TS娘が幼馴染と恋愛できるわけないじゃん   作:GNTNTN

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女子更衣室に入れるわけないじゃん

「というわけで、私の幼馴染の凪砂だよ。皆も仲良くしてくれると嬉しいかな」

 

 女子高生生活二日目。

 昼休みにれな子の紹介でグループに混ぜてもらうことにはなったのだが、凪砂の心は悲鳴を上げていた。

 

(れな子のバカバカバカ! なんで男の頃の知り合いが居るグループに属してんのさ!)

「私は同じバイト先だからもう知ってたけどね」

「えっ、凪砂虐められてない?」

「甘織」

 

 凪砂の心の叫びをれな子が察することもなく、紗月から二文字で圧をかけられていた。

 クールそうな雰囲気とは裏腹に意外と弄られていそうなところを見ると紗月に対しての印象が少し柔らかくなった気がする。

 

「んー……」

「な、何かな? 小柳さん」

 

 その昔、塾に通っていた凪砂はれな子ともう一人の女子と仲良くしていた記憶がある。

 名前も雰囲気も当時と変わっているが、その相手は現在進行形で凪砂に訝しげな視線を向けてムムムと擬音を出して首を傾げている小柳香穂である。

 

「会ったことあるような、無いような……お兄ちゃんとか弟くん居る?」

「その質問流行ってるの? 居ないし、小柳さんと初対面だよ」

「そうかなぁ?」

 

 先日も紗月に同じことを聞かれた途端に心臓がきゅっと締まって冷や汗どばっと出たような気がした。

 紗月の時は彼女の茶目っ気だとしても、今回は本当に凪砂と香穂は面識があるため、バレたらとんでもないことになってしまいそうで、今すぐにでも飛び出してしまいたいくらいである。

 

(く、苦しい……! れな子にフォローしてもらうはずだったのに、このグループ苦しい……!!)

 

 少しでも気が緩めば今にも死んでしまいそうな女子がしてはいけないような表情が出てしまうため必死に取り繕うしかない。

 女子高生とはこうにも苦しいものなのかと、凪砂しか抱えたことがない苦しみに内心のたうち回る。

 

「そういえば凪砂は昔──」

 

 そんな感じでアルバイト先の話やられな子とのエピソードトークを交えながらも食べた昼食の味はよくわからないまま次の授業が始まろうとしていた。

 

 ──が、そこで問題が起きた。

 

「ちょいちょい、れな子」

「どうかした? 次の授業体育だから急がないとなんだけど」

 

 神妙な面持ちの凪砂に教室の外に呼び出されて何事かと頭上に疑問符を浮かべつつも、結構頼ってくれることが嬉しいことには代わりなかった。

 

「それ! それが問題なの!」

「というと?」

「それは、ほら……! アレだよ!」

 

 凪砂としては死活問題なのに、察しの悪いれな子のせいで、あまり大声で言えないことを伝えるためにスマホを取り出してメッセージを打ち込む。

 

『俺が女子更衣室に行くのは問題だろ!!』

「へ、変態! 何考えてんの!?」

 

 身体は女でも中身は男のまま。

 実際に凪砂に肌を見られると思うと普通に嫌だった。

 唯一仲の良い。と言っても元がついてしまうが男子の凪砂から自分の、さらに言えば他の異性の着替えを見るというのは倫理的に問題が有りすぎる。

 

「どうしよう……」

「め、目隠しでもして……とか?」

「やばいやつじゃん!」

 

 そういうプレイにしか見えない絵面である。

 体育の授業は休んでしまうことが無難かもしれないが、これからの体育の授業を全てそうするわけにもいかない。

 

「じゃあトイレで着替えるとかは?」

「いや、トイレも……ほら、ね?」

「それもそうだ」

 

 れな子が代替案を出してみたものの、女子更衣室がダメで女子トイレが許されるわけもない。

 そして、自分の言葉から疑問を感じたれな子がはっとしながら凪砂に一つ問う。

 

「それもダメなら普段どうしてるの?」

「……めっちゃ我慢してる」

「バッカじゃないの!?」

 

 身体によくない我慢をしている幼馴染にれな子は驚愕を隠せない。

 前提として小さい頃の女子は男子を馬鹿だと思いがちで、その頃の付き合いから関係が進んでいないということがあるにしても、馬鹿だと改めて実感させられる。

 そういうところで変わっていない安心感を出してほしくはなかった。とれな子は溜め息を吐く。

 

「し、仕方ない……ちょっと行ってくる」

 

 背に腹は代えられない。

 妥協に妥協を重ねて体操着を持って初女子トイレの実績を解除しにとぼとぼと歩いていく凪砂の姿は何処か小さく、寂しげにれな子の瞳に写った。

 

「はい、二人組作ってー」

 

 そうして何とか着替えを終えて無事に体育の授業に参加すると、柔軟のために二人組を作るように教師が指示を出す。

 

「れな──」

 

 凪砂は当然のようにれな子と組むつもりで、彼女に声を掛けようとすると背後から肩に手を置かれて振り向くと紗月の姿があった。

 

「本島、私と組んでもらっていいかしら?」

「あ、はい……」

 

 身長の関係で見下ろされる角度で紗月から目線を向けられると圧があり、それに凪砂は逆らえなかった。

 余談だが、その様子をれな子は「大変そ」くらいの感覚で見守っていた。

 それはそれとして今日は髪を下ろしている真唯から逃げる術を失ってしまい、後悔するのはまた別の話である。

 

「聞いてなかったのだけど、どうして本島はバイトを始めたの?」

 

 柔軟を行いながら紗月は落ち着いた声音で凪砂がアルバイトをする理由を訊ねた。

 それくらいなら嘘を着く必要はない。素直に話すくらいのことはしても良い。

 

「私、夏休みくらいから一人暮らししてまして」

「そうなの」

「それでお小遣い欲しさというか今のうちにちょっとでも貯金しようかと思って」

 

 嘘は言っていない。

 ただ人にはあまり言おうとは思っていないことがあるだけで、今は謎の性転換のこともあって整理がついていない。

 本当にただそれだけの話である。

 

「ちゃんと食事は摂りなさい。あなた体格からしてかなり華奢な方だから、もう少し食べた方が良いわ」

「もしかして私の身体が目的で!?」

「言い方に悪意しか感じないのだけど、不安になるくらい細いと感じただけよ」

 

 紗月は柔軟で身体に触れて、かなり細い身体をしている凪砂を心配しただけである。

 そう言われてハッとした凪砂はナチュラルに女子とスキンシップをしてしまっていることに気づいたこともあってか、顔を赤らめながら紗月から一歩後退る。

 

「こんな貧相な身体に何の用が……! むぐっ」

「本島」

 

 主に凪砂が騒いでいるせいで周囲の生徒の視線が集まり出し、有らぬ誤解を招きかねない発言を止めるために紗月は彼女の口を手で物理的に塞いだ。

 

 それはそれで黒と白の髪の美少女がそういう絡みをしていることが画になってしまっていたのか、別の噂が立ってしまっていたのを二人が知るのはかなり後のことだった。

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