カエンジシみたいな父を探しております。ついでにミアレも救います。 作:幽
ユカリ様の辺り。
感想いただけましたら嬉しいです。
「着なさい。」
威圧的な発言にタウニーがうっと固まっていた。
事の始まりは、ヌーヴォカフェにて、ピュールのメガシンカのためのバトルからの一杯を飲んでいたときだ。
今回は、セイカがピュールとのバトルを引き受け、見事に勝利した。勝利の後の一杯は格別、とまではいかないが、気に入りのコーヒーを飲みつつまったりとしていた。
そのコーヒーは、母の入れてくれたコーヒーと味がよく似ており、里心を落ち着かせてくれる。
本当の意味でホームシックであるならば帰宅すればいいのだが、それは母から来るスマホロトムからの通知によって恐怖が勝っている。
そんなとき、ハルジオと名乗る女に話しかけられたのだ。
ミアレソシアルバトルクラブにタウニーとキョウヤ、そうしてセイカも招かれたのだ。
セイカは意外だった。なにせ、兄と自分では目立ち方が違う気がした。といっても、バトルの腕自体は同程度で、ロワイヤルのランクも同じなのだ。
そんな中、グランドホテル シュールリッシュに来いと言われたわけだ。
ホテル・シュールリッシュとミアレソシアルバトルクラブの二つの単語に、キョウヤもセイカも聞き覚えがあった。
なにせ、以前は相当裕福だったらしい父の痕跡を巡るとなると、知っていそうな人間も同階級の人間だろう。そのため、そう言った人間が集まりそうな場所はある程度当たりを付けていたのだが。
「ドレスコードが必要だ・・・」
兄のその言葉にデウロも同調し、ピュールに服の当てを頼んだのだ。そうして、メゾン・ド・ポルテという店に連れてこられたのだが。
店の人間とバトルをし、セイカとキョウヤはドレスコードにふさわしそうな、スーツとそうして可愛らしいドレスと渡された。
そうして、タウニーにとなったところで、彼女はあっけらかんと。
「あたしの正装はこのジャケット!」
そんな断り文句を言ったわけだ。
「・・・・タウニー?」
「な、なによ!」
「だめに決まってるだろうが。」
着なさい。
そうして、冒頭に繋がるわけだ。
キョウヤは半ば怒りながら、店の中に入っていく。丁度、店内に人はいない。
タウニーはざっと後ずさりする。キョウヤは幾つか当たりを付けたらしいパンツスタイルの衣服を手に取る。
「これでいいか。」
「あたしの正装は!」
「それはわかってるし、聞いてる。でもね、限度がある。あのホテルはドレスコードが必要そうなんだ。最低限の格好はしなさい。」
ピュールとセイカ、そうしてデザイナーが追いかけつつ、二人のやりとりにどうかしたものかと見つめる。
きかん坊をなだめるようにキョウヤが言うのを聞きつつ、セイカはさすがにと思い、口を挟む。
「そうだね、ふさわしい衣装ってのはどうしてもあるし。」
セイカの脳裏には、やたらとマナーやら格式と言えるものに詳しい母の姿が思い浮かぶ。
ドレスコードってのは、いわば、自分が仲間だって言うアピールなんだよ。その場にいるための暗黙の了解を知れる知識があるか、伝手があるか、金があるか、その他諸諸。面倒だが、初めての場所に溶け込むために、その最初の一歩である程度難が取れるならそれ以上のことはない。
やたらとドレスコードというものについて理解が合理的なのは気になるが。
「で、でも!」
「ジャケットを脱ぐなとは言ってない。ただ、その足と腹は隠す!」
「み、見るな!」
「無茶言うな!さっさとする!それとも・・・・」
キョウヤはすっと目を細める。そうすると、兄の顔は父に似ているなあとセイカは思う。
キョウヤはずいっとタウニーに近づき、腰を攫うように抱く。そうして、するりと、タウニーの丈の短い衣服の裾を指先でひっかいた。
「脱がされたい?」
タウニーの顔が真っ赤な染まる。
それを見ていた外野三人が両手で口元を隠して、はわわわと驚く。
「き、着る!着るったら着るから!!」
タウニーはキョウヤの持っていた服を掴み、試着室に入っていく。
「デザイナーさん。」
「は、はい!?」
「代金は俺が支払いますから。あと、何か適当にアクセサリーを。」
「わ、わかりました。」
淡々と告げるキョウヤを見て、ピュールとセイカがこそこそと話し始める。
(セイカ!あれ、なにかあったんですか!?)
(知らないよ!?)
(双子でしょ!?)
(そうだとしても、お兄ちゃんがあんなムーブしてるの見たことないし!!)
