飛天の継承者外伝 ~雪幻に咲く花~   作:ファルクラム

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第7話「友情色々万華鏡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間宮あかりは戸惑いと共に、目の前で刀を提げて立つ志乃を見詰めていた。

 

 放課後、クラスメイトで親友の志乃に誘われ、彼女の家で夕飯を食べる事になった。

 

 志乃の家に遊びに来るのは初めての事だったが、その全てがあかりにとって新鮮であり、かつ感動するようなことばかりだった。

 

 志乃は父親が武装検事をしている関係で、住んでいる家も、アパートで貧乏生活のあかりなどから見たら城と見紛わんばかりの豪邸である。

 

 専属のメイドさんが作った食事を楽しみ、食後に散歩に誘われて、2人で庭に出た。

 

 時刻は夜の7時45分。

 

 そろそろ寒くなって来たので、部屋に戻ろうとした時、志乃が言った。

 

『あかりちゃん、アリアと別れて』

 

 冷たく告げる志乃からは、明確な程の殺気まで見えている。

 

「・・・・・・志乃ちゃん、どう言う事?」

 

 戸惑いを隠せないあかりは、絞り出すようにそう尋ねる。

 

 友達だと思っていた。

 

 親友だと。

 

 だが今、志乃は確たる殺気と共に、あかりに切っ先を向けていた。

 

「戦姉妹契約を強制的に解消させるには、72時間以内に私闘でハッキリと敗北させなくちゃいけない」

 

 3日内解消規則(スリーデイズ・キャンセル)と言う物がある。戦姉妹、もしくは戦兄弟契約において、申請から72時間以内に妹や弟が決闘で敗北した場合、契約は強制的に解除される。それは兄姉が弟妹を守れなかった事を意味し、再契約も認められないのだ。

 

 淡々と告げる志乃の瞳には、まるで暗い炎が宿っているかのようだ。

 

 あかりは自分の友達だ。自分こそが、あかりにとって一番の親友なのだ。それを、ここ最近、あかりは戦姉妹として契約した2年生の先輩の話ばかりしている。

 

 冗談では無い。あんなどこの馬の骨とも知らないポッと出の先輩なんかに「あかりの1番」を取られてたまるか。それは自分の物なのだ。

 

 だから、取り戻す。たとえ、あかり本人を傷付ける事になっても。

 

 傍から見たら妄執としか思えない、しかし、本人にとっては、魂の底から純粋で崇高な感情と共に、志乃は刀を振りかざした。

 

「そう言う、決まりなの!!」

 

 あかりがアリアと戦姉妹申請したのは、3日前の午後8時。つまり、それまでにあかりを倒さなくてはならない。

 

 残り15分と言う時間は、志乃が独自の計算の元に弾き出した数字である。志乃の全力を持ってすれば、15分あればあかりを仕留める事ができる筈。しかも、ここは志乃の家。地の利は志乃にある上、邪魔が入らずに事を成す事ができる。

 

 刀を横薙ぎに振るう志乃。

 

 志乃の刀は造りこそ日本刀の物だが、柄の部分は西洋のサーベルのような拵えをしている。その為、初見の人間は大抵、武器を見誤る。

 

 迎え撃とうとして、あかりは愕然とした。

 

 銃が無い。

 

 あかりはイスラエル製サブマシンガンのマイクロUZIを主武装にしているのだが、玄関から入る際にメイドさんに預けてしまっていた。今にして思えば、志乃はそこまで計算して襲撃を仕掛けたのかもしれない。

 

「わっ!?」

 

 とっさに体を低くして、振るわれる斬撃を回避するあかり。

 

 しかし、志乃の動きはそこで止まらない。

 

 すかさず、更に踏み込んで斬りかかって来る志乃。

 

 対してあかりは上半身をのけぞらせて回避すると、そのまま数回、バク転を繰り返して志乃から距離を置いた。

 

 だが、

 

 着地して体勢を立て直した直後、制服の胸元の縫製が解れ、締めていたネクタイが解ける。完全にかわしたと思っていた一撃は、僅かに掠めていたのだ。

 

 愕然とするあかりに対し、志乃はゆっくりと距離を詰めて来る。

 

「ごめんね、あかりちゃん。防弾制服を着ていても骨は折れちゃうかも。でも、付きっきりで看護してあげるから安心して」

 

 そう言って、暗い笑みを浮かべる志乃の姿に、あかりは恐怖を感じて後じさる。

 

