カエンジシみたいな父を探しております。ついでにミアレも救います。   作:幽 

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一端置いて、グリさんの話。
感想、評価、ありがとうございます。また、いただけると嬉しいです。


カエンジシみたいな父を探していますが、私たちは本当にここにいていいのでしょうか? 上

 

「希望の名前なんです。」

そう言われて、お前が、お前達がそう言うのかと、そんな慟哭染みた衝動が腹の中で荒れ狂っていた。

 

 

 

その少女は、グリとグリーズのヌーヴォカフェによく通っていた。もちろん、彼らも自分たちの出しているものにはある程度の自負はあるため、彼女もまたコーヒーを気に入ったのだろうとは考えていた。

 

それが、彼女と、そうして双子の片割れである少年がロワイヤルのランクアップ戦を勝ち上がってくるようになってもやることはそう変わらなかった。

望む者に、一杯のコーヒーをという信念はけして変わらないのだから。

 

ただ、セイカと名乗る少女についてはグリは少しだけ別口で興味が湧いていた。

その理由、というと。

 

「やっぱりグリさんのコーヒーはおいしいですね!」

そう言って、その日のコーヒーの微妙な違いについてすらすらと当てるのだ。

 

その少女は、ポケモンバトルでも才能があるようだが、それと同時に、調理という場面でも非常に才があるようだった。というのも、目を見張るべきはその味覚いや、感覚全てが人よりも鋭いようだった。

コーヒーの味はもちろん、クロワッサンに使っている小麦がどこのものだとか、バターをどれぐらい使っているだとか、その辺りをすらすらと当ててしまうのだ。

特に、目を見張るのは、ポケモン用の食事やポフレを作る腕だろう。

 

「炎タイプの子はですね、どんな性格の子でも、アクセントというか、辛みを加えると好みの味に調整が効くんです!」

 

そんなことを言ったのは、彼女が連れていたヒトカゲが食べていたポフレをグリのリザードンが珍しく欲しがったためだった。

元々、他のポケモンのものを欲しがることなどなかったのに、そこまで反応することに驚いた。

そういったことで、グリと、そうしてグリーズは未だにロワイヤルのランクも低い少女に興味を示すようになった。

 

「グリーズさん、グリさーん!」

「おう、今日も来たのか?」

「はい、いつもの、お願いします。」

 

そう言えば、どれを出せばいいのか分かる程度には通う少女は、馴染む、というか、親しくなっていた。

 

(・・・ただの客。)

 

グリは己に言い聞かせるようにコーヒーを入れた。

 

その少女は、妙に人目を引いた。

容姿は、優れていると言えばそうだろうが、そこまで圧倒的な見た目ではない。

ただ、とても軽やかな生き方をしているせいだろうか。

 

街の中の変わりものたちの頼みを聞き入れ、ビルからビルへと駆け抜ける。

黒い髪の中に、まるで灯火のように混ざる赤い髪が、青の中を駆けていくのをグリは見ていた。

 

いつだって笑って、嫌な顔もせずに、人を助ける。

 

(ああ、なるほど・・・・)

ぼんやりと、グリは思う。

 

きっと、あんなものが、フラダリ様が言っていた、ものの。

 

 

バカな考えだと、グリはすぐにそんなことを頭から追い払った。

それは、確かに善良そうで、だからといってグリが必要以上に気にかける必要性も無い存在だった。

 

「でも、あいつら、どんどんランク上げてるぞ。」

「・・・だから、なんですか?」

「別に、気にしなくていいのかって。」

「ないですね。」

 

グリは淡々と答えた。

結局の話、どんな、誰が来ようとも自分がすることが変わらないのだと分かっていたからだ。

 

 

「グリとグリーズって双子?」

 

そんなことを少女の双子の片割れ、ロワイヤルでめきめきと実力を持った少年が問うてきたのは彼一人がヌーヴォカフェに訪れたときだろう。

その双子の片割れだという男は、燃えるような青い瞳をグリ達に向けた。グリは無意識のように視線を手元に下げた。

キョウヤの瞳は苦手だ。

鋭い、蒼炎の瞳。それは、誰かを思い出す。静かで、水面のように穏やかなのに、激しく燃える蒼い炎は、遠い昔グリの敬意を抱いた人の目を思い出す。

 

故に、グリはキョウヤという男が苦手だった。その瞳を見ると、遠い昔の古傷がうずいて仕方が無い。

それはグリーズも同じだろうが。

彼はセイカと違い、カフェに来る頻度は少ない。が、朝方などにふらりと一人で訪れることがたまにあった。

 

