一夏と別れ、俺は一足先に渡された鍵の部屋を探して寮を歩く。
「1030…1030っと、ここか」
しばらく寮の中を歩くとお目当ての部屋が見つかったのでしっかりとノックをして部屋に誰かいないか確かめる。キンジ兄さんじゃないんだから俺はラッキースケベなんて起こすわけにはいかないのだ。
ノックをして少し待つと中から『は~い』という声とともにガチャリとドアが開く。
「あれ~?かなたんだ~、どうしたの~?」
ドアから顔を出したのは可愛らしい着ぐるみ?パジャマを着たのほほんさんだった。どうやら同室の相手はのほほんさんらしい。これは少し助かったかもしれない…。見ず知らずの相手やあからさまな険悪な女子じゃなくてよかった。
「ああ、実は保護の為ってことで急遽寮に入ることになってな、どうやらこの部屋が俺の部屋になるらしい」
俺がのほほんさんに織斑先生から言われたことをそのまま説明するとのほほんさんも驚いた様子で。
「え~!?かなたんと一緒の部屋なの~!?」
「みたいだ…、男と同室でイヤだと思うけどよろしく頼む」
いくら何でも男と同室はのほほんさんもイヤだろう思い、俺が頭を下げるとのほほんさんは気にした様子もなく。
「大丈夫だよ~!気にしないで~!」
「…そっか、そういってくれると俺も助かる。織斑先生は一ヶ月もすれば新しい部屋割りが出来上がるって言ってたから申し訳ないけどその間はよろしく」
「えへへ~、わたしこそよろしくね~。じゃあじゃあ、かなたんも早速部屋に入ってよ!」
快く受け入れてくれたのほほんさんに感謝しながら寮の部屋に入ると、部屋の中はのほほんさんらしいというのか、ぬいぐるみやクッションなどがたくさんある非常に女の子らしい部屋だった。
右側のスペースをのほほんさんが使っているようなので俺は左側のスペースに持っていた荷物の入ったバッグを下ろし、机の椅子に腰かける。
「ふぅ、荷物の整理は明日でいいかな、今日はいろいろありすぎて疲れた…。」
「お~?かなたん、お疲れだね~」
「まあ、どっちかといえば精神的な疲れだけどな…」
一息ついたことで気が抜けたのかドッと疲れが押し寄せてくる。出来ればこのまま寝たいところだが流石に風呂くらいは入っておかないと。
「あー、布仏さん。色々決めることもあるけど先にシャワーだけ浴びてきてもいいか?」
「いいよ~、まってるね~」
着替えの順番やシャワーの順番など決めることはあるが先に汗だけ流しておきたい。俺が尋ねるとのほほんさんは快諾してくれたので俺は手早くバッグから着替えを取り、シャワーを浴びに浴槽へと向かう。
「……へえ、備え付けのシャワー室だけでもかなり広いな。風呂に入れないのは残念だがそこは仕方ないか」
俺は手早くシャワーを浴び、髪を洗う。腰まで髪があるから洗うのは大変だがしっかりとケアも行っておく。一度適当に洗ってたら中学の時の同級生(女子)に死ぬほど怒られたからな…。あそこまでキレられるのは初めての経験だった。
「~♪」
10分程かけようやく髪のケアが終わり、浴室を出るとのほほんさんは机でお菓子を食べながら寛いでいるみたいだった。
「待たせて悪い、いま上がった」
「あ、おかえり~、全然大丈夫だよ~、かなたん髪長いから大変そうだよね~」
「まあな…、俺は短くしてもいいんだけど切ろうとすると皆から止められるんだよな…」
「それはそうだよ~!かなたんの髪すごいサラサラで奇麗だもん、止められるのも当然だよ~!」
褒めてくれるのは嬉しいがホントに大変なんだこれ。一夏みたいな短い髪が羨ましい。
その後はのほほんさんと部屋のルールを決めてその日はお互い就寝することになった。
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次の日、俺は日課の早朝ランニングをしながら来週のクラス代表決めのことについて考えていた。
「決闘まで一週間か、どうしたものかね…」
決闘の相手であるオルコットは代表候補生だ、ISの稼働訓練なんかも人より何倍も長く行っているだろう、決して侮っていい相手ではない。反面、対戦相手である俺はISを動かした経験なんて最初の起動試験とその後のデータ取りで軽く動かした程度で、合計でも一時間程度しか動かしたことがない。
「訓練機でも借りて練習出来ればいいんだが…、布仏さんに聞いたら基本訓練機の貸し出しは予約でギチギチらしいし無理だろうなあ」
訓練機の貸し出しは予約制でありこの時期はどれも予約でいっぱいとのことだった。
ちなみになんでのほほんさんが知っていたのかと言うと、どうやらお姉さんがIS学園の3年生で生徒会に入っているらしい。のほほんさん本人も生徒会に内定済みだとか。……正直のほほんさんが生徒会って聞いたときは耳を疑ったが。
今後の予定を考えながら走っていると前方から人影が走ってくるのが見えた。あれは…、織斑先生?
