カエンジシみたいな父を探しております。ついでにミアレも救います。   作:幽 

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カヌスさんの話。
感想、評価、ありがとうございます。感想いただけると嬉しいです。


カエンジシみたいな父を探していますが、ハッピーエンドは訪れてくれるようです。 上

「えっと、ジョウト地方からの飛行でよろしいでしょうか?」

「はい、確認をお願いします。」

 

差し出した資格のカードを見て空港の職員はドン引きしながら確認をした。

職員はあらかたのことを確認し終え、黒髪の女はゲートをくぐる。

 

(・・・・変わってないな。いや、当たり前か。空なんて、どこも同じだろうさ。)

カヌスは、己の唯一の瞳と似た、蒼いそれを見上げて顔をしかめた。

 

ポケモンでの飛行には色々と制限がある。そうして、資格のために多くの制約があるため今日まで取る人間は早々いない。

 

(・・・・ルートの提出、ルートにおける点在した空港での確認、ルートを違えていないのかの確認のための記録提出。)

 

飛ぶとしても制約の多いものだ。けれど、現在カロス、ひいてはミアレシティに起こった事件のために飛行機の便数が極端に下がっており、どちらが早いかと考えたときカヌスは選択した。

 

(・・・・ン十年ぶり、か。)

 

電車に揺られて、カヌスはぼんやりと外を見つめる。

 

その景色は、彼女が、ジョウト地方に向かう際に見たはずなのに。記憶の中のものとはまっとくと言っていいほど違っていた。

それに、少しだけ安心した。

 

 

 

娘がいなくなったことに気づいたのは、朝のことだった。

朝食を作り、いつもなら手伝いに起きるはずのセイカを起こしに行った先で、部屋にいないことに気づいた。

カヌスはすぐに何かあったと理解して部屋を探れば、貴重品と少しの服、そうして、彼女の唯一の手持ちであるラルトスの姿もいない。

カヌスは咄嗟に兄であり、大学に通うために寮生活を送っている息子に連絡をした。

が、見事に、というか予想通りというか、カヌスは着拒されていたのだ。

足下でアブソルが唸っている。

どうしたと、そう問われている。

 

カヌスは震える手で息子がいるはずの寮に連絡をした。

 

「キョウヤさんなら、旅のための休学届を出されていますよ。」

「あ、ああ、そう、でした。」

 

できるだけ平穏を保ちながら、電話を切り、カヌスは娘の部屋に崩れ落ちるように座り込む。

 

どこに行った!?

 

トレーナーとして旅?

いいや、そうであるなら自分に一言あるはずだ。

誰かに会いに?

いいや、それでも自分に言うはずだ。

自分に不満があった?

いいや、キョウヤの性格からして、自分に何かしら抗議の話し合いをもうけるはずだ。

 

ぜーぜーと、息が荒くなる。

可能性を一つずつ潰していく。

そうして、最後に思い至るのは。

 

呪われた、彼らの血筋。

へたり込んだ自分にアブソルが気遣わしげな顔をしてぺろりと頬を撫でた。

頬に走る、湿った感触に、カヌスはちらりとアブソルを見た。

 

「・・・いいや、もしも、他者からの干渉があったのなら、何かしらの兆候はあったはずだ。」

 

冷静に、冷静に、そう自分に言聞かせて立ち上がる。

 

「情報を、あの子達が、どこに行ったのか。」

 

アブソルを見た。それに彼女は静かな顔で頷いた。ふらふらと部屋を出て行くカヌスに付き従いながら、アブソルは据わった眼でその場に他のポケモンがいれば震え上がるような顔をする。

 

あんの、クソガキ共!!

