カエンジシみたいな父を探しております。ついでにミアレも救います。   作:幽 

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後日談の一部になります。
感想、評価ありがとうございます。また、いただけましたら嬉しいです。


カエンジシみたいな父は見つかりましたが、上手く話せません。

「そ、その、趣味は!?」

 

その言葉に灰の男は苦笑いをして、何を答えるか迷うように拳を額に当てる。

それを見ていた女が呟いた。

 

「・・・・・記憶が無いから趣味云々も覚えてないんじゃ無いか?」

 

その言葉に娘は絶望したように顔を手で覆った。

 

 

 

不思議な気分だった。

カヌスは己の腰にがっつりと絡みついた腕を撫でながら、起き抜けに自分をまるでしがみつくように抱きしめる男を眺めた。

 

焔のような赤い髪は燃え尽きたように灰に白く染まり、今は閉じているが息子と同じ青い瞳は色あせたように染まっている。

 

それを悲しいとは思わない。カヌスにとって重要なのは男が生きていて、また、再会出来たことだけだ。

(それはそれとして、この腕からどうやって抜け出すか。)

 

一応抜け出そうともぞもぞと体を動かすが、寝ぼけているのかフラダリも腕を動かしてさらに拘束が強くなる。

朝食を作る時間が近づいている。二度寝を決め込むという選択肢もないわけではないが、長年、ポケモン相手の仕事をし、規則正しく生活していたカヌスには立ち去った眠気は二度とかえってこない。

どうしたものかと考えていると、ふと、フラダリの手つき、何か、横っ腹辺りを撫でるように往復していることに気づく。

 

「・・・・起きてるな?」

 

その言葉に、フラダリは、こらえきれないようにくすくすと小さく笑い出した。

 

「ふ、ふふふふ、すまない。起さないように四苦八苦しているのが可愛らしくて。」

可愛いのだろうか?

 

カヌスは昔なじみの独特な価値観を不思議に思いつつ、体に絡みつく手をとんとんと叩いた。

 

「そうか、なら、この手を離してくれ。」

 

それにフラダリは素直に手を離し起き上がる。カヌスも同じように起き上がれば、フラダリが体を寄せて、女の頬に顔を寄せる。

軽いリップ音と共に男は穏やかに微笑んだ。

 

「おはよう。」

 

カヌスはそれになんだか泣きたくなる。ずっと願っていた、己の唯一が何の憂いもなく微笑んでいるだけでカヌスは十分だったのだ。

 

 

 

「セイカ、皿、用意してくれ。」

「・・・うん。」

 

朝、カヌスはホテルの厨房を借りて朝食を作る。それを毎日、娘のセイカが手伝っていた。

 

息子と娘の回収のために訪れたミアレでフラダリと再会したカヌスはひとまずホテルZに身を寄せていた。

宿泊代金に関してはこのホテルを管理しているらしいタウニーという少女から断られている。

 

(客商売だろうに。)

 

フラダリと、二人分の料金のことを思いはすれど、熱心にキョウヤとセイカには世話になったからと言われ、ひとまずは頷き、今のところはホテルの雑用と食事の支度を引き受けることで引き分けにした。

 

ホテルのシーツ替えや清掃は苦にならない。昔、フラダリの生家で習ったことがある。

 

(先代様や、フラダリが怒ってたけどなあ・・・・)

この子は、使用人ではないのだぞ!?

 

普段、滅多に怒ることのない人間の激怒ほど恐ろしいものはない。

そんなことを思い出しつつ、カヌスは生返事をして厨房にある窓から外を見つめるセイカをどうしたものかと眺める。

 

カヌスは数日、ミアレで過ごしている。

フラダリと共に、ミアレで何があったのか、そうして街の面々に紹介されたりだとか。

まあ、そう言って過ごしているわけだが。

 

(・・・・どうしたものか。)

 

