カエンジシみたいな父を探しております。ついでにミアレも救います。   作:幽 

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最終戦の辺り、ざっくりと。

感想、評価ありがとうございます。また、いただけると嬉しいです。


カエンジシみたいな父を探していますが、ただ、私たちはしたいことをしただけです。 上

走る、走る、走る。

ただ、走る。

 

「ねえ、お兄ちゃん!」

 

手を引く姉の声がする。

 

「私、この街に来れてよかった!」

 

その言葉に、思わず力強く頷いた。

 

「俺も、俺もだよ。」

 

 

 

ホテルがゆらぐような音と共に飛び起き、異常を感じた五人がぎゅうぎゅうのエレベーターに乗り込んだ先。

屋上で、明らかに様子の可笑しいプリズムタワーに出迎えられた。

街のポケモンたちがメガシンカで暴走するだろう予想がAZの口から語られると同時に、マスカットからの連絡が入った。タウニーが、メディオプラザに向かうことを告げた。

 

AZはフラエッテを静かに見つめた後、その長身をぐっと屈めてセイカとキョウヤの瞳をのぞき込んだ。

 

「セイカ、キョウヤ、君達なら大丈夫だ。会えてよかったよ。」

 

そう言った彼は、どこか懐かしそうにセイカとキョウヤの頬に、一瞬だけ指で撫でた。

 

「うん、私も、おじいちゃんに会えて良かった!」

 

セイカのそれにAZは嬉しそうに微笑み、頷いた。MZ団はばたばたと屋上から出ていく、そうして、それを負うように、若草色の何かがキョウヤのポーチに飛び込んだ。

 

「行ってきます!」

 

キョウヤの声にAZはうなずき、そうして、二人の頬を撫でた指先を見つめた。

 

自分たち兄弟は、ひどく、愚かなことをしてばかりだったけれど。

「・・・・あの未来が先にあったのなら、きっと、悪いことばかりではなかったのだろうな。」

 

 

 

最強のメガシンカ使いを決めると言ったとき、タウニーは真っ先にバトルで、今、決めると宣言した。

それに、セイカとキョウヤは一瞬顔をつきあわせて、セイカが手を上げる。

 

「それなら、私が代表でバトルするよ。」

「・・・・姉さんとは、バトルではタネボーの背比べだから。」

「よし、わかった!!」

 

タウニーはうなずき、そうして、プリズムタワー前で向かい合う少女達のスマホロトムがかんと音を立てた。

 

「責任が重いからこそ、リーダーのあたしが最強のトレーナーになるから!」

 

そうだ、自分が、自分がしなければ。

それにセイカは少しだけ困ったような顔をする。

 

「タウニー。一つだけ、忘れないで。」

「なに?」

 

突然のそれに、タウニーが聞き返せば、セイカは幼い子どもに笑いかけるように頷いた。

 

「私も、お兄ちゃんも、後悔なんてしてないから。」

だから、そんな顔しないで。

 

(・・・・今、私。)

どんな顔、してるんだろう?

 

最初にタウニーがニャオニクスを繰り出してくる。

それにセイカはバンギラスを繰り出した。

 

「リフレクター!」

「かみくだく!」

 

咄嗟に張ったそれをバンギラスはあっさりと退けてニャオニクスはそのまま倒れる。

セイカは、変わらず、穏やかに微笑んだままだ。

タウニーはヌメルゴンを繰り出した。

 

ねえ、セイカ、キョウヤ。

二人は、怖くない?

 

ずっと、そんなことを考えていた。

 

「ヌメルゴン、なみのり!」

「バンギラス、じしん!」

 

セイカは指示を出すが、ヌメルゴンのほうが早い。波に押し流されバンギラスも倒れる。

次にセイカが出してきたのはニンフィアだ。それは小回りが効き、ヌメルゴンの攻撃を避ける。

 

「どくどく!」

 

それにニンフィアの動きが鈍る。

 

「なみのり!」

「ムーンフォース!」

 

当たる、けれど削りきるほどのダメージはなかった。ヌメルゴンはそのまま倒れた。

次に出したのは、クレベースだ。

セイカは、どく状態でHPが削れたニンフィアを戻した。そうして、リザードンを繰り出す。

強い、やっぱり、彼女は強い。

いいや、キョウヤと同様に、彼らはずっと強かった。

初めてバトルとしたときから、彼らはまるで翼でもあるような速さで強くなった。

いつかに、ポケモンの扱いが上手いという話をすれば、セイカは照れたように笑っていた。

 