(いや、あれ、ただごとじゃ・・・)
「セイカー。」
「は、はい!!」
こそこそと話していたピュールとセイカはその声に肩をふるわせた。キョウヤは気にせずに二人に声をかける。
「セイカもアクセサリーをつけて。ピュール、選ぶの手伝って。」
二人は一瞬、今までの言動やらタウニーとのことについて聞こうか考える。
けれど、それ以上に触れない方がいいという勘が圧倒的に働き無言でこくりと頷いた。
結局タウニーはジャケットだけは頑なに手放さなかったものの、他の衣装についてはある程度のものを纏うことになった。
セイカも爽やかな若草色のドレス風のキャロットや、上着を纏う。
「うん、姉さんも可愛いし。タウニーも似合ってて綺麗だよ。」
「あ、ありがと・・・・」
兄とタウニーとの間の微妙な距離感については触れられなかったけれど。
やってきたホテルは評判通りの豪華さだった。タウニーは何か、気まずさにさっさとその場から離れていく。
キョウヤはそれについて特別な様子などなく、セイカの座る椅子の側に侍るように立っている。
「・・・・お兄ちゃん。」
「うん?」
「タウニーのことさあ。」
「だから行っただろ、釘を刺すって。」
キョウヤは特別気にしたこともない様子でスマホロトムを確認している。セイカはそれについてもっと突っ込みたかったが、己の片割れからそう言った話を聞くのも戸惑われた。
(ホテルに帰ってから聞こう。)
そんな中、セイカはカラスバの姿を見て顔をほころばせた。彼もセイカとキョウヤを見て、穏やかに微笑むだけだが認識しているようだった。
(・・・・ロワイヤルの、ランカーが多い?)
そんな疑問が浮んだとき、颯爽と一人の女が現れた。
ユカリという女性は、なんというか、一言で、いろんな意味を込めて表すのなら癖の強い人だった。
圧が強い、これ以上無いほどにだ。
ただ、その目を見ていると、セイカはなんとも澄んだ目をしているなあと感じた。
素直に、何かを求めて、そのためにならどんな苦も厭わない。ある意味で、美しいと言えるような生き方だった。
ハルジオと戦ったセイカも、ユカリの狂気と言えるそれをひしひしと感じて恐れ戦く。
(にしても、ユカリトーナメントにハルジオさんも組み込まれてたなあ。お疲れ様です・・・)
なんだかんだで最終の戦いで兄と戦い、負けてしまったセイカはあの時ああしていればなあ、などと考えつつ、ユカリと対峙するキョウヤを見る。
兄に負けたことはあまり気にしていなかった。なにせ、彼とセイカの実力はそれこそタネボーの背比べだ。
互いに、技の構築やポケモンとの動き方のために鏡合わせのようにバトルを繰り返し、勝っては負けてを繰り返している。今回は、たまたまセイカの順番が来ただけだ。
(カラスバさんに、事務所に遊びにおいでって行って貰ったし。毒タイプの子と、はがねタイプの子が好きそうな味のポフレと、あと、焼き菓子持っていこうかなあ。)
そんなことをご機嫌で考えつつ、兄が戦うのを見ようとしたときだ。
闖入者がやって来たのは。
それは、黒と緑の四足歩行のポケモンだ。それに、セイカはもちろん、キョウヤも覚えがあった。
「ジガルデ・・・・」
呟くと同時に、セイカが椅子から立ち上がる。それと同時に、ジガルデの後ろに立つ男の姿があった。
それは、灰色の男だ。燃え尽きて、セイカやキョウヤの夜色の髪に混ざる焔の色が燃え尽きて、灰を纏う男だ。
(おとう、さん・・・・)
ミアレを駆け回ってなお、ずっと見つからなかった父の姿にセイカは思わず走り出した。
キョウヤの後ろに立ち、そうして、強く腕を掴む。
父がいると、片割れに共有したくて、強い思いがあふれてしまう。
キョウヤもまた目を見開き、そうして、何を言えばいいのか分からないのだ。
キョウヤは己の腕を掴むセイカの手を自分のそれで握り込んだ。
ジガルデが、少なくともキョウヤとは戦いたがっているとフラダリは淡々と告げる。
分からないのだろうか?知らない振りをしているのだろうか?ならば、声をかけてみようか?
