カエンジシみたいな父を探しております。ついでにミアレも救います。 作:幽
父はいつも、画面の中から出てきてはくれなかった。
ただ、それでも構わなかった。
悲しくはなかった。
ただ、いつだって眉間に皺を寄せた姿がお世辞にも幸福そうでなかったことを覚えている。
セイカはドがつくような田舎に住んでいる、普通の少女である。
田舎であれども、母親のオンバーンに送ってもらって学校に通い、双子の片割れと母と暮していた。
仮に、変わっているところがどこかと言われると。
(・・・・お父さんが、悪い人ってところかな?)
列車に揺られながら、セイカは鞄から出した大きめのパスケースを見つめる。中には、一枚の写真が入れられていた。
そこには、青年と言って差し支えない程度の年齢の男女が写っていた。
一人は、困ったような笑みをした精悍な青年で、カエンジシのような赤い髪に澄んだアイスブルーの瞳をしている。もう一人はその横でいたずらっ子のような快活な笑みを浮かべた女性がピースしながら映り込んでいた。
それは、仲の良いきょうだいのようでもあり、初々しい恋人同士のようでもあった。
どこかの店の前らしく、女性は制服のようなかっちりとした服装をしていた。
「・・・・・姉さん、もうすぐ着くよ。」
「あ、わかった、お兄ちゃん。」
セイカは返事をして、母親によく似た紫の瞳でのぞき込んでいた写真を鞄にしまう。双子の片割れであるキョウヤの、父親によく似たアイスブルーの瞳を見返した。
「お兄ちゃん、また動画見てたの?電池なくならない?」
「ちゃんと確認してるよ。これから行く町の情報収集だよ。いきなり飛び出して来ちゃったからね。」
その言葉にセイカは申し訳なさそうに顔をうつむかせた。
父親に会えないことを悲しいだとか思ったことはなかった。
いないものが当たり前であったし、母親のルカリオが父親代わりに世話をしてくれたおかげでそこまで何かを欠いたかのよう感覚はなかった。
母は母で、シロガネ山の麓にある小さな村で、野生のポケモンが入ってこないようにしたり、遭難者の探索などのレンジャーをしながらセイカたちを育ててくれた。
そうして、村で唯一の食堂を営んでいる。母同様にセイカは料理が好きだ。特に、ポケモン達のためのレシピやお菓子を作るのが好きで、母のそれを手伝っている生活は好きだ。
何よりも、父親の姿を望めば、テレビやネットの海にいくらでも存在していた。
フラダリ、カエンジシのような男が父親だというのを母に聞いたとき、セイカは素直に会いたいと言った。
それに母は、ひどく申し訳なさそうな顔をした。普段、明るく、騒がしく笑う母にしては珍しい顔だった。
かーちゃんな、お父さんと喧嘩してしまったんだ。だから、会うのが難しいんだ。
そう言って、らしくない顔をするから、セイカはそれに納得した。
兄も母もいれば寂しくはないし、素直に父親という存在への好奇心や好意というものは存在すれどもまあいいかとうなずけた。
何よりも、母は、幾度も幾度も、自分や片割れに自分が悪かったのだと重ねて言うものだから。
きっと、何よりも寂しいのは母なのだろうと納得できた。
恋しくなれば、ネットをのぞき込めば父の勇姿は確認できた。
かっこよくて、優しそうな、そんな父親。
いつか、きっと、母と仲直りしてくれて一緒に暮らせるんだと信じて疑わなかった。
いつかに、華々しいパレードが開催されるまでは。
父は、とても悪いことをしたのだ。
とても、悪くて、赦されてはいけないこと。
セイカはそれにどう思えばいいのか分からなかった。罪と言われても実感が湧かなかった。それを裁く権利をセイカは持っていなかったから。
けれど、母の口から話される父は、とても、優しくて、穏やかで、生真面目な、そんな人で。
ただ、知りたいと思うようになった。