「私もお兄ちゃんも、田舎で野生のポケモンとばっかり遊んでたからかな?付き合い方は昔から分かってたから。」

そう言って、彼女はメガニウムの頭を撫でていた。

 

頼もしかった、自分が頼んだことだった。きっと、これは縁という奴で、セイカとキョウヤのおかげで助かったことばかりだ。

自分と同じ、いなくなった人へのよすがを探す人。

ただ、それは、反射のような人助けのようなものでホテルに連れてきただけだった。

 

私たちの、お父さんは、フラダリ。

 

その言葉を、覚えている。

フラダリ。きっと、ミアレに住んでいる人間なら誰だって聞いたことがあるだろう。

カロスで凶行を行った、フレア団のボス。

ただ、タウニー自身、彼のことをそう悪くは思えなかった。彼女もまた、フラダリの援助で暮していたことがある身分だ。

ただ、彼のことだけを非難できなかった。

 

ばいばいと告げる彼ら、MZ団を去ろうとする彼ら。

自分たちに資格は無いと、死にそうな顔で言う二人。

 

どうして本当に助けて欲しい人は、いつも、助けてと素直に言わないのだろうか?

その時、タウニーが思ったのは、そんなことだった。

 

「ストーンエッジ!」

「フレアドライブ!」

 

フレアドライブにより、直接突っ込んでくる形になったリザードンとクレベースはそのまま相打ちになる。

タウニーはライボルトの入ったボールを投げた。

 

(ねえ、私、本当はね、ずっと思ってたんだ。)

私、あなたたちをMZ団に引き入れて、本当によかったのかって。

 

もしもあの日、改札の前で二人に声さえかけなければ、二人は、何も知らずにいられたのだろうか?

フラダリという人が、この街にしたこと、誰かにしたこと、罪と功績。

知れてよかったと君達は言った。

でも、傷つかないわけじゃ無いはずだ。

 

あの日、父親の記憶が無いことを知って崩れ落ちた、強くて優しい、タウニーの仲間。

ねえ、君達は、本当に知ることが出来て、この街の騒動に巻き込んで、よかったのかな?

 

ずっと、タウニーは考えている。

 

ライボルトに対抗して出てきたのは、彼女があげたチコリータが進化したメガニウムだった。

「オーバーヒート!」

「じしん!」

 

戦う。戦って、タウニーはずっと、頭の隅で考える。

 

(ねえ、二人は、怖くない?)

 

タウニーは、フラダリと二人は違う人間で、彼らはMZ団の人間だと思っている。そうであるはずだと。

でも、彼らがそう思っていないのだとわかっている。割り切れるはずが無い。でも二人は、助けてなんて言わない。

ありがとうって、お礼を言うけど。でも、助けてとタウニーに言うことは無い。

叫んだところでタウニーに出来ることなんてないのだろう。

 

フラダリの罪について、タウニーができることなんてないから。

でも、それでも、タウニーはずっと思っている。

 

本当に助けが必要な人は、どうして、いつも申し訳なさそうな顔をするんだろうか?

 

エンブオーと、そうして、セイカが出してきたのはギャラドスだった。

覚えている。コイキングを抱えた彼女が、嬉しそうにタウニーとキョウヤに報告してきてくれた。

 

「見て、お父さんが使ってたって!私も、ギャラドス育てるんだ!」

 

知ってる。気性の荒いギャラドスも、セイカは愛情深く育てていた。

優しいセイカのことがタウニーは好きだ。人助けだとばたばたと駆けていく自分のために、お昼に食べてとサンドイッチを作ってくれる彼女。

優しいけれど、厳しいキョウヤのことがタウニーは好きだ。いつも遠くから自分を見ていて、大変なときに助けに来てくれる彼。

 

二人はどこか、母に似ていた。

 

メガシンカした互いの相性は、有利と不利では二分。

 

「人捜しで、この街に来た!でも、それ以上に街のことも好きになって!だから、ここに住んでる人たちのことを守りたい!」

 

宣言するように叫んだ。

 

「その中に、セイカとキョウヤだって入ってる!だから、だから!二人が、全部背負わなくていいように!」

 

ずっと、見ていた。見ているだけだった。あなたたちが、崩れ落ちる、その時を。

 

「かみなりパンチ!」

 

エンブオーがギャラドスに拳を振るう。それに、セイカは真っ向から受け止めるようにギャラドスに叫んだ。

 

「たきのぼり!」

 

全てが、水に飲まれ、最後に立っていたのはギャラドスだった。

 

ああ、負けてしまったと思った。

 

(・・・私、結局なにもできないのかな?)