 とにかく、間合いに踏み込ませてはいけない。

 

 そう思った時だった。

 

 突然、背後に気配が躍ったかと思うと、2頭の漆黒の獣があかりに噛みついて来た。

 

「キャァッ!!」

 

 それは、佐々木家で飼われている2頭のドーベルマンだった。鎖で繋がれているとは言っても、その獰猛さで有名な犬に間近に迫られて、恐怖しない者などいる筈がない。

 

「こ、来ないで!!」

 

 とっさにサイドアームのナイフを抜き放ち、ドーベルマンを牽制するあかり。

 

 しかし、背中の敵に目を奪われ、前から迫る相手の事を完全に失念していた。

 

 砂利を踏む音と共に、志乃は再び自分の間合いにあかりを捉えた。

 

「あかりちゃんは素早いわ。まるでツバメみたい・・・・・・」

 

 ハッとして振り返るあかり。

 

 対して志乃は、体を捻り込み、刃を隠すように刀を構えた。

 

「でも私は、ツバメでも斬れるよ」

 

 あかりは一瞬で悟る。

 

 あの技は危ない。

 

 あの技を食らってはいけない、と。

 

 次の瞬間、志乃の一閃が迸る。

 

 志乃が使う流派、厳流では、まず居合斬りを覚え、それを鞘無しでやる。居合の最大の強みである隠密性を捨てる事になる半面、鞘の摩擦が無くし最速の剣とするのである。

 

 故に、厳流ではまず、鞘を捨てる。

 

 一閃は神速に迫り、風を斬り、飛燕をも落とす。

 

 その技の名こそ、

 

 燕返し

 

 迫る、銀の閃光。

 

 対してあかりは、とっさにナイフを盾にして志乃の斬撃を防ごうとする。

 

 しかし、

 

「う、受け切れない!?」

 

 あまりの剣速と圧力の前にあかりの体は押され、背後のバラの群れに突っ込んでしまう。

 

 そしてついに、圧力に耐えかねたナイフが砕け散り、同時にあかりの体は噴水の中へ背中から落下した。

 

 その機を逃さず、志乃は追撃に動く。

 

 あかりは転倒した上に水の中に落ちた為、身動きができなくなっている。今なら確実に仕留められる。

 

 振り翳される白銀の刃。

 

 だが、その瞳からは、涙がこぼれている。

 

「あかりちゃんが・・・・・・あかりちゃんが、悪いんだからね!!」

 

 あかりに出会うまで、志乃は一人ぼっちだった。

 

 優等生故の孤独。なまじ、成績の良さから来る嫉妬の眼が、志乃を追いこんでいた。

 

 引っ込み思案な性格も災いし、周囲の同級生たちは皆、付き合いの悪い志乃を「勝ち組」と呼んで忌避した。

 

 だがそんな中で、あかりだけは違った。いとも容易く志乃の内側に入り込み、まばゆい笑顔で、彼女を孤独の闇から掬い上げてくれた。

 

 失いたくない。

 

 アリアなんかに渡したくない。

 

 だから、斬るッ

 

「あかりちゃぁぁぁぁぁぁんッ!!」

 

 振り下ろされる刃。

 

 次の瞬間、

 

 バララララララララララララ

 

 軽快な音と共に、フルオートで放たれた弾丸が、志乃の行く手を遮った。

 

「ッ!?」

 

 とっさに足を止める志乃。

 

 絶対に入る事は無いと思っていた第三者による妨害。

 

 それがまさか、このタイミングで入ろうとは。

 

「そこまでだよ志乃ちゃん。いくらなんでも、これはやりすぎ」

 

 その声に振り返ると、そこにはイングラムM10を構え、厳しい眼差しをした瑠香の姿があった。

 

 ののかから連絡を受けた後、瑠香は最後にあかりを見た時、彼女が志乃と一緒だった事を思い出した。そこでまず、自分よりも志乃との付き合いが長いライカに電話して志乃の家の場所を聞き出し、この場に駆け付けたのだ。

 

「る、瑠香ちゃん!?」

 

 水の中から顔を上げるあかりを見て、瑠香はホッと息をついた。どうやら、間にあったらしい。

 

「ののかちゃんからさ、電話が来たんだ。あかりちゃんから連絡が来ないから心配してたよ」

「ののかから!?」

 

 大事な妹の存在が、間一髪のところで自分を救ってくれた事を知り、あかりは驚きの声を上げる。

 

 それを見届けてから、瑠香は志乃に振り返った。

 