カヌスは手を止め、娘の後ろに回る。そうすれば、セイカが熱心に何を見ていたのかすぐにわかった。

窓から丁度庭が見え、そこでカヌスやセイカ、そうして自分の手持ちに食事をさせるフラダリが見えた。

早めに起きるトレーナーに合わせて朝が早くなる彼らには、先に食事をさせるのだが。それは今のところフラダリの仕事になっている。

ギャラドス二匹に、バンギラスやら大型ポケモンが勢揃いした光景は壮観だが、皆が皆、一応に食事に手を付けない。じっと、何かを待つような仕草をしていた。

そこで、カヌスの手持ちのアブソルが己の皿の前に付き、食べ始めると同時に皆が手を付け始めた。

 

(・・・すでに、序列関係を叩き込んでる。)

 

まだ数日しか経っていないというのに、娘や息子の手持ちたちに上下関係を叩き込んでいるのに驚きつつ、カヌスは娘に話しかけた。

 

「・・・・どうする、あっち行くか?」

「え、え!?あ、ううん!いいの!みんな、大人しくしてるかなって!」

 

そう言ってそそくさと朝食の準備に返っていく。それを見て、カヌスはどうしたものかと考える。

 

 

 

 

「お父さんと何話したらいいのかわかんない!!」

 

セイカの嘆きに、母親と兄、そうしてMZ団が顔を見合わせた。

それは丁度、昼も過ぎた時間、カヌスはカウンターの中で趣味のレシピの考案を行いながらロビーに置かれた談話スペースにいる双子含めたMZ団の会話を聞いていたときのことだ。

彼らのために、ガレットと紅茶を出してやった後の事だ。

遠いせいで具体的な話は聞こえていなかった中、そんな声が聞こえてきた。

それに、カヌスの足下で優雅に寝そべっていたアブソルが顔をしかめながら顔を上げる。

 

「・・・なんでもない。」

 

カヌスのそれにアブソルは少しだけ考えた後、そのまままた寝そべった。

 

「お兄ちゃんはなんで、お父さんをあんなに簡単に話せるの!?」

「えー?そう?」

「そうだよ!」

 

不満そうなセイカのそれに、キョウヤは困ったような顔をした。

 

「何ってねえ。そんなに全方面に気負うからじゃない?普通のことでいいんだよ。」

「・・・・普通、お父さんとどんな話するのかなんてわかんないよ。」

 

その言葉にカヌスに何かが刺さる。状況が状況とは言え、自分のせいではある部分だ。

自分がへこんでいることに気づいたのか、キョウヤが周りに話をする。

 

「あー、みんなは?」

 

その言葉に、MZ団の皆は顔を見合わせる。

 

「・・・・私も、お父さんには、あんまりなじみなくて。」

「私も。」

「僕も・・・」

 

それにキョウヤは余計なことを聞いたと、頬を掻いた。そうして、苦笑しつつ、あーと声を出す。

 

「その日のニュースのこととか。天気のこととか。そういうことでいいんだよ。」

「・・・・私、お兄ちゃんみたいに詳しい話できないよ。」

(・・・・キョウヤとフラダリの奴、余計に政治面とか、経済面とか、そっちの話するからなあ。)

 

記憶はなくなれども、それ相応の知能があるせいか、フラダリとキョウヤの会話は非常に、言ってしまえば堅苦しいのだ。

 

(前に聞いたのは、今度のミアレに介入してきそうな企業の予想だったからなあ。)

 

セイカはお世辞にも気軽に入っていける話題ではないだろう。

 

キョウヤは、何というか、産まれてから一度も会っていない父親に対してひどく普通に接している。まるで、ずっと男の元で育てられたかのような気安さだ。

それこそ、まるで幼い子どものように気軽にフラダリにハグを求めたりだとか甘えに行っていることさえある。

 

(男同士って、あんなに気軽にいけるのか?)

 

脳裏に浮ぶのは、フラダリと、そうして恩義ある先代だが。参考が一例しか無いため、カヌスには分からない。

 

「・・・どうなんだ?」

「え、だって、俺の父親だし。幼児期に出来なかったことを巻き返しでしようかって。」

「幼児期の巻き返しで父親にバックハグしに行く奴っていていいのか?」

「母さんもして欲しいの?」

「いや、したきゃすればいいが。」

 

(・・・・いや、こいつの場合、本当に信頼というか起き出すとびっくりするぐらい距離近くなるから。普通、なのか?)