 

他者をずっと助けた。

別に、お礼を言われるのが好きだとか、そんなのではなくて。

ただずっと、病気で伏せる母のことを思い出す。

 

仕方が無いことだ。わざとではない、どうしようもないことがある。

大好きな人を助けることに、理由なんてないのだ。

タウニーはただ、母に笑って欲しかっただけだ。そのためならどんなことがあっても頑張れた。

母の体調が悪くて働けなくても、タウニーが細々と仕事を見つけて日々を生き抜いた。ポストに督促状が届いても大丈夫だと、必死に自分のことを落ち着けた。

 

お礼なんていらなかった、申し訳なさそうな顔なんてしないで欲しかった。

ただ、笑ってくれればよかった。

 

それだけだったのに。

 

助けられなかった母のことを考える。仕方が無いことがある、治らなかった、死んでしまった。

 

(でも、もっと出来ること、なかったのかな?)

 

お礼を言われたいわけでは無い、何か対価が欲しいわけでは無い。

ただ最後まで、自分に申し訳なさそうな母のことが頭から離れない。

他人を助けて、そうして、反芻する。

もしも、今日みたいにすれば、母は最期に笑ってくれたのだろうか?

 

ねえ、セイカ、キョウヤ、笑ってよ。

お礼を言われたいわけじゃ無い、君達の存在に感謝してる。ただ、笑って欲しいんだ。君達だけが背負って、苦しそうであって欲しくないんだ。

助けられたのは、自分だって同じで。ただ、おあいこだから。

君達を頼りにして、今更だけどさ。

 

「あたしが、二人のことを、守りたかったの・・・・」

 

掠れた声でタウニーがそう言ったとき、セイカとキョウヤがタウニーに近づいた。

 

「・・・タウニー。」

「俺たち、後悔してないよ。」

 

あなたに出会えて良かったと、それは、やっぱり笑うから。

だから、タウニーはたまらない気持ちになる。

ああ、そうだ、そうやって、二人は全部背負おうとする。

 

「私が、フラエッテとタワーに登る!」

 

自分を見つめる二人の視線を振り切り、そうして、マスカットに叫ぶ。

 

「え?セイカが勝ったのに!?」

「それでも!」

 

駄々をこねるように叫ぶ。タウニーは拳を握りしめて、何かをこらえるようにフラエッテに視線を向けた。

 

「私は、これ以上、二人になんにも背負って欲しくない!お父さんのことで、いろんな事を背負って!苦しんで!悲しんで!ミアレのことまで、背負わせない!これは、私が二人を巻き込んだことなら!リーダーの私が、これぐらいは背負わないと!」

 

ミアレを救うと、それを請け負って、どこか心許ない二人がホテルにいられるようにMZ団に引き込んだ。

 

後悔してない、わかってる。でも、それでも、二人の姿が、あの日の自分では支えきれなかった母と重なって。

 

「二人は、私のことを助けてくれた。だから、今度は。」

 

私が、二人を守るから。

切なる言葉に、セイカとキョウヤが近づいた。

セイカがタウニーのことをのぞき込んだ。

 

「タウニー。私たち、後悔してないよ。」

「わかってる、二人なら、そうだって。でも、今度こそ、私が守りたいの。」

 

その言葉にセイカは強く、タウニーのことを抱きしめた。そうして、キョウヤはタウニーの背中を撫でた。

「・・・・うん、そうだね。」

 

「タウニーは、俺たちのヒーローだから。」

タウニー、頼んだよ。

 

優しい声で、二人は、同時にありがとうと言った。助けてくれてと、そう、言った。

 

お礼を言われることが好きだったわけではない。

ただ、その時だけは、タウニーはああ、と頬を流れていく暖かな何かが人知れず流れていく。

 

(・・・・嬉しい。)

 

 

 

いいか、人間は結局、出来ることしか出来ないんだ。だから、自分が何をできるか分かった上で、行動しなさい。

人間は、神様にはなれないんだから。

 

セイカはその言葉の意味が、MZ団会議の折に現れた高ランクの面々のホログラムを見た時、改めて分かった気がした。

 

 