「あなたも邪魔するんだね、瑠香さん」

 

 対して、ぞっとするような冷たい声で、志乃は告げる。

 

 思わず、背筋に冷たい物を感じる瑠香。これが本当に、あのおっとりした佐々木志乃と同一人物だとは、到底思えなかった。

 

 イングラムを構える瑠香。

 

 迎え撃つように、志乃もまた刀を構え直す。その構えは先程と同様に、刀身を捻り込んだ体に隠すようにしている。

 

 それにいち早く気付いたのは、瑠香では無く、先程、技を食らったあかりだった。

 

「ダメ、瑠香ちゃん危ない!!」

「え?」

 

 一瞬、振り返る瑠香。

 

 次の瞬間、飛燕をも狩る剣閃が迸る。

 

 圧倒的な剣速で間合いを蹂躙する志乃。

 

「クッ!?」

 

 回避しようと、宙返りする瑠香。

 

 しかし、とっさの事でバランスを崩し、構えていたイングラムを取り落としてしまった。

 

「ッ!?」

 

 着地と同時に舌打ちしながら、サイドアームであるサバイバルナイフを抜く瑠香。

 

 しかし、志乃の刀に比べたら、いかにもちゃちな武器でしか無い。

 

 ナイフを逆手に構え、瑠香は慎重に志乃との間合いを測っていく。

 

 瑠香のナイフは、刀に比べて圧倒的に長さが足りない。どうにかして攻撃を掻い潜り、志乃の懐に飛び込む必要がある。

 

「ハッ!!」

 

 先手必勝。

 

 瑠香は初手からトップにギアを入れ、志乃へ高速で接近する。

 

 振り翳される刃。

 

 しかし、

 

「そう来ると思った」

 

 薄く笑う志乃。

 

 次の瞬間、瑠香はとっさに身を翻した。

 

 対して志乃の斬撃は、地面を磨るようにして迫って来る。

 

 志乃は瑠香が先制攻撃を仕掛けて来る事を予測し、迎え撃つ体勢を整えていたのだ。

 

 機動力では敵わずとも、剣速で補う事ができる。そう判断した志乃の罠の中に、瑠香はまんまと飛び込んでしまった事になる。

 

「わわッ!?」

 

 体をのけぞらせるようにして、急激に制動を掛ける瑠香。

 

 その僅かな鼻先を、志乃の剣は容赦なく駆け抜ける。

 

 ようやく、瑠香の体は慣性の法則より脱し、後方へ大きく跳躍して距離を取る。

 

 着地、同時に瑠香の前髪が、一房斬られて地面に落ちた。

 

「あなたも素早いですね。あかりちゃんがツバメなら、瑠香さんはさしずめ、子猫と言ったところでしょうか?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 無言の内に、瑠香は息を飲む。

 

 恐ろしい剣だ。食らえば、最悪、骨折どころではすまないかもしれない。

 

『けど・・・・・・』

 

 瑠香は密かに思う。

 

『友哉君に比べたら、全然遅い』

 

 瑠香の戦兄、緋村友哉もまた、飛天御剣流と言う流派の剣術使いである。その剣は稲妻の如く天を駆け、閃光の如く刃が駆ける。

 

 そのような剣を毎日のように見ているからこそ、瑠香は辛うじて志乃の剣を見切る事ができたのだ。

 

 しかし、それでも今の瑠香では、志乃に対抗するのは難しい。決め手に欠ける上、得意の機動戦術まで読まれている状況では、如何ともしがたかった。

 

 その時、

 

「ありがとう、瑠香ちゃん。もう大丈夫だよ」

 

 声に振り返ると、水から上がったあかりが、瑠香に微笑みながら前に出ていた。

 

 あかりはまだ、戦う気でいるのだ。自分の親友を相手に。

 

「志乃ちゃん」

 

 あかりは、ゆっくりと、静かに語りかける。

 

「あたし、アリア先輩との戦姉妹、絶対に解消したくないの」

 

 対して志乃は、激情を押し込めたような声で返す。

 

「私だって・・・・・・あかりちゃんをアリアなんかにあげたくない」

 

 交わらぬ想いは、何処まで行っても平行線のまま、互いの横を行き過ぎて行く。

 

 あかりはチラッと、志乃の手にある刀を見た。

 

 今のあかりは、完全に丸腰だ。防弾制服以外に何の武器も持っていない。しかし、あかりの本領は銃やナイフでは無い。

 

 鳶穿ち

 

