TS娘が幼馴染と恋愛できるわけないじゃん 作:GNTNTN
「凪砂、ちょっといい?」
「え、何?」
翌日。何事も無かったかのように登校してきたれな子に呼びつけられた凪砂は人目の無い校舎裏に連れ込まれた。
「あの……ら、乱暴しないで……」
「んなことするか!!」
わざとらしく両手で肩を抱いて怯えた振りをするとれな子がいつもの調子に戻った。
以前、見てしまった凪砂の身体を思い出してしまって一瞬良くない思考が過ったが、れな子は顔を左右に振って煩悩を振り切る。
「あのさ。皆口さんのこと覚えてる?」
「あー、今気付いたの?」
「え、凪砂気付いてたの!?」
れな子の様子を見るに、気付いていなかったのだろう。
香穂は性格や苗字こそ当時と変わっているが、昔通っていた同じ塾に通っていた皆口香穂と同一人物に間違いない。
「お前……気付いてなかったのかよ。多分向こうは気付いてるぞ」
「嘘ぉ……え、というか、凪砂は不味いんじゃない?」
「そうだよ。不味いんだよ」
れな子と幼馴染で名前も同じとなれば流石にわかるだろう。
しかも、男が女になっているだなんて状況で不審に思うのは当然で、ある意味香穂次第で凪砂の命運は決まってしまうと言っても過言ではない。
「じゃあ、どうすんのさ」
「れな子はどうしたいんだよ。皆口さんとは仲良かったじゃんか」
「それは……そうなんだけどさ」
れな子が言葉を濁す。
昔、仲が良かったからといって、今になって突然『皆口さんだったんだね』と本人に詰め寄って良いものなのかはわからない。
少なくとも香穂本人はそんな素振りを一度も見せていない。
「でもさ」
れな子が少しだけ声を落とした。
「香穂ちゃん、なんで何も言わなかったんだろ」
「そんなの俺には……お前だって陰キャなの隠してるし」
「それもそうだけど……!」
凪砂としてはそれ以上でも以下でもない。
言いたくないこと、知られたくないこと、そんなものは誰にだってある。
凪砂自身、それを嫌というほど抱えている。
「でも――」
確かに悩んでることを全部話すだなんて、れな子もできていないし、ましてや、性別のことを話してくれなかった凪砂にもできるわけがなかった。
「……戻るか」
「うん」
結局、香穂の正体に気付いたということを共有しただけで、具体的な方針までは決まらないまま予鈴が鳴り、二人は教室へ戻った。
「あ、れなちんとナーちゃん戻ってきた。何してたの?」
「れな子に校舎裏に連れ込まれて言えないことされてた。ヨヨヨ……」
「うわぁ……れなちん最低だ……よしよし」
「違うからね!?」
二人が教室に戻ると香穂が近付いてくる。
凪砂が泣き真似をして香穂へ泣きつけば、何故か真唯と紫陽花の席の方からガタッと音が聞こえたような気がした。
「どうかにゃあ……というかナーちゃんに手を出すとは相当なスキモノよのぉ」
「ぐすんぐすん。れな子がぁ、やめてって言ってもやめてくれなくてぇ……!」
「だからやめてって!」
香穂が面白がって凪砂の頭を撫でる。
凪砂と香穂が絡むと大体こんな感じである。
なんだかんだで香穂と、彼女よりも身長の低い凪砂のペアはクラス内で本人達が知らないところで人気を博していたりする。
「こんなちんちくりん好きにしても楽しくないでしょ……」
「まぁ、そうかも」
「さりげに香穂も酷くない? 梯子外し反対!」
手のひらを返された凪砂は香穂に抗議する。
「でもナーちゃんちっちゃいじゃん」
「私だって好きでこのサイズになったわけじゃないやい!」
「でも、小さくて軽いしなぁ……前に──」
凪砂を抱えることになった時の感触を思い出したのか、うっかり口を滑らせたれな子が露骨に目を逸らして言葉が止まる。
「前に?」
「し、知らない!」
「れなちん怪しいなぁ」
香穂からすれば、凪砂の反応を見る限り自分の知らないところで何かあったようにしか見えない。
これは好機と言わんばかりに香穂はニヤニヤしながられな子へ顔を寄せる。
「もしかして本当に校舎裏で?」
