カエンジシみたいな父を探しております。ついでにミアレも救います。   作:幽 

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フラダリさんの話。あと、少しのおまけ。感想いただけましたら嬉しいです。


とある男の話

荒んだ目をしていた。それこそ、ぼろぼろの、手負いのポケモンのようなそんな荒んだ瞳だ。けれど、見たことのないようなそれに手を伸ばしたくなってしまったのはどうしてだろうか。

 

 

フラダリが、カヌスと、灰という名前を持った少女と会ったのは未だ幼い頃の話だった。

父の知り合いの子どもだというそれを後見という形で屋敷に住むようになったのだが。

フラダリはそれに最初、特別な感慨のようなものはなかった。

何せ、彼は名家の跡取りとして、日々、勉強に勤しんでおり、それを気にする余白がなかったのだ。

そんな中連れてこられた子どもに名乗ったとき、フラダリは、その少女に思わず見つめてしまった。

 

何か、特筆すべきようなものなどないはずだ。

見目は悪くないとは言え、人目を引くほどでは無い。

ただ、まるで、いつかに動画か何かで見た野生のポケモンのようだった。

誰にも媚びず、自立して、気高い、そんな生き物似た空気を纏った少女だった。

 

少女は変わっていた。

必要最低限しか部屋の外には出ず、時折、窓から空を眺めているのを見るぐらいだった。

別段、禁止されているわけでは無い。けれど、頑なに外に出ない理由をフラダリはようやく知った。

 

彼女は、当時、災厄を呼ぶという俗説で人から遠ざけられていたアブソルを手持ちに持っていたのだ。

それによって使用人達がひそひそと噂話をしており、できるだけ近寄らないようにしていたことを知り、フラダリは義憤に震えた。

アブソルの話が本当だというのなら、どうして少女自身が危険な目にあっていないというのか?

フラダリはそんなこと気にしない。

フラダリは、そんな周りの態度が気に入らず、一人で少女に会いに行ったことがある。

 

部屋は、とても暗く、そうして少女以外に手が入っていないというのにきちんと片付けられていたことを覚えている。

大きな窓の前に椅子が一つ置かれ、そこに誰かが座っていた。そうして、その足下に寝そべっていたアブソルがのっそりと起き上がり、フラダリを睨む。

暗がりの中、己を睨む、アイリスの花のような瞳が驚くほどに冴え冴えとしていたことを覚えている。

 

彼女との話し合いは、はっきり言えば充実したものからは遠かった。

それは、偏に、彼女の応えが簡潔で、それと同時に、そうだ。

フラダリは、少女に怖じ気づいてしまったのだ。

 

「・・・部屋から出てこない?家の中を案内するよ。」

「私が出ても喜ばないのが多いだろう。フラダリ、お前もさっさと部屋を出て行け。私の周りをうろつくと怒られるぞ。」

「誰が!?」

 

苛立ちに叫んだフラダリを、少女とアブソルは睨んだ。

それは、フラダリが未だに体験したことの無い、冷たさだった。

 

名家に生まれたフラダリは、悪意も、欲も、敵意も、ある程度は知っていた。けれど、少女から放たれるそれは、もっと寒々しく、威圧的で、そうして、鋭い殺意だった。

 

触れるな、近寄るな、分かろうとするな。

 

そんな、圧倒的な拒絶だった。

 

「誰?」

分かっているくせに、そんなことを言うんだな。

 

浮かべた嘲笑と共に、吐き捨てた。

 

「偏見と、もしもに振り回されて人の話も聞かず、分かった風な振りをして私たちに近づくな!」

 

思えば、ある程度大人になったフラダリはその時のカヌスの態度はまさに手負いのポケモンそっくりだった。

 

フラダリはそのまま部屋を出て、今までされた事が無いような攻撃的な拒絶に驚いてしまっていた。

わからない、当たり前だ、話もしないくせに。何も言わないくせに、理解を求めることは幼いフラダリにはひどく傲慢に思えた。

無視してしまえ、そうだ、自分は忙しい。そうして、彼女もそう望んでいるのだと。

 

そんな考えの方が幼いと理解したのは、家の人間の態度を改めて知ってからだ。

彼らは、少女の部屋に、それこそアブソルに近づいたことを知って口々に言い立てた。

 

あんなものには触れるなと。

ポケモンだけではない少女自身も疫病神だと。

母も彼女のせいで死んだそうだと。

 

ああ、疫病神同士だから、互いになんともないのだろうと。

 