お父さんと、会いに来ましたと、話したいことがあるのです、あの、あの、あの。
(お母さんが、きっと、あなたに会いたくて。)
夜の髪をした女のことを思いだす。
野生の大型ポケモンにさえも揺るがない勇敢で、二人の子どもを一人で育て上げるほどにたくましく、冴え冴えとどんなことにも冷静で。
そうして、一人の男を思って、崩れ落ちた、色とりどりの英雄のパレードを見つめる、弱い人を思い出す。
セイカは兄の腕を、キョウヤは姉の手を、強く握る。
ユカリはそんなことも気にせずに、話を進める。そんな中、話すことに迷う双子に、フラダリは告げた。
「・・・記憶を失ったわたしが何者だったのかはどうでもよいのです。」
目の前が、真っ暗になった気がした。
「記憶が、ない?」
キョウヤの言葉にフラダリは淡々となんのこともなく告げる。
「ええ、ジガルデに助けられましたが、記憶は失われています。」
それは、なんの感慨も無い声だった。
亡くしたが故にその重要性を気にしていないのか。それとも、元々、彼にとって、母の記憶はその程度なのか。
セイカには分からない。
「ゼド!」
ジガルデの吠え声に、キョウヤはセイカの腕をそっと外す。
「お兄、ちゃん?」
その言葉に、キョウヤはそっとセイカの耳元で囁く。
「今は、ジガルデの願いを優先しよう。少なくとも、俺たちにとっては恩がある。出来ることはしよう。」
その言葉に、セイカはうなずき、兄から手を離した。
「・・・・ジガルデ、戦うのは俺でいい?姉さんじゃなくても?」
その言葉にジガルデは考え込むような仕草をした後に、セイカの方を見て一声鳴いた。
「二人でか。姉さん。」
「わかった・・・」
そうだ、目の前にいるのは、父を助けてくれたのだ。
恩には恩で返せ。不誠実な奴にはなるな。
どうして?
・・・・フラダリは、きっと、そうあることを願っていたからかなあ。
母の言葉を思い出し、セイカはモンスターボールを手に取った。
二人が戦うために対峙したとき、緑色の小さな何かが部屋の中央に集まってくる。それに、セイカが叫んだ。
「ぷに吉!?」
「・・・・これらはジガルデ・セルです。ジガルデの体を構成するものですが。ご存じでしたか?」
フラダリの不思議そうな声に、セイカとキョウヤは目を見合わせる。
何せ、それは母のカロス時代の写真に写り込んでいたポケモンだ。
こいつ、結局、なんのポケモンか分からないんだよなあ。
そうなの?
ああ、私がジョウトに引っ越すぐらいの時に結局行方が分からなくて。
新種なのかな!?
どうだろうな、ただ、タイプは分かってる。じめんとドラゴンタイプ用に調整したものを好んで食べてたから、その複合かな?
それを思いだし、キョウヤはオーダイルと、そうして、セイカはニンフィアを繰り出す。
ちなみに、オーダイルは氷技を、ニンフィアはもちろん、タイプ一致の技を繰り出した。
「・・・・ゼド。」
ジガルデ一言、何か不満そうな声を吐いて、そのまま去って行く。
「・・・・弱点は突くよ。」
「そうだね、突くね。」
あの声は、何か、ずるくない?みたいな質感の声だと気づきつつ、双子はジガルデの素早さについて行けなかった。
「・・・・お礼、しないと。」
「そうだね、お礼、しないと。」
二人のつぶやきの中、フラダリが、ジガルデは満足していただろうと声をかけてきた。
「・・・あと、不満そうな、いえ、気のせいですね。」
彼はそう言ってジガルデの出現について、警告のような言葉を発して、その場を去って行こうとする。
それに、セイカが思わず引き留めようとした。けれど、それをキョウヤが腕を掴む。
「お兄ちゃん?」
「・・・・止めておこう。」
「どうして?だって!あの!」
セイカは、咄嗟に、フラダリに声をかける。自分のことかと振り向いた、灰の男に、セイカは声をかけようとした。
周りの空気がざわめきに満ちていく。それでも、セイカはフラダリのことしか見えていない。いいや、今、手を伸ばさなければ後悔すると分かっていたからだろうか?
けれど、キョウヤが止めるようにセイカのことを背後から羽交い締めのように抱きしめて、そうして、耳元で囁いた。
「記憶のない人に、あの人の過去である俺たちが何を望むんだ?」
それに、セイカの喉元に張り付いたものがすとんの臓腑の奥に落ちていく。
お父さん、と、そう、呼んでみたい。呼んで、お母さんに会って欲しいと、それだけを言いたいだけなのに。
あの人の中に、自分たちはいないのだ。
炎の男だった、それはもう、燃え尽きて、彼の過去は燃えてしまった。
ならば、ならば、どんな言葉をかけても、無駄で。
セイカはその場に蹲る。キョウヤは、その背を慰めるように、守るように、上から覆い被さるように抱きしめる。
フラダリはその様を困惑するように見つめ、用がないのかとその場を後にしようとする。
遠のく、会いたかった人が、手なんて届かない人が、そこにいるのに。
セイカが茫然とそれを見つめる中、キョウヤが、なにか、顔をしかめて、捨て台詞のように問いかけた。
「Fさん!」
「・・・・なんでしょうか?」
フラダリは、用があったのかと改めて立ち止まり、振り返る。それにキョウヤはまるで、憎悪を吐き出すかのように震えることで言った。
「・・・・あなたは、カヌスを。」
灰の名前を持つひとのことを、覚えていますか?