 

今のところ、別段困ってもいないし、フラダリも嫌がっていないようなのでカヌスは放っておくことにした。

キョウヤは困ったような顔をして、カウンターに聞こえるように声をかける。

 

「母さーん!」

 

それにカヌスは重い腰を上げる。それにアブソルものそのそと動き出した。

 

「なんだ?」

「母さんも、父さんとの会話のネタ、そこまで困ってないよね?」

「まあ、Fの奴も私とのこと思い出したと言っても断片的だからな。昔話を軽くと、ジョウト地方に移った後のこととか、お前達の話とかしてる。」

 

人前で堂々とフラダリと呼ぶわけにはいかないので、人前では一端、Fと呼ぶことで落ち着いている。

それでもカヌスがフラダリに語れること何て殆ど無い。彼女が語れるのは、幼い頃だろか、学生の頃だとか。後は、時折、夜のミアレシティにてポケモンバトルで騒ぎすぎて怒られた話だとか。

 

カヌスは、フラダリが狂い、怒り、歪んだ原因を知らない。それが、いいことなのかはわからない。

ただ、カヌスの語る話はフラダリにとっては真綿で包んだような、柔らかくて優しい思い出だ。それを寝物語に話すときの、うつらうつらとした穏やかな表情を見ているときっと間違いではないのだろうとカヌスは思う。

 

カヌスがぼんやりをそんなことを考えていると、ふとした様子でキョウヤが口を開く。

 

「・・・・そういえば、父さんは?」

「あれなら、昨日の夜寝付けなかったらしくてベッドに叩き込んできた。湯たんぽ代わりのブースターもねじ込んできたから暫く起きないだろう。」

 

再会してからそれこそ起きてから寝ても常に側にいる父が母の側にいないことをキョウヤが問えば、カヌスは淡々と答える。

 

「おや、お熱い夜だったので?」

「いや、昨日の、実録バンギラスの群れからの逃亡の話の続きが気になったらしく。」

「・・・・まあ、母さんは話には事かかないよね。」

 

カヌスのそれにキョウヤが呆れたようにそう言った。

 

カヌスとフラダリは常に隣にいる。

それは、消費してしまった時間を補うためか、まるで番のポケモンが寄り添うような光景に似ている。

 

(まあ、曰く、距離感が子どもの頃のままだから、らしいけど。)

 

そこでセイカが頭を抱えて叫んだ。

 

「そんな話と同列の話題なんてないよ!!!」

「・・・別に、普通の話でいいだろ。子どもの頃の話とか。」

「私の子どもの頃の話なんてつまんないよ!!」

 

何故己の子どもは、バラエティー番組の芸人の並に滑らない話を求めているのだろうか?

 

カヌスはそんなことを考えていると、タウニーが聞いてくる。

 

「そう言えば、おかあさまはセイカのことを助けてあげないんですか?」

「助け、といわれてもな。なんというか、会話なんてそこまで気にしてなかった。話したいことがあれば語るし、話したくなければ語らないし。」

 

カヌスとしてはセイカが話したいことがあれば話せばと思っている程度だった。

 

(いや、その前に、借りぐらしも止めた方がいいのかなあ。)

 

身内だけのスペースというものを持った方がいいのだろう。その前に、今後、どうするべきかとそろそろ決めるべきなのかも知れない。

 

「もう空気が熟年夫婦だもんねえ。」

「夫婦生活は一切送ってないが。」

「うーん、ノンデリ!」

 

カヌスの言葉に微妙な空気になる中、キョウヤが一言そう言い放つ。などと言いはしても、幼い頃から一緒にいるせいですでに距離感や空気も固定されているため今更という感覚もない。

 

「セイカ、お前はお前で、そこまで早急にしなくてもじっくり話していけばいいんじゃないのか?」

 

その言葉にセイカは口元を尖らせる。

 

「でも!お兄ちゃんとお母さんだけずるい!!」

 

