TS娘が幼馴染と恋愛できるわけないじゃん 作:GNTNTN
(しっかし、こう、慣れたとはいえ女子の輪に混ざってるのは磨り減るなぁ)
昼休みになると机をくっつけてグループでいつものように昼食を摂ろうとコンビニで買ったおにぎりをすると、凪砂の目の前に小さめの弁当箱が置かれた。
「さ、紗月さん? これは……?」
弁当箱を渡してきた主に目を向けると、呆れながら怒っているような表情をした紗月がそこに居た。
何か不味いことでもしたのかと、ここ最近の記憶を振り返るがやらかした記憶はなく、凪砂はただただ困惑の表情を浮かべるしかない。
「あなたがあまりにも食べなさすぎるから作ってきてあげたのよ」
「良いんですか!?」
「良いも何も、食べない方が私に失礼だと思うのだけど」
紗月ほどの美少女からの手渡された弁当に魅力しかない。
凪砂が目を輝かせながら驚いていると紗月は目を反らして悪態をついた。
ここまでテンプレートな態度を取られるといっそ清々しく思えて、つっつきたくはなるがそうしたら命は無さそうだと凪砂は予感していた。
「ほほぅ、ナーちゃん愛されてますなぁ」
「そういうのじゃないよ。心配させちゃってるだけだし」
香穂にからかわれながらも弁当箱の包みを開いて蓋を開けると、梅干しの乗った白米と煮物や卵焼き、タコさんウィンナーが敷き詰められていた。
(こ、こういうので良いんだよ! こういうので! 紗月さん!)
凪砂は思わずわぁぁと声が漏れるほど、紗月の弁当に夢中になるあまり、れな子の浮かれてんなこいつと言いたそうな視線には気付いていなかった。
「……ってそうじゃなくて! こんなしっかり作って来てもらうの流石に申し訳ないんですけど!」
「私が勝手にやったことよ。気にしないでちょうだい」
「勝手にって言う割りにさっき食べない方が失礼とか言ってましたよね!?」
紗月が気に掛けてくれる理由は知ってはいるが、ここまでされると申し訳なさが勝る。
「バイト先が同じとはいえ、二人は随分と仲良くなったんだな」
「違うわ。勘違いしないでちょうだい」
凪砂と紗月のやり取りを見た真唯が少し驚いたように呟く。
それを紗月は即座に否定するが、凪砂以外はまたいつものか。と顔には出さないが呆れていた。
「折角いただいたんで食べますけど……後で絶対何かでお返ししますからね! 覚えておいてくださいね! いただきます」
「恩返し的な意味合いでその言い回しをする人間は初めて見たわ」
いくら少食とはいえ、食べ物を恵んでもらって食べない訳にはいかないし、それに何かを返さないというチョイスは凪砂にはなかった。
「うまっ……!」
煮物の人参は一口食べただけで凪砂が女子高生の演技すら忘れてしまうほどで、そもそも料理をしないとはいえ、一人暮らしでここまで味の染みた煮物を作るということはないこともあり感動すら覚えていた。
「紗月さん良かったね!」
「黙ってなさい甘織」
「なんで!?」
そんな凪砂のリアクションを見て、紗月の口角が上がっていたことを見逃さなかったれな子が純粋な気持ちで祝福したら、覚えのあるギラついた瞳で射貫かれる。
あまりにも理不尽だと思わなくはないが、そういえばそういう人だったなと、れな子は自己解決した。
そうして、紗月お手製の弁当をいつもの少食が嘘のように完食して味わい尽くした凪砂だったが、午後の一コマ目の授業が終わった後、地獄を見ていた。
それまでは何ともなかったのに、移動教室での授業の後に少し頼まれ事をされたため、他の生徒より遅れて教室を出てクラスに戻る最中、急な体調不良で人通りの少ない廊下で座り込んでいた。
(しんどい。引くほど腹痛い……トイレ行ったらめっちゃ血出てきたし吐きそうなくらい気持ち悪いし、なんだこれ……病気?)