双子を己の孫のように思っているアブソルであるが、カヌスの方をないがしろにする時点で赦す気などなかった。

 

 

情報を探す、として、早々伝手など存在しない。

 

(セイカもキョウヤの奴もSNSなんかしてないし。それに知ってる限り、あいつらの知り合いに当たったけど、全然知らないし。)

 

それはそうなのだ。

キョウヤは愛想がいいようで警戒心は強く、セイカも愛嬌はあるが他者とそう深く関わるよりも兄と連んでいるような子だった。

 

(セイカは村で過ごす内に、学校卒業後は人間関係が希薄だったしなあ。)

 

他者に善性と授けることをするために好かれやすいが、深く関わることをしない己の子どもたちにカヌスは頭を抱える。

警察に届け出は出したが限界がある。

何よりも、彼らはすでにポケモンを持ったトレーナとしての資格を果たせる年齢だ。

そこまで本腰を入れて捜査されることは無い。

 

(・・・伝手、伝手、リーグ方面は。いや、だめだ。下手に頼ってあの子達の素性がばれれば。)

 

長年、シロガネ山近くに住んでいる女は頂上に居座る、万年半袖の青年ともすっかり顔なじみであり、そこからリーグ関連の方に伝手がないわけではないのだ。

ただ、彼らの父がばれるという可能性を考えて二の足を踏んでしまう。

 

何よりも、カヌス自身山の近くから離れられない。

 

(・・・もうすぐ、山を締めているバンギラスの代替わりが起こる。下手に密猟者でも入ればスタンピードの騒ぎじゃ無くなる。)

 

彼女の脳裏には、傷だらけの老いたバンギラスのことを考える。そのため、山を見回りながら片っ端から画像検索で息子と娘の姿を偶然捕らえた画像が無いか、SNSで検索を続けるという地道な活動をするしか無い。

 

日に日に焦燥感が腹で暴れる。

 

事故に遭っていないか、病気をしていないか、飢えていないか、寒さで震えていないか、妙な奴に騙されていないか。

 

夜、家の外でベンチに座って、ポケモン達が食事をするのを見つめながら体を丸める。

ミロカロスは家の中で食事をするのが難しいためだった。そんな中、いつもなら聞こえてくるセイカの声が聞こえてこないことに、余計に喪失感に襲われる。

それに気づいたと同時に、ぼたぼたと涙が零れた。

 

「ミ!?」

 

いち早く気づいたのか、ミロカロスが騒ぐと同時にポケモン達がわらわらと集まってくる。

それに慌てて彼らを眺めようとしたが、顔を上げ、心配そうな彼らを見た瞬間、何か、今までこらえていたものがあふれ出した。

丁度、バンギラスの代替わりを確認し肩の荷が下りたせいだろうか。

 

「あのこ、たちが、ふらだりが、のこしてくれた、のに。なにかあったら、どーしよおう・・・・・」

 

その言葉と同時に、カヌスはベンチの上で丸まって、散々にわんわんと泣いた。

 

ああ、どうしよう。あの子達までいなくなって、消えてしまったら。

脳裏には、もう二度と会えない、カヌスのお星様のことが浮んでいた。

ポケモン達はカヌスを慰めるために背中を撫で、頭に顔をよせ、頬を舐める。

普段、滅多に泣かないアブソルが甘い声で、慰めるようにカヌスにすり寄る。それにカヌスはアブソルのことを抱きしめて、わんわんと泣いた。

 

昔、父親から逃げて、野宿したいつかのように。

 

泣きじゃくり、少しだけ落ち着き、アブソルの毛並みが散々に涙を吸った時、何か、小さな固いものがカヌスの頭上に落ちてくる。

木の実か何かを屋根からポケモンが落としたのかとカヌスが思わずそれを掴んだ。

それは、球体の二つの石だった。ビー玉に似たそれにカヌスが困惑していると、みゅーと独特な鳴声が聞こえてくる。

それにカヌスが顔を上げれば、桃色の体躯のポケモンがふわふわと浮いていた。

 

「みゅ、みゅう!?」

 

驚きで涙が止まる。

 

(あ、こいつか!)

