TS娘が幼馴染と恋愛できるわけないじゃん 作:GNTNTN
「お邪魔しまーす」
「ようこそー」
紗月から話を聞いた翌日の放課後、凪砂と一緒に下校していたれな子が何か決心したかのように家に行きたいと言い出した。
特に断る理由もなく、二つ返事で了承した結果、れな子の凪砂宅初訪問となった。
「これで凪砂の家に来たのは私が一番目?」
「いや、二番目の女だけど?」
誰に対してのマウントなのかわからなかったが、事実としてれな子が来たのは初めてだが、凪砂の家に人が来たのは初めてではない。
「誰よ! その女!」
「紗月さん」
「知ってる人だった!」
れな子自身がトラウマのせいで男性が苦手になってもオンラインとはいえ定期的に遊ぶ友人としての関係を維持するくらいには特別視しているように、また凪砂からもそういう風に思われていたら嬉しいなという期待を無自覚にしてしまっているところがある。
だからか、紗月に対してというより、凪砂が一番最初に入れてくれなかったことにやり場のないモヤモヤを感じてしまう。
「で、何かゲームする?」
「その前に、気になってたんだけど……」
凪砂はスチールラックに置かれた籠の中から客人用のコントローラーを持ち出して、れな子にそれを差し出すと彼女に前腕の辺りを掴まれる。
「えっ、何?」
「ほっそ! ちゃんとご飯食べてる!?」
「今日も隣でおにぎり食べてたじゃん」
「それ1個だけでしょ! そりゃ紗月さんも殺し屋の目付きになるよ!」
最近食欲が薄いということもあり、ちゃんと飯を食えと助言してきた紗月の前で心苦しくはあったものの、食えないものは食えない。
「とりあえず聞くけど体重どれくらい?」
「れな子さんのえっち! 乙女に体重聞く?」
「あ、今そういうの良いから」
凪砂が肩を抱いておどけると、れな子から真顔とトーンの低い声のコンボが飛んできて、思わず背筋を伸ばして正座になってしまった。
「確か……身長が150くらいで体重が36キロくらいだったから大体BMIは16前後かな……? 普通に痩せすぎ体型だと思う」
「……そりゃ紗月さんに心配されるよ! 何なら紫陽花さんだって少し心配してたよ!」
凪砂はざっくりとした数値から自身のBMIを割り出して、それが基準からどのくらいの数値か言うと、れな子が悲鳴のような叫びをあげる。
そう言われても。とバツの悪そうな態度をとるしかなくなり自宅のはずなのに居心地が悪くなってしまう。
「無理に食べろ。なんて言わないけど、流石に不健康な生活してたらおばさんとおじさんに怒られるんじゃないの?」
「──」
心臓を掴まれたような気がした。
呼吸の仕方も忘れてしまったのか、酸素が回らなくなってぐらつきそうになってしまうが、出てしまいそうなナニかをぐっと飲み込んでしまった。
「うちはそこら辺放任というか、いい加減だからさ」
「ふーん」
「そんな話はさておき、ゲームやろうよ」
なんだかんだでお互いに顔を突き合わせて遊びたいという気持ちもあったのか、それからはゲームで仲良く……とは言い難い言葉の応酬を繰り広げていた。
「あっ! お前! そのタイミングのワープは卑怯だろうが!!」
「はー? 勝ちは勝ちでしょうが! ちょっ!! ワープ読んでトラップ仕掛けてる方があり得ないでしょ!!」
五色くらいの原生生物を駆使して、宝物を運搬する某ゲームの対戦モードで画面の絵図のゆるさに反して、プレイヤーの二人はゲーマーとしての本能を剥き出しにした愚かな人間達と化す。
れな子と二人きりの時ばかりは凪砂も女子高生の皮を被らなくて良いということもあって、良いリフレッシュとなった。
「そういや、頼んでおいてアレなんだけど……宿題になってた服選びの件は……?」
「あ、あー……その、はい、結局そっち方面のことは妹に任せっきりなので……」