「シローさん、ムクさん、ありがとう!」

「行ってきます!」

 

走って行く二人に、格闘家の兄と、ゴースト使いの妹は手を振った。

突然現れて、ランクアップをこなしていった二人。明るく、軽やかで、妹を探すときも駆け回ってくれた。

それが、優しい生き物であることをシローは知っている。

 

「ムクも、二人のことを気に入っていたんですね!」

「・・・・そんなんじゃない。街のため。」

 

そう言いつつ、ムクは、二人のことを見送った。

むかつくところがないわけではない。けれど、おいしいお菓子を作ってはジャスティスの会に持ってくる懐っこい少女と、それに寄り添う心穏やかな少年のことは嫌いではなかったのだ。

 

 

「タラゴンさーん、アスレチックすごかったです!」

「カナリィさん、気をつけて!」

 

そういって、走り去っていく双子をタラゴンとカナリィは見つめる。

 

「はあ、次から次へと。」

「あの子達の力になれる、もう一踏ん張りじゃ!」

「・・・じーちゃん、なんか、あの二人のことやけに気にかけてない?」

 

カナリィのそれに、タラゴンは少しだけ目を伏せる。

 

おっす、タラゴンさん。工事の人たちの分の食事でしょ?注文は?

変わった名前の店の店長は、そう言ってアイリスの瞳を細めて快活に、セイカとよく似た顔で笑っていたことを覚えている。

 

(・・・・別れの時ぐらいは、挨拶をしていけば。いいや、無理だったのか。)

 

老人の脳裏には、夜のミアレで時折見かけた女と、そうして焔色の髪の男のバトル風景が浮んでいた。

 

「じーちゃん?」

 

カナリィのそれにタラゴンはけらけら笑う。

 

「なーに、バトルが強いし、アスレチックも得意じゃからな!」

「・・・・ふーん、まあ、いいけど。ボクもカナ友ファン予定の奴らだからね!」

そう言って彼らは、目の前のメガシンカポケモン達にボールを投げた。

 

 

「・・・・血の業、というものかしら?」

 

メガシンカポケモンを除けた後、ユカリがぽつりと双子の向かった先を見つめた。

ハルジオはそれに返事をするべきなのか悩む。が、問われない限りは沈黙をすべきかと黙った。

 

「ハルジオ。」

「なんでしょうか?」

お叱りかとどきどきしていれば、ユカリはまったく別物の話をした。

 

「多くを持つ者は、故に、持たざる者に与えるべき、というのはわたくしもある程度刻み込まれていますわ。でも、フラダリ様を見ているとそうでなかったことも事実でしょう。」

 

ハルジオは、なんだか、とても静かな目をしたユカリを物珍しげに見つめる。

 

「与えるばかりでは消えない悲劇を、根源から全て奪う、というのは導く、高貴な者として方向性としてはあっていたのでしょうけど。わたくしの好みではないですわ。」

「・・・・二人のことを、気に入っておられるのですね。」

 

ハルジオは、何か無意識に、そんな答えを吐いた。それにユカリは機嫌よさそうに笑った。

 

「ええ!お二人は、ただ、走って行くだけですわ。ただ、楽しいこと、したいこと、やりたいことに向けて、軽やかに、肩書きを何も持たない故に。ですが。」

その在り方にこそ、惹きつけられて、走り出す者の方が多いのかも知れませんね。

 

いつかに、多くを持つが故に全てを奪おうとした男の末は、今になって何も持たず、故に誰よりも軽やかな生き物になって皆の前をただ走る。

 

彼らは、高貴な者ではない。けれど、その因縁に導かれて来た子どもたちは父とはまったく違う生き物として、けれど、彼がいれば同じように足掻いていただろうことをしている。それをあえて、業とは呼んだけれど。

 

(祝福、なのやもしれませんね。)

 

ユカリはとても、なんだからしくない優しい笑みを浮かべて、二人の向かった先を見つめていた。

 

(・・・・そんな顔も出来るのか。)

「・・・それで、ハルジオ、先ほどのことですが。」

 

 

 

まるで夢みたいだと、人間はしごとして踏ん張っているとき、彼は先ほどのバトルを思い出す。

暴走メガシンカである、サーナイトとエルレイドのことを思い出す。

 

「うっわ、すっごい。姫と騎士。」

「どうしよう、こっちが完全に悪役にしか見えない・・・」

「そりゃあ、悪党とおるんやからしゃーないわ。」

 