フラダリはそれに少女がどうして、あんなに人を拒絶するのか理解できた気がした。

 

(・・・あの子、ずっと、あんな風に言われたのか。)

 

アブソル、災厄ポケモン。けれど、少女のアブソルは毛並みもよく、少女がどれほどそのポケモンを大事にしているのか、よく分かる気がした。

だから、拒絶する。否定しても根拠がないなら、誰もがほら見たことかと少女をいじめていたのだろう。

少女の味方はきっとアブソルだけで。彼女にとっては全てが敵で。

フラダリはそれに、調べ物に立ち上がった。

 

 

アブソルのことを調べ始めたのは、偏にまず、理解するという姿勢を出さればよかっただけの話だった。

だから、論文を読めば読みほどにそんな事実がこの頃覆されていることを知ってフラダリは嬉しかった。

 

ほら、どうだ!知れば恐ろしい事なんてない!自分は君を知ろうとした!

きっと、根っこの部分は、そんな、幼い愚かさだった。

 

意気揚々とカヌスに資料を持っていき、アブソルの安全性について語った。最初は明るい声だったが、少女の反応がないことに気まずさを覚える。

そんな中、問いかけられたどうしてというそれに、フラダリは恐る恐る答えた。

 

「だから、アブソルはそんなに危険じゃないって分かれば、君も外に出てくるかなって。でも、資料を探すのに手間取ってしまって。」

 

そんなふうに、答えたのだと思う。

それに、少女は、カヌスは初めて笑った。

暗く、牙を剥く獣のように剣呑な表情が消え去って、まるで暗がりで咲く花のように可憐な笑みで。

 

「フラダリ、君ってさあ。本当に、バカ正直だなあ!」

 

笑って、笑って、今まで敵としてしか他者を見ていなかった少女はようやく笑って、その後に盛大にわんわんと泣いた。

 

差しのばされた手は、確かに誰かを変えて。

傷つききった人の人生を美しくするのだと、フラダリが、そんなことを初めて知った時の話だ。

 

後に聞けば、カヌスはフラダリと最初に交わした会話を忘れていた。

カヌスにとって他人との交わりはすぐに忘れ去りたいほどに、苦痛で、傷つく行為だったのだろう。

 

カヌスはそれからずっと明るくなった。

カヌスの態度に家の人間も態度を軟化させ、父からの釘さしもあり、穏やかに暮らせるようになった。

 

長年、ポケモンと密なコミュニケーションを取ったカヌスはバトルにおいても確かな才能を開花させた。

そういった態度を見せれば、周りの対応もみるみる変わっていった。それにフラダリは鼻高々だった。

自分のカヌスはほら、こんなにも美しい生き物なのだと。

自分の、と枕詞をつけるのは、幼さ故か、それとも少女が自分以外には本当の意味で懐かないことを理解してのことだったのか。

大人になってしまったフラダリにはもう、分からないことだった、

 

ただ、言えるのは、カヌスとフラダリは多くのことを共に経験した。

旅に出られるような年齢になれば、二人で手を取り合って歩き出した。

その頃にはアブソルの偏見が大分薄れた頃で、誰もが圧倒的なバトルの強さを見せるカヌスに惹かれる。

けれど、カヌスはずっと、フラダリのことだけを見ていた。

 

強く、愛嬌のある少女を皆が称えた。けれど、そんなことはないとフラダリは知っている。それは人間社会に順応してなお、孤高で、気高い生き物だとフラダリだけが知っていた。

 

それは旅の間、フラダリもだが、誰かを助ける生き物だった。

いじめられている誰かを守り、迷子の子どもに手を差し出し、困っている人間を気にかけた。昔に比べて変わったその生き様に、フラダリは不思議に思っていたけれど。

きっと、その生き物の本性はずっとそうだったのだと納得した。

他者の悪意と敵意に心をすり減らし、けれど、本性は強く、弱者を気遣う生き物。

もちろん、カヌスがそんなことをするのはフラダリが喜ぶからなのだが、そんなことを彼は知らない。

 

それは、なんと美しい生き物だろうか。

気高く、孤高で、強く、けれど、笑う様は愛らしく、跳ねるように動く様は軽やかで。

生というものが持つ美しさを固めたような生き物だった。

 

そのくせ、それはずっとフラダリの側にいたがった。

感謝をされても、連絡先を聞かされても、それはとてもあっさりとして好意をあっさりと手放してしまう。けれど、カヌスはずっとフラダリの側にだけは居続けた。

フラダリが嫌がることはしたくないと、けれど、彼の服の裾を控えめに掴んでいるような、そんな生き物。

 

旅を終えて、料理人になりたいと家を出る時でさえも、それはずっといじらしい。

 

「もう、大人になったから、庇護を受けるわけにはいかないよ。父親の遺産もあるし、料理人になれるように頑張るよ!」

 

フラダリの家の庇護など、受けたい人間はどれほどいるだろうか。けれど、カヌスはそれではだめだと独り立ちをした。

 

どうして行ってしまうんだろうか?