 

カヌスは、家の近くにポケモン用の食事を撒いている。それは、シロガネ山に住んでいるタイプが嫌がる匂いが出るレシピのものだ。山に捨てられたポケモンなど生態調査の一環でリーグから依頼されていたのだが。

 

「やたらとエスパータイプ用のものが減ってるのは君か!」

 

思わず叫んだカヌスに、ミュウは楽しそうに笑い、何やらアブソルの方を見て話しかける。

混乱した頭でそれを見守る。

そうしていると、アブソルが興奮したように騒ぎ出す。

 

「お、おい、どうした!?」

 

カヌスがアブソルをなだめようとするが彼女は鋭く鳴いた。そうすれば、何故かカヌスのスマホロトムが飛び出てくる。

彼らはスマホロトムに何かを話しかければ、何やらアプリが開かれ、そうして、とある画像が映しだされる。

それに、カヌスは目を見開いた。

 

「あ、あいつら!?」

 

そこには、何故か、瓦礫の山に座ってコーヒーを啜っている双子だった。

 

「は!?待て、え、カロス!?いや、これ、ついさっきじゃねえか!?」

 

この頃山に籠っておりニュースをチェックもせず、ひたすらするのはロトムに画像検索を頼む程度だったカヌスは明らかに情報が出遅れた。

 

「・・・・ミアレシティで、プリズムタワーがなぞの力により、破壊!?」

 

何らかのポケモンが関与しているとされとニュースを見るが、このご時世、伝説などと呼ばれるポケモンが暴走して、なんていうのは可能性として十分ある。

 

(ミアレの英雄!?緑色の、謎のポケモン!?)

 

SNSを漁れば漁るほど、二人の子どもたちが元気に過ごしていることが確認できた。

それにカヌスはぺたりと、その場に蹲った。

 

「・・・・よかった。」

 

無事、なのだ。あの子達は、少なくとも、因縁に苦しめられているということもなく。

 

(・・・・あいつら、我慢できなかったのか。)

 

脳裏にはフラダリの写真を寂しそうに見つめる娘の姿だった。

 

ああ、きっと、あの子達は自分に反対されると、そう理解して何も告げずに旅に出たのだろう。それは当たっている。

 

(五年・・・・)

 

それは、短いと言えたし、長いと言えた。

あの一件以来、フラダリと自分を知る人間はどれほど残っているのだろうか?

子どもたちは幸いなことにカヌスに似た。

ただ、細部で違う部分がある程度だ。例えば、セイカはカヌスよりもずっと優しげな目つきをしている。

 

(セイカは、完全に私の母親似か。)

 

娘よりも鋭い目つきだけは、父親に似てしまった己の事を考える。

故に、未だにミアレに残っている人間で、カヌスを知る人間はすぐに察せられるだろう。

自分の子であると。

 

「・・・・迎えに、行かないと。」

カヌスは、本当に久方ぶりに古巣に帰る決意をして立ち上がる。

 

(・・・いつかに、行かなくちゃいけなかったんだ。)

 

カヌスは唇を噛みしめて、ふと、思い立つ。

 

「えっと、ありがとう?二人のことを教えてくれて。」

 

ミュウはそれにうなずき、カヌスの持っている二つの石を指さし、そうして、ロトムに映しだされている二人の子どもたちを指さした。

 

「えっと、渡せって、ことかな?」

それにミュウはうなずき、そのままどこかに飛び去っていく。

 

「・・・・行くか。」

 

カヌスは少しの間、呆けていたがすぐに立ち上がる。

 

そうだ、どんな意味合いがあるにせよ、いつかは行かなくてはいけなかった。

シンオウで産まれ、父の故郷のイッシュではなく、母の故郷のジョウト地方で子どもたちを育てはすれど。

結局、自分はこの地に骨を埋めようとは一度だって思えはしなかったのだから。

 

 

 

(・・・・変わったな。)

 

着いた駅は、カヌスの記憶の中よりも整備されていて、綺麗になっていた。

それに対して、寂しいだとか、そんなことも思えずに改札を出る。

黒いジャケットに首まで覆うインナー。簡素なジーンズにコンバットブーツ。そうして顔を隠すようにキャップを被ったカヌスはあやしいと言えばあやしいが、人の出入りが激しい街にそれを気にする人間はいない。

 

「さて、あいつらは・・・・」

 

カヌスが、どうも子どもたちが滞在しているらしいホテルに向かうかと通りを見回した。

ホテルの宣伝動画に二人の子どもは少々写っていたが、画像検索するにはあまりにも解像度が低すぎた。

 

(あと、めちゃくちゃ再生数が少なくて、検索から遮断されてたくさいな・・・)

 