ぷんぷんと擬音が着きそうな怒り方に、カヌスは幼い頃のフラダリの幻影を見る。やはり、娘は父親に似るものなのだなあと考える。

 

「そこまで言うなら、お話しする場を作ったら?」

「話を?」

「そうそう、何かする場とか、他に話をする人がいるとなかなかいけないけど。二人で話そうって思ったら案外話したいことも出てくるかも?」

 

デウロのそれにセイカは何やらやる気まんまん、という顔をした。そうして、拳を振り上げて叫ぶ。

 

「よし!やってみる!!」

「おー、やる気満々。」

「・・・・コーヒーと、ガレット追加で焼くか。」

 

談話には茶菓子かとカヌスは思いつつそんなことを言いながら、タウニーのことをちらりと見た。

 

(なんであの子、私のこととおかあさまって呼ぶんだ?)

 

おそらく、その場にいた人間がどこかで感じつつ、突きたくなくて無視していることについて疑問に思いつつ彼女もまた口をつぐんだ。

 

 

 

そうして、ホテルの談話部分にて、冒頭場面に戻るわけだが。

 

(趣味ねえ。)

 

カヌスはフラダリの趣味について考える。昔から、産まれた家の義務というものを背負うことを受入れていた男にはそこまで個人的な枠組みはなかったような気がする。

 

(仕事と趣味がイコール、とまではいかないが。どちらかというと、義務として背負ったものに余暇の部分を割いてたせいで混合してた、ような。)

 

男の中にあった、ある意味で義務出ない部分なんてカヌスとポケモンバトルにふけるぐらいだった気がする。

 

「おがあざーん・・・・」

「はいはい、泣くな、泣くな。」

 

カヌスは困ったようにそう言ってセイカの背中を叩く。そうしていれば、同じように困った顔をしたフラダリもまたカヌスに視線を向ける。

 

「カヌス・・・」

「似たような顔をしてこっちを見るね・・・」

「血の繋がりだねえ。」

 

丁度、談話スペースにて、フラダリとセイカは向かい合わせの形になっている。MZ団とキョウヤ、そうしてカヌスは椅子を少しだけ遠くにおいてそれを見守っていた。

が、セイカの早々の敗北にカヌスがヘルプに入る。それにキョウヤがけらけらと笑いながらコーヒーを飲む。

 

「キョウヤは助けに行かないの?」

「ここは姉と父さんに頑張って貰おうかなって。」

 

などと聞こえてくる中、カヌスはセイカを落ち着けながらしょぼけたフラダリの背中を撫でる。

 

「おまえさんもそうしょげるな。」

「・・・・いえ、その、情けなく。」

 

さらにしょぼけて萎んでいく男の背中をカヌスは撫でつつ、セイカのことも慰める。

 

「別に時間はこれからもあるんだし、そんなに焦らなくてもいいだろ。じっくりやっていけば。」

「・・・だって。」

お母さん、ずるい。

 

セイカは涙混じりにそう言ってカヌスのことを睨む。

 

ずるい?

なんのことかと思っているとセイカはカヌスの服の裾を引っ張り子どものように喚き始める。

 

「だって!お母さん、ずっとお父さんと一緒なんだもん!ずるい!私もお父さんの隣がいい!」

 

その駄々っ子のようなそれにフラダリはもちろんカヌスも固まる。

 

「私の、隣ですか?」

「お父さんが座ってると、絶対お母さんが隣にいるんだもん!!」

「昔からの習慣なんだよ!悪かったから!」

 

それこそ旅に出る年齢よりもずっと前からの付き合いなのだ。旅に出れば警戒で常に手を繋いでいたぐらいの距離感は健在である。

 

「ずっとくっついてるし。私もくっつきたい!」

「くっつけ!!」

 

カヌスはしゃらくせえとフラダリの両腕を掴み広げる。それにセイカはぼすんとカヌスのブースターを思わせる動きでフラダリの懐に飛び込んだ。

フラダリは固まるが、恐る恐るセイカの背中に腕を回した。セイカはそれに顔を輝かせてフラダリの胸にぐりぐりと顔を押しつける。

フラダリの膝の上に座る形になったセイカを、男はどこか感極まったかのような顔で見つめて、抱きしめる力を強くする。

 

