何処にでも現れるおじさんは、僕達を若人と呼ぶ。   作:インチネ・ズィ・マゼタルーノ

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 何も考えずに、感じて下さい。





おじさんと若人達

 

 

「よぉーッス!若人達よ、青春してるかい?」

 

 

 やっぱり居た。

 僕達が旅を始めてから、行く先行く先ことごとくに現れては声を掛けてくる謎のおじさん。

 僕が村を出た時には森の中で、パーティを組めばギルドの中に、旅に出ようとすれば門の前、モンスター討伐では巣の入り口で。

 

 だからやっぱり、ここにも居るとは思ってた。

 

 ダンジョンの崩落に巻き込まれて落ちた下層。ボロボロになりながらもなんとか上階への道を見つけた所で、おじさんは僕達を待っていた。

 

 

「お?なんだなんだ元気ないなぁ、お前らそれでも現役かぁ?」

 

「はぁ…はぁ…うっさいわね…見てわかんない?私達疲れてんのよ!」

 

 

 そう言って吐き捨てたシャーリーは、キッとおじさんを睨みつける。出会った頃から、相性が悪いんだよなぁ…シャーリーが一方的に強く当たってるんだけど、おじさんもおじさんで煽り散らかしてくるのが原因なんじゃないかな?

 

 

「やれやれ、疲れてんのか。ライフポーション。いる?」

 

「よこしなさい!」

 

「やぁ~だよぉ〜」

 

「……こんのクソオヤジがぁ!!」

 

 

 止めなよ…こんな事で体力使わないで、今は皆で無事にダンジョンから脱出する事を考えようよ…

 とは思うものの、僕だって疲労困憊だ。正直、声を上げるのも辛いのだから、おじさんに向かって拳を振るうシャーリーを止められる気がしない。そもそも、僕がおじさんを見ても挨拶をしなかった時点で気付いてほしい。本当に疲れてるんだ。

 

 他のメンバーにシャーリーを止めてほしいのだけど、カイトは基本的に無関心だし、ナンナは僕以上に限界が近い。カンナバルトはナンナの指示でしか動けない。

 

 ……ふぅ。

 

 僕、良くリーダー出来てるよね。自分でも頑張ってると思うよ。僕はリーダーだから、リーダーだから頑張れる。リーダーじゃなかったら心が折れてるかも知れない。見てよカイトのあの顔を、おじさんと会うのは初めてだもんね。ごめんよカイト、僕はずっと、君はソロ専門のクールなライバルだと思ってたんだ…ただの人見知りだなんて知らなかったんだ、初対面の謎のおじさんなんて、怖いに決まってるよね。

 

 

「御大層な挨拶してくれんじゃねぇか、若人。せっかく()()()おじさんが助言をしに来てやったってのによぉ」

 

「はぁはぁ…アンタ、大人しく一発ぐらい殴られなさいよ!」

 

「はぁ?この俺様がぁ?お前みたいなチンチクリンの青二才にぃ殴られるぅぅ?ダーッハッハッハ!冗談はそのささやかな胸だけにしてくれよ」

 

「ヘンタイ!死ね!」

 

 

 勘弁してよ二人とも…モンスターが集まってきたらどうするのさ。

 ……あれ?モンスターは?

 

 

「お、気付いたか?おじさん、若人の為にモンスター避けの結界を張ってやったんだ。感謝しろよ」

 

「ありがとうございます。それで、僕達になんの用ですか?」

 

「用?あ〜いけねぇいけねぇ忘れるところだったな。おじさんは若人達に助言をしに来たのさ。そうだなぁ…まずは現在地から教えてやろう。ここは──」

 

 

 

 おじさんの話によれば、ここはダンジョンの深層16階。僕達は中層9階から落っこちたから、7階層分も落ちたらしい。着地出来たのは、カイトとナンナが居たからだ。二人には感謝しかないよ。

 

 そして、このダンジョンは全20階層らしい。おじさんの話が確かなら、最奥のキマイラを倒せば帰還の魔法陣が使えるのだとか。

 何故そんな事を知っているのかを問いただしたいところではあるけど、情報の出どころが怪しいのは今に始まった事じゃない。そもそも教えてくれないだろう。

 

 

「おぉっとこんな時間か。年取ると外出がツラくてやぁ~ねぇ〜」

 

「だったら、はぁ…わたしが!はぁ…アンタを棺桶にブチ、はぁ…はぁ〜…ブチ込んでやるわよ!」

 

「おー怖い怖い。でもおじさん、そろそろ行かねぇと。じゃあな嬢ちゃん、また今度遊んでやるからな」

 

 

 そう言って、おじさんは風のように姿を消した。何度見ても原理が理解できない瞬間移動だ。今ならカイトも居るし、もしかしたら何か知っているかも知れない。

 

 

「だぁーッ!また逃げられたーッ……あれ?なにかしらコレ」

 

 

 それはもう見事に空を切ったシャーリーの拳。まぁコレくらいはいつもの事か。おじさん跡地で、シャーリーは何かを見付けて拾って来た。うん。取り敢えずなんでも拾って持ってくる癖は止めようね?僕達はそれで崩落トラップに巻き込まれたんだよ?誰も何も言わないけど、帰ったらお説教するからね?