カヌスはため息を吐いて歩き出そうとした、その時だ。

目の前に車が止まる。それは明らかに格式の高い人間が使いそうな黒い送迎車だ。

それが自分の前に止まったことに顔をしかめた瞬間、車から淡いエメラルド色の髪をしたメイドが出てくる。

 

「・・・カヌス様でよろしいでしょうか?」

「どちらさまだろうか?」

 

質問に質問で返せば、そのメイドは顔をしかめた後頭を垂れる。

 

「・・・・セイカ様とキョウヤ様の元までお連れします。」

 

その言葉にカヌスはゆっくりと目を見開いた。そうして、一瞬、頭を巡らせて頷いた。

 

「・・・・わかりました。」

 

その言葉に、車の扉がゆっくりと開かれた。

 

「送迎は、主人自らが案内するとのことです。どうぞ、お乗りください。」

 

その言葉にカヌスはゆっくりと車に乗り込んだ。

 

 

「・・・・・ご両親はお元気でしょうか?」

「まあ!知っておられるのですか?」

 

それにカヌスは向かい側に座る女を見た。

それは、愛らしい女だった。

チョコレート色の肌に夕暮れのような瞳、そうして淡いピンク色の髪をした、気品と愛らしさを感じる淑女だった。

そうして、カヌスはひどく昔ではあるが女の容姿に見覚えがあった。

カヌスは一つの家名を口にする。

 

「・・・ご両親によく、似ておられますので。」

「まあ、よく知っておられるのですね!」

「ええ、こちらには昔住んでおりましたので。高名な方々の名前は存じておりますよ。」

 

にこやかに、表面的には話をする。

けれど、カヌスはだらりと背中を冷や汗が流れ落ちていくことが分かる。

 

何故、彼女とあの子達に関係があるのだ?

自分が彼らの母親であると分かるのならば、それ相応の情報の出所があるはずだ。

目の前の女の見目には覚えがあった。腐っても、過去であるとは言え、フラダリの家で家格の高い家の人間については知識がある。

 

そんな人間が、なぜ、あの子達を知っている?

だらりと、また背中に汗が流れていく。

目の前の存在が、あの子達に近づく理由はなんだろうか?

 

血とは、案外、振り切れないもので。それが、祝福になることもあり、呪いになることもある。

脳裏に浮ぶのは、赤い炎のような髪に、澄んだアイスブルーの瞳。

優しくて、賢しい、お星様みたいに綺麗な、カヌスの昔なじみ。

 

(あいつにとって、あいつの血は、呪いだったのか。祝福だったんだろうか。)

 

カヌスはすっと逸らしていた視線を上げて、ユカリに微笑みかけた。

 

「・・・・そのような方達にとって、あの子達に利用価値などないと思うのですが。」

 

それは、穏やかな笑みだった。あくまで、静かで平淡な声だった。

ハルジオは、思わずモンスターボールに手を伸ばしかけ、横にいるユカリの視線を受けてその動きを止める。

 

その目。

ハルジオの知る、愛らしい少女よりも鋭くはあれど、同じアイリスの瞳。

けれど、その瞬間、己を見る冷たく、刺すような敵意に満ちた目は冷や汗をかけられたかのような心地になる。

 

「・・・・利用価値、なんて寂しいお言葉を発せられないでください。彼らは、ミアレの英雄と言われるほどにこの街に尽くしてくださいました。」

「そう言ってくださり光栄です。」

「ええ!ずっと、この街にいて欲しいと思っておりますよ。」

「そのように我が子らを評価していただき、嬉しく思います。ですが、あの子たちにも学校や生活がありますので。」

「それなら、こちらで通われてもいいと思いますわ!それにわたくし、あなたのことも気になっていますの!」

カロス地方、殿堂入り者、カヌス様。

 

(なるほど、この女・・・・)

 

私が、何者か、あの子達が誰の子どもたちか。気づいているのか。

 