それは、ずっと、美しい生き物のままだった。そんなことを気にしなくてもよかった。側にいてくれれば、フラダリはそれでよかった。

けれど、カヌスの願いを否定も出来ず、定期的に会う約束だけはした。

それに、女はこれ以上無いほどに嬉しそうに笑うから。

そのいじらしさが、余計に目映かったことを覚えている。

 

 

大人になったフラダリは、家のことから己が始めたラボのこと、そうして慈善活動など山のように責任や仕事が降り注いだ。

それを苦痛に感じたことはない。己でそれを望んでいたし、少しでも世界がよりよくなるなら嬉しいと思っていた。

なにより、だ。

 

「フラダリ!」

 

カヌスに会うと疲れを忘れられるような気がした。

カヌスの作った食事はフラダリの舌にあった。

 

「ふふん、フラダリ専用の味付けでやってるんだから当たり前だろ。」

 

そんな台詞を吐くのだから感服だ。

いや、当たり前だ。ミアレというカロス地方の中心街で、新参者が開いた店が潰れない程度には繁盛しているのだからその腕は確かなものだろう。

カヌスはポケモン相手の料理が特に見事で、食べればすぐに心を開くほどだった。

 

(・・・カヌスの拾ってきたヒンバスに、作ったポフィンを食べさせてすぐにミロカロスになっていたなあ。)

 

そんなことを思い出す。

フラダリの手持ち達もカヌスの料理が好きで、彼らに望まれて会う頻度が多くなったのは秘密だ。

カヌスの料理を食べ、その後はバトルをしたり、どうすれば勝てたかを語り合う。時折、彼女が人から貰ったという少しだけ音が外れることのある蓄音機から流れる音楽に合わせて適当に踊ることもあった。

格式なんて無い、ただ、幼い頃の遊びの延長戦。

窮屈な衣装を緩めて、笑いながら踊るのは、らしくない話、フラダリは好きだったのだと思う。

 

 

大人になれば人は変わる。

それは仕方が無い。

汚れ、鈍り、かすみ、ひびが入ることだってよくあった。

けれど、カヌスは確かに変化しているのに、子どもの頃の美しさを保ったままだった。

だから、会うだけで安心できた。

ミアレで、やってくるポケモンたちや、親のいない子どもを気にかけ、食事をさせて、時にはフラダリに相談をする。

自分に出来る範囲で、誰かに与え、美しいものであり続ける。

 

そうだ、これこそが、人が人としてあり続ける理想のはずだ。

フラダリは、そう、信じていた。

 

フラダリにとって、それは愛すべき生き物で、けれど、彼女にとっての何かであろうとは思っていなかった。

ただ、そうやって、それが自分の知る範囲で、変わること無くいてくれればそれだけでよかった。

 

 

そんな思いが、愚かだと知ったのは、いつも道理の食事の約束の日だった。

何と言うことの無い、いつもの日で。

ただ、カヌスの好きなワインを持って、今日は何を食べてさせてくれるのだろうかと暢気に歩いていて。

そんなとき、焦った様子のルカリオが店の方から走ってくるのが見えた。

それは、フラダリを見つけると、まるで何かがあったかのようにフラダリの手を引く。

異常を察したフラダリがルカリオについて走り出し、ミアレの細かい道を歩いた先。

 

カヌスがいた。

ボロボロで、服は引きちぎられ、上半身は殆ど裸体で。そうして、暴行を受けたのか血を流していた。

頭をやられたのか、フラダリに会えたことに安堵したのか、そのまま気絶した。

 

美しく、どれだけ強い生き物でも、穢す何かがいることをその日初めて理解した。

 

 

 

 

犯人達たちはすぐに捕まり、カヌスの代理で手続きを行った。

彼らは、フラダリの行っていた事業の支援を受けていた。

 

それに、自分の中で、何かがゆらぐ気がした。

 

犯行の目的は、カヌスを攫ってあわよくばフラダリが身代金を出さないか、そうして。

女に乱暴を行い、フラダリとの関係を破綻させること。

 

男達はフラダリの親類に依頼されたのだということが調べで分かった。

何故か?