「・・・・ちっちゃい頃にね。」

「・・・・はい。」

「他の子がね、お父さんに抱っこされてるの見てね。」

「はい。」

「お父さんに会えたら、そうして欲しいなって、ずっと思ってたの。」

「・・・そう、なんですね。」

「あのね、お父さん。」

「はい。」

「・・・また、こうやって、抱っこしてくれる?」

 

掠れたようなそれにフラダリはまるで泣きそうな、そんな風に顔を歪めてセイカに微笑みかけた。

 

「・・・・ええ、そんなこと、いくらだって。」

いくらだって、するに決まっているでしょう。

 

 

その言葉にセイカは顔を輝かせて、フラダリの愛した美しい生き物と似た笑みを浮かべる。それにフラダリはくらくらするほどの幸福と、あふれるほどの愛を感じる。

フラダリはそのままセイカのことを強く抱きしめる。

それにセイカは嬉しそうにきゃーと言いつつ、フラダリのことを抱きしめた。

 

「ねえ、お父さん、あのね。今度、お母さんとお兄ちゃんと一緒に寝ようね。」

「はい、それは、ちょっとベッドから落ちてしまうかも知れませんね。」

「落ちてもいいから、寝てね。後ね、一緒にお買い物に行きたいな。」

「はい、行きましょうね。」

「後ね、一緒にね、お散歩したいな。一緒にね、歩こうね。」

「はい、はい、いくらでも。」

「あとね、おんぶとかね、肩車とかもしてね!」

「・・・・善処します。」

「覚悟を決めるな、絶対無理だろ。」

 

おんぶならなんとかなるだろうが、すでに大人にまで成長したセイカのことに関しては肩車は無理だろう。

そんなことを思っていると、キョウヤがひょっこりとカヌスの肩から顔を出す。

 

「いやあ、これは、一つ、和解が済んだのかな?」

「ハグは出来ても、会話は出来るのか疑問だけど。」

 

カヌスとキョウヤは目の前でいちゃつく二人にまあ、よかったと思いつつ見つめる。そうして、カヌスはずっと考えていた疑問を口にした。

 

「ところでセイカ。」

「なーに、お母さん?」

 

父の腕の中にいるせいか、すっかり甘えたになっている。カヌスはそれにぐりぐりと娘の頭を撫でる。

 

「お前さん、Fと話すなら打って付けの話題があるだろ。」

「え、なに!?」

 

それにカヌスは大声で叫んだ。

 

「カラスバー!!」

『呼びました!?』

 

一応、ミアレの裏を背負っているはずの男が名乗るにはあまりにも愉快、というか、どうなんだろうと思えるそれがカヌスのスマホロトムから聞こえる。

 

「・・・なあ。」

「おそらく、スマホロトムから盗聴してるかなあ。」

「いいのか?」

「まあ、プライベートは分かってくれてるし。あと、治安的に盗聴して貰ってた方が安全だからなあ。」

「・・・・昔よりも治安悪化してるな。」

「まあ、地価が下がって柄の悪い人が流れ込む確率多くなったしねえ。この頃、ロワイヤルの話を聞いて、名を上げたいらしい、外部組織が。」

 

カヌスとキョウヤがぼそぼそとそんな話をしている中、カラスバが猫なで声で話しかける。

 

「なんやご用ですか!?」

 

その声に、MZ団のメンバーはキモいなあと思う。そこそこ良い年だろう大人の男が、一応は人妻に向けるにはちょっと甘すぎる。

が、それと同時に、カヌスとフラダリへの好意も、カラスバのセイカとキョウヤへの溺愛ぶりもこの頃理解が及んできたおかげで、また、下手なことを言って怒らせたくもなく口をつぐむ。

カヌスは幼い頃に少し世話しただけの自分たちの子供らにここまでするカラスバを律儀だなあと眺める。

 