甘く囁かれたそれにゆっくりとカヌスは向かいに座る女のことを見つめる。ハルジオはそれに薄ら寒い感覚がした。

それは、例えば、野生のポケモンが得物を見定めるときのような、そんな冷淡な質感の目によく似ていた。

完璧な笑みを浮かべて、穏やかに振る舞えども、それは確実に自分たちを敵として見定めようとしている。

ハルジオはどうするんだとユカリを見た。

張り詰めて、今にも何かが破裂しそうな空気だった。

女は変わらず微笑んでいた。微笑み、そうして楽しそうに笑った。

 

「まあ!そんな顔をされると言うことは、わたくしとポケモンバトルをしてくださるかしら!?」

 

その言葉にカヌスは今までの敵意というものを忘れたのか、目を大きく見開いた。その顔を見て、ああ、この女はセイカの母なのだと再度認識した。

 

「わたくし、ミアレシティの皆様に最高のポケモントレーナーになっていただきたいと思っていますわ!ですので、強い方は大歓迎です!セイカ様も、キョウヤ様もバトルがお強くて!それに、カヌス様もバトルが非常にお強いと聞いておりますわ!」

 

うきうきとそう言ったユカリは、まるで怯えるポケモンをなだめるように目を細めた。

 

「それ以外に、わたくしがあなたたちに何を望むというのでしょう?」

(・・・・嘘、いいや。彼女があの子達を利用するとして。フラダリの血筋を喜ぶなんてフレア団の人間だけだ。あの家の人間は、調べた限りのフレア団の理念と食い合わせも悪い。)

 

すでに男の血筋であること自体に執着する存在は限られている。

何よりも、目の前の存在は、下手な腹芸よりも、もっと直情的な手段を選んでいると考える。

カヌスの知る、彼女の家の人間の傾向として。

 

(何より。)

 

カヌスは腰に付けているアブソルのモンスターボールに意識を向ける。悪意に過敏な彼女の反応がないことが全てだろうと納得する。

 

その言葉にカヌスは息をつき、そうして、ぽすりと背もたれに体を預ける。けれど、すぐに姿勢を正した。

 

「・・・・ご無礼を。くだらないことを言いました。」

「いえ、誤解は誰にもありますわ。突然のことで動揺されたのでしょう!」

 

にこやかな女のそれに、カヌスは疲れたように微笑み、そうして、ハルジオが死んだ目で震えていた。

 

(こ、こえええええええええ!)

 

 

 

(・・・・懐かしい。)

 

カヌスは目の前の、ホテル・シュールリッシュが建っていた。昔、まだフラダリの生家にいた頃何度か訪れたことがある。

 

(ドレスコード、いや、今更か。)

 

カヌスは車から出た後、次に降りてくるユカリに手を差し出した。

ユカリと、そうして先に降りていたハルジオが驚きの顔をする。

カヌスもまた一瞬、やってしまったと考えたが今更手を引っ込めるのもと思い、姿勢を保つ。

ユカリはにっこりと楽しそうに微笑み、カヌスのエスコートを受入れた。

 

「光栄ですわ!」

「・・・・いえ。すみません。」

「いえ、手慣れていらっしゃいますわね!」

「・・・・色々と、叩き込まれておりますので。」

 

カヌスの脳内には、フラダリの家で叩き込まれた従者としてだとか、その他諸諸の仕草について思い出す。

 

(昔、フラダリにも思わずやっちゃってたんだよな。)

 

カヌスがため息をついていると、ユカリがホテルを指していった。

 

「こちらに居られますので!」

「・・・・あの子達の泊まっていたホテルは、こことは違うはずだが。」

「せっかくの親子の再会ですので!」

 

何か誤魔化されているように気もするが別にいいだろうと流した。

 

(・・・どうせ、さっさとこの街を出るんだから。)

「ユカリ様に送迎などさせてしまい申し訳ございません。無礼をどうぞ、お許しください。」

 

カヌスは昔叩き込まれた通りの礼をする。それにユカリはにこやかに微笑んだ。

 

「いえ、お礼は後でバトルしてくださればかまいませんわ。」

 

その言葉にカヌスは淡く微笑み、軽く頭を下げた。

 

「ええ、是非とも。」

 

 

エレベーターが上がる。

それをぼんやりと待つ。その中も、どこか、懐かしさを感じた。

ちーんという音と共に、エレベーターが指定した階についたことが分かる。

 

「どうぞ。」

 