「はあ?どこをどう見ればそう思うんだよ?」

「あ、違う?名前の系統が同じだったから。てっきり、ね。」

 

緩やかに、鋭い蒼の瞳を細めるように微笑む様を見ていると、やはり、胸の奥で傷がうずく。

似ているはずなんてないのに、似ていると思ってしまう自分が不愉快で仕方が無い。

 

「系統?」

「二人とも、灰って意味の名前でしょ?だから、うん、少しだけ気になってね。」

「・・・何故ですか?」

 

グリがそう問えば、キョウヤはグリのことを少しだけ見つめて、そうして淡く微笑んだ。

あの人に、どこか似ている微笑みで。

 

「・・・とても、綺麗な名前だと思ってね。」

燃え尽きた後の、意味の無いそれに、そんなことを宣う男が、やはりグリは好きではなかった。

 

 

 

セイカとキョウヤは、もしかしたらフラダリの関係者かも知れない。

そんなことを言われたのは、彼らがロワイヤルを勝ち抜き、そうして、自分たちといつか戦うことを予想できる程度になったときのことだった。

 

「・・・・何を根拠に?」

 

ヌーヴォカフェのメンバーたちが集まる早朝のフラダリカフェにて、数人が気まずそうにグリを見ていた。

彼らはヌーヴォカフェのメンバーでも特殊で、フレア団が無くなった後、フラダリに世話になった人間達が彼の理念を守りたいと参入してきたメンバーだった。

彼らの中で、一等に年若いものが口を開く。

 

「・・・・・ボスは、その。」

カヌスという人を知っていますか?

 

ああ、また。

誰かが燃えかすの名前を呼んだ。

 

 

その、私たちは元々ミアレのストリートチルドレンで。フラダリ様の支援を受けていたんです。でも、もう一人、表立ってはいなかったんですけど。

 

「それが、カヌスという?」

「はい、それで、あの。カヌスは、店長は、フラダリ様と親しかったんです。」

 

初めて聞く話に、フレア団の古参の人間達は微かにざわめいた。

 

「フラダリ様と共に、慈善活動をしていたのなら知っていそうですが。」

「いえ、その、店長は名家の人間とかでもなくて。」

 

彼らはとつとつとカヌスという人間について話をした。

 

カヌスという存在はフラダリの昔なじみで、彼と幼少期を過ごしたこと。

ミアレでほそぼそとビストロを開いており、個人的にストリートチルドレンなどを気にかけて雑用の対価に食事を提供していたこと。

そうして、二十年近く前にミアレから姿を消したこと。

 

「・・・・カヌスさんとフラダリ様は本当に仲が良くて、町中で時々バトルをしているのも見かけました。」

「でも、五年前のことがあって、カヌスさんとフラダリ様のこと知ってる人もいなくなっちゃって。」

「フレア団が出来る前にカヌスさん、いなくなっちゃったんで。」

「それはわかりましたが。ですが、何故急にそんなことを?」

 

グリの疑問に、口火を切った一番若い人間が、まるでせき止めていたものがあふれ出すように叫んだ。

 

「わ、わたし、あの、幼なじみが、サビ組にいて!それで、そいつが、この前、お、教えてくれて!」

セイカとキョウヤは、カヌスの子どもだった!

 

「カヌスさんと、フラダリ様の、子、だって!」

 

時間が、止まったような気がした。

 

 

 

 

まるで、呪いが目の前で微笑んでいるような気がした。

 

「グリさん?」

己の、もう、捨て去るべきだった名前を、甘い声で呼ばれる度に叫び出したくなった。

 

彼らの話が本当なのか、疑わしいと感じていたものの、証拠のように一人がとある写真を差し出してきた。

それは、どこかのビストロで食事をしながら笑うフラダリと、そうして、その向かい側で頭にブースターを乗せて困惑している女が写っていた。

その親しい様に、グリは、ああと思う。

それは、グリの見たことのないフラダリだった。

彼が知るよりもずいぶんと年若い彼は、年頃にふさわしい快活な笑みと浮かべて女のことを愛しそうに見つめている。

 

「私たち、フラダリ様に助けて貰ったのはそうなんです。でも、それと同時に、ずっとカヌスさんにも恩義があって。」

 

五年前、あんなことをしたフラダリについて思うところはあれども、彼らにとって懐かしく思うのは、写真の中のフラダリで。

 