「む、遠山か。お前もランニングか?精が出るな」
「おはようございます、習慣なのでやらないと気持ち悪いんですよね…。ここ最近はホテルに缶詰めで走れなかった分余計に」
「そうか、私も似たようなものだな。教師なぞしていると肩が凝って仕方ない」
どうやら織斑先生もランニングは日課のようだった。でもその発言は生徒の前でしないでくださいよ…。
「そうだ、一応確認しておきたいんですけど訓練機の貸し出しって…」
「その様子なら把握はしているみたいだな。悪いが予約に空きがない。貸し出しは難しいだろうな」
ですよねー。となると本当にぶっつけ本番でやるしかなくなってきた。出来れば一度くらいは事前に練習したかったが仕方ない。
「まあ仕方ないですね、なんとかします」
「悪いな、代わりと言っては何だが他の訓練施設は空きがある。そちらを優先できるよう申請しておこう」
ISの貸し出しが出来ないことにどうしようか悩んでいると織斑先生が代わりの申請をしてくれるらしい。
「え、いいんですか?」
「かまわないさ、あの小娘には私も腹が立っている。長く伸びた鼻っ柱をへし折ってやるといい」
正直この申し出はかなり助かる。決闘に向けての練習もそうだが普段の訓練をどうしようか悩んでいたからこの件は渡りに船だ。
「ありがとうございます、どうやって訓練しようか悩んでいたので」
「その代わり、情けない試合はするなよ。…とはいえあまり心配はしていないがな」
織斑先生はそういって軽く笑う、どうやら織斑先生は俺に期待してくれてるみたいだが正直なところ勘弁してほしい…。俺はISの操縦は初心者以下なんだから。
「あんまりプレッシャー掛けないでくださいよ…」
「ふっ、お前もアイツの弟だ。当日は私も楽しみにしているぞ」
そう言い残し織斑先生はランニングを再開し、去っていった。
「……仕方ない、せいぜい頑張りますかね」
あそこまで言われたなら俺も情けない試合は出来ない。何とか食らいついてやろうと思いながらまたランニングを再開した。
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その後は部屋に戻り、シャワーを浴びたのちに寝ているのほほんさんを起こし、食堂にて朝食をとった。食堂も流石というべきか様々な種類があり、食事も旨かった。
IS学園の二日目は初日の大騒ぎがなかったかのように進み放課後。
「カナタ、今から箒にISの訓練付けてもらうんだけど良かったらお前もどうだ?」
一日の授業が終わり、教科書などを片していると一夏が訓練に誘ってきた。
「訓練?篠ノ之さんと?ISは予約が埋まっていて今日の貸し出しはしてないらしいが、どうするんだ?」
「箒がISの知識なんかを教えてくれるってよ。あと動かすときの参考になればってことで剣道場で稽古も付けてくれるらしい」
そういう事か、でもそれって多分俺はお邪魔だよな。
チラッと篠ノ之さんの方を見てみるとあまり俺の事は歓迎していないみたいだった。
「んー、いや俺は大丈夫だ。剣道はしたことないしな、俺は別のとこで練習してくるよ」
「そうか?遠慮してんなら…」
「いいから、お前は自分の心配してろっての」
馬に蹴られる趣味はないので俺は一夏を追い返し、荷物をまとめる。一夏はというと篠ノ之さんに腕を引かれ連れていかれているところだった。
「んじゃ、俺も行きますかね」
織斑先生に訓練施設の貸出申請を行うため、俺は職員室に向かい始めるのだった。
「お邪魔します、織斑先生はいらっしゃいますか?」
職員室に着くとそこでは多くの先生方が集まり作業をしているようだった。パッと見てところ織斑先生はいなさそうだった。出直した方がいいんだろうか…?