その言葉と共にカヌスが一歩踏み出せば、そこはカーテンの閉め切られたダンスホールに似たバトルコートだった。

そして、その中心に、数人の子どもがいた。

その中に、黒い髪の双子を見つけてカヌスはそのまま歩き出した。

 

「あ・・・・・」

 

子どもたちの誰かが声を出すのが聞こえる。カヌスはそのまま自分の姿を確認し、固まる己の子どもを見た。

 

「お、かあ・・・・」

「すまない、君達は?」

 

二人の子どもを無視してカヌスはまず、その場にいた見知らぬ三人の少年少女を見た。

 

「あ、えっと。」

「ぼ、僕達は・・・・」

「え、MZ団です!」

 

何かの活動団体かと顔をしかめる。タウニーたちはそんなカヌスにびびり散らしていた。

何せ、カヌスはセイカによく似てはいれども、瓜二つ、というレベルでは無い。彼女よりは目つきは鋭く過酷な環境で育ったせいか、雰囲気も鋭い。

そんな彼女が抑えているとは言え、怒りを醸し出した状態で仁王立ちする様は確かに恐ろしい。

何よりも、子どもにとって親に叱れるというのは掛け値無しに恐ろしいものだ。その威圧感がプラスされ、子どもたちの背中には嫌な汗が流れていく。

カヌスはこれから話すことに関して誰にも聞かれるわけにはいかないだろうと気を取りなおす。

 

「・・・・君達に、愚息達が世話になったのは理解した。だが、これから二人にだけ話したいことがある。席を外してくれ。」

 

カヌスはゆっくりと二人を見つめる。鋭い、アイリスの瞳には確かに怒気が宿っており、二人は顔を青くして目をそらす。声を荒げたわけではないのに腹に響くような怒りを感じて二人は逃げ出してくなる。

 

「報告を。言い訳では無く、事実を話しなさい。何故、私に黙って、この地に来た?」

 

一つ一つの単語を区切ってそう言えば、セイカは黙り込み、キョウヤが口を開いた。

 

「・・・あなたと、父さんの、故郷を見たくて。」

「・・・どちらから言い出した?」

「・・・俺も、反対は。」

 

二人は互いのことをちらりと見合って言う。それを遮ってカヌスはやはり、短く言った。

 

「報告を。」

 

熱など無い、平淡な声音でカヌスは二人のことを見る。明らかな怒気を感じる空気にセイカが震える声で言った。

 

「私が、どうしてもって。」

「セイカだけで行こうとしたのを、俺も行くって言ったんだ!」

「どうして私に話さず言った?」

「お母さんは!」

 

セイカは兄の服の袖と、デウロの服の裾を掴んで半場泣き叫ぶように叫んだ。

 

「お母さん、そう言って、なんにも話してくれないから!お父さんのことを、全然、私たちに、くれないから!お母さんからしか、もう、私たちはお父さんのことを、知ることも出来ないのに!」

 

ずるいじゃないか、そう、娘が言った言葉にカヌスは小さく息をつき腕を組む。

 

「・・・それに関しては謝る。あいつのことをしゃべるのは辛い部分があったからな。」

「だから!」

「気は済んだはずだろう。帰るぞ。」

 

カヌスはそう言って娘の腕を掴んだ。

それにセイカは強ばった顔で、キョウヤは静かな顔で母のことを見る。

無言の二人に、タウニーがキョウヤの胴に、デウロはセイカの腕を、ピュールは後ろに隠れる形になりながら抗議の声を上げる。

 

「あ、あの!」

「は、話をきいてあげて欲しくて!」

「二人とも、このミアレのために頑張ったんです!」

「二人の事情も知ってます!」

二人の、お父さんのことも!

 

タウニーがそう叫ぶと同時に、カヌスの瞳孔がゆっくりと開かれるのをキョウヤは見た。

 

「喋ったのか?」

 

ありとあらゆる感情を押し殺した声にキョウヤたちは思わず目をつぶる。カヌスはそれを気にすることもなく、キョウヤの胸ぐらを掴み上げた。

 

「何故喋った!?」

「・・・彼らは信用できると。」

「人の口に戸は立てられない!例え、相手がそれだけ信頼できるとしても!喋ってはいけないことだと私は教えたはずだ!」

 

カヌスはセイカの方を見て睨む。

 

「人の善意には限りはあれど、人の悪意には限りが無い!お前達は、今、他者かの悪意にどれだけ晒されてもいいと、その隙を与えたんだ!」

どうして、そんな愚かなことをしたんだ!