「だから、カヌスの分まで、フラダリ様の信念を大事にしていた君達の力になりたかった。」

彼女がいればきっとそうするから。

 

涙混じりにそう言った彼らは、キョウヤとセイカが街にやってきてすぐにカヌスと関係があると踏んでいた。

なにせ、彼らは本当によく似ていたものだから。

けれど、目的も分からず、突然近づくのも怪しまれるのではとためらっている最中に、その情報が入ったのだという。

 

(・・・フラダリ様の、子。)

優しい、賢しい、強い、彼の子どもたち。愛されるべき子どもたち。幸福であるべき子どもたち。

 

己と同じ、呪われるべき、子どもたち。

 

グリは、思い出す、キョウヤのあの、ずっと苦手だった蒼炎の瞳を。

そうかと、ようやく納得した。

グリは、それに、あの日、己の放り出したあの人の鋭く、静かな瞳を確かに重ねていたのだ。

 

「・・・・どうして、くそ!全部、なんで!今更じゃないか!」

 

キョウヤとセイカの件については情報が確かではないため、一旦はヌーヴォカフェの人間達は触れないことに決めた。

けれど、明らかに話を持ってきた人間達はもちろん、元フレア団のメンバーたちはそれに浮き足立っていた。

 

裏切られたという意識はある。けれど、それ以上に、皆が皆、結局フラダリのことが未だに好きなのだ。

助けられた者、高潔だったことを知る者、憧れ、その信念が間違っていたとは思えないから、ずっと彼らはフラダリのことが好きなまま。

それは、グリも、グリーズも同じなのだ。

 

「・・・グリーズ。」

「グリもそう思うだろう!?あいつらは、カヌスってやつは逃げたんだ!あいつらが、フラダリ様の子なら、そうなら・・・・」

 

どんどん尻すぼみになっていくグリーズのそれに、グリは彼女が何を考えているのか手に取るように理解できる。

 

彼らがカロス地方にいれば、自分たちの比ではないようなバッシングの嵐に晒されたことだろう。自分たちよりも遥かな地獄を見たことだろう。

 

(・・・ああ、そうか。)

「よかった・・・・・」

 

ぽつりと、グリは呟いてしまった。それに、グリーズは納得できないようにグリを睨むが、決して反論はしなかった。

二人のことを、それでも、グリも、グリーズも知っている。

 

ミアレに突然やってきて、ロワイヤルを瞬く間に駆け上がり、ためらいも無く人を助け、街の中を軽やかに駆け抜けて、暴走したメガシンカポケモン相手に勝ち抜く強さを持つ。

 

そうして、そんな合間を縫って、ヌーヴォカフェにやってきては、コーヒーを飲みながらたわいもない話をして、親しんでしまうような、当たり前の在り方をする生き物。

 

曇ることも無く、苦しむことも無く、腐り果てることも無く。

軽やかで、朗らかで、善良そうで、それを当たり前のように生きているそれが。

穢れのない、美しい生き物のまま。

 

(・・・・よかった。)

 

 

「あの、グリさん。」

 

それが、己の名前を呼ぶ度に心がざわざわとする気がした。

会話の多くないキョウヤでさえも、グリと、グリーズの心をざわつかせる。

彼はロワイヤルと、ポケモンの捕獲のせいでカフェにはそう高頻度では通ってはいない。ただ、時折、朝早くにコーヒーを一杯だけ飲んでいくだけで。

けれど、それでも、彼の瞳を見る度にざわついた。

 

蒼い炎が、自分を、焼く気がして。

 

それとは正反対に、カフェに頻繁に訪れるセイカは違った。

フラダリとはまったく似ていない様相、キョウヤのような鋭さを感じない柔らかなアイリスの瞳をしたそれはとても素朴な女だった。

何せ、話す内容なんてコーヒーやクロワッサンの話で、ヌーヴォカフェのものが相当気に入ったようで、グリーズと共に他のカフェのメニューの話をして仲良くなっていった。

 

「で、やっぱり、コーヒーに合うのは、甘みが濃いものだと思うんです!だからですね!」

「それならさあ。」

 

普段、そう愛想を振りまかないグリーズもセイカのことは気に入ったようで会話をよくしていた。

 

「・・・・仲が良いんですね。」

「今更、突放すのも不自然だろう。」

 

