アビドス高等学校を卒業してもアビドスから離れられなかった少女が、シロコを拾うおはなし

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アビドスを卒業したあともアビドスを捨てられない子を見てみたい。ホシノ以外がシロコを拾うIFを見てみたい。

そんな二つの思想が合体した作品です。よろしくお願いします。


寒空の日に

 

 十二月のアビドスは、静かに冷える。

 砂漠に飲み込まれた街だが、完全に死んでいるわけじゃない。自治区としての機能は今も学校が担っていて、電気も水も通っているし、生活に必要なものは一通り揃う。

 

 私はアビドス高等学校の卒業生。あれから四年が経った。

 

 学校は制度上、今も相続されている。

 校舎は砂に埋もれ、自治区としての機能は失われつつあるが、書類の上では生きている。そして当然のように、借金も。

 

 額を思い出すだけで嫌な気分になる。返せるかどうかではなく、返すという前提だけが残っている数字だ。

 

 それでも私は、毎月欠かさず学校が借金返済のために設けた口座へお金を振り込んでいる。義務でも命令でもない。やめようと思えばいつでもやめられる。

 

 ……それでも続けているのは、たぶん、今さらやめる理由も見つからないからだ。きっと私は、このアビドス共に砂に沈んでいくんだろう。

 

 今日は買い出しの帰りだった。用事を済ませて、あとは家に戻るだけ。寒さでもあるし、いつも通りともいえるが、街はやけに静かで、砂を踏む音だけがやけに大きく響く。

 

 背中にはスナイパーライフル。手にはアサルトライフル。

 

 どちらも使えるが、同時には使わない。

 

 この世界では、銃は珍しくない。

 学生が自治区を管理し、銃を持つのが当たり前。

 口論の延長で銃声が鳴ることもあるし、撃たれても死なない。

 

 まあ、だからといって、警戒を怠る理由にはならないけど。このアビドスは学校がうまく機能していないこともあって、治安が悪いのだ。

 

 そんなことを考えながら角を曲がった瞬間、視界の端で何かが動いた。反応するより早く、衝撃が来る。

 

 体当たり。

 小柄な影が、そのままこちらにぶつかってきた。

 

 よろけながら距離を取る。

 視線を向けると、そこにいたのは少女だった。銃は見当たらない。ただ、必死な目でこちらを睨みつけている。

 

 反射的にアサルトライフルを構え、引き金を引く。

 乾いた音。

 弾は正確に当たり、少女の体が砂の上に転がった。

 

 反動を抑えたまま、銃口は下げない。

 倒れた少女との距離を保ち、呼吸と手元だけを確認する。

 

 ……動かない。

 

 追撃はしなかった。

 倒れ方が、あまりにも軽すぎたからだ。

 

 確かに撃たれても死なないだけでダメージは受けるが、にしたってただのアサルトライフルでここまでのダメージを受けるのか。何か身体に異常がある子なのかもしれない。

 

 最近はヘルメット団を見かける回数も少し増えている。故にそれらと同じような強盗だとアタリをつけ警戒しながら様子を見ているが、倒れたまま起き上がってこない。

 

 慎重に様子を見ながら距離を詰める。

 

 自分でやったはいいものの、ここまで起き上がらないと心配の気持ちが勝ってしまう。

 

 そんなお人好しだから未だアビドスを離れられないのだと、去っていった友人達に言われたことを思い出して少し嫌な気分になった。

 

 きっと彼女達には悪意こちらを貶すつもりもなかった。むしろ気遣ってすらいたのかもしれない。

 

 こんなところにいても未来はない。アビドスという泥舟と共に沈むよりも、一緒に他の場所へ行こうと。言外に誘ってくれていたのだ。

 

 その手を取らなかった時点で、私に彼女達を批判する権利はないし、勝手に傷つく権利も無い。……現実逃避から思考が逸れてしまった。

 

 今考えるべきは目の前にいる少女だ。よく見ると来ている服もボロボロで、少し震えている。

 

 このアビドスに雪が降るほどの寒さだ。凍えるような思いをしているのだろう。

 

 そんな外見や突然襲ってきたところから察するに、どう考えてもワケありだ。こんな子は見捨ててさっさと去るべきだと、分かってはいるのに。

 

「………はあ、もう。自分でも嫌になっちゃうよ」

 