 

カヌスはそう言い捨てた後、唇を噛みしめて吐き捨てる。

「私が、朝、当たり前のようにセイカを起すために部屋に行って。空っぽのベッドを見た時、どんなことを思ったのか。お前達に分かるか!?」

 

自分を見つめる母の目に黙り込むことしか出来ない。身がすくむような感覚と、身を切るような罪悪感が腹の中でのたうち回る。

 

「お前達の父親に用がある人間は、少ないが存在するんだ!そいつらは、悪意も善意も、欲も、何もかもを持ってもお前達に近づく!攫われた可能性だって考えた!ポケモンがいれば、どこにだっていけるだろうさ!?でもな、ポケモンがいても、守ってやれない悪意はいくらでもある。それを、守るために、私が、親がいるんだ!」

 

怒声染みたその声には涙が混じっている気がした。カヌスは額に手を当て髪をかき上げる。

重たい沈黙が、その場を支配する。

だって、そうだろう。

少なくとも、その場にいる人間達は、彼女の言葉の意味が痛いほどに理解できる、出来てしまう。

 

フラダリの罪、功績。

それは、回り回って、彼らのことを取り巻くから。

それに苦しめられている誰かのことを、彼らはこの街で知ってしまったから。

 

(ああ。また、そうやって。)

 

母は強い人だった。キョウヤもセイカだって知っている。

女手一つで双子を育てることが、どれだけの苦労なのか、分かるだろう。

そんな母が、今にも、倒れそうなほどに、叫び、わめいている。

自分たちが駆けた、苦労によって。

 

「・・・・どうして、ここなんだ。」

 

わかる、カヌスにだって分かる。

彼らがどうしてここに来たのか。

彼らがどうして自分にそれを告げなかったのか。

分かる、分かるからこそ、彼女は顔を覆い背中を丸めて震える声で言った。

 

「・・・・この地でないなら、いくらでも、どこにでもいけばいい。好きに生きて、好きに死ねばいい。お前達の人生は、お前達のものだ。でも、この街にだけは行くなと私は言っただろう。」

「分かってる、俺たちだって、母さんのこと苦しめたいわけじゃ・・・・」

「苦しめる!?違う、私は苦しめられてるんじゃ無い!ただ、心配なんだ!」

 

震える拳で、荒みきったアイリスの瞳が自分たちを見つめる。

 

「お前達だって分かっていたはずだ!分かっていたのにここに来た!分からなければ守ってやれないんだ!知らなければ後悔さえも出来やしない!」

「でも!」

 

そこで、セイカがか細い声で口を開いた。

 

「お母さん、ずっと、ここに帰りたがってたでしょ!」

 

叫びながら、セイカはカヌスを見た。

 

「ずっと、ずっと、帰りたがってたって知ってた!でも、私たちのせいで帰れなかったから!だから、帰してあげたかったの!お父さんの、ところに、ただ・・・」

 

その言葉にカヌスはセイカの腕を掴み、自分に引き寄せる。

 

ふざけるな

 

ばりちと、母の目から、火花のように怒りが漏れ出した。

 

「お前達以上に、大切なものなんてあるはずがないだろう!?」

 

叫んだ声は、らしくないほどに悲痛で。強い母が、まるで今にも崩れ落ちそうで。

その様が、ただ、哀れで。

カヌスは視線を床に滑らせて、今までの人を威圧するような鋭い声はなりをひそめてしまって。

 

フラダリの子どもたち。呪われた子どもたち。祝福が、呪いに成り果てて。

彼らに罪があると謳うものはいるだろう。

 

