飛天の継承者外伝 ~雪幻に咲く花~   作:ファルクラム

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第8話「とある休日の補修作業」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瑠香が顔を上げると、クラスメイトである間宮あかりがパタパタと駆けて来るのが見えた。

 

 何事だろう、と首をかしげていると、あかりは嬉しそうに自らの携帯電話を開いて見せた。

 

「瑠香ちゃん、志乃ちゃん、ライカ、これ、一緒に行こうよ!!」

「はい?」

「どれどれ?」

 

 3人が顔を寄せて覗き込む。

 

 どうやらあかりが示しているのは、メールの文面であるらしい。

 

 そこには、「あと3人連れて来て」と言うタイトルで、今度の日曜日、朝10時に強襲科の温水プールに水着で集合するように書かれていた。

 

 差出人は神崎・H・アリア。あかりの戦姉に当たる少女である。

 

 因みに、遅ればせながら、瑠香もまたアリアの事を知るに至っていた。

 

 何と、始業式の放課後、いつものように友哉の部屋に食事を作りに行くと、件の「アリア先輩」が隣の部屋に侵略して来たのだ。

 

 その外見から当初、まさか先輩だとは思わなかった瑠香は、年下だと思って対応していまい、後で自分の間違いに気付いて青くなった。今にして思えば、よく風穴を開けられなかった物である。

 

 で、話を戻すと、どうやら文面から察するに、休日にプールを貸し切りにしてくれるようだ。

 

「やったァ、行く行く!!」

 

 真っ先に飛びつく瑠香。子供の頃から体育が得意な瑠香は、泳ぐのも嫌いじゃない。まだ春先で気温は低いが、温水プールなので問題はないだろう。

 

 一つ残念なのは、まだ夏シーズンじゃないので新しい水着を買えない事だが、それはまあ仕方ない。去年の水着で我慢しよう。確かまだ、衣装ケースの中にしまっておいた筈。

 

「行きますッ ボーナスステージ!!」

 

 何やら意味不明な叫びと共に賛同したのは、志乃だった。その瞳には、キラキラとお星様が輝き、脳内では水着姿のあかりと戯れる姿を夢想している。

 

 この間の戦闘以来、志乃にもある種の目標のような物ができていた。

 

 徒友制度には附帯制度として「アミカ・グループ」と言う物がある。戦妹同士がグループを作り、それぞれの戦姉から指示を受け、共同で訓練する制度である。

 

 あかりとの激突を経て彼女の想いの強さを知った志乃は、あかりを直接的にアリアから取り戻すのを諦め、より穏便な方法で距離を詰めるやり方に切り替えたらしい。

 

 志乃は現在、あかりと「アミカ・グループ」を形成する為に、とある2年生女子との間に戦姉妹契約を申請中である。

 

 何にしても、目標を持つ事は良い事だろう。動機は果てしなく不純だが。

 

 そんな訳で現在の志乃は、あの夜の陰惨な雰囲気などまるで無かったかのように、いつも通り振舞っている。勿論、瑠香もあかりも、すんだ事をグダグダと根に持つような事はしない。今ではすっかり「あるがまま」の志乃を受け入れていた。

 

 その志乃も、どうやら参加する事に大賛成であるらしい。

 

「・・・・・・何か、怪しくねーか?」

 

 ただ1人、最後に残ったライカだけは、何やら胡散臭そうな目でメールの文面を見詰めている。

 

 とは言え、ライカも別に参加が嫌と言う訳ではないらしい。

 

 そう言う事で、日曜日は4人揃って、アリアの御誘いに応じる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな訳で日曜日。

 

 4人はそれぞれ水着に着替え、強襲科の温水プールに集まった。

 

 日曜日と言う事で、流石に校内には人が少ない。遠くの方で、自主訓練の銃声が聞こえてくる程度だ。

 

 瑠香は去年の夏に買った、ピンクのワンピース水着を着ている。1年で、それなりに成長しているせいか流石に少々きついが、まだ着る事ができた。

 

 周りを見回せば、あかり、ライカ、志乃の3人も水着姿である。

 

 あかりは白地のワンピースタイプで、腰回りには水玉模様のミニスカートがあしらわれている。可愛らしい容姿のあかりに良く似合っていた。

 

 ライカは白のビキニ。布面積はかなり小さく、発育の良い体が零れ落ちそうになっている。

 