それに、フラダリは一瞬の沈黙の後、やはり淡々と答える。
「・・・・存じ上げませんね。」
わかっていることなのに、何故こんなに胸が痛むのだろうか。セイカはぎちりと己の衣服を強く掴んだ。
「・・・・そうですか。」
「あの、君は。」
フラダリは少しだけ気になるような声を出した後、そのまま黙り込みその場を後にした。
一瞬の間の後、タウニーがばたばたと駆け寄ってくる。
「キョウヤ、セイカ・・・?」
会場内はしんと静まりかえっている。暗く、重い、陰鬱な空気の中で、本当にささやかなキョウヤの声が聞こえてくる。
「泣くな、泣くな。まだ、会えるんだ。会えるから。」
だから、大丈夫。
タウニーはそれに、固まってしまう。
キョウヤとセイカは、まるで、夜明けに吹く気持ちのいい風のような二人だった。
大抵のことは苦もなくこなして、動揺もせず、ふざけることさえある、そんな、気持ちのいい風のような二人だった。
バトルの時の、あの、ひりひりとした爽快さ、だから、彼らはいつだってそうなのだと、少なくともタウニーは疑ってさえいなかった。
きっと、彼らはいつだってそうなのだと、疑っていない中崩れ落ちるその様にタウニーは二人の側に近寄り、そうしてその背中を撫でる。
二人は子どものようだった。ミアレを駆け回り、困っている誰かに声をかけ、ロワイヤルで暴れ回る軽やかな生き物のはずだったのに。
今は、まるで迷子の子どものようだった。
「・・・・大丈夫だよ。」
それしか出来ない。けれど、タウニーもまた、まるで呪文のように、言い聞かせるように二人に声をかけた。
本当にそうなるかなんてわからないのに。それでも、祈りのように、そんな言葉をかけてしまうのだ。
そんなとき、今まで静観していたユカリが勢いよく手を叩いた。
「・・・・皆さん、お疲れのようですね!お茶を入れますので、小休憩を入れましょう!」
その言葉に、想定外だったのかハルジオが慌てた様子で動き出した。
「・・・・カヌス様はお元気ですか?」
ユカリトーナメントの会場の隅、彼女にしてはらしくないだろう位置に置かれた机とソファにユカリはキョウヤと向かい合う形で座っていた。
決勝の相手だからと言う文言で、キョウヤと、セイカだけがその席に座っていた。
タウニーとカラスバはもちろん、そのほかの人間達も少し遠目に自分たちを見つめていた。
「・・・・知っておられるのですか?」
キョウヤが力なくそう言いつつ、自分の背後に置かれたソファの上で蹲るように膝を抱えた姉を伺う。サーナイトが気遣うように近くにいるのが見えた。
「・・・・私、バトルが好きですの。ですので、カロス地方の強い方の情報はある程度目を通しました。その中で、表沙汰になっていない、ポケモンリーグの殿堂入り者の名前の中にその名がありました。」
「俺の言うカヌスと、そのカヌスが同じだと?」
「ええ、当時、旅に出たばかりのお年の方が殿堂入りなんて話題になってもおかしくなかったのに。表沙汰にならなかった。不思議に思って調べたら。」
ユカリは、これまた明るく手を叩く。
「フラダリ様のお家からどうも干渉があったようでしたから!関係があるとは分かりました。」
その言葉にキョウヤは重い頭を引きずり、床に視線を向ける。その様にユカリは目をゆっくりと細めた。
何を返すかと迷っていると、ユカリはまるで天気の話でもするかのような気軽さで言った。
「ご安心を、この場であったことは他言されませんわ。」
それにキョウヤが視線をユカリに向けると、彼女は、やはり、愛らしい笑みを浮かべていた。
「その程度、上に立つ者のたしなみでしてよ。」
茶目っ気たっぷりのそれにキョウヤは静かに微笑んだ。
「ありがとうございます。」
「はい、元気になられたようなので!さっそくバトルにしましょう!」
切り返しも早いなあとキョウヤは少しだけ遠い目をした。