双子の出生の話を聞いた後も、グリーズは変わらずセイカとよく話をしていた。時折、何か、どんな顔をしていいのか分からないというように目を細めていたけれど。

けれど、心のどこかで、グリーズもまたセイカのことを気にかけずにはいられなかったのだろう。

 

(・・・・残光が。)

遠く、見えなくなっていたと思ったはずの、いつかの残光が、今更己達の身を焼いている。

 

セイカとキョウヤは変わらない。当たり前だ、二人は自分たちの事情を知らないのだから。自分たちが彼らのことを知っているなんて、分かるはずが無いのだから。

知らない顔で、安寧の中で笑うその様に灼けるような怒りと、泣きたくなるような安堵を感じる。

己のコーヒーをおいしいと笑い、あなたのリザードンが憧れだとヒトカゲを抱え、誰かのために街の中を駆け回る。

その、善良さと、軽やかさが、目映い程までに遠くて。

 

(・・・何故だろうか。)

 

それらは、自分たちと同じ、呪われた子どものはずなのに。

どうして、あんなに、美しい生き物として生きているのだろうか?

 

 

 

「グリーズさんは、ミアレ出身の人なんですか?」

 

そんなことをキョウヤが問うてきたのは、珍しく双子がヌーヴォカフェに集まったときであり、そうして、他の客がいない閑散とした時間帯だった。

 

「・・・まあな。」

 

歯切れ悪くグリーズが答えている。そうして、話を変えるようにグリーズが口を開いた。

 

「お前らこそ、故郷はどこなんだよ?どうして、この街に?」

 

核心を突くようなそれにグリは焦る心を抑えて、グリーズを咎める。

 

「グリーズ、お客様にそんなことを聞かないでください。」

「いいだろ、旅の人間にこれぐらい聞いても。」

「あ、大丈夫です!これぐらい。」

 

セイカはグリをなだめるようにそう言った後、向かいに座る兄を見た。キョウヤは静かにコーヒーを飲んでいる。

彼女は、彼もまたそう考えていると理解しているのか、無言でタワーを仰ぎ見た。

 

「・・・私たち、故郷を探しに、ここに来たんだと思います。」

 

それは、とても、予想外な言葉だった。

 

「・・・故郷?」

「私たち、元々はジョウト地方の、田舎の方で生まれ育って。お母さんも元々はシンオウ地方で産まれたんですけど、育ちはカロス地方なんです。お父さんは、カロス地方の人で。」

 

父親、それが指し示す言葉にグリーズは顔をしかめ、そうして、グリはちらりと己の指を見つめる。

今は付けていないキーストーンの指輪を思い出すように撫でる。

 

「・・・・ジョウトで育ったんなら、ジョウトが故郷じゃないのか?」

 

グリーズが何かをこらえるように、そう言った。少なくとも、グリにはそう見えた。

それにキョウヤは変わること無く静かにコーヒーを飲み、そうして、丁度、手持ちに出していたオヤブン個体らしいカエンジシの頭を撫でる。

オスのカエンジシを撫でるキョウヤを見たくなくて、グリは作業している振りをする。

蒼炎の瞳が、カエンジシを見つめる様を見たくなかった。

 

「そうですね、まあ、田舎の方だったので大変なことも多かったですけど。でも、好きですよ。シロガネ山って所の麓で、私たち、野生のポケモン達がとても近く住んでて。お母さんも、保安官みたいな仕事をしながら私たちのことを育ててくれて。でも、そうですね。多分、お母さんには、あの場所は、居場所じゃなかったんだと思います。」

そう言った、その顔は。

 

向かい合う、鏡に合わせのように、完璧な、美しい生き物たちは。

 

普段の、朗らかで、軽やかで、楽しそうで。

そんな笑みとはほど遠い、ひどく、生き疲れたような、笑みだった。

 

その時、グリは思った。

ああ、やめてくれ!

 

美しいものが腐り落ちる、輝かしいものが曇っていく、軽やかなものが鈍っていく!

 

あんなにも、なんの不幸など知らぬと、人を愛して、他者のために動くことにためらいも無いきみたちが!

