TS娘が幼馴染と恋愛できるわけないじゃん 作:GNTNTN
「
「変わってるってそういうことじゃなくない!?」
転校生の挨拶をぶった切り教室に居る全ての視線を吸い寄せてしまうことも気にせず甘織れな子は絶叫する。
理由は単純、幼馴染の姿が変わり果てていたから。
男子から女子に変わってしまうような大変身に驚かないほどれな子の常識はまだ現実離れしていなかった。
時は遡ること夏休み終了一週間前の朝。
凪砂はある事情で夏休み明けから転校を控えている。
中学三年間の出来事は名残り惜しいものの、それと同じくらいの楽しみもある。
生まれてから小学校卒業までの間一緒だった幼馴染と連絡を取り合ったりオンラインでゲームに付き合うくらいのことはしてきたが、実際に顔を合わせるのは三年振りというロマンティックなシチュエーションは少年の心を躍らせるには充分だった。
「は……?」
だと言うのに、朝イチ番に顔を洗いに行くと洗面台の鏡に映る自身の姿は中性的などという言葉が生温いほど女子のモノになってしまっていた。
肩甲骨まで伸びた色素の薄いの白い髪に、人形のように端正な顔の少女が自身の姿だと思いたくないが、声ももちろん身体のあちこちを確認しても生物学的にはオンナでしかない。
独り暮らしである以上リビングのソファーの上で元の男の身体のサイズに合わせただぼだぼのシャツとゴムを限界まで絞らないとずり落ちてしまうルームパンツのまま項垂れていても何も起きやしないし、誰も解決はしてくれない。
「……これからどうすんの」
ここからの一週間のことは凪砂本人もよく覚えていないくらいにはあちこち奔走してなんとか全ての準備を終わらせて転校初日を迎えた。
(……なんかこのクラスの顔面偏差値やたら高くないか?)
初日のことを回想しながら絶叫するれな子をスルーして指定された自分の席に座る。
ちらとクラス全体を見ると野性の有名人が居たりもしたが、それを抜きにしても何人か顔の良い女子生徒を確認した。
それからは放課後までの隙間時間はクラスの女子に囲まれて色々と質問責めを受けたものの、それとなくやり過ごすことができた。
事が起きたのはその後。帰りのホームルームが終わった瞬間にれな子が凪砂の腕を掴んで屋上へと連れ込まれた。
「説明、してほしいんだけど……何がどうしてそうなったの?」
凪砂とれな子は二人屋上の柵に背もたれにするように並んで座る。
表情は困惑と心配が混ざったような表情かられな子が多少なりとも身を案じてくれているのがわかって凪砂は少しだけ嬉しような気がした。
「どうもこうも……目が覚めたら女になってたとしか……これ以上本当に説明できなくて」
「……元々女の子とかだったり?」
「しないしない」
「それはそれで理解できないんだけど!?」
フランス出身でも第三の性別でも何でもなく純日本男児だったはずの幼馴染がびっくり人間になってしまったという眼前の事実は理解しがたく、れな子は頭を抱えるしかない。
「……まぁ、そうだよね。自分でもよくわかんないし、こんなんになっちゃってれな子と会うの、ちょっと怖かったし……」
「怖かった?」
「うん。こんなの凪砂じゃない。とか、そういうこと言われて拒絶されるかと思ったら嫌だなって」
見た目どころか性別すら変わってしまって拒絶されるかと内心ビクビクしていた。
「だけど、こうやって手を引っ張ってくれたって言うのは結構嬉しいかな」
素直に嬉しくなってしまった凪砂は自然と口角が上がってしまうが、その様子を見たれな子は逆にむっとした表情になってしまう。
「拒絶なんてするわけないじゃん! そんなこと思ってるくらいなら普通に相談してほしかったんだけど!」
家族以外では一番付き合いの長い友人が困っているのに助けを求めて来なかったことは、れな子自身に何かできたかはわからないが、わからないなりに何かさせてほしかったという怒りに似た感情が沸いてくる。
「……ごめん。そこまで気が回ってなかったから……でも、これからはちゃんと頼らせてもらいたいんだけど、もう遅いかな?」
申し訳なさから来る困り顔と上目遣いのコンボは普通に美少女にカテゴライズされる凪砂の顔から繰り出されれば普通にれな子に効いた。
「……仕方ないなぁ」
れな子に色々あった中学三年間で言いがかりで酷いことも言ったりもしたが、ただただ文句も言わずにゲームに付き合ってくれた幼馴染に頼られては流石の彼女も首を縦に降らざるをえなかった。
「それで早速で申し訳ないんだけどさ……女子って服って何処で買ってるの?」
「……すぅー」
いきなりの難題にれな子は思わず深呼吸をしてしまう。
このままでは凪砂の服のレパートリーが男物の服以外は制服のみになってしまうため、思い付く範囲では私服の拡充が一番の問題だったのだが、相談する相手が悪かった。
妹に選んでもらった服か、適当なシャツくらいしかないれな子にも世の中の一般女子高生が何処で服を選んでいるか知っている訳もなかった。
凪砂も実物のれな子のイメージは小学生時代で止まっているため女子に対する理想のようなモノを抱いているせいでそれを察することができない。
「れな子?」
「い、いや! 私ももうただの陰キャじゃないから! あの王塚真唯グループっていうクラスカーストトップオブ陽キャグループに属してるんだから!」
「一個だけ突っ込んでいい?」
「嫌だ! 陰キャは殴られると死んじゃうんだから!」
こういう時の凪砂は正論パンチをかましてくるため、れな子が両腕をクロスさせてバツ印を作る。
冷静に考えればれな子は必死に高校デビューしたのだろうことは理解できるが、そもそも陽キャは陽とか陰とかで人を区別しないのでは? という疑問は彼女を死に至らしめてしまう可能性があり、凪砂はその疑問をそっと心の中にしまっておくことにした。
「じゃあ言わないけど……」
「ホントに止めてね?」
例え性別が変わったとしてもこうして話せるというだけで嬉しい。二人揃って再会できた実感のようなモノが込み上げて微笑みが溢れる。
ただやっぱり凪砂としてはどうしてもモヤモヤが残ってしまう。
(……嗚呼、さようなら俺の初恋。最初から女として産まれてたらもっと違ったのかな……)
ひっそりと一人の元少年現少女の恋が終わろうとしていた。