 あかりの一族に伝わる暗殺術に、あかり独自の改良を加えたスリの技術。あかりはこの技を使って、ライカの手からプリントを奪い、走っている車からキーを奪い、アリアの元で行った戦姉妹認定試験(エンブレム)にも合格した。

 

 鳶穿ちで、志乃の刀を奪う。それ以外に、あかりが志乃に勝つ手段は無かった。

 

 だが、対して志乃はニヤリと笑った。

 

「知ってるよ、それ。何度か見せてもらったから」

 

 そう言うと、志乃は何を思ったのか、持っていた刀を地面に突き立て、すぐ脇のバラの花壇に手を突っ込んだ。

 

「私、推理したの。それ、手の届く範囲じゃないと使えないんじゃないかって」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 図星だった。スリの技術であるからには、どうしても相手の体に手が触れる必要がある。

 

「武士は必ず、大小の刀を所持します。今まで私が使っていたのは、厳流では小刀」

 

 そう言って、花壇の志乃は取り出した。

 

 「それ」を。

 

「そしてこれが大刀。通称『物干し竿』」

 

 あかりも、そして瑠香も目を見開いた。

 

 長い。途轍もなく。刀身だけで、あかりの背丈ほどもありそうだ。当然、まともに手を伸ばしたのでは、鍔元にすら届かないだろう。

 

 志乃は物干し竿を、ズラリと抜き放ち、背に隠すように構える。再び、燕返しの構えだ。

 

 だが、今度は先程とは違う。まともに食らえば、死をも覚悟しなくてはならないだろう。

 

「刀身は掴まない方が良いよ、あかりちゃん。指、ボトボトって全部落ちちゃうから」

 

 もはや志乃は、退くと言う言葉を完全に排してあかりと対峙していた。

 

「志乃ちゃんどうしてッ!? 友達なのに!?」

 

 必死に訴えるように叫ぶあかり。

 

 対して、

 

「友達だから、退けないの!!」

 

 決意を迸らせるように言い放つとともに、志乃は斬りかかった。

 

 流石に、刀身の重さのせいで、先程よりも速度は落ちている。しかし、それでも充分に致死レベル。

 

「ッ!?」

 

 とっさに、地面に転がる事で回避するあかり。しかし、完全にバランスを崩し、倒れ込んでしまう。

 

 その機を逃さず、志乃は飛び上がって街灯を蹴り、強引に方向転換すると、再びあかりに斬りかかる。

 

「貰った!!」

「あかりちゃん!!」

 

 志乃と瑠香の叫びが交錯する。

 

 長大な刀身が織りなす光景は、もはや閃光と言うよりも、奔流と言うに等しい。

 

 振り抜かれた刃が、あかりを切り裂くべく迫る。

 

 次の瞬間、

 

 あかりは手に持った紐を刀身に巻き付けて、物干し竿を受け止めた。

 

「「なっ!?」」

 

 志乃と瑠香は、同時に目を見開いた。

 

 あかりの手にある物、それは、

 

「防刃ネクタイ・・・・・・」

 

 武偵校の制服は、全てのパーツが防弾、防刃仕様となっている。あかりは、先程の志乃の一撃が掠めて解けていたネクタイをとっさに利用して、志乃の一撃を受け止めたのだ。

 

 そのまま刀身を両掌で挟み込むあかり。そして、捩じるようにして、志乃の手から刀を奪い取ってしまった。

 

 勢い余り、志乃は数歩よろけると、音を立てて噴水の中へと落ちる。

 

 勝負あった。

 

 あかりは親友との戦いに、辛うじて勝利をもぎ取ったのだ。

 

 同時に、時計は8時になった事を告げる。3日内解消規則の猶予時間が過ぎたのだ。

 

 あかりの完全勝利だった。

 

「・・・・・・ふ・・・・・・ふええええええ~」

 

 噴水に落ちた志乃が、くぐもった声と共に、泣き声を上げたのはその時だった。

 

「あかりちゃんに、嫌われちゃったよー!!」

 

 ぬれ鼠のまま泣く志乃を、瑠香とあかりは呆然として見詰める。

 

「また私、1人ぼっちに戻っちゃったよー!!」

 

 ここまでした志乃を、あかりが許すとは思えない。親友を失った志乃は、再び孤独と言う檻の中へと戻ろうとしていた。

 

 対して、瑠香とあかりは、互いに顔を見合わせる。

 

 ややあって、あかりの方が志乃に、躊躇いがちに声を掛けた。

 

