TS娘が幼馴染と恋愛できるわけないじゃん   作:GNTNTN

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毎回そんなことあるわけないじゃん

 起きたら目の前におっぱいがある。

 そういうことは赤子の時以外にないだろう。

 

(……は?)

 

 もしくはそういう関係に至った恋人同士だったりするのだろう。

 だが、しかし、凪砂とれな子はそういう関係ではない。

 

(でっ、でかすぎんだろ……!)

 

 れな子の悪すぎる寝相によって抱き枕にされていて、凪砂は彼女の胸の前から動けなくなっていた。

 押し付けられてないだけ犯罪者の汚名を被ることはないが、それはそれとして、心は依然として男の凪砂にとっては刺激が強すぎた。

 

(てか、何で同じベッドで寝てるの……! 助けて……! スゥゥゥゥ……!! 助けてーー!!!)

 

 助けを乞おうにも助けてくれる相手も居ない状況ではただただ情けのない叫びしか出てこない。

 スマホに手を伸ばそうにも、腕が届かずかといってれな子の拘束から逃れることもできなかった。

 

「れな子、れな子」

「何さ……ようやく寝付けた気がしたのに……」

 

 一頻りパニックになった後、冷静になり非力な身体で全身を使って何とかれな子を揺らして叩き起こす。

 どうやらよく眠れなかったらしく、若干不機嫌そうにしているれな子に申し訳なさを感じてしまうと同時に目が合うと余計に恥ずかしくなってしまう。

 

「あの、その……近いんだけど……」

「──」

 

 眼前の状況にれな子は一気に目が覚める。

 決して、抱き枕にされたせいで頬が紅潮している凪砂から謎の栄養を摂取したからという訳ではない。

 

「ごめん! 苦しくなかった? てか、勝手に添い寝しちゃってごめんね!」

「い、いや、俺も途中で寝ちゃったし! 謝られるとなんというか、こっちも何かアレな状態だったし! はい! 深呼吸!」

 

 昨日からお互いに妙なテンションになってしまうことが頻発するがそういう時こそ深呼吸が大事になる。

 窓を開けて一度息を吐いて空っぽになった肺に朝の新鮮な空気を入れる。

 

「……で、今日は一応服選びって話だけど……どうする?」

「うーん、一旦家に帰ってから落ち合うでも良いかな? 流石に服を買いに行く服に着替えたいし」

「おけ」

 

 落ち着いてからそんなやり取りをした後、れな子を見送った凪砂は昨日入浴し損ねたため、シャワーを浴びてから身支度を始めた。

 

(というか、れな子一人でどうするんだろ。遥奈ちゃん抜きで選べそうな感じはしないけどなぁ)

 

 本当に無策の可能性があると思うと不安になりつつ、凪砂は集合場所のショッピングモールに向かう。

 

「お待たせ。れな子……と紫陽花さん?」

「うん、今日は私もお洋服選ぶの手伝わせてもらうね」

「そっか、よろしくね。紫陽花さん」

 

 集合場所にはれな子とグループの瀬名紫陽花も居た。

 どうやら普通に人を頼ることにしたらしい。

 れな子と二人きりなら多少は肩の力は抜けたが、別にそれはそれで構いはしない。

 ほんの少し、残念というだけだ。

 

「急に呼び出してごめんね。凪砂がまともな私服ないっていうから私だけじゃなくて紫陽花さんにも手伝ってほしくてさ」

「ううん、むしろ呼んでもらって嬉しい。凪砂ちゃんはどういうお洋服着たいとかって希望ある?」

「それすらわかんなくて……派手めな色じゃなければってくらいです」

 

 シャツに制服のスカートを合わせただけの服装は男目線でも良くないことは理解できる。

 手を少し動かして自虐的な目でショッピングモールの壁面のガラスに映る自身の姿を見る凪砂を紫陽花は共に覗き込むように顔の高さを合わせた。

 

「でも、凪砂ちゃんも可愛いと思うよ?」

「そ、そうですか?」

 

 今の自分を自分であると受け入れる努力はしているが、今の見た目についてはあまり考えないようにしている凪砂は紫陽花に女子の距離感で可愛いと言われると隠す暇もなく照れてしまう。

 

「そうだよ。だよね? れなちゃん?」

 

 ここに来る最中にれな子から聞いた話によると、おしゃれをしたことがなく、自分の容姿の良さに気付いていないということから先ずはそこの改善から始めるべきと紫陽花は考えていた。

 いくらおしゃれをしても自分に自信を持てなければ台無しになってしまう。

 

「いや、紫陽花さんの方が可愛い」

「れ、れなちゃん?」

 

 れな子にもその手伝いをしてもらおうと思ったのだが、予想外の返答が来た。

 

(ぐ、ぐあああ!! 声も匂いも甘いし、普通に可愛いなこの人! 助けて、れな子……! 俺、この人のこと好きになっちゃう!)