 

 でも、なんだかんだ言って僕とシャーリーはあのおじさんと1年以上の付き合いになる。変な物は…良く貰うけど、今回みたいな状況で危険物を置いていく事は無いだろう。その程度にはおじさんを信用してる。

 

 ……ほんっと、何者なんだろうね。あのおじさん。

 

 

「あっコレ!ねぇフィルマ、コレ見てコレポーションよ!ナンナにもあげるわね」

 

 

 元気良いなシャーリーは。かなりの極限状態だったと思うんだけど…おじさんと会って気力が回復したのかな?僕も知り合いに会えて、少し心が軽くなったし。

 

 拾って来たのはギルドで買える安価な割に丈夫な事で評判の、革袋。それを開きながら持ってきた。前見て歩こうね、転ぶよ?

 

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「ナンナ、顔色悪いわよ。どうかした?」

 

「大丈夫です。あの、えっと…あの方のお名前は、なんというのでしょうか?」

 

「さあ?聞いたことないわ。フィルマは知ってる?」

 

「僕も知らないんだ。おじさん、自分の事は何も教えてくれないから」

 

 

 何者かなんて、僕が聞きたい。

 でも、今はそれどころじゃないから。

 

 

「ナンナ。取り敢えず休もう。絶対大丈夫じゃないでしょ?カイト、おじさんの張った結界はどれくらい保ちそうか分かる?」

 

「…一晩、くらい…だと思う…」

 

「ありがとう。みんな、まずは休もう。おじさんが地図とポーションを残してくれたからね」

 

 

 取り敢えず、交代で仮眠を取ろう。

 この状況で必要なのは、絶対に休息だからね。結界があるうちに休めるだけ休んでしまおうか。

 

 おじさんだってそのつもりで張ってくれたんだろう。じゃなきゃ態々一晩保つ結界なんて無駄でしかないもの。

 

 

「申し訳ありません。あの、やっぱり今のお方について、知っている事だけでも聴かせて頂けませんか?」

 

「おじさんの?いいわよ。フィルマ」

 

 

 シャーリー…君ってヤツは、なんというかアレだよね。僕達じゃなかったらパーティ組めないタイプだよね。面白すぎる女の子で、退屈しない。流石、雇い主を殴ってクビになったメイドだ。文字通り首が飛ばなかったのは、多分その雇い主がとてつもない人格者だったのだろうね。僕もだけど、人と巡り合う運は凄いから。

 

 それで、おじさんかぁ…

 

 

「何も知らないけど、僕が知っている事を話すよ。シャーリーとカイト、カンナバルトは休んでおいて。いつもの砂時計が

落ちきる頃に交代しよう」

 

「分かったわ。さぁ二人とも、寝るわよ」

 

 

 こんな場面だから誰も何も言わないけれど、淑女としてそれはどうなの?カンナバルトは女の子だから良いけど、カイトは男だよ?確かに女の子っぽい顔してるけど、ちゃんと男だよ。僕と同じだよ?確かに女の子みたいに綺麗な顔してるけど。

 

 

「あ、あら?バル?どうしたの?」

 

「すみません。彼女もこちらでよろしいでしょうか?」

 

「そう?じゃあ3人に見張りは任せるわね。カイト、寝るわよ」

 

 

 止めてあげてよ…カイトが困ってるじゃないか。非難がましい視線を僕に送ってきているよ。シャーリー、君はもう少し慎みと言うものを知った方が良い。

 まぁあの二人に限って間違いは起こらないさ。シャーリーならやらかすかもしれない。けど、カイトはその辺りしっかりしてるからね。人見知りさえどうにかすれば、僕はカイトをリーダーに推すね!