 呟きながら近づくと、少女は少しずつ起き上がって警戒を顕にした。ただ、もう抵抗する気はないようで、じっと固まっている

 

 そのまま何もしないで見つめていると、怪訝そうな表情をしながら首を傾げた。幼い動作に、かわいいところもあるじゃん、と思考を逸らしつつ、質問を口にする。

 

「君、名前は?」

「………シロコ。砂狼シロコ」

「そう。じゃあ、シロコ。あなたはどこから来たの? それと、何で私を襲ってきたの?」

 

「分からない。名前以外、何も……」

「分からない…? 記憶がないってこと?」

 

 こくんと頷くシロコ。こりゃ大変だ。想像以上に厄介な事情を抱えている。

 

「襲ったのは──」

 

 シロコが何か言葉を続けようとした瞬間。ぐ〜っとお腹の鳴る音が聞こえた。出処はもちろん彼女。これが襲った理由ですと言わんばかりに主張を続けている。……よく見ると、視線も手に持っているビニール袋に釘付けだ。

 

 空腹と寒さが限界で、それでも記憶がないから頼るべき場所も分からなくて、強盗に手を出すしか無かった。推測だが、そう大きくは外れていないだろう。

 

 ほんと、厄介な子に手を出しちゃったもんだ。

 

 そんなことを考えているうちにもシロコは震えていた。恐怖か、或いは寒さなのか。前者の場合にはどうしてあげることもできないので、後者であることを祈っておこう。

 

「ほら、寒いんでしょ。これ、着ときなよ」

 

 そう言いながら着ていた上着を上から被せる。夜のアビドス砂漠でも耐えられる防寒装備だ。幾分かマシになるはず。

 

 突然の行動にシロコが混乱しているうちに、ビニール袋を持っていない方の手で抱きかかえる。すごく軽い。本当にまともなものを食べていないのだろう。もはや邪魔になった銃を背負って、準備完了だ。

 

「じゃ、私の家行くよ。何か作ってあげるから。一緒に食べよう」

 

 やっていることがほぼ誘拐だが、まあ、特に抵抗もされないので、そのまま連れていくことにする。

 

「……あったかい」

 

 呟きながらギュッと抱きついてくるシロコ。そんな姿見せられちゃさ、置いていけるわけないじゃん。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「痒いところとかない?」

「ん、大丈夫」

 

 数十分後。家まで連れてきて、お風呂の中でシロコの頭をわしゃわしゃと洗っている。最初はもちろん一人で入らせようとしたんだけど、冷静に考えてみればちゃんと記憶がないのに身体を上手く洗えるわけもないし。

 

 しかも家も無い状態で、しかもこのアビドスで何日も生きてたみたいだから砂埃もたくさんついてたからね。拾った責任もあるし同性だし、まあ一緒でもいいっかなって。

 

「流すよー」

 

 頭の上の耳……いわゆるケモ耳ってやつなのかな。キヴォトスにはたまにこういう子がいるみたいなんだよね。今までアビドスには居なかったから、自分の目で見るのは初めてだけど。

 

 とにかく、そのケモ耳にお湯や泡が入らないように避けながらシャンプーを洗い流していく。

 

「ん……」

 

 気持ち良さそうに目を細めるシロコ。さっきまでずっと垂れてたケモ耳がピンと立っている。寒くて萎びれてたのかな。

 

 そのまま身体も洗って、シロコを湯船の中に入れる。自分の身体も洗わなくちゃ。

 

 髪を洗いながらシロコの方を見てみると、目がとろんとしていた。温かいお湯がすっごく気持ちよさそう。そんな顔されると、なんだかこっちまで嬉しくなる。

 

「初めてのお風呂はどう、シロコ」

「…………」

 

 ………? 

 

 返事がなくて思わず首を傾げる。気持ちよすぎて聞こえてないのかな? 