フラダリは名家の出で、新進気鋭の実業家だ。彼は何よりも有用な婿がねであり、もしも結婚できなくても、遺産のおこぼれに預かれるかも知れない。

そんな目的の親類にとって、カヌスは相当邪魔だったのだろう。

カヌスがこのままフラダリの側に居続ければ?

子どもが出来ればどうなるか?

 

フラダリは、人の醜さの根源、己さえ良ければいいという何かの根源を見たような気分だった。

 

 

「あ!フラダリ!」

 

それでも、変わること無くカヌスは美しかった。

自分が恐ろしい目に合ったというのに、彼女はフラダリのことばかり気遣う。

どうして、こうあれないのだろうか?

カヌスはずっと、フラダリに醜い欲を向けた事なんてなかった。

美しいまま、無垢なまま。

 

(どうすれば、いてくれるのだろうか?)

 

ならば守ればいい。誰にも、それが手出しできない場所に。

己の家に閉じ込める形にはなったが、それはカヌスの安全のためと必死に言い訳をした。

一番の懸念だったアブソル達にも、あくまで安全のためと説き伏せた。

 

それからの蜜月はフラダリの記憶の中で、一番に心穏やかで甘い日々だった。

帰れば毎日カヌスが食事を作り、暇があればバトルをする。

幼い頃に戻ったかのような日々の裏で、フラダリはカヌスのことを貶める親類達を潰していった。

非道なことを企む彼らは叩けば埃はいくらでも出てきた。おかげで、社会的に潰すのは難しくなかった。

あの子が、あのままで、穢れることもなく生きていけるように。そのために、必要なことだと考えて。

 

ある程度、カヌスを傷つけそうな存在は片付けた。

そうだ、ならば、彼女もそろそろ元の生活に戻ってもいいだろう。

 

・・・・本当に?

 

また、あんな奴らがいくらでも湧いてくる可能性があるのに?

それで、彼女が、穢れて、墜ちて、壊れてしまうかも知れないのに?

ここならば、フラダリの手の中ならば、そんなことはないのに?

 

なのに、カヌスはここを出て行くという。

当たり前だ、カヌスは善良で、美しい人間だ。ずっと、意味も無く、与えられる人間では無い。

 

何の関係もない自分から与えられるのは、間違っている?

そうだ、ならば。

カヌスのことを抱き寄せ、口づけをすれば、彼女はまるで初心な少女のように顔を赤らめていた。

それは、フラダリを心から満たした。

 

それ以上の関係になればいいのだ。

カヌスとフラダリの在り方は変わらない。ただ、恋人同士の営みが加わっただけで。

フラダリはそれに心から満足していた。

少女としてのカヌスと、女としての、重なったカヌスは危ういバランスで、嫌な欲深さを知らない無垢さを保ち続けた。

 

その美しい生き物が、異性からそれ相応のアプローチがあれど、歯牙にもかけなかったそれが、自分にだけは恥じらいと照れを見せる様はくらくらするほどフラダリを魅了した。

それでいいと思った。

ずっと、フラダリの用意した箱庭で、美しい生き物であり続けて欲しかった。

 

恋人としての時間を楽しんだ後、家族になろうと、あの幼い頃の繰り返しに等しい時間を過ごそうと。

カヌスが昔欲しがったメガシンカのためのキーストーンのついた結婚指輪も用意して。

 

なのに、カヌスはいなくなった。

カヌスのいた部屋には、アブソルが残した爪痕があり、それが彼女を何よりも大切にするポケモン達の警告であることが理解できた。

 

私たちは今、とても不健全だ。少しの間、距離を置こう。

 

嫌いになったわけではない、けれど、おかしいから。だから、と重ねて書かれた手紙にフラダリはあの美しい生き物に見捨てられたのだと思った。

歪に、彼女を虐げる世界に自分が組み込まれて、拒絶されたのだと。

 

 

 

女は見つからなかった。当たり前で、違う地方に隠れすめば探しようがない。

その間も、フラダリは彼女が帰ってきてくれるようにと世界を美しくしようと努力し、そうして、心が折れたのだと思う。

 

あの日、カヌスを傷つけようとした人の醜さ全てがフラダリを責め立てる。

美しい世界でなら、こんなにも、あの女がどこにいるのかと、不安に思っていないかと、傷ついてはいないかと、苛まれてなくて良かったのだろうか?