父は、いったいどんな人か。
けれど、それを話してくれそうな母は、そのパレードを見てから、父のことを話すことはなくなった。
話して欲しいとこえば、とても、悲しい顔ですまないと言うから。
セイカは父のことを聞けなくなった。
けれど、だからこそ、ずっと知りたくて仕方が無かった。
皆の言う悪い人だったのか、それとも、母の言う優しい、けれど潔癖すぎるだけの人だったのか。
ただ、知りたかった。
「・・・・お兄ちゃんはよかったの?」
「何が?」
双子で、同い年であるが二人は、兄と姉と呼び合っている。理由は別に深い意味は無い。ただ、せっかくの兄妹なのだからとセイカが兄と呼び出し、それにキョウヤが乗った形だ。まあ、どちらでもあってはいるのだろう。
「大学、休学したの。」
「いや、いいよ。俺も一度ぐらい、ポケモン持って旅に出たかったから。」
キョウヤは誰の影響か、工学系の大学に進んでおり、一人暮らしをしていたのだ。セイカは、大学まで進まず、母の店の手伝いと、以前兄がしていた山の見回りの引き継ぎを行っていた。
「ポケモンを上手く扱えるのは、いいアピールポイントだからね。そう言った意味で、ジムを巡ったり、旅をしたりしたって経験はしておいたほうがいいと思ったから。それで大学を休学するのはよくあることだからね。」
セイカはそれに罪悪感を抱く。
なにせ、今回の弾丸カロス地方旅の発端はセイカなのだ。
あの事件からかれこれ、5年が経った。
母は、元気を装っているけれど、ずっと沈んだように黙り込んで父の写真を眺めることが多くなっていた。
セイカは分かったのだ、きっと、今の母に父の話を聞くことは出来ないし。そうして、このままでは母はどんどん、掠れて消えていく気がした。
「・・・カロス地方に、行こうと、思うんだ。」
『どうして?』
片割れとの通話の時、セイカは恐る恐る心の内を吐露した。彼は、いつも微笑を湛え、落ち着き払った態度のままにそう聞いた。セイカはきっと、自分がどう思っているのか理解されているのだろうと思いながら口を開いた。
「・・・・お父さんを、探しに行きたいの。」
その言葉にキョウヤは息をついた。
『・・・・あれから、5年だ。』
「うん。」
『もしも、見つかっていればすぐに報道されているはずだ。』
「うん。」
『それでも?』
言外に、遺体が見つかっていないだけだと、告げられてなおセイカはうんと頷いた。
「・・・・カロスに、お父さんが、どんな人か。探しに行きたいの。」
きっと、いいことなんて出てこないだろう。けれど、知りたいのだ。もう、会えないと分かっているから。だから、知りたいのだ。
父の歩いた軌跡を。
その言葉にキョウヤはまた息をつく。拳をとんと額に当てて考える仕草をする。
「お母さんには言えないから、こっそり出て行こうと思って。なんとか、お金は今まで貯めた分があるし。」
そう言ったセイカに、キョウヤはいつもの、困ったような顔で微笑んた。
『いや、一人で行くなよ。』
俺も行く。
そうやって二人の、どこか逃避行染みた旅行が始まったのだ。
「・・・・色々あったなあ。」
セイカは思わずそう呟いた。彼女がいるのは、飛び入りで泊まることになったホテルの屋上だった。
そうして、彼女は足下で友好を深めているらしいチコリータとラルトスを見た。
(・・・手持ち、増やす予定はなかったんだけど。)
トレーナーとして資格を得た子どもには、希望によっては地方でそれぞれポケモンが配布される。セイカとキョウヤはそれに希望を出さなかった。
(ルカリオがな~)
母のルカリオは双子の養育に大分協力してくれたのだが、そのせいか、父性が爆発してしまったらしく幼い子どもやポケモンに非常に構い倒すようになってしまった。
