!』

 

 

 そう泣き喚いた横島は、ナナに慰められて復帰。

 お兄ちゃんとして情け無いトコ見せられんのや——っ!! と参考書買って勉強を始めようとしてたりする。

 何が動機になるのやら。

 

 それを聞いた近衛はさも面白そうに大笑い。

 腹を抱えて楽しそうに笑い続けていた。

 

 因みに横島、ナナを引き取ると決断した直後、彼女を茶々丸に一端預けてから別荘を飛び出し、自分の部屋に飛んで帰って大掃除もしていた。

 言うまでも無く、オコチャマに見られたらヤヴァいブツとかをどーにかする為だ。

 

 

 『あの無垢な目で、『お兄ちゃん、これなんレスか?』とか言われたりしたら……

  い、いや、あまつさえ思春期になって“それ”が何であるか知られ、

  その所為でドブネズミを見るような目で見られたら……

  あ゛あ゛っっ 兄ちゃんは、兄ちゃんはぁあああ———っっ!!!』

 

 

 等と大騒ぎして片付けていた事も注目だ。

 ぶっちゃけ泣きながら掃除する様はかなり笑える。見たかった。

 

 近衛は笑う。

 横島とナナの関係と、彼の人となりを更に知り。

 

 高畑もつられて笑う。

 過去も何も気にせず、ありのままのナナをすんなり受け入れて手を繋いで歩く未来を語っていた横島を思い。

 

 報告書を受けてからずっと濁っていた空気は何時の間にか消え去り、部屋は穏やかさを取り戻していた。

 

 皆が持っていた不信すら壊し、重い空気も壊す。

 

 悲しみや寂しさまで壊しつくす彼。

 

 

 これから彼は何を壊し続けるのか……

 

 

 恩人であり、尊敬する英雄とは全く違うやり方で破壊の限りを尽くしてゆく横島。

 そんな彼に高畑は、淡い希望を持ち始めていた。

 

 

 

 

 

 

 「服はサイズ合わせにゃならんから次な。

  まずは生活必需品。歯ブラシとかは近くで買えるから、今は食器とかだな」

 

 「ぴぃ?」

 

 「おぅっ もちろんお前のも一緒に買うぞ。食器もおそろいだ」

 

 「ぴぃ〜♪」

 

 『な、何だか申し訳ないレス』

 

 「はっはっはっ 気にすんな。

  お兄ちゃんという生物は、キャワイイ妹の為に先に生れてくるものだ」

 

 『そ、そうなんレスか? 深いレスね。

  でも、服は次という事はそれまで裸レスか?』

 

 「い、いや、それやったら犯罪者の疑いが立ってまう……

  せめてグミ状態でいて。抱っこし易いし」

 

 『は、恥ずかしいレスぅ……』

 

 「い、いや、違うからね!?

  妹として愛でるって意味だからね!!!???」

 

 

 小鹿と共に肩に乗っけている(ナナ)とじゃれ合う様は結構シュールだ。

 それでも長年一緒にいた家族のような掛け合いは中々微笑ましい。

 和美はそんな彼らを見送ってから制服の襟を返し、そこに貼り付けていたマイクに向かって口を開いた。

 

 

 「大事なトコもちゃんと聞こえてた?」

 

 『……』

 

 「うん。良かった。凄く面白かったから聞いてないと損だしね〜

  で、仕事はこれで終わりでいい?

  知りたい事は一応言ってくれたみたいだけど……」

 

 『…… ……』

 

 「ん。

  ま、後は頑張って。

  他の娘に悪いからひいきはしないけど、気持ちだけ応援してるから」

 

 『……っ!!』

 

 「あははは まぁまぁ、照れなさんなって。

  OK、OK。ンじゃねっ」

 

 

 和美はポケットの中の携帯のボタンを押し、通話を終了させてワイヤレスマイクも外した。

 ぶっちゃければ、今さっきの話が聞きたかったわけで、大半は既に他の娘からそれなりに聞き出してたりする。

 実際、レコーダーは向けていただけでスイッチを入れていない。入れてたらワイヤレスマイクに反応してハウリングを起こしてただろうし。

 

 

 「報酬も入るし、横島さんの人柄も知れたし、一石二鳥。

  それにこれから楽しめそうなネタも仕入れられたから実質三鳥?

  いやぁ、私ってツイてるぅ」

 

 

 等と呟きはするものの、横島の背を見ている和美の目は柔らかだった。

 何だかんだいっても彼女はあの“兄妹”を見守るつもりでおり、茶化しはするが邪魔をする気は更々無いのだ。

 久しぶりにいい絵が取れたな、とデジカメの画面に目を落とす。

 

 

 

 優しい笑顔で 白い小鹿の頭を撫でつつ銀色グミにジュースを与えている青年の写真。

 

 

 それは、愛おしげな眼差しを家族にむけているそれであった——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ところで高畑君」

 

 「何ですか?」

 

 「何か知らんが薬局とか介護用品店からやたらカタログが届けられとるんじゃが……

  なんでかのぉ?」

 

 「さぁ?」

 

 

 




 これである意味、原作での中編の山場は消化できました。

 ネギ君は力不足と経験不足を思い知れましたし、一部の女の子達には現実を見せられました。
 原作と違うのは、ネギの従者が明日菜と のどかと刹那の三人で終わっている事、
 楓と古は横島にとられている事、ですねw

 そして木乃香は未契約。
 ネギとの仮契約は、現時点では刹那が止めるでしょうから起こらないでしょうネ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。