「その、ごめん志乃ちゃん。あたしこそ、なんか無神経だったみたいで・・・ごめんね」

 

 あかりにも自覚はあったのかもしれない。自分がここ最近、アリアの事ばかりに舞い上がってしまい、志乃を、ひいてはライカや瑠香と言った友人達を蔑ろ気味にしていた事を。そして、それが原因で、このような事態になってしまった事を。

 

 だから、あかりには志乃の行為を責める事ができなかった。

 

「あたし、志乃ちゃんの事、嫌ったりしないから」

 

 その一言で、志乃は涙を振り払ってあかりに向き直った。

 

「ほ、本当に?」

 

 オズオズと尋ねる志乃。

 

「嫌いに、ならない?」

「うん」

 

 あかりは躊躇う事無く頷きを返す。

 

 やり方はどうあれ、志乃の行動はあかりを思うが故の物。それを拒絶する事はできなかった。

 

 そこへ更に、志乃が身を乗り出して来る。

 

「じゃあ、好きですか? 私の事、好きですか?」

「う、うん・・・・・・」

 

 志乃の勢いに押され、引き気味になるあかり。

 

 そんなあかりに、志乃は飛びかかるような勢いで抱きついた。

 

「あかりちゃん、私も大好き!!」

「わっ、し、志乃ちゃん!?」

 

 そのまま「好き好き~」を連呼する志乃に対し、あかりはただ茫然としてオロオロとしている事しかできなかった。

 

 2人の姿を見ながら、傍らの瑠香は溜息交じりに肩をすくめた。

 

「結局、振り出しに戻ってんじゃん・・・・・・」

 

 何だか、決着は着いた物の、聊かも根本的な解決には至っていないような気がした。

 

 とは言え、これで志乃が、今回のような暴走行為に走る事は、少なくとも当分は無いだろう。

 

 安堵した瑠香は、ポケットから携帯電話を取り出し。あかりの無事をののかに伝えるべく、番号をプッシュした。

 

 

 

 

 

 この時、佐々木家の塀の上に、月明りから隠れるように、人影が立っている事には、誰も気付いていなかった。

 

 その人物は、緊張感を走らせて、腰の刀に手をやっていたものの、決着がついた事を悟ると、手を放して安堵のため息をついた。

 

「やれやれ、冷や冷や物だったけど、どうにかなったみたいだね」

 

 その声は澄んだ高音をしているが、良く聞くと男のそれである事が判る。

 

 やがて雲が晴れ、月明りが照らし出される。

 

 その月光の下に浮かび上がるシルエット。

 

 小柄で、線の細い体付き。

 

 赤茶色の髪は長く、背中でひもで縛っている。その容姿は、少女と見紛わんばかりに可憐な物であった。

 

 緋村友哉

 

 瑠香の幼馴染であり、戦兄でもある少年である。

 

 ついぞ1時間ほど前、突然、瑠香から友哉の元に駆け込んで来たかと思うと、携帯電話のGPSを示されて、そこに連れて行けと言われたのだ。

 

 突然の事で面喰った友哉だが、先日の任務の際に車輛課から借りたバイクを、まだ返却せずに持っていた為、その後部座席に瑠香を乗せてここまで来たのだ。

 

 それがこのような事態になっているとは思わなかった。

 

 正直、瑠香達の戦い方は危なっかしい場面ばかりであり、何度、自分が刀を抜いて飛び込んで行こうと思ったか判らない。とは言え、どうにか彼女達だけで事態を収める事ができたらしい。

 

「それにしても・・・・・・」

 

 友哉の視線の先で、瑠香は泣いている少女を宥めるようにして駆け寄っていくところが見える。

 

 それが友哉には、とても微笑ましく思えた。

 

「良い友達を持ったね、瑠香」

 

 彼女が京都から上京して東京武偵校に入学した際、友達をうまく作られるかどうかで悩んでいたのは憶えている。その事を友哉は危惧していたのだが、どうやら、その心配は無用の物だったらしい。

 

 まあ、少し過激な所はあるみたいだけど。

 

 そう呟いて苦笑する友哉。しかしまあ、自分達がいるのは普通の高校じゃなくて武偵校だ。多少の過激さは許容するくらいで無いとやっていられない。

 

 そう言う意味で、彼女達が今後どのような道を歩んで行くのか、友哉としても興味がそそられるところだった。

 

 

 

 

 

第7話「友情色々万華鏡」      終わり

 

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