そのため、二人は下手にポケモンを持って、ルカリオに構い倒される手持ちを考えると今はいいかと保留にしてしまったのだ。
元より、旅に出る気もなかったというのもある。
まあ、そんな父性が爆発してしまったルカリオが旅のトレーナーのサーナイトとこさえてしまったのが自分と片割れの手持ちにいるラルトスなのだが。
(・・・トレーナーさん、今は新しい子を養う余裕無いからこっちに来たけど、そうじゃなかったら親権争いすごいことになったんだろうなあ。)
そんなルカリオは一気にラルトスを二体育てたせいで燃え上がった父性は少々収った。あくまで、少々であるが。
タウニーという少女に出会えたのは僥倖だろう。
(・・・・今日、悪いことしちゃったな。)
セイカは、今日、タウニーが紹介してくれたマチエールのことを思い出していた。
「・・・どうか、したのかい?」
後ろから聞こえてきた声にセイカは振り返った。そこには、ホテルのオーナーだという大柄な、では語りきれない老人と、そうして愛らしいフラエッテの姿があった。
「あ、AZさんと、フラエッテ!」
「驚かせたかな?」
「いいえ、AZさんも夜景を見に?」
AZは彼の定位置らしい椅子に座る。そうしていると、フラエッテがセイカの周りをきゅるうると機嫌よさそうに回る。
「フラエッテ、今日もご機嫌だね。そうだ、キッチン借りて作ったポフレ食べる?フェアリータイプが好きな味作ったんだ!」
持っていた入れ物から差し出せば、フラエッテは目をキラキラさせてそれをキャッチする。そうして、ご機嫌そうにAZの周りを回った。
「よかったな、フラエッテ。」
AZもまた嬉しそうにフラエッテに微笑んだ。フラエッテはその後、ぽすんとセイカの肩に乗ってポフレを食べ始める。
不思議なことにフラエッテはやたらとキョウヤとセイカに友好的だ。
(人なつっこいなあ。フェアリーの子って、あんまり人慣れしてるイメージ無いけど。)
まあ、セイカも自分の料理が気に入ってくれて大変嬉しい。
「昨日のロワイヤルはすごかったそうだね、なんというか、みんな驚いていたよ。」
「あ、そうですか?ロワイヤルのコツを聞いて頑張ったんですけど。」
セイカは少なくとも、良い成績を残せて満足しているが。
「壁を伝って、音もなく近づき、ポケモンを狙い撃ちにしたとか。」
「はい!私のお母さん、レンジャーみたいなことしてて!私も、手伝いで木に登って、ポケモンに指示を出してたので!慣れてることと似ててやりやすかったです。」
AZは思った。いったいどこのアサシンだろうか?
屋根から屋根に乗り移るのならやっているものはいるが、キョウヤとセイカは手慣れた仕草で小さな突起に手や足をかけて壁を登り、飛び移り、自由自在に動き回っていたらしい。
おまけに、完全に気配を殺し、音もなく攻撃をしかけたのだとMZ団の少年少女はざわついていたが。
AZはちらりとフラエッテを見た。フラエッテは確信に満ちた目で頷いている。AZは記憶の中の己の弟のことを考える。
もちろん、血は相当薄れていれども、ここまで野性的な子が出てくるのは少し驚いた。
(・・・フラエッテが確信を持っているのならば、事実なのだろう。)
目の前の子どもが、誰の子どもであるのか。
AZは目の前の少女よりも寡黙で、どこか己を探るように見つめる少年のことを思い出す。その、澄んだ、青い瞳を。
それが、誰に似ているのか。
「チコ!」
「ルー!」
「二人はもう食べたからだめ!明日!」
己の手持ちがポフレをねだっているのにそうやって叱る声は、年相応の声だった。
「あ、そうだ、AZさん。今日作ったスープ、どうでした?」
「ああ、おいしかったよ。飲みやすかった。」
「よかった!お年がお年なので、固形物は飲み込みにくいと思って。ただ、スープだとむせるかなあと悩んだんですが。一応、他の人の分もありますし。あ、咳き込むようならポタージュならいけるかな?」