 

 様子が気になって、シャワーでシャンプーを流してからしっかりと湯船の方を見ると、シロコが湯船に顔を突っ込んでいた。

 

「うわっ!? シロコ! 大丈夫!?」

 

 慌てて身体を起き上がらせるが返事がない。もしや溺れてしまったのかと慌てたがしかし、呼吸の音はしっかりと聞こえてくる。規則正しい、一定のリズムだ。

 

「ん……ん…?」

 

 ぼーっとした表情で、小さな声で呟くシロコ。意識はあるものの、目が開いたり閉じたりを繰り返している。瞼がしっかりと開いていない。これは──

 

「シロコ、ねむくなっちゃったの?」

 

 コクンと頷くシロコ。まあそっか。そうだよね。ずっと寒いアビドス自治区を彷徨ってたんだもん。こんな温かくて安心できる場所にいると眠くなっちゃうよね。

 

 シロコのため、パパっと少し雑に身体を洗って、湯船には浸からずお風呂から出る。もちろん一緒にだ。

 

「シロコー。寝ちゃってもいいけど、ご飯はいいのー?」

 

 タオルでシロコを拭きながらそう問いかけると、眠気で垂れていたであろうケモ耳がピンと立った。ほんの少し目に覇気も灯っているような気がする。

 

「ご飯は食べる」

「ふふ。少し目も覚めたみたいだね。服は……ちょっと、というか大分大きいけど、とりあえず私のを着といてね。シロコが寝てるうちにいい感じのを探しとくから」

 

 昔着てたものを探せば何かしらは見つかるだろう。そう結論付けて、身体を拭いて服を着て、ご飯を作る準備をする。

 

 お風呂に入ってホカホカスナオオカミになったシロコをリビングのこたつに座らせて台所へ。今スイッチを入れちゃうとシロコの意識が刈り取られそうだから一旦電源はオフのまま。

 

 何作ろうかな。ちゃんとしたものは食べてないみたいだし、消化が悪すぎないもの……うどんでいいか。身体も温まるし。

 

 濃い味付けを避けるため、出汁中心の薄めの味付けに。卵をとじて、茹でたうどんを入れて完成。ねぎは……今日はなしでいいかな。苦手だったらかわいそうだし。

 

 ちょっと雑になっちゃったけど、シロコが寝ちゃう前に作らなきゃだから仕方ないかな。

 

「できたよー」

 

 お盆にお鍋とお椀を二つをのせて、こたつに持っていく。鼻がピクピク。目がキラキラとしているシロコ。

 

 誰かとご飯を食べるなんていつぶりだろう。少なくとも、向こう4年くらいは記憶が無いや。ああいや、お店でラーメンを食べる時は店主と喋ってるか。でもあれだって一緒に食べてるわけじゃないし。

 

 まあとにかく。シロコの我慢が限界だ。どうやらお箸の使い方は分かるみたいなので、用意していたフォークを仕舞って手を合わせる。

 

「シロコ。食べる前にはこうやって手を合わせるんだよ。いただきますって言うの」

「…いただきます」

 

 もういいの? 食べていいの? と目で問いかけてくるシロコに頷く。途端に凄まじいスピードで食べ始めた。

 

 ちょっとはしたないけど、事情が事情だし仕方ないかな。私だって特別行儀がいい訳でもないし。

 

 普段やらないことをやって疲れたし、私も食べちゃおう。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「美味しかったね、シロコ」

「ん……」

 

 ある程度適当に作っても美味しいうどんは最高だ。私もシロコも食べ終わって、こたつの中でゆっくりしている。

 

 お腹もいっぱいになって、シロコの意識が流石に落ちちゃいそうだ。もう寝かせてあげよう。

 

 ベッドまで連れて行って、布団の中にシロコを寝かせる。私が何かを言う前に、規則正しい寝息が聞こえてきた。

 

「……ふふ。襲われた時はぶっ飛ばしてやろうかと思ってたけど、こんなにかわいい子なんてね」

 

 ちょっとお世話を焼いてから警察組織──ヴァルキューレにでも連れて行こうかと思ってたけど、このまま家に住んでもおうかな。

 

 身体も小さいからベッドのサイズにも問題は無いし、将来のアビドス高等学校の生徒だと考えればね。いつだって生徒の数は足りてない場所だし、それに、こんな背丈で武器もなしにそこそこ強かったんだから将来も有望だ。

 

 よく考えてみればアビドスのヴァルキューレ支部がまともな仕事をしてくれるとも思えないし。連れて行ってモヤモヤした思いを抱えたまま過ごすくらいなら私が面倒を見ちゃおう。

 

「おやすみ、シロコ」

 

 そう言葉を残して、残りの家事を片付けるべく寝室を後にした。

 




コクリコ様がいるならこういう子がいてもおかしくなさそう

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