そんな顔をするなんて、間違っているだろう。

自分の手を、握りこんで、怒りを抑えるようにこらえた。

 

「・・・ずっと、遠くを見ているんです。」

 

キョウヤが引き継ぐように口を開く。それにセイカは気まずさを隠すように、膝の上にいるニンフィアの体を撫でた。

 

「シロガネ山って雪の深い場所で。母は、密猟者とか、登山許可の下りてない人がいないか監視をしたり。後は、強い野生のポケモンが人里に降りてこないようにするのを仕事にしてたんですけど。一緒に山に登ると、ずっと、遠い場所を見るんです。雪原の、真っ白な中で、母は遠い空を、決まった方向を見てて。それに、姉さんと、よく思ってました。」

母は帰りたがっているんだと。

 

その言葉は、とても、もの悲しく聞こえた。それと同時に、怒りを感じた。

女の帰りたがった場所がどこなのか。

分かるからこそ、怒りがあった。

 

帰ってこなかったくせに、自分たちのことを置いていったくせに。

フラダリ様を、独りにしたくせに。

けれど、心の中で、天秤がゆらゆらと揺れる。

 

けれど、彼らは、ここにいたのなら。そうなら、きっと、この美しい生き物たちは、持てる全てをすり減らし、ゆがみ、腐り、濁ってしまっていて。

そうあって欲しかった心、そうでなくてよかった心。

グリは、自分の感情がどこにあるのかわからなくなる。

 

「母はずっと、帰りたがっていて。それが、父のいるカロスだってわかっていたから。」

「・・・だから、私たち、ずっと、生まれ育った場所なのに。あの場所を、故郷だって、どこかで思えなくて。」

 

二人は黙り込み、そうして、セイカが口を開いた。

 

「だから、来たんです。ここに、お母さんが帰りたがってて。お父さんがいた、カロス地方がどんなところか。私たち、ずっと、知りたくて。」

「母さんがいる場所が、俺たちにとって帰る場所だったから。」

 

二人は、普段の、飄々として揺るがない在り方なんて存在しないかのように、心元の無い、迷子の子どものような顔をしていた。

グリーズも、グリも、その顔を見て、何かを言おうとした。何か、声をかけねばと思った。

けれど、二人は、そんなことなどまるで無かったかのような顔をした。

 

「ミアレって、いい街ですね。」

「・・・・そうか?」

 

ここは、君達にとって、地獄のような場所かも知れないのに。君達が何者なのか、己達と同じ、呪われた子どもたちだというのなら。

 

(そんなこと、言えたのか?)

「そう、思われますか?」

 

グリは、その時、珍しく二人に話しかけた。それに二人は物珍しそうな顔をした後に、やっぱり、あの、軽やかで、明るい、何か、善き者の証のような笑みを浮かべた。

 

「いい街です。」

「楽しい人たちが、ポケモンと暮してる。」

だから、ここに来れて良かった。

 

そういって、笑うその様はやっぱり美しい生き物のままだった。

 

「すみません、急に身の上話をしてしまって。」

 

コーヒーを飲んだ二人は、グリーズとグリにそう、申し訳なさそうな顔をした。

 

「いや、こっちから聞いたことだろ?」

「ええ、お気になさらず。」

「そうですか?いえ、でも、なんか申し訳ないなあ。」

 

セイカが少し困ったように笑った後、二人はちらりと互いを見た。そうして、双子はまるで子どものように手を繋いでグリとグリーズを見た。

 

「・・・・本音を言うと、お二人に甘えちゃったかも知れません。」

「甘え?」

 

セイカのそれにグリーズが聞き返せば、彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。

 

「・・・お二人って、灰って意味合いのお名前ですよね?」

 

それに、やっぱりひやりとした。

名前は、そこそこ早めにばれている。なにせ、仕事をしていれば名前を呼ぶことなどよくあることだ。

けれど、彼らにその名前を呼ばれると、心がざわめく。

 

「私たちのお母さんも、灰って意味の名前で。それで、ちょっと親しみを覚えちゃってて。」

灰は、全部が燃え尽きた後に残って、世界の礎になれることもあるんだから。

 

少年は静かにその言葉を聞き、少女は、心底、まるで自分たちが目映いものだというように目を細めて。

「希望の名前なんです。」

 

眼鏡越しに、何かが、ちかりと、瞬いた気がした。

 

 

 

 

美しい生き物だと思ってしまった。

自分と彼らを比べて、その出生を知りながら、自分たちとはまったく違う生き方をしながら、それでもなお、どうして、あの二人はあんなにも美しいのだろうか。

 