ふんすと自分の食べるものについて考える様に、昨日の夜のことを思い出す。
「・・・・タウニー、これを?これを、AZさんに、食べさせたの?」
「え、そうだけど、どうしたの?」
「あんなご老人に、こんなカロリーと、脂質と糖質爆弾を食べさせちゃだめだよ!?」
AZは思い出す。
その後、タウニーにこんこんと栄養素やら健康と食事の関係性について熱く語るセイカのことを。
ちなみに、あまりの熱心ぶりにMZ団の食事についてはセイカが担うことになった。それについて少々納得がいかなさそうなタウニーであったが。
「でも、お祝い事には、タウニーのクロワッサンカレー食べたいかな?」
キョウヤのそれに機嫌はすぐに戻ったようだが。
「・・・・いや、クロワッサンカレーは悪くないんだけど。主食の食べ合わせだし。でも、バターがたっぷり入った、しっとり系は栄養面でもちょっとなあ。バターの少ない、さくさく系なら?」
真剣に食事のことを考えるセイカに、AZは淡く微笑んだ。
AZはとある男の罪を知っている。それは、もちろん、自分の罪と連動している。
その子どもであるらしい少女の、素朴な在り方が、なにかよかった。
過去と未来は地続きでも、たしかに違う歩みがあったことを感じさせて。
「・・・・父君は、どうやって探す気だい?」
それに楽しそうに話していたセイカは口をつぐみ、そうして、困ったように微笑んだ。
町の観光だと思った先で、タウニーに連れてこれてられた探偵であるマチエールにセイカはどうすればいいのか迷った。
おそらく、夕食の席で、ミアレに人を探しに来た旨を知り、善意で連れてきてくれたのだろう。
けれど、セイカは、ニャスパーに挨拶するため膝を折った状態で固まってしまった。
「・・・・私も、人を探して。その、お母さんの、ことで知りたいことがあって。キョウヤとセイカも、きっと見つかるよ!」
セイカは、振り返ることが出来なかった。
誰を、探すのだろうか?
もういない人。きっと、死んでいる人。
(名前も、出せない、人・・・・)
セイカはなんと断るか考えたとき、キョウヤが静かに口を開いた。
「・・・いや、俺たちはいいよ。」
「え、どうして?」
「もしかして、情報がほとんどないのかな?名前さえわかれば。」
「もう、亡くなってるから。」
探偵事務所内の空気が重くなる。セイカは、何を言えばいいのか割らずに、目の前のもこおを見つめるだけになってしまう。
「でも、探しにって・・・」
「うん、正確に言うのなら、その人の痕跡を探しに来たんだ。」
「痕跡を?」
「俺たちの探し人は、元、フレア団なんです。」
また、沈黙が広がる。セイカはゆっくりと立ち上がり、そうして振り返る。振り返った先で、タウニーが驚きの表情をしていた。
それが、嫌悪でないことに静かに安堵した。
セイカはキョウヤの、MZ団のロゴの入ったジャケットの裾を掴む。
「・・・・だから、5年前に亡くなってると思います。」
「それなのに?」
「知りたかったんです。優しい人だって。でも、あんなことに加担して。話を聞くことが出来ないなら。それなら、せめて、実際に、どうだったのか。それだけでも、知りたかったんです。」
キョウヤは、セイカの頭を抱えるように抱きしめた。
「だから、俺たちのことは気にしないでください。俺たちは、ただ知りたいだけで。母と、そうして父がどんなところで生きて。そうして、父が、フレア団がどんなものだったのか。」
知りたいだけなんです。
沈黙が、探偵事務所内に落ちる。
「なので、自分たちで一端、街を散策してみようかと。」
「あ、私、そんなつもりは!」
「分かってる。俺たちも、詳しく話したわけじゃなかったからさ。」
タウニーはどんな顔をしているのだろうか?