カラスバがなんとなく言えば、それにキョウヤはけらりと笑って返事をする。

 

「まあいっか!悪役上等!」

「そうだね。もう、そんなものこだわってられないか!」

 

そう言って彼らは、まるで遊びにでも誘うように、アブソルとギャラドスを繰り出した。

 

姫と騎士を前に、竜と、毒虫と、災厄のポケモンたちが立ちはだかる。

 

いつかに、カラスバの愛していた人たちが使っていたポケモン。

アブソル越しに見た、蒼い炎のような瞳。ギャラドス越しに見た、アイリスの瞳。

 

肩を並べて、戦っている。

ああ、と、カラスバは泣くことなんてないけれど。それでもぼんやりと、思ったのだ。

確か、どこかの詩で、そんな言葉があったのはずだ。

 

今日こそが、死ぬにふさわしい日なのではないか、と。

 

 

ああ、ああ。どうか、どうか、御照覧あれ!

今宵のこの、一戦こそが、己にとっての晴れ舞台、たった一度、大舞台!

 

そうとしか思えなかった。

なんの障害もなく、遠い昔の残光が自分を照らしてくれている!

悪役であれ、秩序と誰かのために、正義のヒーローが自分の隣で戦ってくれる。

 

(こんな幸運、二度とないやろ。)

 

ヒーローたちが自分たちの背中を超えて、先に行く。彼らを選んだ存在のもとに、そのために、自分たちは使われた。

手を放す、登り切った二人が落ちていく自分に振り向いた。

 

「行ってきます!」

「ありがとう!」

セイカとキョウヤが自分へ手を振った。

 

カラスバお兄ちゃん!

 

ああ、ヒーロー!

 

いつかの、カラスバの愛していた人たちの忘れ形見、遠い日の残光。

二度と帰ってこず、何も知らないまま過ぎていった時間が今、ようやくカラスバに振り返った。

 

「二人とも、帰っといで!そんで、一緒に飯食おうな!」

 

カラスバ、それじゃあ、飯でも食うか?

 

優しい人がそう言って、自分に行ってくれたことを反芻した。それに二人はうんと頷いて駆けていく。

けれど、カラスバは置いて行かれてもちっとも怖くはなかった。

彼らがそんなことをしないと、もう確信出来ていたから。

 

 

「・・・君たちのしたいことは、変わらないままですか?」

 

街がプリズムタワーの暴走によってがれきの山になり、手助けのためにやってきたヌーヴォカフェの二人の問いかけに、セイカとキョウヤは手をつないで頷いた。

 

「うん、変わらない。」

「俺たちは、俺たちにできることを。タウニーを助けて。」

「街のみんなを助けたいから。」

ありがとう、助けてくれて。

 

そういって、美しい生き物が、自分たちに微笑みかける。善意と、慈悲と、祈りと、少々のエゴで構成された、自分たちの愛すべき生き物。

胸の奥でぐつぐつと何かがうなるように燃え上がる。

 

報い、それを欲しくないなんて言えない。欲しいと思ってしまったから、ジガルデはグリを選ばなかった。

けれど、今ここで、そうやって笑いかけてくれることが報いになってしまっている。

 

「俺たちもです。」

「やりたいから、街のみんなを助けるよ。」

 

同じ願いを口にして、グリとグリーズは暴走したメガシンカポケモンたちを引き連れて走り出す。

そこで、背中から声がかけられた。

 

「ありがとう!」

ヒーローが来たみたいで、うれしかった!

 

どちらの声かはわからない。けれど、それでも、その声が背中にかかったとき、グリとグリーズはただ思う。

 

もしかしたら、全部、無駄なことで、そうして、愚かなことがあって。

でもきっと、無意味なことばかりじゃなかったのだと。

 

 

 

ジガルデのことを追って、二人は走る。

 

いつかに故郷のシロガネ山の麓で、二人っきりで遊んでいた時のように。

セイカがキョウヤを引っ張る。いつも、姉は自分の前を走ってくれていた。

だから、キョウヤにとって、セイカは姉なのだ。

 

「ねえ、お兄ちゃん!」

 

ジガルデの背中を追いながら、セイカは兄の手を引いて叫んだ。

 

「私、この街に来れてよかった!」

 

その言葉に、思わず力強く頷いた。

 

「俺も、俺もだよ。」

 