 志乃はシンプルなスクール水着だが、それが却って、彼女が本来持っている清楚な魅力を引き立てている。

 

「リアクション微妙だった割に、気合入った水着ィ~」

 

 あかりがニヤニヤと笑いながら、ライカを肘でつつく。

 

「ホントだ。て言うか、ライチー、おっぱい大きいね~」

 

 この中で一番発育が良いのはライカである。瑠香やあかりは勿論、ある程度成長している志乃であっても、ライカには敵わない。

 

「水着、これしか無かったんだよッ て言うか瑠香、お前はどこ見てんだッ!?」

 

 チビっ子2人にからかわれ、顔を真っ赤にするライカ。

 

 とは言え、たわわに実ったメロンのようなその胸は、瑠香にとって惹きつけられるものがある。

 

 無論、瑠香に女色のケは無い。しかし、だからこそ羨ましいと思う。

 

『あたしもあれくらい大きければ、友哉君も振り向いてくれるかな?』

 

 と、ついつい、平坦ではないにしろ、まだ「膨らみ掛け」としか形容できない自分の胸と見比べてしまう。

 

 その時、

 

「あかりちゃん、笑顔ください!!」

 

 いつの間にか距離を取った志乃が、赤外線レンズ付きのカメラを構えていた。

 

 どうやら水着イベントと聞いて、気合を入れて来たようだ。

 

 しかし、志乃がシャッターを切ろうとした瞬間、彼女はプールの縁から足を滑らせた。

 

「キャァ!?」

 

 そのまま落下する志乃。

 

「ちょ、志乃ちゃん!?」

「おいおい、大丈夫か!?」

 

 慌てて駆け寄る3人。

 

 どうやら、プールには水が張られておらず、それに気づかずに後に下がったせいで、志乃は足を滑らせてしまったらしい。

 

「志乃ちゃん、大丈夫!?」

「は、はい、何とか・・・・・・」

 

 落下した際に打ちつけたお尻を押さえながら、どうにか笑顔で答える志乃。しかし、すぐに悲鳴を上げる。

 

 落としたショックで、高価な赤外線カメラはレンズも本体もひび割れ、完全に使い物にならなくなっていた。

 

 それはさておき、

 

「何で、プールに水入って無いの?」

 

 プールの中身は、完全に空だった。これでは、ただのだだっ広いタイル張りの床でしか無い。

 

「て言うか、壊れてるよ、あそこ」

 

 あかりが指し示した通り、プールの壁が一部壊れ、そこから止め処無く水が流れ出て来ている。

 

 プールに呼ばれて来たのに、プールは使えないとは、一体どう言う事だろう?

 

 首を傾げる4人の後ろから、小さな足音が近付いて来た。

 

「ほら、アンタ達。じゃれてないで、仕事よ!!」

 

 鋭い声に振り返ると、そこには呼び出し主であるアリアがバケツを片手に立っていた。

 

 長いツインテールを靡かせ、その体はピンク色のビキニに包まれている。縁がフリルに囲まれ、可愛らしいタイプの水着だ。

 

「アリア先輩!!」

 

 すかさず抱き付こうとしてくるあかりの額を、片手で押さえて押し戻すアリア。

 

「仕事?」

「え、何かやるんですか?」

「そうよ」

 

 ライカと瑠香の質問に頷くと、アリアは各々に持って来た道具を配っていく。

 

 刷毛に、パテに、トリガー式の注入機。

 

 唖然とする4人を前にして、腰に手を当てたアリアは宣言した。

 

「崩れた壁をパテで修復しなさい。あたしが現場監督よ」

 

 どうやら、その為に今日、わざわざ4人を呼び出したらしい。

 

 唖然とする瑠香、あかり、志乃の3人。

 

 1人、何となくこの展開を予想していたライカは、やれやれとばかりに頭をかいた。

 

 

 

 

 

 とは言え、上級生の指示は絶対である。

 

 4人はたどたどしい手付きながら、壊れた部分の補修作業を開始した。

 

 崩れた破片の断面にパテを塗り、ジグソーパズルの要領ではめ込んで行く。

 

 いったいどんな事が起これば、このような壊れ方をするのだろう? プールの壁は、爆撃でも食らったように深く抉られていた。そこがちょうど給水管の走っている場所であった為、水がダダ漏れになっているのだ。