悪気はなかったとは言え、彼女を傷つけたようでセイカの中で罪悪感が湧く。
「・・・それなら、私の探偵業を手伝わない?」
沈黙の中で、マチエールはそう言った。それに、セイカとキョウヤは彼女を見る。
「この街を知りたいなら、それが一番だと思うし。それに。」
どんなことでもきっと、救われた人と憎む人がいると思うよ。
そういって、マチエールは穏やかに微笑んだ。
「・・・探偵業は、私が担って。兄さんは、ポケモンの収集をしてます。ロワイヤルには、二人とも参戦しようかと思っています!その過程で、誰か、知っておられる人がいるかもしれないので。」
AZは悲しみに満ちた目で膝の上にそろえた手を見つめる子どもを見た。緩やかな夜風が心地よい。
けれど、その風にはどこか涙の臭いが混じっている気がした。
少女も、少年も、頑なに父の名前を口にしない。それは、彼の罪を知っているが故なのだろう。
その子どもに、自分の罪の後始末を任せることが、あの男の償いに加担させることが正しいのか。
AZには分からない。
ただ、ジガルデは彼らを選んだのだろう。
(あちらの子のほうが色々と抱えている気もするが。)
AZの脳裏には、少し前にロワイヤルに出かけていった少年のことが浮んだ。
少年は、少女よりもずっとのらりくらりとしていて、曖昧さだけを口にする。そのくせ、妙に人を惹きつけるものがある。なんというか、彼に好かれたいと漠然と思わせる、そんな少年だった。
AZは二人の子どもを気にかけ、心情を心配して話しかけたのだが。
キョウヤは、セイカと違って確信というものを持たせなかった。
いや、唯一、話したことはあった。
「・・・・AZさんとフラエッテって、夫婦みたいですね。」
何故、あんな話しになったのだろうか?
ただ、ロワイヤルが始まるまで、ロビーに手持ち無沙汰になる少年に話しかけていただけなのだが。
AZは何か照れくさい気分になり、フラエッテと顔を見合わせて淡く微笑んだ。
それに、キョウヤは、穏やかな笑みから少しだけ懐古を見つめるように額に拳を当て、床に視線を滑らせる。
「・・・ポケモンだろうと、人だろうと、共にいたい人と一緒にいるのはいいことですね。」
それが誰と誰であるのか察せられて、AZは素直な好奇心で口を開いた。
母君はどんな人か、と。
キョウヤはそれにふむうなずき、少しだけ話をしてくれた。
「粗野な仕草が妙に様になる人、かな?」
AZはそれに意外な面持ちになった。なんというか、母の印象を語る上で出てくる言葉としてはあまりにも場違いというか、妙な台詞だった。
「何て言うか、普通なら下品だとか、粗雑に見える仕草でも、母がすると妙にかっこよくというか、様になるんですよ。おかしな人でしょ?」
「そう、か。それは、確かに見ない人だね。」
「ええ、変わった、そんな人です。」
今思えば、煙に巻こうとしていたのかも知れないが。その表情は、今のセイカと同じ幼さを感じさせるものだったせいだろうか。言葉自体は嘘では無かったのだろうと思う。
「マチエールさんに、メガシンカ見せて貰ったんです!あと、ヌーヴォカフェも気に入りました!コーヒーが、すごく好みだったんです!」
「そうか、それはよかったね。」
そのまま、夜も更けても二人はそのまま話をしていた。
セイカはそのままミアレで生活を続けた。母からのどこにいるというメッセージから目をそらしながら。
キョウヤはバトルが性に合ったらしくロワイヤルにかこつけて若干昼夜逆転の生活になっている。
(ベンチで寝ないで欲しいなあ。)
けれど、キョウヤが今の生活を楽しんでくれているようで、セイカは嬉しい。自分の我が儘に付き合わされるような形になってしまったことが申し訳なく思っていたのだ。
その間、暴走メガシンカに関わり、アブソルは兄の手持ちになった。
(・・・ジガルデってポケモンは、なんなんだろう?)