「あ、遠山君。どうしましたか?」
職員室の奥から出てきたのは副担任の山田先生だった。
「いや、訓練施設の貸出をお願いしようと思ってまして。織斑先生が施設の貸出を優先してくれるらしいので早速お願いしようと」
山田先生に職員室に来た理由を伝えると山田先生は手をポンと打って。
「ああ、そうだったんですね。織斑先生から聞いていますよ、遠山君が来たら練習に付き合ってほしいって」
「え?そうなんですか?俺はてっきり施設の優先だけかと…」
どうやら山田先生が訓練に付き合ってくれるらしい。若干申し訳ないような気もするがここはお言葉に甘えておくことにする。
「ありがとうございます。先生が手伝ってくれるなら助かります、それじゃあ射撃訓練場の申請をお願いします」
「射撃訓練ですね、わかりましたそれじゃあ案内するのでついてきてください」
山田先生は頼られたことがうれしいのか笑顔を浮かべながら射撃場まで案内をしてくれる。
「そういえば遠山君は武偵でしたね。それなら銃の貸出は大丈夫そうですか?」
案内をしている途中、山田先生が思い出したかのように尋ねてくる。
「ああ、自分のがあるので大丈夫です。というか銃の貸し出しまでしてるんですか?この学園って」
射撃場があることにも驚いたが、この学園は銃の貸出まであるのかと疑問に思い、山田先生に尋ねてみるとどうやらIS授業の中に実銃を使っての項目もあるらしい。
「ISの武装にも銃はありますし、生身で銃を撃つ経験はしておいた方が後々ためになりますから」
歩きながら山田先生はISでの射撃時の特徴や実銃との違いを説明してくれる。話してて感じるけど山田先生ってもしかしなくともかなり強い人だな?特に射撃関連の知識と実体験を交えた内容が濃い。おそらく射撃中心の戦法で活躍していたんだろうって感じがする。
しばらく山田先生の講義を受けながら歩くと射撃訓練場に到着したので、申請書を記入し、射撃ブースへと入っていきカバンから愛銃であるPx4を取り出す。
「わあ!それが遠山君の銃なんですね、でもあまり見かけないタイプの銃ですね?」
「そうですね、同じベレッタ社でも92Fほど有名な銃じゃないですから…」
苦笑しながらもマガジンに入っている弾をチャンバーに送りこみ、セーフティを外しターゲットに向かってトリガーを引く。
バンッ!バンッ!バンッ!
乾いた音が辺りに鳴り響きながら銃口からは9mmパラベラム弾が発射される。
んー、ちょっとずれたな。やっぱ素の実力だとこんなもんか。
何度か調子を確かめるように撃った後は、後付けされたセレクターを弄って3点バーストやフルオートも試しながら用意していた2マガジンを撃ちきってターゲットを回収する。
「うーん、微妙」
命中率は9割ってところか?素面でももう少し命中率は上げたいんだが……。
「微妙…ですか?100mでこれだけ当てられれば十分だと思いますけど…」
山田先生はそう言ってくれるが俺の周りにいる人はどいつもこいつも曲芸みたいなことばかりするのでこんなんじゃ全然ダメだ。せめてターゲットには全弾命中させられる位にはしておかないと困る。
「鍛え直しかぁ…、あと一週間でカン戻せるかなぁ……」
このままじゃ不味いと不安になりながらもこの日は銃を撃ち続けた。おかげで最後の方にはほぼほぼカンは戻り、的にはすべて当てることが出来た。
ちなみに、山田先生にも貸し出しの銃で撃ってもらったが初っ端から全弾命中だった。山田先生が撃ったのがライフルだったとはいえ普通に負けて凹んだ。
拳銃で100m全弾命中は普通ならトップクラスの腕前な筈なのに、拳銃で狙撃したりドラグノフで2km越えの狙撃したりする奴らがいる魔境