 

「ライチー、これお願い」

「おお。これは・・・・・・これだなー」

「志乃ちゃん、パテちょうだい」

「はい、どうぞ」

 

 馴れない作業に、四苦八苦しながら修復して行く。装備科になら、あるいはこの手の作業が得意な人間もいるかもしれないが、この場にいるのは、諜報科(レザド)1人、強襲科(アサルト)2人、探偵科(インケスタ)1人。お世辞にも、この手の作業が得意とは言えないメンツである。

 

 そんな中で現場監督であるアリアは、先程からこぼれてくる水をバケツで汲み変えつつ、何処かへ運んで行っている。

 

 ネパールの水くみ作業宜しく、重いバケツを頭の上に乗せて運ぶバランス感覚は流石と言うべきだった。

 

 しかし、

 

「何で、アリア先輩が補修作業の現場監督なんかやってるんですか?」

 

 瑠香が感じていた疑問を、あかりが先に尋ねていた。

 

「ですよね。こう言うのって普通、業者の人とかに頼みません?」

 

 あるいは、装備科でできそうな人間を募るか。

 

 2人の質問に対し、アリアは内心で「ギクリ」と漏らし、顔を真っ赤にする。

 

「あ、アンタ達には関係ないでしょ。良いから仕事してなさい!!」

 

 そう言うと、そそくさと言う感じにバケツを頭に乗せて運んで行く。

 

 顔を見合わせて首を傾げる瑠香とあかり。

 

 何やら腑に落ちない物は感じるが、ともかく修理を終えない事には話にならない。

 

 訝りながらも、4人は修理を再開する。

 

 作業もどうにか半分くらい終わった頃だった。

 

 あかりはくっつきの悪い破片を、両手で力いっぱい押しつけようとしている。

 

 しかし、あまりに強く押しつけてしまった為、塗ったパテが隙間から飛び出してしまう。

 

 そして、

 

 運の悪い事に、白いパテが飛び散った先には、作業中のライカがいたのだ。

 

「わっ!?」

 

 悲鳴と共に、ライカの顔面にパテが直撃する。

 

「あっ ごめん、ライカ!!」

「こらッ 気を付けろよー」

 

 顔に付いた、どろっとしたパテを手で拭い取るライカ。

 

 先に言っておくと、あかりとしては、まったく悪気のない事だった。これは単なる事故である。

 

 しかし、

 

 白い液体を顔面に付けたライカの姿が、あかりにはいかにも間抜けな感じに見えたのだ。

 

「ご、ごめ・・・プッ」

 

 謝ろうとして、つい噴き出してしまうあかり。

 

 その姿に、ライカはカチンと来る。

 

「・・・笑ったなー!?」

 

 怒り半分、悪戯心半分といった感じの顔で、ライカは手近なパテ缶に刷毛を突っ込むと、それを思いっきりあかりに向かって振るった。

 

「くらえ!」

「うきゃ!?」

 

 今度は、あかりの顔面がパテ塗れになる番である。

 

「何すんのよー!!」

 

 言いながら、あかりはパテがいっぱい入った注入機を手に取る。彼女からすれば、単なるミスで、ここまでされる謂れは無かった。

 

「あたしは、こんなにぶっかけてない!!」

 

 トリガーを引くと同時に、注入機からパテが飛び出る。

 

 しかし、ライカは一瞬早く飛び上がって回避した為、パテを食らう事は無かった。

 

 代わって直撃を受けたのは、ライカの背後にいた瑠香だった。

 

「わぁっ!?」

 

 水着の胸元から腹にかけて、白いパテに直撃される瑠香。ピンク色の水着に、どろっとした白い液体が流れ落ちて行く。

 

「この・・・・・・2人とも~~~!!」

 

 言うが早いか、瑠香も傍らにおいておいた注入機を持って構える。

 

 ほぼ同時に、あかりとライカも注入機を構える。

 

「パテまみれにしてやる!!」

「こっちのセリフ!!」

「つーか、一言謝りなさいよ!!」

 

 3人同時に「銃口」を向け合う。

 

 そこへ、

 

「3人とも、喧嘩しちゃだめですよー!!」

 

 割って入る志乃。

 

 次の瞬間、3方向からパテが発射された。

 