それを連れた、Fという人のことも、セイカは気になった。兄は。あまりそのことを気にしている風では無かった。
「どうして?」
「どうって、姉さん、なら聞くけど。何が起こっても俺も姉さんもやることは変わらないだろう?」
恩義には恩で返せ。
それが、母の口癖だった。
この世はそう、優しさで回っているわけでは無く、悪意も、悲しみも腐るほどある。
「だから、与えられた者にせめて返す人間であれ。獣ではなく、人として、最低限の善性と良心を持て。」
それは、きっとセイカとキョウヤの中である程度大きな人生の方向性になっている。
「タウニーが迎え入れてくれた街で、面白い人ばかりだからね。俺たちに出来ることがあるならするし。出来ないことは誰かに任せる。完璧な人なんていないんだから。」
セイカはそれにそれもそうだと頷いた。
「タウニーが借金!?」
シローとの戦いの次の日の朝、丁度、セイカも兄と同じランクに上がったことにほっとしながらセイカはロビーに降りてきた。
そこで、怒り心頭のデウロのそれにセイカは素っ頓狂な声を上げた。
「利子がすごいって。なんで、そんなとこから・・・・」
セイカがそんなことをぼやいていると、キョウヤのロトムにサビ組からの連絡が入る。
「連絡先まで。手が早すぎる・・・・」
「タウニーとは連絡がつかないですし。」
皆がざわついている中、キョウヤだけは何か考え込むような仕草をする。
「セイカとキョウヤもついてきてくれる?」
「行くよ!なんとか、穏便に話が出来ればいいけど。」
ぼやくようなセイカのそれに、フラエッテは心配そうに近づいてくる。
「心配してくれるの?」
きゅるるるると、鳴いた声にセイカは何か全てを察して首を振る。
「はめつのひかりはいらないかな!?」
「キョウヤも、来てくれる?」
デウロのそれに、キョウヤは聞き返す。
「・・・・サビ組って、あくまでただ働きさせるんだよね。」
「え、う、うん、あくまで噂だけど。」
「・・・・タウニーの動画の投稿的に、そこまで前に金を借りたわけじゃないのか。なら、そうか。」
「お兄ちゃん?」
考え込んでいたキョウヤはセイカのそれに、にっこりといつも通り朗らかに微笑んだ。
「うん、大丈夫。行こうか。」
セイカはそれに頑張ろうと気合いを入れた。
(・・・・反社だああああああああああ!!!!)
セイカはサビ組の前に来て恐れ戦いていた。何せ、外見が完全にジョウト地方でも見なくなった由緒正しい反社の根城だったのだ。
(なんか、こっちなら、マフィアとか、そういうのじゃないんだ!?)
門の前で、兄ばかりにも任せるのは申し訳なく、セイカがジプソという大男を倒せば、建物の中に案内される。中の威圧感はさらに増した。
(リザードン、ありがとうね!お礼に、またヌーヴォカフェに行って、あそこのリザードンに進化したの報告しようね!)
セイカはがっしりとモンスターボールを握ってそう語りかけた。
そうして、導かれた先の部屋には、小柄な男が待っていた。セイカよりも大柄な兄からはおそらく見下ろされる形になるだろう男は、変わること無く、やはり威圧感のような者は感じたが。それ以上に、セイカは気になることがあった。
(・・・・この人たち、どうして、私たちのことを見てあんなに驚いてるんだろう?)
山で野生のポケモン達と関わりながら生きてきたセイカにとって、人間の変化はある意味で分かりやすい部分がある。
彼らは、自分たちを見て、何故か瞳孔が見開かれているのが、瞳の色の明るさのせいかよくわかった。
特に、カラスバという男はセイカの顔を見て、それが顕著だったように思える。
何をそんなに動揺するようなことがあるのか分からず、セイカははてりと首を傾げながら促されてソファに座る。
そうして、タウニーが金を借りた経緯と聞いた。
(完全に、騙されてる!!)