「おまえさんに頼みたいことがあるんだが。」

『ねーちゃんの頼みならなんでも来いやで!』

「ポケモンバトルをしたいから人を集めてくれないか?」

 

カヌスがそう言った瞬間、キョウヤのスマホロトムが激しく鳴る。

キョウヤがそれに出ると、騒がしいユカリの声がする。

 

『お話、聞かせて貰いましたわ!!!』

 

「なあ、キョウヤ。」

「うん。」

「やっぱ、治安悪くね?」

「まあ、常識の範囲内でしてくれるから。」

「常識ってなんだっけなあ・・・・」

 

 

 

 

目の前で二体のメガシンカしたギャラドスが暴れ狂っている。そうして、それに対峙しているのはこれまた嬉しそうな顔をしたカラスバとジプソ。

そうして、その後方には明らかにわくわくした顔のユカリと、げっそりとした顔のハルジオが待機していた。

 

「・・・あの子はどうして、バトルという選択肢が浮ばないんだ?」

「一般的に、ここまで身内全員バトルが出来るのは珍しいからかなあ?」

 

ホテル・シュールリッシュにて、ユカリ主催のポケモンバトルが催されていた。いつかにジガルデが乱入したときと似たような面子である。ただ、今回はダブルバトル限定にはなっているが。

 

「え、バトル!?」

「そうだ、今、何よりも分かりやすい共通話題だろ。」

「ですが、カヌス、理由もないのに傷つけ合うというのは。」

「いって、ポケモンたちも望んでるんじゃないのか?」

「ポケモンたちが?」

 

フラダリのそれにモンスターボールからぽんとカエンジシが出てくる。カエンジシは俺はやるぜと意気揚々にフラダリの周りを回る。

 

「したいのですか?」

 

こくこくと頷きながら、カエンジシはカヌスの足下で優雅にくつろぐアブソル、そしてセイカとキョウヤをちらちら見る。

アブソルは興味がなさそうに優雅にくつろいだままだ。

その様子にフラダリは何かを察したのか苦笑する。

 

「・・・いいところを見せたいと。」

 

その言葉にフラダリの手持ちたちのモンスターボールが揺れる。

 

そんなこんなでどこから聞いていたのか、ユカリがダブルバトルも面白そうだと人間を集め、大会が発足した。

せっかくだとフラダリとセイカのペアで放り込んでみれば、二人は水を得たポケモンのように息の合った仕草をして勝ち上がっていく。

カヌスは息子とペアを組み、自分たちの番が来るまで隣だって座っていた。

 

「いやあ、楽しそうだねえ。」

「やっぱ、これが一番早いな。」

 

思えば、フラダリと過ごす余暇なんて殆どポケモンバトルばかりしていたような気がする。彼の手持ちたちも、カヌスとよくバトルしたがった。

 

(・・・やたらとギャラドスとカエンジシがやる気満々で来たが。)

 

彼らがいいところ見せられたところがないことが切ない部分だろう。現在も、アブソルは興味が無いのかモンスターボールの中である。

カヌスは頭の中で合掌をした。

 

「・・・・なあ。」

「なに?」

 

謙遜の中で、ギャラドス二匹が暴れても平気な建物に感心しながらカヌスは何でも無いような口調で問うた。

 

「なんで、グリからジガルデの担い手を勝ち取ったんだ?」

 

それにキョウヤは笑みを深くしてうーんと声を発した。

 

「そんなに不思議かな?やれることをやれるだけしようと思っただけなんだけど。」

「別に責めてるって話じゃ無くて。ただの好奇心だな。」

 

カヌスはぼんやりと考える。

彼らがミアレでしたことは散々に聞いた。ジガルデのことも、起こったことも、全て。

ちなみに、双子を危険にさらしたジガルデは散々アブソルにじゃれつかれ、シャドークローをぶつけられた。それにプラスで、当分はおやつのガレットはお預けである。

きゅーんと情けない声を上げているが、アブソルの慈悲が降りるまでどうしようもないのだ。

 