生まれ育った場所でさえ、どこか、寄る辺がなかった。

それはきっと、どこにいても変わらないのだと思っていた。

違った、自分たちにも、この、異邦人であったとしても。

 

やれることも、できることも、確かにあった。

 

「たくさん、出会えたね!」

「そうだね。」

「たくさん、やれたことがあったね!」

「そうだね。」

 

奇妙な高揚感の中で、誰かに差し出せた手があったこと。

誰かの願いを押しのけてしまったことがあったけれど、それでも、やれたことがあった。

ああ、よかったと、二人はジガルデのもとに走り寄ったのだ。

 

 

タウニーからの連絡の後、ジガルデが吠える。

そのあとに、こつりと靴の音がした。

その音にセイカとキョウヤが視線を向ければ、そこには静かに立つ父の姿があった。

 

「・・・・担い手は、二人ですか。いいえ、信頼に応えたというならそれでいいのでしょう。」

 

彼はどこか、顔をしかめて、こめかみを指で撫でていた。

 

フラダリは、ジガルデ・セルを99まで集めたことを告げる。が、あと1%が足りないと彼は言った。

そうして彼は、どこか憂うような顔でタワーに視線を向けた。

 

「だが、それであの猛り狂うタワーを本当に沈められるのか。暴走するタワーに抗うフラエッテを、あの中に入った者を救えるのか。」

 

父は、静かに双子を見つめる。

それに、彼らは淡く微笑んだ。

 

「・・・・たった一つだけ言えるのは。」

「私たちは、英雄になる気はないってことだけです。」

 

それが意外な言葉だったのか、フラダリは虚を突かれたような顔をする。

 

「それは、救う気がないということですか?」

「違います。助けたいからここまで来ました。」

「でも、俺たちはきっと、英雄なんて呼ばれるほど高尚な生き物じゃないです。」

「・・・・ねえ、Fさん。」

誰かを助けるのはきっと、英雄じゃなくてもできるんです。

 

セイカは、微笑む。

そのアイリスの瞳が細められるのを見ると、灰の男の脳髄に何かが走る。こめかみをいたわるように撫でる彼に彼らは告げる。

 

「今、俺たちがここにいられるのは、誰かに助けられたから。」

「それなら、今まで助けてくれた全員が英雄で。」

「私たちはただの旅人で、寂しがりの、子供で。」

「ただ、優しくしてくれた人たちが困っているから、俺たちは、俺たちにできることをしたい。それだけです。」

「あと、お母さんの受け売りですけど!」

「英雄になんてなるもんじゃないですよ!」

 

けらりと、それらは笑う。今、絶望の淵と同義のそこで、それでも、その子供たちは笑うから。

きっと、それは紛れもない本心なのだとわかった。

 

「・・・そうですか、いえ。かつて、奪う側に回ろうとして、それでも世界が救えなかった私には何かを言う資格はないでしょうが。」

「ううん、あなたは確かに与えました。」

 

さえぎるようにセイカが口を開いた。そうして、それを引き継ぐようにキョウヤが口を開く。

 

「・・・・鋼鉄の上に咲く毒の花と、燃える祈りの竜は、それでも確かに芽吹いて、誰かを助けて、与えるためにここにある。」

だから、全部間違えていたような、そんな顔をしないでください。

 

その言葉の意味を、灰の男には本当の意味で理解できない。

全てを忘れて、外部からくみ取った情報によって構築された彼の中のそれでは、彼らの本当の意味を理解できない。

思わず口をつぐんだ灰の男から視線をそらして、セイカとキョウヤはジガルデに目を向ける。

 

「ジガルデにも、お礼をしないとね。」

「そうだね!私たちに、一緒に戦ってほしいんでしょ?」

 

それにジガルデは是というように吠えた。それに、彼らはフラダリに背を向ける。

 

「よっし!終わったら、死ぬほどガレット焼いたげる!」

「!ゼド!」

どこか嬉しそうな声の後、ジガルデはたんと飛び、そうして少しだけ高い屋根の上に降り立った。

 

ジガルデが吠える。

それと同時に、呼応するように、若草色の何かがジガルデの周りに集まり始める。

キョウヤはそれにセイカと手をつなぎ、違う手で灰の男に手を振った。

 

「終わったらあなたも、一緒にガレットを食べましょうね!」

 

軽やかな声を発している中、セイカが、兄の肩を見て叫ぶ。

 

「あ!」

 

