TS娘が幼馴染と恋愛できるわけないじゃん   作:GNTNTN

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明けましておめでとうございます。


そんなこと覚えてるわけないじゃん

(今日は帰ったらどうしようっかなぁ……こそ練してもいいし、溜まってるアニメ見ても良いなぁ)

 

 バイトの業務内容にも慣れ、あまりよろしくはない気がするが女子高生の擬態も板についてきた頃。

 勤務時間も終わり、凪砂はバイト先のトイレ兼更衣室でバイトの制服から芦ケ谷高校の制服に着替えが終わり帰り支度をしていた。

 

「ふんふんふーん……はっ!」

 

 帰り道でコンビニ寄って甘味を調達したって良い。

 この後の趣味の時間にウキウキしていると、背後から何か近寄る気配がして、はっとしながら振り向くと、紗月があっと声を盛らして一瞬硬直した姿があった。

 すらりとしたスタイルのせいで余計に恐怖を煽られた気がするが、凪砂は流石に失礼だと口を噤む。

 

「今、私を貞子か何かだと思っていたでしょう」

「人の心を読むのやめてもらっていいですか!? 閉心術覚えないといけないじゃないですか!」

「あなたのホグワーツ行きはどうでも良いとして、この後時間貰えるかしら?」

「少しくらいなら──」

「いや、やっぱり面倒だからあなたの家に直接お邪魔させてもらうわ」

 

 表情にも出していないはずの心を読まれ狼狽えている凪砂を気にすることもなく、紗月は当然のように家に来ると宣言していた。

 

「はい……?」

(不味いか? 一旦不味いか? 部屋に男モノの衣類置きっぱだったっけ? あった場合兄弟のーって誤魔化し効かないぞ! どうしようどうしようどうしよう)

 

 ゲームや漫画程度なら趣味の程度で済むが男モノがあればそれはもう彼氏がいるとかそういうことを言うしかなくなる。

 背中からぶわっと流れ出した冷や汗から冷たさを感じながら出した凪砂の答えは──。

 

「い、いいですよー」

 

 諦めだった。

 どうせ断ったとしてもれな子を利用して乗り込んでくる気配もあったせいでさっさと入れてしまって満足させた方が良いだろうと判断した結果である。

 

 退勤した二人は凪砂の家に向かって歩き出す。

 紗月との距離感を何となく掴んできたお陰で無理に喋らなくても良く、擬態のために使うMP消費を抑えられることは凪砂としてはありがたかった。

 

(そもそも何で紗月さんはそんなに俺に構ってくる、というか世話焼き? しようとしてくるんだろうか……)

「あんまり着いたら話してあげるわよ」

 

 単純に疑問として出会った日から何かと気に掛けてくる理由が一切わからずに凪砂が悶々としていると、また紗月に心を読まれた。

 ここまで来ると一般的に男が異性にうっすらと考えてしまう下世話な内容ですら見透かされていそうで気が気ではない。

 

「本当に心読むのやめてもらえます!? 本気で閉心術覚えに行きますよ!」

「キングスクロス駅で一生見つからない9と4分の3番線を探してなさい」

 

 たまにそんな感じの会話が発生する帰り道も凪砂は悪くないなと思ってしまった。

 

(た、助けてれな子……! 俺、紗月さんのこと好きになっちゃう……!)

 

 凪砂も所詮は男。

 顔が良くて理由はわからないが自分に絡んでくる女子が隣に歩いているだけで割りと簡単に好きになってしまう。

 

「というわけで我が家です。あんまり広くはないですけど」

「そういう割には良い家住んでるのね」

「まあ、ちょっとばかしお金に余裕はあったので……」

 

 何かと葛藤しながら自宅に到着して、紗月を中に迎い入れる。

 幸い見られて困るようなモノはなかったので、安堵した凪砂がそのままテーブルまで案内して水出しの麦茶をコップに注いで紗月に渡した。

 

「それで……お話というのは?」

 

 紗月がこういう風に自分のことを話すタイプには見えていなかったということもあるが、流石に勿体ぶられているせいで気になる。

 

「話す前にもう一度聞くのだけど、本当にご兄弟は居ない。であってるかしら?」

「生まれてからこの方一人っ子です」

 

 急に血が繋がった生き別れの兄弟姉妹が出てきたら話は変わるが、それもないと信じたい。

 

「そう……私ね。中学二年の夏くらいにあなたと同じ名字の男の子を見たことあるのよ」

 

 流石に答えが変わるものでもないかと、紗月は思い出話を始める。

 特別大事でもないが、忘れるには勿体ない。そんな表情を何と呼ぶか知っている。

 

「へ、へー……そうなんですね」

(お、覚えがねぇ~~!! は、誰よその男! どこの本島くんなのよ! 紗月さんみたいな人覚えてそうなもんなのに全く記憶にございません!)

 

 気がするだけで最近香穂という前例が居たせいで、その手の話に敏感になってしまっている凪砂にそれを気づけるだけの余裕はなかった。

 

「本を読むのが好きだった私は市民図書館に通っていて、本を読んでいたのだけれど……座っていたところから見えた公園に男の子が居たのよ」

(うん……? なんでその流れで名字知ってるんだろ? でも、一旦セーフか?)

 

 本当に記憶にない話だった。

 偶然名字が一緒なだけかもしれないと凪砂は安堵を漏らしそうになるものの、ぐっと飲み込んだ。

 

「その男の子は走り幅跳びをしていて、砂場に引いた線を越えようと必死に何度も挑戦してるのを私は眺めていたわ」

「その男の子と話したりしたんですか?」

「いや、ただ見ているだけで話すこともなかったわ。

 その後、何となく気になって図書館から出て公園に行った時にはもうハンカチが落ちてて、それに名字が書いてあっただけよ」

 

 どうして気になったか。という部分が凪砂としては気になったが、本題ではないのだろうと触れないでおく。

 

「そんなことが……って、それだけですか?」

「そうよ、それだけであなたが彼と繋がりがあると思ったのだけれど。まぁ、結果としてはあなたには全く関係ない話で悪いわね」

 

 たった一度目にした他人の関係者だったから。

 本人がどう思っているかはわからないが、それだけで紗月が自分のことを気に掛けてくれたというのなら、やっぱり雰囲気によらず良い人なのだろうと凪砂の中で彼女の評価が上がっていく。

 

「関係なくないですよ。だって、紗月さんの話ですから」

 

 関係のない話を話してもらえた。それも出会って間もない自分にということが嬉しくて自然と笑みが溢れる。

 自分が関係あろうがなかろうが、それだけは嘘ではなかった。

 

「甘織、大変そうね……」

「えっ? なんでれな子の名前が出るんです?」

 

 凪砂はよく紗月の顔が良いと思うことがあるが、本人も方向性は違うとはいえ顔面偏差値は高い方であることを自覚していない。

 紗月からしてみれば自分でも直撃したらぐらつきそうな凪砂の笑顔に晒されているれな子に同情の念が湧いてきた。

 

「自分で考えなさい」

「えー……」

「……お茶ありがとうね。今日はもう帰るわ」

 

 それはそれとして、自覚させて見れなくなってしまうには惜しいと思い、紗月ははぐらかしながら麦茶を一気飲みして帰ることにした。

 

「じゃあ送りますよ、紗月さんの家ってどこら辺なんです?」

「玄関までで良いわ。あなた、家に戻る途中で鞄に入れられて誘拐されそうだもの。

 じゃあまた明日、学校で会いましょう」

 

 紗月が冗談半分の心配をすると「そ、そんなに……?」とほんのりショックを受けている凪砂にそのまま別れを告げて家を出た。

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