 

 それじゃあ、僕達は見張りだ。

 周囲の警戒をしながら、一つずつ話していこう。

 

 

「じゃあナンナ、僕が知っている事を話すよ。でも、何でそこまでして聞きたいのかを教えてくれるかな?今まで、そこまでして人の事を知りたがる事は無かったよね」

 

「そうですね…先に、私とカンナバルトのお話をしましょう。私は教会にて『聖女』と呼ばれる役職に就いておりました。そしてカンナバルトは、私を護る『聖霊』です。ここまではご存知の事かと思います」

 

「そうだね。ナンナが仲間になってくれる時に、一悶着あったもんね。中々刺激的で楽しかったね」

 

 

 ナンナって、結構お転婆だからね。

 治癒系の魔法が使える仲間か、教えてくれる人を探してた時にギルドから紹介されたのがナンナ。ちょっとした治癒魔法が使える家庭教師って言われて出逢ったんだ。

 それで僕がナンナに勉強を教えてもらいながらアレコレしてたら、ちょっとしたトラブルが起こって、ナンナが戦闘も出来るって判明したんだよね。しかもそれから芋蔓式に教会の関係者だって分かって、しかも『聖女』。もうね、僕達もギルドも教会もパニック状態だったよ。

 

 

「その節は…その、ご迷惑をお掛けしました」

 

「迷惑だなんてとんでもない。ナンナ達と仲間になれたのだから、むしろ幸運な話だよ」

 

「ふふ、ありがとうございます。…フィルマさんは、『聖女』と言う役職の成り立ちをご存知ですか?」

 

「ナンナ。僕は最近になってやっと、依頼の報告書を書けるようになった男だよ。学のなさならパーティ随一さ」

 

 

 …そうなんだよね。ナンナとカイトは所謂貴族ってやつだし、シャーリーもあれで大商家の子だからね。みんなちゃんと勉強してて、しっかり頭が良いんだ。勉強なんて必要ない、のんびりしていて退屈な村出身の僕は少し肩身が狭い。

 特に、ちょっと良い所でご飯を食べる時は緊張するよ。だって僕以外のみんなはテーブルマナーとか完璧なんだ、あのシャーリーでも!

 

 昔は全部、依頼書に書くサインもシャーリーに代筆してもらってたくらいだからね。簡単な計算と、読み書きを教えてもらいながら活動していたよ。今は歴史と手紙の書き方を教えてもらってる。

 

 

「この前、シャーリーさんから教わっていた筈では?」

 

「一回で覚えきれるほど頭は良くないよ。…まって、もしかして皆一回で覚えきれるの?アレを!?」

 

「?手紙はともかく、歴史であれば国や教会の成り立ちや、周辺の地理や過去の災害事例を調べればおおよその流れは覚えられますよ」

 

「うわー貴族怖いぃ!」

 

「え、えっ…あの、えと……」

 

「うん、ごめんね。続きを聴かせて」

 

 

 ふむふむなるほど。

 

 カンナバルトは鎧に入った『聖霊』で、あのおじさんを見てとても動揺している…と。もしかしたら、おじさんは教会の関係者かも知れないと。

 あのおじさんに限って聖職者なんて事はないだろうけど、確かに知り合いは多そうだよね。

 

 

「もっと『聖霊』との同調が出来れば、カンナバルトの思っている事を理解出来るのですが…私の力不足です」

 

「確かにおじさんの事は気になるけど、気を落とさないでね。鍛え直すって言って教会から飛び出したんだから、これから出来るようになればいいのさ」

 

「うふふっ、そうですね。ええ、その通りでした」

 

 

 なんとか持ち堪えたね。

 ナンナも割りとメンタル弱いから、僕がフォローしないと…シャーリーにも手伝って欲しいけど、シャーリーはカイト担当だから…

 

 あれ?新規メンバー達、メンタル不安定過ぎない?

 いや、それは良いんだけどね?やる時はやってくれるし、僕もソレをそこまで問題だとは思ってないから。

 他の所はどうなんだろうね。ちょっと気になるけど、他所のパーティからは距離を置かれてるからなぁ…僕達。

 

 

「それで、話を戻しておじさんについてだよね。知ってる事は多くなくて、どこにでも出てくるし、何故か必要な事を知ってるし、何故か大切な物を持ってるんだよね。謎しかないおじさんで、かれこれ1年くらいの付き合いになるかな。後は…あ、おじさんはお酒が好きだよ特に蜂蜜酒(ミード)みたいな甘いやつ。前に渡したら咽び泣いて喜んでたっけ。後で聞いたら、昔知り合いに付き合って甘いお酒を飲んでる内にハマっちゃったんだって」

 

「……」

 

「カンナバルト、どうかしたの?」

 

「その方を知っているそうです。」

 

「ホントに!!?」

 

 

 なんてことだ、とうとうおじさんの謎が解ける日がくるなんて!

 

 

「それでナンナ!カンナバルトはなんて言ってるの?」

 

「………!」

 

「それが、その…教えてくれないのです」

 

「……♪」

 

 

 

 僕が分かったのは、この日、おじさんの謎が増えた事だけだった。

 

 

 

 

 

 

 そのあと、ダンジョンは踏破したし、最奥に居た魔人とか言うのを倒したらおじさんが出てきたし、ダンジョン踏破の報告にギルドに行ったら貴族のお偉いさんが居て、僕達の話に物凄く食いついて御屋敷に招待された。なんかおじさんの肖像画が飾ってあって、僕はそれどころじゃなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 





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