TS娘が幼馴染と恋愛できるわけないじゃん   作:GNTNTN

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使い方なんて知るわけないじゃん

 ある日の放課後。

 

 芦ケ谷高校の空き教室の一つでカーテンも締め切り、円を作るように机を並べ、そこに着く生徒達は全員が目の周りだけ穴の空いた黒い布を被っている絵面はまるで魔女会の様相だった。

 

「今日の議題はすなわち……本島凪砂」

 

 この会合に名を付けるとするなら『AAA団』とかそういう名だろう。

 『団長』と呼ばれる彼女の言葉に他の生徒達は固唾を飲んだ。

 夏休み明けに突如として転校してきた彼女はれな子と幼馴染であり、紗月や香穂にも気に入られていたおかげか、芦ケ谷高校1年A組のトップカーストグループ通称『クインテット』に溶け込むのも早かった。

 

 人数が増えてしまいクインテットの名前の由来の五人組ではなくなってしまったが、そういうものだとして受け入れられている。

 

「団長ここは私から」

 

 一人の団員が手を上げて意見具申を申し出る。

 彼女は最近AAA団に加入し、凪砂を強く推していた。

 

「本島凪砂ですが、彼女は逸材です。他のクインテットとの関係性、各CPも大変てぇてぇとさせてもらいます。

 まず、甘織さんとのカップリングが強いことはさることながら、普段からかやり取りのあるかほなぎ、さつなぎ、更に総受けではなく甘織さんには幼馴染特有の雑さも見せ、左側の資質もあると見ました」

「なるほど……」

「団長、私からもよろしいでしょうか」

「どうぞ」

 

 また別の団員が手を上げる。

 本島派閥の一翼の彼女の表情は見えていないはずなのに自信に満ち溢れていた。ような気さえ感じさせる。

 

「なぎまいが最強のCPだと──」

「摘まみ出せ!!」

「待ってください! あります! なぎまいはあります!」

 

 が、口を開けば派閥の中で一番マイナーどころか、無いと噂されているカップリングを口にした瞬間、団長が手を上げて部屋から追い出されてしまった。

 真唯の性格からしても、そのカップリングで凪砂が左になることはまず無いだろう。

 AAA団はマイナーカップリングの存在は赦すが、それを最大手と吹聴することは赦さない。

 

「本島さんは目が合ったらちいさく手を振ってくれるのが可愛い」

「日直になった時、黒板消しが上半分に届かなくてピョンピョンしてたのが萌え」

「その後琴さんに呆れながら手伝っていたのが尊味秀吉」

「この前王塚さんにお姫様抱っこされてて王族かと思った」

「手作り弁当を食べる本島さんを見守る琴さんが母のそれ」

「可能性しかないから瀬奈さんともっと絡んでほしい」

「王道を往くれなぎが最強」

 

 等々団員からの情報は止まらず、会合はまだまだ終わる気配がなかったが、外から扉をノックする音で唐突に静寂が訪れた。

 

「──!」

「……ハナヨハナヨ」

 

 この場に居る全員がそれ程までにその来訪者を待っていた。

 冷静な団長が扉越しに合言葉を唱える。これに対応する言葉が返ってくればAAA団と取引しているブローカーで間違いない。

 

「クルイザキ」

 

 その言葉を聞いた団長が少し扉を開けると、隙間から写真用のファイルが差し出された。

 

 

「へくちっ!」

「風邪? 無いか。馬鹿だもんね」

「ちょっと」

 

 同時刻、花粉症でも風邪を引いたわけでもない凪砂は急にくしゃみが出てしまい、声の大きさのせいで隣を歩いていたれな子が心配するも杞憂だったと掌を返す。

 

「はいはい。とりあえず保体の教科書読んできた?」

「まぁ、一応」

 

 先日の急な体調不良を受けて、あまりにも未知の体験で不安になりながられな子に相談したところ女性特有の現象であることがわかった。

 

「じゃあ、行くよ」

「えぇー……」

 

 今日はれな子にレクチャーを受けながらドラッグストアにやってきたのだが、どうしても凪砂は抵抗があり乗り気ではない。

 

「えぇー、じゃなくて行くよ! ほら!」

 

 この期に及んで往生際の悪い凪砂の細腕を掴んでドラッグストアにれな子は入店する。

 力加減を間違えればポッキリと折れてしまいそうで、引っ張っても重さを感じさせない体重に不安を感じさせられ、やはり無理矢理にでも肥えさせた方が良いかという考えが過る。

 

「うーん、れな子はどっちを──」

「は?」

 

 生理用品コーナーで幾つか商品を手に取って見比べている凪砂は参考程度にれな子にオススメを聞くついでに良さそうなら同じものを購入しようと考え、質問しようとしたらドスの効いた声で返事をされたため、こほんと咳払いをした。

 

「って言うのは聞かない方がいいよね。なんちゃって……いや、ごめんて」

「今夜ランクマキャリーで許す」

 

 流石にセクハラだったと凪砂は謝罪しながら結局一緒にゲームするだけじゃんとは言わずに飲み込む。

 バイト先でドーナツを奢れと言われるよりマシだった。

 

「まぁ、どっちも持っとくに越したことないよ。好みっていうよりかは、その日の予定で使い分ける感じだから」 「ふーん……いや、でも、ちょっと、こっちの方怖くない?」

「あー……まぁ、慣れるまで勇気は居ると思う」

 

 凪砂はタンポンタイプの生理用品の箱を手に持ち、顔を青くしながらパッケージに写る綿の棒を凝視する。

 触ったことのない自分の股にモノを挿入するということに抵抗を捨てきれない。

 

「とりあえず両方買ってくる」

 

 意を決してナプキンとタンポンの両方を手に取ってレジに向かう凪砂の心臓は早鐘を打っていた。

 

「──」

 

 店員との会話内容が頭に入ってこず、無事に会計はできているのに一切記憶に残らないという不思議な体験だった。

 

「うぅ……これ、ホントに入れるの?」

「まだ言ってる……どうせアレコレ触ってたんじゃないの?」

「んなわけあるかぁ!」

 

 中身は男のままならば、年頃の男子がそういうことに興味がない訳がない。

 れな子が呆れながら今更何をと言いたげにしていると凪砂が顔を真っ赤にする。

 

「こんな貧相な身体興味ないし! てか、自分の身体にそういうこと思わないでしょ!」

「どうだかねー。逆に男の子に興味あるの?」

「……いやー、そっちの趣味はちょっとキツいかな」

 

 身体と心の性別が一致していないというのは難儀な話である。

 心に従っても身体に従っても同性愛扱いになってしまい、そうではないのにそうなってしまうのは心苦しい。

 

(あー……ぐちゃぐちゃになる)

 

 好きだった相手だからこそ、言えなくて。

 言えていたのならどれだけ良かったことか。

 

 今日も少しずつ凪砂の心の底の方が腐っていく気がした。

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