連戦に次ぐ連戦により、お互いの体力が尽きてきた頃、未だに更新されない私服をいい加減どうにかしたい凪砂は服選びの件についてれな子に聞いてみれば案の定彼女本人に期待できそうな反応は返ってこなかった。
「いや……うん。何というかそんな気はしてた」
「もうちょい何か無いの!?」
「ないよ」
いくら高校デビューしていようが中身はれな子のままである以上、良い意味で期待はしていなかったある意味想定通りで淡白な反応しか凪砂からは出せない。
逆にれな子はネタにしてくれれば良かったのだが、微妙に噛み合わない二人だった。
「それで、その……私を頼ってって言っておいて情けない話なんだけど、服選びは遥奈に手伝ってもらった方が良いと思うんだけど……どうする?」
「スッー……一旦、無しで」
いずれ、とは思っていてもやはり打ち明けるには相当の覚悟が必要になる。
知っている口は少ない方が秘密は保たれやすい。
黙っていたことがバレた場合が怖いがしばらくは打ち明けない方向になった。
「わかったよ。時間的にそろそろ……んっー!?」
「どしたん? 話聞こか?」
話が一段落したところで良い時間になったため、帰宅しようとしたれな子が凄まじい顔でスマホを目にして固まるのを見た凪砂はどうせ学校に忘れ物したとかそういうことなのだろうと雑に言葉を投げ掛けた。
「電車止まってて帰れないんだけど!?」
「oh……復旧は?」
軽く情報を調べたら深夜まで復旧する見込みはなく、徒歩で帰るには厳しい距離であったため、れな子は家に連絡したのだが、戻ってきた彼女は冷や汗を掻いていた。
「あ、あのー……明日は土曜日だし、外泊の許可は出たんだけど……ここら辺でネカフェとかってぇ……」
「女子が一人で泊まるには危ないだろ」
「だよねぇ……ここら辺に他に泊まれそうな場所もないんだよねぇ……」
「じゃあ、うちに……じゃあ、うちに!?!?」
泊まる場所がないなら仕方ない。
そんな軽い気持ちで提案したが、今はこんな状況であるが『意中の異性が自分の家に泊まる』というイベントの発生トリガーを踏んでしまい、思わず大声が出てしまう。
れな子自身も相手に元が付くが『初めて異性の家に泊まる』という状況には、流石に動揺せざるを得なかった。
「凪砂は男子だけど、元だから! セーフだよ! セーフ! しかも変な気なんて起こさないでしょ!」
「わっかんないじゃん! れな子が起こす可能性だってあるよ! というか一旦落ち着かない!?」
「そうだね! はい! 深呼吸!」
お互いに変な興奮によってヒートアップしてしまうが、凪砂がブレーキを踏めたおかげで深呼吸をすることによって落ち着きを取り戻した。
「実際、泊まらざるをえないので泊まらせていただくんですけど、着替えとかって……」
「俺、今男の時に用意したワイシャツ着てるからそれで……女物の下着すらないので……その、適当に洗濯してもらって……」
「えっ、待って。じゃあ凪砂は普段の下着は……?」
聞き捨てならない言葉が聞こえて、れな子は凪砂が普段は何を身につけているのかと思わず訊ねてしまった。
すると、もじもじとしながら顔を紅くした凪砂がゆっくりと口を開く。
「下は男モノ頑張って絞って穿いてるけど……その、上の方は仕方なく、仕方なーく頑張って買ったんだけど……すんごい良くないことしてる気がしてやばかった」
「ご、ごめん! 明日ついてってあげるから買おう! ね!」
言い終わる頃には、顔立ちのせいか凪砂を辱しめてしまった感があり、それにナニかを煽られながらも仮にも花のJKがそれでは不味い。無理にでも買わせに行くことをれな子は心に誓った。
「とりあえず何かご飯食べようよ。どうせ最近の生活的に何もなさそうだから、どっかに買いに行ってもいいけどさ」
「……そうすね」
(え、ホントにれな子うちに泊まるの? ムリムリ!!)
頭部の紅潮は収まったがまだ少し震えながら外に出る支度を整えていた凪砂は未だに動揺したままであった。
ちゃんと次回に続きます。