拝啓、数時間前のウッキウキで修行していた俺へ、どうやらここは『緋弾のアリア』じゃないらしいです。
「いや、どういうことなの」
修行宣言後、俺は部屋で寝ていた兄であるキンジをたたき起こし早速修行に取り掛かっていた。キンジは弟の頼みならと快く付き合ってくれお昼過ぎまで二人で鬼ごっこやかくれんぼをしながら修行をした。精神年齢が身体に引っ張られているのか楽しく体を動かせた気がする。
修行という名の遊びが終わり、今はキンジと一緒に居間でテレビを見ながらゆっくりしている。
「いいか、カナタ。よくあそんで、よく食べて、よくねむるのが一番の修行なんだ。父さんもじいちゃんもおんなじこと言ってたぞ」
「うん、そうする。ありがとうキンジ兄さん」
キンジは弟妹が欲しかったのか俺に対しかなり世話を焼いてくれる、自分が弟として面倒を見られたからなのだろうか。なんてことを考えつつウトウトしているとテレビや近所のスピーカーから、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。
その瞬間テレビが緊急放送に切り替わった、なんのニュースだ?
俺はテレビのリモコンを手に取り、音量を上げてニュースの内容をしっかりと確認しようとする。そこにはとんでもない光景が移っていた
俺の目の前にあるテレビからはとてもじゃないが信じられないような光景が広がっていた。
白いパワードスーツのような物を着た覆面のロボットが数千発はあろうかというミサイルを手に持った刀で切り払い、肩に装着された砲身にバチバチとした電撃を纏った砲弾を発射しミサイルを粉砕する。ミサイルに遅れるような形で追従してきた戦闘機や恐らく軍艦であろう戦闘艦船たちにもミサイルと同様に一刀のもと切り捨てていく。
テレビ越しに見るその光景はとてもじゃないが現実のものだとは信じられなかった。やっぱり転生したとか夢か何かで目を覚ましたら遅刻寸前のいつもの日常が待っていたりしないだろうか、なんて現実逃避じみたことを行ってしまう。
「なあ、カナタ。これってホントにいま起こってることでいいんだよな?」
キンジ兄さんもこの光景に現実感がないのか俺にこの光景が本当に今起きていることなのかを訪ねてくる。
「わからない……、けど多分アニメとかじゃないよね」
あの光景はあまりにもリアル過ぎた。決してフィクションでは出せない本当の暴力がそこにはあった。
数分もすると集まっていた戦闘機達は全て堕とされ白い騎士も身を翻し飛び立っていった。
どうやらこの世界はこれから俺が知らない物語が始まっていくようだった。
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【IS】
正式名称をインフィニット・ストラトスというその発明はたった一人の天災によって開発された宇宙空間用の次世代型マルチフォーム・スーツである。
この発明はあの白い騎士…機体名を「白騎士」が巻き起こした2000発以上のミサイルの破壊に始まり、多くの戦闘機を墜落させた「白騎士事件」をキッカケに世界全土にその名と性能が広まることとなった。
既存の兵器を鼻で笑うかのような戦闘能力、状況を問う事のない圧倒的な汎用能力に加え持ち運びも容易という現代における兵器の全てを超えるその能力を目の当たりにした各国の政府は新たな戦争の火種となりうるこの兵器を血眼になって求めるのはある意味当然の事だった。
各国はISの開発者である天災『篠ノ之束』からISの増産を依頼し、ISの知識の公表を求めた。しかし度が過ぎてしまったのだろう。天災はコアを467個作った時点で失踪。その後は指名手配され今も見つかっていないらしい。
また、兵器の概念を変える事となったISだがとてつもない欠陥がある事が判明した。その欠陥とは、ISは女性にしか動かす事が出来ないというものだった。
結果、ISに乗れる女性を世界中で優遇措置をとる事になり『女尊男卑』という歪んだ思想が生まれた。ISに乗れる女性は偉く、ISに乗れない男性は女性の為に生きる物という認識が世界中で生まれてしまったのだ。
これがあの「白騎士事件」から10年たった世界の現在だった。
俺はあの光景を見てからの10年間を思い出していた。あの時突如として現れたISを始まりとして色々な事が変わってしまった。
「ISか〜、前世でなんかそんな名前のラノベがあった気はするけど…、詳しい内容は何も知らないんだよね」
前世では名前こそ聞いた事があったが、縁がなく読むこともなかった作品だった。
どうやらこの世界は緋弾のアリアの世界観にインフィニット・ストラトスの世界観が混ざっている、いわゆるクロスオーバー世界線という物だという事がこの10年でわかった。
「銃規制の緩和でしっかりと武偵もいるし、かなり数は少ないみたいだが超能力者もいるらしい。なんでこんな変な世界になってんだ…」
ボヤきながら手元の銃のメンテナンスを行なっていく、ベレッタ社製オートマチックピストル『Px4』ポリマーフレームで成形された銃身を分解しグリスアップしていく。
キンジ兄さんの伝手で手に入れた銃だが弾を選ばず、カスタムの汎用性も高いので気に入っている。……ベレッタさんが「お前はちゃんと金を払うんだろうな」という眼で俺を見てきていたのは辛かったが……。
「っと、こんなもんかな」
しっかりと整備を行い、バレルを戻し、スライドを戻す。
「よし、完璧。カスタムのせいでオーバーホールはなかなか出来ないから日頃のメンテナンスくらいはしっかりしないとね。キンジ兄さんみたいにいざって時に動かないとか嫌だし」
グリスなどを片付けて伸びをする。もう銃の扱いも慣れた物である、前世が一般オタクで実銃なんて触った事がないとはいえ武偵中に3年も通っていればこの程度のことは出来るようになる。