いつも、グリは、立ち止まって彼らが軽やかで自由なポケモンのように駆けていく様を見ていた。

いつも、グリは、彼らが翼のあるポケモンのように屋根から屋根へと飛び移っていく様を見ていた。

いつも、グリは、彼らが人の間で笑い合っている様を見ていた。

全てが遠い、ガラス越しに見つめる彼らは、文字通り、自分たちとは違う、健やかで、軽やかで、自由な。

いつかに、人のいない森の中で、堂々と振る舞う野生のポケモンのように孤高で。

なのに、困っている誰かを見れば手を差しのばすような善良さと、メガシンカポケモンや、ポケモンバトルで負けなしなほどに強い。

 

なんて、美しい生き物だろうか。

自分たちは、春を手放した。それは自分たちの選択肢だった。いつかに見つめた理想を否定できなくて、肯定したくて。

全部、忘れて、いつかに知ったはずの幸福から目をそらしてここまできた。

そうだ、自分にはもっと高潔な、果すべき事があるはずだから。

そんな大義だと己に言い聞かせた信念を軸にして、自分に残ったものをかき集めて、幾分か、善人らしくあれていると思うのに。

 

知ってしまった、分かってしまった、焦がれてしまう。

あの、美しい生き物に。

フラダリの、子どもたち。

自分とは違う、祝福に満ちた、美しい子どもたち。

 

「それでも・・・・」

 

グリは己の中指にはめられた指輪を見つめた。

果したいと願うことがあったのだ。

 




全部終わった後のギャグ展開

なあ、ちび。
・・・・ねーちゃん、たのんますから下に示しがつかんのでその呼び方止めてくれません?
ジプソのことはクソガキ呼ばわりしてるのに?
それも止めてくださいよ・・・で、キョウヤのこと連れてきてどうされたんです?
いや、おまえさん、地位も金もあるし、顔もいいからモテるかと思って。こいつに、女の振り方教えてやってくれないか?

・・・・はあ?ど、どういうことですか?
いやあ、その。地元で下手に愛想振りまきまくって去る者負わず、来る者拒まずやりまくってたら交際人数がすごいことになって。
ちなみに、何人って、お前、その年齢でその人数はあかんやろ。
男も女も来る者拒まず、でいったらまあ、そんな感じで。でも、大抵は年単位持ったこと無いんですよね。大抵、自分のこと好きじゃ無いって振られるし。
・・・・まあ、分かるけど。

それでこいつ、そんなんだから、誰かと別れた次の日に新しい奴と付き合いだしてって感じでキャットファイトも幾度も起こし。いつか人傷沙汰を起しそうで怖いから上手い断り方教えてやってくれないか?
そりゃあ、力添えしてもええですけど。俺みたいな立場の奴がする方法は参考になるんですか?というか、そういうならセイカは?
セイカはお兄ちゃんみたいな人で乗り切ってたけど。俺が、妹みたいな人がいいなっていうのはあまりにも生々しいから。
お、おお、そうか。でも、ねーちゃんもそこそこもててたけど上手く断ってたんですから参考にならんのですか?
聞いてくださいよ、カラスバさん、俺も母さんに聞いたらなんて言われたと思います?
なんていわれたん?

ご所望だよ。
うーん、そりゃあ。フラダリー!
なんですか?
突然、召喚せんでください!?俺の心臓がもたんのに!
仕方が無いだろう、フラダリが必要なんだから。
?何をすれば?
いや、いてくれればいい。そして、私の断り方だが。まず、社会的地位も高く、顔もよく、能力値も高く、そうしてポケモンバトルも強い、高値の華な異性の幼なじみを用意します。
初っぱなからハードルたっかいなあ。
そうして、交際を迫られてたときは、物悲しそうな顔をして、その幼なじみの写真とかを意味深に見つめて好きな人が、といいます。大抵の奴は勝てないことを自覚して身を引いてくれる。

あまりにも虫除けが豪華すぎる・・・
それ、忘れさせてあげますとか言われん?
そういうときは、ポケモンバトルが強い人が好きっていってアブソルでろくたてします。
これなら俺にも出来るけど。父さん並のスペックの幼なじみってどこで売ってるかな。
うっとってたまるか!

でも、母さん、普通に好きな人が出来たとき大変じゃ無い?父さんがいると。
いやあ、社会性を得たときからフラダリのことしか好きじゃ無いから問題なかった。
一周回って清々しい。
カヌス、私も、ずっとあなたのことだけを・・・
フラダリ・・・・!
と、そういうのは置いといて。母さんのやり方が一番楽そうなんだよなあ。ユカリ様に頼みに行こうかなあ。
それ、ほんまに結婚させられん?ずっとバトルしましょうって。
うーん、不採用で!!
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