けれど、カヌスにとってフラダリはずっと強く、賢しく、優しく、そうして、あまりにも繊細すぎる奴でしかなかった。

美しものが好きで、よりよき者になりたいと、そうあることが当然だと夢を見続ける、そんな、カヌスの美しいお星様。

けれど、星はいつか墜ちてしまう、墜ちてしまった。

それでもよかった、カヌスには変わらずフラダリは美しい生き物のままだった。

あの日、人というもの、人の築いた社会というものを信じさせてくれた生き物。

 

あの日、自分を知ろうとした、己を見つめる青い瞳に焦がれ続けている。

 

だから、唯一残った子どもたちのことだけは幸せになって欲しかった。

ずっと、幸せになって欲しかったお星様はカヌスの知らないどこかで消えて仕舞ったから。

せめて、生き残った、罪無き生き物たちの人生が、幸福で、苦しみなどないように。

それだけを、ただ、願って。

 

「お前達の安全と幸福が、どうして私の恋しさと釣り合うなんて思った!?私は、お前達が幸せならそれでいいんだ!親が子どもを当たり前に愛するなんて戯れ言を吐く気はない!でもな、それでも!」

私が、お前達の安全や幸福と引き換えに、幸せになって笑うような女だと、本当に思うのか!?

 

それは、母の言葉だった。それは、誰かの幸福を一心に願う女の素朴な善性だろう。

故に、ひどく、胸を突く。

ひどく、ぎりぎりと、胸を締め付ける。

 

(・・・・ああ、なんだ。)

 

母に会うのは怖かった。

何せ、誰だって、母親に怒られるのは怖いだろう。いつだって、母に怒られるのは怖かった。でも、改めて思った。

本当に、己にとって大事な人間に叱られるのは、怒られるのは、痛いのだ。

怖いでは無く、痛いのだ。

 

自分たちは、してはいけないことをした。

踏み入れてはいけないと、君達を傷つけると、散々に戒められてなお、自分たちの願いを押し通した。

自分たちがいなくなって、母が誘拐のことまで頭に入れて探し回った事実に、それだけのことをしたのだと付き付けられる。

けれど、それでも、キョウヤは口を開く。

 

「・・・・でも、それでも、俺たちは、母さんは、ここにこないといけなかった。」

「戯れ言を吐くな・・・・」

 

今にも崩れ落ちそうな、母の姿。

それに、キョウヤは口を開いた。

 

「・・・・でも、願いは叶いました。」

「なんだ、あいつへの罵詈雑言でも聞けたのか?」

「ううん、違う。会えたんだ。」

お父さんに、会えたんだ。

 




バッドエンド後のパシオ


美しい生き物だったのだ。
ただ、どこまでも、美しい生き物で。

「・・・・カヌス様が、見つかりました。」
その言葉と共に、帰ってきたカヌスは、四肢の全てのそろっていない肉塊だった。


美しい世界を切望したのは、全てに諦めたのは、あの時だった。
一緒に食事をしようと、そう約束をしたあの日、カヌスは行方不明になり、そうして、身代金を払い、結局、カヌスは帰ってこなかった。

遺体が帰ってきただけ、幸運だったと言ったのは誰だったろうか?
カヌスのいなくなった穴を埋めるとすり寄ってきた醜い生き物だっただろうか?

覚えていない。
少しの間は耐えられた。あの子がいなくても、それでも、きっと生きていけると。
辛くなれば墓に通って、話をして。
そうだ、美しい世界。死んだあの子に報いるために、そんな、世界を、ただ。

全て、無意味じゃ無いか?

世界が色あせる、崩れる、汚い。
君がしなくてもいい死を押しつけられたのは何故だった?
こんな醜い世界で無ければ、全て、どうだって、回っていたはずなのに。
なのに、君がいない。
墓に参る頻度は多くなる。多くなって、それでも、この世に絶望して。

それでも、せめて、美しい世界を。君が、生きていけただろう世界を、作ろうと、そう思って。


「フラダリさん、あの、フラダリさんがもう一人現れて!」
そんな知らせを受けて、パシオを移動した。その先。
「どうしたものでしょうか?」
自分によく似た男と、そうして。
「わからんだろう。」

いつかに、失われた、美しい生き物が、そこに、いて。
(ああ、そうか、カヌス。)
君は何よりも美しく、優しい生き物だったから。

私の元に、帰ってきてくれたのかと。
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