セイカは脳裏でタウニー!と叫んだ。
「お金の話で、なあなあはアカンやろ?」
カラスバにどうするんだと聞かれ、キョウヤは平然と答えた。
「半額なら即金で出せますよ。」
「え!?」
驚きに満ちた声に、セイカもキョウヤを見つめる。それに対して、カラスバはまた瞳孔をゆっくりをまた開かせた。
(・・・・・うーん、これは、借金を理由に何か、ほかの要求をさせてるのは本当みたいだな。)
おそらく、彼らにとってキョウヤの発言はそこまで望ましいものではないようだった。
「・・・へえ、若いのにそこまで蓄えとるんや?」
「はい、おかげさまで。」
(・・・・そりゃあ、ロワイヤルで、一晩に数十人ぶっ飛ばしまくってるんだもんな。)
おそらく、おかげさま、というのはその倒した人間の中にサビ組の人間がいたことがあるのだろう。
双子の片割れは優雅に足を組む。その様は、やたらと気品があり、様になっている。
「半額払えば、一旦は返済を待っていただけますか?待っていただけるのなら、必ず残りもお返ししますよ?」
「・・・・そうやね。いうて、本人もいない中、すぐにうんとは言えんわ。」
「そうですか、なら、俺たちと話したいことはなんですか?」
静かな言葉にカラスバは少し黙り込む。その沈黙の重さ足るや、デウロとセイカは怯えて互いにがっつりと手を握り合った。
「いやな、お前らも金を用意したり大変やろう思ってな。オレらの代わりにちょっとした仕事を解決してくれたら、利子の分は減らしてもええとは思うとったんやけど。」
「自分たちの言動が、信用に足るものだと思っているんで?」
「酷いこと言うな。オレは親切心でいうとるんやで?サビ組のみんなでホテルに押しかけてポケモン大会してもええんやけど?」
「それは楽しそうですね。なら、二回目は是非、サビ組で行いましょう!」
あくまで、明るく、朗らかな言葉にデウロとセイカは半泣きで内心で止めてと叫んだ。
カラスバの威圧感が更に増していく。
「なめとるん?」
「・・・・いいえ?そんな風に聞こえたのなら、申し訳ありません。お詫びに、ご提案を受けさせていただいてもよろしいですか?」
「え!?」
デウロが叫んでキョウヤの肩を揺する。
「キョ、キョウヤ!?」
「まあ、受けた方がいいだろうから。デウロは心配しなくてもいいよ。仕事は俺がするし。」
「お兄ちゃんがするなら、私もするよ・・・」
「そう?姉さん、ありがとね。」
「話はまとまりましたので、もう、帰っても?」
「・・・・・ええで。」
その言葉にキョウヤは立ち上がる。キョウヤは変わること無く、穏やかに微笑んだままだった。それをデウロとセイカは慌てて追いかける。
サビ組の件があるというのに、暴走メガシンカまでやってきてこちらとしてもてんやわんやだ。
タウニー自身も、なんというか、あまり深く考えていないようだった。デウロも呆れている中、キョウヤも珍しくため息を吐いていた。
「・・・後で、釘を刺しておこうか。」
温厚なはずの兄からそんな発言が出ていることが若干気になるが。
セイカはさほど気にしていなかった。彼女の向こう見ずさというか、そういった部分があるから自分たちはこうやって夜風を離れて暮していけているし、優しい人たちにも会うことが出来た。
ならば、これぐらいの尻拭いは別段気にしていなかった。
ジガルデは変わることなく、セイカとキョウヤの前に現れた。そうして、Fと名乗る灰色の男も。
(・・・ジガルデがお兄ちゃんに渡した石は何なんだろう?)