それにキョウヤが視線を向けると、そこには母の持っていた写真で見たぷに吉がいて。

それは、ジガルデに飛び込んだ。

それに二人はなんとなく理解する。

ああ、どうやら、あの子はずっと自分たちと共にあったのだと。

 

 

セイカとキョウヤはつないだ手を放して、暴走するアンジュと戦う。

互いのポケモンの動きも、癖も、全部わかっている。そうだ、ずっと、二人で戦ってきたから。

怖くない、大丈夫。

一人じゃない。父がいて、そうして生まれたときから共にあった片割れがいるから。

共に戦ってくれる、ポケモンたちがいるから。

 

弱った花の形をしたそれが、地面に潜る。

自分たちのもとに降りてきたジガルデに、二人で叫んだ。

 

「「コアパニッシャー!!」」

ぐんと高く飛ぶジガルデが、技をタワーに炸裂させた。

 

緑色の閃光が、タワーを包む。

 

 

「セイカ、キョウヤ!」

「タワーの暴走は!?」

「落ち着きました!?」

 

合流したデウロと、ピュールと言葉を交わしていると、ホロで高ランカーたちも合流してくる。

そこで、タウニーから連絡が入った。

 

「タウニー!無事!?」

 

セイカのそれに、大丈夫だと告げた。

そうして、皆でフラエッテの動向を見守っていた時だ。

 

タワーが再び、光を帯びる。

 

「アンジュが、暴走してる・・・・」

 

キョウヤはタワーをにらみつつ、セイカの手を握る。そこで、己のポーチの中で何かが反応していることに気づいた。

 

「・・・それ、ジガルデに貰った小石?」

 

暖かな何かがそれから漏れ出ていることにキョウヤは気づき、そうして、無意識のようにセイカにそれを差し出した。

セイカはそれにすべてを理解しているように、繋いだ手とは反対のそれで、上から小石を覆うように握る。

 

「うわ!?」

 

誰かが驚きの声を上げる。二人の手の中で、小石の表面が砕け、そうして中からジガルデナイトが姿を現した。

 

「・・・・そっか。」

「だから、くれたんだ。」

「え!?それって!」

 

二人は頷き合い、そうして、タワー側の欄干の上に立つ。まるで、それが幸運のお守りだと信じているように互いの手を握って。

そうして、キョウヤは思いっきり、ジガルデナイトを投げた。

 

それと同時に、緑の巨人が現れてしっかりと受け取る。

自分たちの前にいるジガルデに、二人は何をすべきなのか理解できた。

 

キョウヤは、繋いだ手を放し、そうして、その腕についていたキーストーンを姉に差し出す形で掲げる。

それにセイカは頷いて、そのキーストーンに手を重ねた。

 

「ジガルデ!」

「メガ、シンカ!!」

 

叫ぶと同時に、ジガルデが光に包まれる。

 

砲台を背負うような形になったジガルデは、光を溜め、ゆっくりと開く破滅の花と相対する。

そうして破滅の、全てを焼き尽くす光が空に吹き上がった。

 

それはゆっくりと、ミアレシティに落ちてくる。

全て、全て、焼き尽くすような、そんな光。

 

(きっと。)

 

キョウヤはわかる。

それはいつかに、父のなそうとしたことがこれなのだろう。いつかに、彼が起動させた兵器もまた、同じように死の花を咲かせたのだろう。

メガシンカしたジガルデがゆっくりと浮かび上がり、そうして、砲台を落ちてくる光に向ける。

 

何の指示を出すべきなのか、知りもしないのになぜかわかった。

セイカとキョウヤは、もう一度、手をつないだ。

 

「「・・・・無に帰す光」」

 

発せられた言葉と共に、ジガルデに光が集まる。

 

流星が砕かれた。はじけた光は、全てを壊すはずだった光は、また、夜空に散らばり、何よりも美しい光の花のように散っていく。

 

「・・・きれいだね。」

 

セイカの言葉に、キョウヤは頷いた。

 

「本当に。」

きれいだね。

 

 

「フラエッテは?」

 

タワーから降りてきたタウニーにセイカが問えば、彼女は苦笑交じりに、手の中の彼女を見せた。

 

「疲れて寝ちゃった。」

「そっか。」

「よかった。」

 

三人でそう言って、あーあと肩を下した後、顔を見合わせた。

そうして、互いの拳を同時にこつんとぶつけた。

 

「「「お疲れ様!!」」」

 

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