 真ん中にいる、志乃めがけて。

 

 当然、直撃し、志乃の紺色の水着が、白濁に染め上げられる。

 

「ああ・・・・・・」

 

 涙目になる志乃。

 

 その姿は、顔と言わず胸元と言わず、背中と言わず、パテまみれにされていた。

 

 そこで、流石に騒いでいた3人も、我に返って志乃を見た。

 

「おっと」

「あ、し、志乃ちゃん」

「ご、ごめん、志乃ちゃん」

 

 慌てて駆け寄る3人。

 

 そこへ、

 

「こらー!!」

 

 空のバケツを下げたアリアが戻ってきた。どうやら4人が作業をしないで遊んでいる(アリアにはそう見えた)のを見て、叱りに来たらしい。

 

「真面目にやりなさい!!」

「ギャッ!?」

 

 手近な所にいたライカの頭を、容赦無く踏みつけるアリア。

 

 しかし次の瞬間、はずみでライカが持っていた注入機のトリガーが引かれてしまう。

 

 中にはまだ、充分な量のパテが残っている。そして、その銃口はアリアに向けられていた。

 

 発射されたパテは、アリアの腹を直撃する。

 

 アリアの白い腹に、どろっとした白い液体が付着し、それが重力に従い落ちて行く様は、パテが違う「ナニカ」に見えて、堪らなくエロチックであった。

 

 そして、

 

「ッ~~~~~~~~~~~~アンタ達ー!!」

 

 アリアの容赦無い雷が、落ちる事になった。

 

 

 

 

 

 ガチャ、と言う音と共に、アリアは愛銃コルト・ガバメントのスライドを威嚇するように引くと、目の前で正座する4人の1年生を睨みつける。

 

「次ふざけたら風穴よッ」

「「「「はあ~い」」」」

 

 仲良くアリアからゲンコツを貰ったあかり、瑠香、ライカ、志乃は、頭に特大のタンコブをこさえ、涙目になって作業に戻っていく。

 

 1人可哀そうなのは志乃だろう。他3人は自業自得としても、彼女は騒ぎを止めようとしただけなのだから。完全にとばっちりだった。

 

 その様子を見て、アリアは不機嫌気味に、プールサイドのデッキチェアに寝そべった。

 

 不本意なのはアリアも同じである。

 

 実は今回、アリアが現場監督をやらされたのは、適材適所を考慮した訳では無く、たんに彼女の水泳の成績の悪さが原因だった。

 

 これは少女達、特にあかりには絶対内緒の事だが、アリアは泳げないのだ。ほぼ全くと言って良い程に。

 

 そんな訳で、体育で水泳をやった後、武偵校きっての理不尽教師である蘭豹からプールを修理するように言われたのだ。因みに、プールを破壊したのは蘭豹本人である。彼女がいらだち紛れに発射したS&W M500の弾丸が炸裂し、プールの壁を爆砕したのだった。

 

 無茶その物の話だが、「無茶で道理を引っ込める」と言うより「無茶で道理をぶっ壊し」てしまうのが武偵校と言う場所である。

 

 馴れない作業に悪戦苦闘する事2時間以上。

 

「終わったー」

 

 ようやく修理が完了し、4人はその場にへたり込んだ。

 

 修復箇所は、取り敢えず亀裂が残っており一見すると不格好だが、水が漏れて来る事はない。取り敢えず、これで充分だろうと判断した。

 

 それを見て、アリアも満足げに笑う。

 

「OKよ、お疲れ様」

 

 そう言うと、最後のバケツに入った水を頭の上に乗せ、すたすたと歩き出す。

 

「じゃあ、着いてきなさい」

 

 その姿に、4人は怪訝な顔つきで首を傾げる。

 

 アリアは一体、何処に行くのだろう? 正直、これ以上何かをするのは無理なのだが。そもそも、さっきからあの水はどこに持って行っているのか?