立っていられない程の苦痛に助けを呼びたいものの、数分の間誰一人として通らない廊下でスマホを通学鞄の中に置いてきてしまったせいで助けを呼ぶことすらできない。
「こんなところに居るとはね。探したよ」
鳴れば誰もが目を向けてしまうような凛々しい声に釣られて凪砂が顔を上げてみれば、そこには真唯が居た。
「……どうして?」
「君にとっては紗月やれな子が来た方が嬉しかったかもしれないが、私が王塚真唯だからかな。他に何か理由が欲しいのかい?」
さも当たり前のように真唯は少し屈んで顔色の悪い凪砂に手を差し出す。
関わりはまだ浅く、お互いのことをまだよく知らないとしても、友人の幼馴染のために校内を走り回って手を伸ばすくらいのことを平気でやってしまう。少女が一度が夢見そうな
それが王塚真唯。
(……ちょっとだけ、嫌かも)
と言えば聞こえは良いが、凪砂は不調に引っ張られて、王塚真唯というレッテルを張られているから、そうしている。
悪い方向で解釈してしまっていた。
「ありがとうございます……ちょっと立てそうになくて……」
「そうか」
勿論。心配していることは表情を見ればわかるくらいの善意で探してくれたことは嬉しいし、感謝の気持ちもある。
嫌なタイプのモヤモヤを抱えてしまいつつも伸ばされた手を掴むと、そのまま腕を引っ張られて視界が一瞬ぐわんと揺れた。
「少し、失礼するよ」
「いや、あの……ここまでしてほしいとは……」
(顔面偏差値たっっか!! 見惚れちゃうからやめてほしいんですけど! 助けてれな子!)
所謂お姫様抱っこをされてしまい、体力的にも精神的にも抵抗する気は起きないのもあり、現役人気モデルの顔の放つ輝きに焼かれかけて少しだけ顔が赤らんでいた。
「立てないのなら歩くこともできないだろう。それに君とは個人的に話したいとも思っていたんだ」
「話、ですか」
真唯はできるだけ揺らさずに、何となく凪砂の状態を察して人目の付かない道を選んで進む。
少し遠回りになったとしても、良い機会だった。
「ああ、保健室に行って養護の先生が来るまでだがね。勿論、辛いのなら聞いてくれているだけでも構わない」
「じゃあ、聞くだけで……」
「ははっ、素直だなぁ君は」
(あっぶなーい! インド人を右へ)
できれば『会話』がしたかったのだが、凪砂から素直にそう言われてしまい真唯は思わず笑ってしまった。
真唯の顔の良さにその笑顔という装備品を付けられたらきゅんとしてしまいかねなかったため、凪砂は瞬時にそっぽを向くことで直撃を回避した。
「それで、だ。改まって話すことでもないのだろうが、紗月と仲良くしてくれて感謝を伝えたかっただけなんだ。ありがとう」
「なんでわざわざそんなこと……」
「私と紗月は幼馴染でね。彼女もあんな性格だからな。君みたいな子と仲良くしてくれて嬉しいだけさ」
幼馴染。
凪砂で言うところのれな子がちゃんと友達と仲良くしているということは嬉しいに決まっているし、中学時代の彼女のことを知っていれば安心もする。
そういう意味では凪砂が真唯に共感できる気持ちもなくはない。
「……気持ちは、わからなくないですけど、私も……れな子が王塚さん達と仲良くしてもらってて、嬉しくはありますし……」
「そうか。君も同じだったようだね。ほら、もう保健室だ」
聞くだけと言いつつ何だかんだで会話に乗っかってしまっていると保健室に到着し、真唯が養護教諭に事情を説明して凪砂をベッドに寝かせた。
「よく頑張ったね。どうせ残りも授業も次で最後だからゆっくり休んでいると良い」
「あの、王塚さん」
「なんだい?」
凪砂を安心させるように声を掛けた真唯が教室に戻ろうとしていた。
流石にこれくらいは言わなければバチが当たる。
というより、れな子に滅茶苦茶怒られそうな予感がした。
「ありがとうございました」
「大したことはしてないよ。じゃあ、また放課後迎えに来るよ」
感謝の意こそ伝えど、やっぱりちょっと苦手かもなぁという苦笑いが出てしまった。