「・・・お前の性格からして、矢面に立つよりは、裏方で好き勝手動ける状態でサポートに回る方が好きだろ。」

「ジガルデには恩があるからね。できるだけのことをしようと思って。」

 

その言葉にカヌスはじっと息子のことを見る。

 

「・・・おまえさんは外道でも、非道でもないが、冷酷だろう。人の生死が関わる部分でそんな誠実さを重んじるのか?」

「えー、信用ないの?」

「お前は私に似たから。ある程度の理解と疑問だ。本当にそうならそれで構わない。」

 

ぼんやりと、カヌスはフラダリとセイカのバトルを眺める。

楽しそうな笑みがよく似ていて、懐かしさと嬉しさと寂しさがせり上がってくる。

カヌスのそれにキョウヤは少しだけ笑みを深くして肩をすくめた。

 

「・・・・まあ、少し考えたよ。絶対に計画の範疇外が出てくるだろうから。可能性は残しておくべきだって。あの場でなあなあにして候補者が二人で引き延ばしておくのも。でも、グリだけはミアレを救わせない方がいいだろうなって。」

「何故?」

「元フレア団とクェーサー社が結託して今回のことを起したってケチを付ける奴が出てくる可能性があったから。」

 

カヌスはそれにそうかと頷くだけだった。

 

「・・・そういう、事実には必ず裏があるって信じたい人は多いだろうからねえ。だから、グリだけにはその席譲るわけにはいかなかった。もしも負けたときは、その時はその時で考えてた。」

「フラダリの子どもだって公表してヘイト稼ぎでもする気だったのか?」

 

カヌスのそれにキョウヤは驚いたような顔をした後、当然かと頷いた。

自分たちは似ている。性別が違うおかげで同一視はしていないけれど。驚くほどに、そう言った部分は似ているのだ。

 

「まあね。俺が負けてたらカラスバさんに相談して段取りとか考えて貰う気だったよ。もちろん、そういうのが大々的に飛び火しない可能性もあったし。」

「でも、信じては無かっただろう?」

「信じられたら、父さんはあんな強行をしなかったでしょ?」

 

二人の言葉はとても軽い。そこには、悲しみだとか、無念だとか、そういった負の感情はない。まるで、天気の話でもするような語り口だった。

 

「まあ、そんなことが起こらなくてよかった。セイカにも母さんにも迷惑かけただろうし。カラスバさんが相当荒れただろうし。グリも、苦しまなくて。」

 

よかったと、幾度も呟く息子にカヌスは疑問を口にした。

 

「・・・・血縁のことは、結局漏れてないんだな?」

「その辺りは、もう、サビ組は母さんのこと知ってる人たち中心で箝口令みたいになってるらしいよ。ヌーヴォカフェの方も、新しく入ってきた人には話さないスタンスだって。」

 

それにカヌスは安堵して息をつく。

その辺りが及第点なのだろう、よくも悪くも、という部分では。

 

「まあ、実際悪意のある人はいたみたいだけどねえ。」

「いたのか?」

「サビ組の人でね。新人さんだったのかな?最近入ってきて、どうも俺たちのことを小耳に挟んで。それをどっかのゴシップ紙に売ろうとしたみたいだよ。」

「今は?」

「さあ?」

コイキングと楽しく泳いでるんじゃない?

 

キョウヤはやはり特別な感慨もなくそう言って笑った。それにカヌスはカラスバが手を回したのだろうなとぼんやりと予想を立てた。

 

「やたらと母さんと俺たちの写真を欲しがってたからさ。そのために仲良くなろうと話しかけてきてたのに、急に消えちゃったから。たぶんそうなんだろうねえ。」

カラスバさん、機嫌最悪だったんだよねえ。

 

面白がるわけでも、悲しむわけでもない。ただ、呆れが交ざったその声に。それは自分に似ているなあと考える。

もうこの話にはこれ以上のことはないだろうと理解して、疑問に思っていたことを問いかける。

そうして、息子がその辺りに本格的に触れないようにしているのは、曖昧にしているのは、彼を守ろうとする誰かが嫌がるだろうと理解してのことだろうと考えカヌスもまた口をつぐむことにした。