 

 不審に思いながらも、後からついて行く。

 

 そこで、4人揃って唖然とした。

 

「これはッ!!」

 

 そこには、ファミリー用の特大サイズのゴムプールが設置され、既に水が入れられている。すぐ脇のテーブルには、人数分のジュースも用意されている。

 

「お手製の温水プールよ。せっかく水着なんだから、少しは楽しまないとね」

 

 そう言って微笑むアリアの言葉に、4人は顔を輝かせる。

 

 アリアがわざわざ漏れた水を運んでいたのは、この為だったのだ。後輩をタダでこき使うのではなく、こうした報酬もきちんと用意する。こうした気配りができる事もまた、アリアを幼くしてSランク武偵に引き上げた要因なのかもしれない。

 

 早速、温水の中へと飛び込む4人の1年女子達。

 

 ゴムプールとは言え大型である為、5人で使っても広さには充分にある。

 

 泳いだり、互いに水を掛け合って遊んだりと、一同は作業の疲れも忘れてはしゃぎまくった。

 

 やがて、心地よい倦怠感に包まれ、一同はゆったりと水に体を浮かべる。

 

「アリア先輩・・・・・・」

 

 そんな中で、あかりが戦姉にポツリと告げる。

 

「このプール、ありがとうございました。私達の為に」

 

 戦妹の言葉に、あかりは顔がカーッと赤くなるのを感じ、とっさに顔を逸らす。

 

「べ、別に、漏れた水がもったいなかったからよ! これはエコよ!!」

 

 照れ隠しに叫ぶが、赤い顔を隠し切れていないので、まったく効果がない。

 

 あかりの方でもそれを察したのだろう。

 

「はい。じゃあ、そう言う事で!!」

 

 そう言って、満面の笑顔を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道、瑠香はあかり達と別れて寮への道を歩いていた。

 

 今日は疲れた。

 

 予想外の事とは言え、まさか、プールの補修作業で丸1日がつぶれるとは思ってもみなかった。

 

 だが、楽しかった。

 

 最後のサプライズプールもそうだが、補修作業自体も、終わってみれば馴れないなりに面白かった。まあ、ちょっと羽目を外し過ぎて怒られてしまったが。

 

 何となく、あかりがアリアとの戦姉妹契約にあれほど拘った訳が、今なら判るような気がした。

 

 その時、

 

「瑠香ちゃ~ん!!」

 

 名前及ばれて振り返ると、小柄な女の子が転がるように駆けて来るのが見えた。

 

 その姿を見て、瑠香は顔をほころばせる。

 

「愛那ちゃん」

 

 愛那は息を切らせて走って来ると、瑠香の前に立った。

 

「愛那ちゃん、今帰って来たの?」

「うん、お友達と遊んで来たの!!」

 

 そう言って止められない勢いのまま語る愛那。愛那はつい先月までイギリスにいたのだが、こっちに来てもう友達ができたらしい。

 

 まあ、愛那は見た目の通り天真爛漫だし、何より年上の瑠香に対しても物怖じしないほど積極的な性格をしている。友達もできやすいだろう。

 

「瑠香ちゃんは、学校に行ってたの?」

「学校って言っても、あたしも今日は遊びに行ってたようなものかな」

「ふ~ん」

 

 そう言うと、愛那は瑠香の傍らに立ってフンフンと鼻を鳴らす。

 

「何だか瑠香ちゃん、お薬の匂いするよ?」

「え?」

 

 言われて、とっさに袖口に鼻を当ててみる。しかし、自分の匂いの事は、正直判り辛い為、瑠香本人には何も感じられなかった。

 

 一応、プールを片付けたあとシャワーも浴びたのだが、完全には消毒薬を落としきれなかったようだ。

 

「プールに入ってきたから、多分、そのせいだと思う」

「プールゥッ!?」

 

 途端に、愛那はキラキラと目を輝かせた。

 

「いいな~、プール、あたしも入りたかったな~」

 

 愛那の言葉に、瑠香は苦笑する。確かにプールに入ったが、その前に重労働を強いられたのだが。

 

「愛那ちゃん、プール好きなの?」

「うんッ」

 

 瑠香の質問に、愛那は力いっぱい頷く。

 

 それを微笑ましく眺めながら、瑠香は言葉を紡ぐ。

 

「じゃあ、夏になったら、あたしと一緒にプール、行こうか?」

「ほんとッ!?」

「勿論、お父さんが良いって言ったらだけどね」

「うん、行く行く!!」

 

 そう言ってはしゃぐ愛那を、瑠香は微笑ましく見詰める。

 

 夏に向けて、楽しみな事が1つ増えたのだった。

 

 

 

 

 

第8話「とある休日の補修作業」      終わり

 

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