この10年で俺は15歳となり来年からは緋弾のアリアの舞台ともなった東京武偵高に進学する。特に俺が進学する予定の『強襲科』は通称「明日なき学科」とも言われる卒業率97%の学科である。つまりは3%の人間が在学中に命を落とし殉職すると言うことだ。今から気合いが入ると言うものだ。
ちなみにキンジ兄さんは原作通り武偵高に入学し、無事…と言っていいのかは知らないが今は東大に現役合格し大学生をやっている。つまりは俺が知っている範囲の緋弾のアリアはもう終わっていると言うことだった。
いくらクロスオーバー世界線で原作知識が当てにならないとはいえキンジ兄さんの冒険に一切の関与できなかったのは流石にちょっと悔しいものがある。それにこの10年の中で遠山家の人間が何人か増えたりもしたがそれは今はいいか。
「とにかく、来週は武偵高の入試だ。俺も兄さんみたいに結果を残してSランクを貰える様に頑張ろう。」
そう決意し来週の入試試験に向け、準備を行おうとナイフを手に取るとつけっぱなしにしていたテレビから緊急速報が入ってきた。
……なんか前にも同じ様な流れがあった様な…。
嫌な予感を覚えながらテレビを見てみると、そこにはまたもや世界中がひっくり返りそうな内容が映っていた。
『速報です!たった今、世界初の男性によるISの適性者が発見されました!適性者の名前は織斑一夏、初代モンド・グロッソ優勝者の織斑千冬の弟とのことです!この発見により日本政府は他の男性適性者の発掘の為、緊急で一斉検査を行う事を発表致しました!検査はお近くのーー』
アナウンサーはまだまだ何か喋り続けている様だったが俺の耳にはまったく聴こえてこなかった。
世界初の男性適性者、ISは本来なら女性しか動かす事が出来ないはずだったがこの瞬間その認識は過去のものとなった。
俺の背中に嫌な汗が流れるのを感じる。普通ならISを動かしてしまった彼が特殊なだけなのだろう。だが転生したと言う事実と自分の容姿を合わせると嫌な予感しかしない。
ISは今回の彼を除き、女性しか動かせないのだから本来なら自分が触っても起動は出来ないはずだ。だがこの身体は余りにも女性的すぎる。事実この身体は医学的に見ても男性ホルモンの分泌量や女性ホルモンの分泌量が一般的な男性と比べ大きく異なっている。染色体こそ男性のものだが身体自体はほぼほぼ女性と同じなのだ。つまりISが起動できてしまうかもしれない。
それはマズイ…!
万が一ISが起動してしまえば俺の今後の人生は良くてモルモット、悪ければそれこそ解剖されて研究対象として使われるだろう。流石にそれは嫌だ。
一斉検査を行うと言っていたがなんとか誤魔化して抜け出すことは出来ないだろうか…
ピロン♪
必死に思考を回し、なんとか検査をブッチ出来ないかと考えているとスマホにチャットの通知音が…、通知の相手を見てみるとそこに表示されたのは「逃げないように」という死刑宣告だった……。
「アッ、ッス--……ハイ……ワカリマシタ……」
俺は諦めた。あの人にはどう足掻こうが勝てるわけがないので抵抗せずに了解のスタンプだけを返信する事となったのであった。
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翌日、俺は通っている神奈川武偵中にてISの起動試験に参加していた。
あの、流石に展開が早過ぎないでしょうか。政府なんてお役所仕事で一つの事を決めるのに何回も検討に検討を重ね検討する様なところでしょうに…。こんな時ばっかり迅速な仕事しやがって。
周りを見渡すとやはり自分がISを動かせるかもしれないという期待感もあってかみんなソワソワとしているみたいだった。特に装備科や車輌科の連中なんかは元々の気性もあり大騒ぎしながら起動試験を行なっている様子だった。
「次!早くこのISに触ってください。」
他の奴らの様子を見ているとどうやら自分の番がやってきた様だった。試験官も二人目が出るなんて考えてもいないのだろう、かなりやる気もない様だ。触ったフリとかで誤魔化せないだろうか…。本当に嫌だ…、触りたくない…!でもキチンと試験を受けないと後で殺される…!!
サボった後の地獄を想像して俺は断腸の思いで眼前に鎮座するISの前まで歩いていく。
このISは『打鉄』という名前だったはず、確か倉持技研という所が開発した第二世代型のISだ。世界的なシェアを獲得している名機…という事らしい。
「えーっと、遠山カナタさんね。あなた本当に男?女にしか見えないんだけど……。まあいいわ、早くISに触ってちょうだい、どうせ起動できないでしょうし」
「はぁ、じゃあ触りますね」
どんだけやる気ないんだこの人…、やる気のない試験管を尻目に俺は打鉄に手を触れさせる。
ーー瞬間、脳裏にとてつもない量の情報が入ってきた。普通なら見る事の出来ない上下左右360°の視界情報に打鉄のスペック、武装の操作方法など。ありとあらゆる情報が津波の様に襲ってくる。余りの情報量につい目をつぶってしまう。ちょっと待て!俺は今どうなってるんだ!
「ぐぁ…!あったま痛い…。って、あぁ…、やっぱり…」
情報の洪水が収まり顔を上げるとそこには先ほどよりも1m程高くなった視界に、俺を見て口をあんぐりと開ける試験官に会場に集まっていた他の試験者たちの姿が見えた。つまりはそう言う事なのだろう…。
「お、男が…ISを……」
「ふ、二人目…?」
「これって…」
周りが俺を見てザワザワと騒ぎ始めている。もちろんその視線の先に映っているのは
ああ。やっぱりこうなるのね。
見事にイヤな予感が的中したことに涙を流しながら俺はこの後の面倒ごとを想像して深い深いため息を吐くのだった。