そんな疑問を擡げつつ、二人はサビ組の使いっ走りをしていた中、ふと、セイカは気になっていたことを口にした。
「ねえ、そういえば、なんでサビ組の要求に応えたの?いつもなら、絶対やらないのに。」
「まあ、リスクはあったけど。たぶん、これが一番話が早そうだから。」
「どうして?」
それにキョウヤはあくまで予想だと前提で話し始めた。
「たぶん、あの人たち、MZ団がどんな集まりなのか知りたいだけなんだと思う。」
「・・・・サビ組が地域密着系の輩で、シノギに割って入る人なのか知りたいってこと?」
「ちょっと、単語選びが気になるけど。まあ、概ねそうなんじゃないのかな?サビ組事態、どうも、普通に不動産と配達関係がシノギみたいだし。俺が金を返すと言ったとき、明らかに望んでいない感じだった。彼らからすれば、ただ働きさせたい方が本質で。でも、実際働かされても、わざわざ借金をさせてまでさせることなのかって部分が大きい。これから変わってくるかも知れないけど。」
おそらく、わざわざタウニーに声をかけて借金をさせたのだろうと兄は語る。仕事をさせて、その動きで外様の組織と関わっていないかなど調べたいのだろうと。
「だから、受けた方が早めに終わりそうだなって。」
「・・・・だからって、あんなに煽らなくても良かったと思うよ。」
「母さんの子だから仕方がないかな~。」
その言葉に、記憶の中で母がよく嘆いていたことを思い出した。
なあんで、お前ら、フラダリの子なのにこんなに私全振りで似ちゃうんだろうな!?
カラスバという人は、なんだか、不思議な人だ。
おそらく、善良な人、ではないのだろう。
彼からは、湿った夜のにおいがした。山にやってくる密猟者と似ていて、けれど違うにおいだった。
何よりも、気になるのは、彼は自分たちを前にすると何か、とても、期待したような顔をするのだ。
それが何か分からない、けれど、どこかこらえるような顔をする。けれど、その理由が思いつかない故に、何も話しかけることが出来ない。
そんな中、彼の頼みを聞いて下水道から出てきたとき、カラスバは強ばった顔で話しかけてくる。
「・・・お前ら、暴走メガシンカを押さえとる時、会った男性は誰や?」
「さあ、詳細は。」
「Fって、自分では名乗ってました。」
その言葉に、彼は安堵したような、けれど、それと同時に失望したような顔をした。
そうして、大きく息をついた。
「・・・・期待、するもんや、ないなあ。」
「それは、どういう意味ですか?」
「いや、俺の勝手な思い込みや。名前も知らんのやな。あの御方は、フラダリさんや。」
世界が、凍り付いた気がした。
カラスバが何かを話している。けれど、自分も、そうして双子の片割れも、目を見開き固まっている。
フラダリは自分の恩人だと、生きていたのだと、何を今までしたいのだろうと。
彼は口にする。
「・・・やから。」
「ほん、とう、に?」
セイカは、ようやく息を吐き出すことが出来た。それに、カラスバは困惑したような顔をする。セイカはそんなことなど忘れてカラスバに掴みかかる。
「本当に!?ねえ、あの人が、本当に、フラダリって!」
「姉さん!」
「だって!お兄ちゃん!フラダリって!生きてたんだよ!生きて、たんだよ?」
お父さんが、生きて。
ぎちぎちと自分の腕を締め付ける双子の片割れの手を掴み、セイカはキョウヤを見つめる。
キョウヤは、いつもの飄々とした空気など忘れ去ったかのように、強ばった顔をしていた。
「落ち着け!」
「落ち着けないよ!だって、死んでるって!そう思って来たんだ!会えないって分かってて、それでも来たのに!」
生きてたんだよ、と目からぼたぼたと生暖かい何かがこぼれ落ちる。
それが何のために、何の感情によってこぼれ落ちていくのか、セイカには分からない。
ただ、今にも彼女は走り出そうとしていた。いるのだ、確かに、この空の下で、どこかに、きっと。
いるのなら。
「・・・おとう、さん?」
そこで驚愕に満ちたカラスバの声に我に返る。セイカはカラスバの方に視線を向けると、彼は心底驚いた顔をしていた。
「カラスバさん・・・・」
「お前ら、もしかして、カヌスの、ねーちゃんの?」
「母を、知っているんですか?」
キョウヤのそれに、カラスバはさらに目を見開き、そうしてだあんとその場に跪く。
セイカとキョウヤはなんだなんだとそれを見つめている中、彼は無言で手持ちらしいペンドラーを出した。
「・・・・詫びに腹切ります!!ペンドラー!介錯頼む!!」
それに一拍おいた後、セイカとキョウヤたち、そうしてペンドラーが彼を取り押さえるために駆けだした。