 

 一方、凪砂は急接近してきた紫陽花からの刺激が強すぎて脳内が騒がしくなっていた。

 

「まあ、色々試してみようよ。私も凪砂に試してほしい服とかあるし」

「ふふっ、なんかこういうのって自分のより楽しくなっちゃうよね」

(あぁ……この後の展開が何となく読める……)

 

 れな子と紫陽花のやり取りを目尻に捉えながら凪砂は着せ替え人形にされる未来が見えて溜め息を飲み込んだ。

 

 一行は一先ず、今の服を買いに行く服ではない状態をどうにかしなければならないため、比較的ベーシックな服を取り揃えている店に向かった。

 

「落ち着いた色だとそうだなぁ。凪砂ちゃんは黒っぽいのよりネイビーとか紺とかの方が似合うかも」

「あー、確かに。となるとこれとか合わせると良さそう。

 ほら、凪砂。早く試着してきて」

「あ、はい……」

 

 あれよあれよとれな子と紫陽花によって凪砂の服のパターンが何種類も選ばれていく、それを凪砂は受け取って試着室で着替えて二人に見せて、微調整や着回し用にと、新しく選ばれた服を受け取りそれをまた試着するという往復を繰り返していた。

 

 買い物を終えた後、休憩ついでにお茶をしようとなり、凪砂と紫陽花は自ら注文役を引き受けたれな子とは別行動で席を確保していた。

 

「思ったより多くなっちゃったね。お小遣い大丈夫だった?」

「貯金があるので大丈夫です。まぁ、こんなに買うとは思ってなかったですけど……」

 

 自分が不慣れなことを頼んでいる側である以上、文句を言える立場ではない。

 ただそれはそれとしてHPとMPが両方ごっそり削れるような疲労には襲われている。

 

「私ね。凪砂ちゃんとも仲良くなってみたかったんだ」

「どうして、また?」

 

 改まった様子で紫陽花にそう言われて、二度あることは三度あるという言葉もある。紗月の件のせいか、また知らない本島くんの話かもしれないと、凪砂は思わず身構えて背筋が伸びてしまう。

 

「折角れなちゃんや紗月ちゃんと仲良くしてるから私も仲良くなってみたいなーって思っただけだよ。凪砂ちゃんは嫌だった?」

「そんなことないですけど……むしろ嬉しいですし」

 

 クラスメイトや主にれな子の話を聞くに天使のように扱われている紫陽花からそう言ってもらえるのは嬉しいことなのだが、どうしてもこのパターンは嫌な予感がしてならない。

 

「あ、居た居た。お待たせー」

 

 注文を終えて合流したれな子の持つトレーの上にはドリンクや軽食を乗せられていたのだが、その中に一際大きいサイズのポテトが目を引く。

 確かにポテトとドリンクは頼んだが、そんなサイズを頼んだ記憶は凪砂にはなかった。

 

「あの、れな子さんや。そのポテトは一体……?」

「皆でシェアする用だけど?」

「だよね! びっくりした!」

「でも……確かに凪砂ちゃんはもう少し身体にお肉付いた方がいいと思うよ?」

 

 それはそうだと安心したのも束の間、思わぬ紫陽花からの発言で、彼女も心配してはいるのだろうが凪砂は窮地に立たされてしまった。

 

「あんまり軽すぎると、紗月さんに怒られるんじゃない?」

「アスリートじゃないんだし、はむ」

「じゃあ、私も怒っちゃおうかな?」

「そんな、体重なんて、んぐ、ね」

 

 困り顔を作りながらも色々言い訳を並べる凪砂にれな子と紫陽花は小動物にエサやりでもするかのようにポテトを口元に当てると、何だかんだ食べている彼女が可愛らしくて手が止まらなくなる。

 

 凪砂としては、その二人に言われたら色々とヒトとして終わりな気がした凪砂は仕方なくポテトをできるだけ食べ進めることになり、結局その日の帰り道まで紫陽花に対する嫌な予感というのは忘れてしまうのだった。

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