「違うって言ってるでしょ!」
「え……本当に覚えないんだけど、いつそんなことしたの……?」
れな子に睨まれて凪砂は香穂の陰へ逃げ込む。
ふざけているわけではなく記憶がない。紗月や真唯から聞いたにしては妙に実感の籠っている声音なのが気になる。
「もしかして、あの時私が寝てた間に……何かしたの?」
「凪砂ァ!」
本気で何かされたのかと思い始めた凪砂の誤解を解くのに昼休みまで時間を要した。
因みにこのやり取りを見ていた真唯と紫陽花は椅子から転げ落ちていた。
そんなことがあった放課後。
今日は三人で帰ることになった凪砂は、忘れ物をしたと言って教室へ戻ったれな子を香穂と待っていた。
「今日のれなちんなんか変じゃなかった?」
「そう?」
「朝からちょいちょいあたしのこと見てるし」
「……気のせいじゃない?」
「ふぅん」
れな子は校舎裏で話したことが引っ掛かっているのだろう。
それで挙動不審になったれな子を香穂も気にしていた。
「二人ともお待たせー」
教室から戻ってきたれな子と合流し、そのまま三人で学校を出る。
いつもなら駅まで一緒に帰って解散するところだったが、今日はれな子から寄り道を提案され、学校近くのファミレスへ入ることになった。
「珍しいね。れなちんから寄ってこうって言うなんて」
「たまには良いじゃん」
「私は今日バイトだからそれまでなら別に良いけど」
家に帰ったところでバイトまで時間を持て余すだけなので、凪砂に断る理由はなかった。
三人で奥のボックス席へ座る。
「めんどいから先に聞いちゃうんだけど、れなちん今日ずっとどしたん?」
注文を済ませてドリンクバーからそれぞれ飲み物を取ってくる。
「なんか言いたいことあるなら言えば?」
先に香穂から切り込んだ。いつも通りの声音なのが逆に少し怖さを感じさせる。
「これさ。香穂ちゃんだよね?」
おずおずとれな子が鞄から写真を取り出した。
昔、れな子と香穂が並んで撮ったツーショット写真だ。
この時は男子特有の照れで自分は写らなかったことを凪砂は覚えていた。
「香穂ちゃんを脅そうとかそういうんじゃなくて! 単純に最近しんどいことが多くて……純粋にお喋りしたいな……的なアレで……」
「……ふーん」
一瞬固まった香穂だったが、れな子の言葉を聞いて僅かに表情を緩めた。
「凪砂も女の子になっちゃったけど、こうやってまた三人で集まれたらって……」
「ん?」
「だから、凪砂が女の子に……あっ」
「げほっ! げほっ……!」
れな子の暴露に凪砂が咳き込む。
何のために今まで隠していたというのにこんなうっかりでバラされてしまった。
「あっ。じゃないよ! あっじゃ!」
今後の高校生活はどうなってしまうのか。凪砂が凄まじい量の冷や汗を掻きながられな子の胸ぐらを掴む。
「そうじゃないかなぁって思ってたけど、マジでナーちゃんって本島君なの?」
「……そうだよぉ。なんか朝起きたら女の子になっちゃっててぇ──」
最早諦めて白状した凪砂から事情を聞いた香穂は訝しみながら凪砂を凝視していた。
「なるほどねぇ……」
「あ、あの……香穂ちゃん?」
次第に二の腕やお腹周りを触り始めた香穂に困惑が隠せない。
「何セクハラしてんのさ」
「いや……思いの外うそほそでエッチな身体つきしてるなぁと」
「エ、エッチなの!?」
香穂は自身よりさらに小柄で華奢な凪砂を改めて眺める。
細いことには違いないのだが、完全に女の子になった身体のラインは思っていた以上に目を引くものがあった。
「てかバイトだから! それじゃ!」
顔を真っ赤にしながら凪砂は自分が注文した分の代金だけ置いてバイト先へ向かった。
バイトには支障は出なかったが、終わり際に紗月に意を決して一つだけ聞いてみることにした。
「紗月さん……私の身体ってうすほそでエッチなんですか……?」
「……はぁ」
かなり間を置いて凪砂の身体を頭から爪先まで見た紗月が溜め息を吐く。
「本島。馬鹿なこと言ってないで早く帰って家事でもしてなさい」
紗月の目は冷ややかだった。