もっと、日だまりのような愛を抱えて生きていけたのだろうか?

己の事だけが好きだった、あの美しい生き物が自分から離れていくような選択肢をさせなくて良かったのだろうか?

 

渡せなかった指輪は、変わらずフラダリのポケットの中に転がっている。

 

 

 

 

カヌスってさ、灰って意味なんだ。

・・・・灰、か。

まあ、母親は私を産んですぐに死んで、父親とも口きいたことないから名前の由来なんて知らないけどね。

名前、好きなのかい?

前は、あんまり考えたこと無かったけど。でも、今は好きだよ。

 

少女が、照らす木漏れ日の中で笑っている。アイリスの瞳を細めて、笑っている。

 

灰って、何かが燃え尽きた後に残るものだけど、畑にまいたら肥料になったり役立つことがたくさんあるんだ。誰かを暖めたり、ご飯を作った後でも、世界をよりよく出来るならそれってなんか嬉しいだろう?

 

幼い頃の思い出が、兵器を使った後の走馬灯で回ってくる。

名前さえも、美しかった生き物。

今はどこにいるのだろうか?

今日よりも、醜くなる明日の中で、一人で生きているのだろうか?

 

(指輪を、結局、渡せなかった・・・・)

そのままフラダリの意識は闇の中に落ちていった。

 

 

 

 

「・・・・不機嫌にならないでください。」

「べえつにい?不機嫌ちゃいますけど?」

 

カラスバの部屋にて、タウニーの借金に関する書類を確認していたキョウヤは自分のことをガン見してくる男にそう言った。

それにカラスバははっと鼻を鳴らした。

 

「・・・・計画を変更したことは謝ります。ただ、けじめは付けるべきですから。」

 

本来なら、カラスバがホテルにやってきたついでに、荷物などを運び出すキだったのだ。

やたらと上機嫌でやってきた彼は、キョウヤたちが結局MZ団に残ることを知り、不機嫌そうな顔をした。

 

(・・・・まあ、非合法な存在と密接にならない方がいいし。よかったのか。)

「・・・・でも、なんかあれば、すぐにうちにきいよ。」

 

キョウヤはそれにちらりとカラスバを見る。彼は、どこかニャスパーのように目を細めて自分を見ていた。

 

「世間は、思う以上に冷たいんで。ありがとうございます。」

頼りにしてます。

 

その、大人として、自分を庇護に置こうとする在り方が少しだけくすぐったかった。

その言葉にカラスバは眉間に手を当て、感動したように呟く。

 

「坊ちゃん・・・・!」

「表に出てください、もっかい顔歪ませて差し上げます。」

 

その言葉に愉快そうに笑うカラスバにからかわれているのは分かれども、嬉しそうにされると臨む反応をしてしまう。

 

「ともかく、書類、ありがとうございます。」

「それで、タウニーに釘刺すってどうされるん?」

 

出て行くキョウヤにカラスバが問いかけると、少年は穏やかに微笑んだ。

 

「男が怖い生き物だと分からせてきます。」

 

揺るがないその態度で出て行く少年の貫禄に、カラスバは呟く。

 

「・・・・ねーちゃん似やな、あれは。」

 

 




・・・・カヌス、これは。
あー、実は、ミアレのバッドボーイとかバッドガールとかとよくポケモンバトルしてるんだけど。倒しまくってたら白い悪魔って呼ばれるようになって拗ねてるんだよ。
そうか、にしても、カエンジシをクッション代わりに、上に乗っかられて寝られるのは。
アブソルー、カエンジシがシシコみたいにみーみー泣いてるから降りたれよ?・・・ガン無視か。
ふむ、にしてもひどいな。アブソルのような強く美しいポケモンに悪魔なんて。
(ちらっと、こっち見てる。)
アブソル、君は悪魔ではなく、素敵なレディだ。機嫌を直してくれないか?
ぐるるるるるるる!
すっげえ、機嫌が速攻で直ってカエンジシから降りた。そうして、ここぞとばかりに機嫌が継続するためにカエンジシが毛繕いし始めた。
彼女は賢く、美しいポケモンだ。やはり、ふさわしい呼び名で呼ばれていることが分かるんだな。

フラダリの言葉にカヌスは、戦闘時の悪魔みたいな顔を思い出せと言いたかった。けれど、こういうのは黙っておくべきだと理解してカエンジシが好きな味のポフレを作ることを決めた。
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