 

「・・・それはあいつがしたことの罪滅ぼしか?」

「まさか、ただの自己満足だよ。母さんが言ったんだろ。」

「罪はどう足掻いても己のもので、それを肩代わりすることは絶対に出来ない。」

 

カヌスは引き継ぐように呟いた。

世界はそんなに都合良く出来ていない。だから、カヌスは苦しいのだ。

 

女は愛した男の三千年に付き合うことは出来ないのだ。

 

「・・・・ジガルデとか、イベルタルとかゼルネアスに圧かけとけないか?」

「不遜~」

 

ふざけたように言いつつも、キョウヤは特別それを止めない。

ゴールがあったAZとは違い、父のこれからはあまりにも永い。報いがわからない旅は、途方もないから。時折訪れる友人がいてもいいだろう。

 

「ガレットとか、ご飯で釣ったら?」

「あいつ専用のポフレでも作るか・・・・」

 

キョウヤの中に、よだれを垂らしながら食べるか苦悩する駄犬の姿が浮ぶ。けれど、彼は特別何も言わない。どうやらジガルデ・セルから伝わった食事の味はすっかりそのポケモンをグルメにしてしまったようだ。

 

「今回、こういう場を作ったのって、この話がしたかったから?」

「いや、ただタイミングだが。どうして?」

「まあ、触れては来ないだろうけど。あんまり聞かれたくない話題じゃない?だから、てっきり聞かれないだろう時に話したいのかなって。」

「はっ、録音でもしてるかも知れないぞ?」

「それはさすがにキモすぎるね!」

 

明るくばっさりと切り捨てる息子にはカスヌはそれはそうかと頷いた。

その時、キョウヤとカヌスの名前が呼ばれた。

どうも、番が来たようだ。

 

「母さん、アブソル使う?」

「今回はやる気が無いようだから使わない気だ。」

 

二人は騒ぎながらバトルコートに足を進めた。カヌスはそれでも笑みを浮かべた。

久方ぶりに、昔なじみとのバトルは否応もなく楽しみだったのだ。




カヌス
子どもたちと夫と一緒にホテルZで生活しているが、さすがに住処をなんとかしないとなあと考え中。というか、家を放って来たのでなんとかしねえとなあと考えている。
フラダリの諸諸に関しては、できる限り付き合っていこうと考えている。
現在、なんとかフラダリの三千年が寂しくないように長生きできそうなジガルデに圧をかけられないか検討している。


フラダリ
現在、家族でホテルZに滞在中。こんなに幸せでいいのかと悩んでいるが、妻と共にいられる時間の短さに飲み込んでいる。
子どもの頃の感性で常にカヌスの側にいる。ただ、子どもたちとの関係には悩み中。


セイカ
お父さんと話したいが、話題が出てこないし、お母さんと兄はきちんと対応できてるので色々爆発した。
しばらく常にお父さんにべったりと張り付いている。ギャラドスの育成論で父親と話が出来るようになった。
母親にバトルで勝てない。

キョウヤ
色々な面で感情がフラットなため、父親とも普通に接していられる。姉と父のツーショットをカラスバに横流ししている。
母親にバトルで勝てない。

カラスバ
セイカとフラダリが並んで戦っているのを見て男泣きした。キョウヤから横流しされる、家族の画像を見ながら酒を飲むのが習慣になっている。

ユカリ
バトルがバリバリ強い女が増えてご機嫌。ずっと街にいてくれないかなあと方法を考えている。

MZ団
セイカが話す、お父さんと話せた~なんかの話によかったねえと顔をほころばせている。

グリたち
キョウヤからフラダリとセイカの写真を横流しされている。保存している。

アブソル
日々を優雅に生きている。レディなので。会って数日の、フラダリの手持ちや双子の手持ちとの間に見事に上下関係を作り、ボスをしている。

カエンジシ
憧れのお姉さん枠だったアブソルにいいとこ見せたい。今のところ見せられたことはない。キョウヤのオヤブン個体のカエンジシさえアブソルに勝てないのを見て少しほっとした。
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